第15話 【聖王国で出来たお友達と楽しく遊ぶ♪】
聖王国の聖都にて、総教会と言われる巨大な教会に宿泊することになった。
「広いけど落ち着かないですね」
「ベッドは柔らかかったけどね」
普段着のメイド服に着替えたリティスがベッドを手で押して柔らかさを確かめている。
「そういうのは昨日散々確かめただろ」
「……覚えてないんだもん」
まぁ、リティスがベッドに入った後は喘ぎ声を漏らすのに忙しかったからベッドの様子なんて気にしている余裕はなかったか。
「…………」
もう身体は十分に淫乱になっているが恥じらいを忘れていないティーナは頬を染めながらも恥ずかしそうに俯いている。
はい。昨夜も3人で存分に楽しみました。
勇者召喚の儀式が行われるまで、まだ12日も残っている。
その間、俺達は総教会に滞在する必要があるのだが、特にやることはないので総教会の敷地内を適当に見学しながら歩き回っていた。
「広い庭ですね」
「庭というより騎士の訓練場だな」
総教会の敷地内には広大な庭が存在しており、そこでは大勢の騎士が集まって訓練を行っていた。
実戦を想定した訓練なのか、皆鎧を身に着け、長剣を持って気合の入った掛け声で的となる木製の人形に打ち込んでいる。
「へぇ~」
俺は訓練の様子を観察しながら、どういう状況を想定した訓練なのかを察する。
この訓練を指導する人物は優秀だと感じながら。
「なんだ、貴様らは!」
だが、そんな俺達の態度が気に入らなかったのか、1人の青年騎士が俺に絡んで来る。
視線を向けてみれば、青年は特別体格がいいという訳でもなく、20歳くらいの年齢からして平均的な身長と体重の持ち主に見えた。
「見ての通り見学しているだけだが?」
「誰の許しを得て見学などしている!」
「誰って……聖女様?」
勇者召喚を主導するのは聖女だと聞いているので、俺がここにいるのは聖女に招かれた結果ということになる。
そして俺がここに滞在しているのも聖女の意向で、俺が見学するのを許可しているのも聖女ということになっている。
実際には聖女は俺のことなど知らないだろうが、立場的にそういうことになっているのだ。
「貴様などが聖女様を語るな!」
「おいおい」
この青年騎士がどういう立場の奴なのか知らないが、どう考えても俺達の立場を理解しているようには見えない。
(それとも俺達の反応を見る為の当て馬か?)
一瞬そう思ったが、俺達に向かって顔を真っ赤に激昂して怒鳴っている青年騎士を見て、そんな策を講じるような頭の良い奴には見えなかった。
ということは見学している俺達を普通に不審者だと思って糾弾して来たお馬鹿さんってことか?
「名を名乗れ! 僕がその根性を叩き直してやる!」
そう言って訓練用の木剣を俺に突きつけて来る青年騎士。
「Aランク冒険者のケイだ」
返答しつつ俺も自前の木剣を持つ。
「貴様がAランクだと?」
俺がAランクだと知って青年騎士は眉を顰めるが、戦意は衰えない。
「まぁ、良い。貴様が誰であろうと聖女様の名を語る無礼者であることに変わりはない! 僕が直々に根性を叩き直してやる!」
そう言って木剣を正眼に構える青年騎士に対して俺は申し訳程度に木剣を構える。
「行くぞ!」
そうして青年騎士は俺に向かって真っすぐに突っ込んで来た。
俺に向かって一直線に、目を逸らさずに一気に飛び込んで来て、そのまま木剣を振り上げると――力の限り振り下ろして来た。
(ビックリするくらい素直な剣だな)
勿論、当たってやる義理はないので俺は身体を半歩だけ横にずらして木剣を回避して、木剣を全力で振り抜いた直後で隙だらけの側頭部に木剣を叩きこんだ。
「ぐぺっ!」
意味不明な悲鳴を上げて地面に転がる青年騎士。
十分に手加減したので死んでいないし致命傷にもなっていないが、確実に脳震盪くらいは起こしているので暫くは立ち上がれないだろう。
「ぐ、ぐぐぐ……」
だが立ち上がれなくても身を起こすことくらいは出来たようで、四つん這いになって必死に俺を見上げて睨みつけて来る。
「技量不足で経験不足だな。俺に挑むには10年早い」
「なん……だとぉ!」
再び激昂する青年騎士だが、やはり脳震盪を起こしているようで身体をガクガク震わせながらも立ち上がることは出来ない。
「ぐぎぎ……!」
意地になっているのか木剣を杖代わりにして足をガクガクさせながら必死に立ち上がる。
ちょっと指で押しただけで倒れそうだ。
「そこまでだ!」
そんな俺達の間に入って止めに来たのは見覚えのある男――神殿騎士のカルディラナだった。
「ふ、副団長!」
そこで青年騎士の叫びで意外な事実の発覚して、なんとカルディラナは副団長という立場だったらしい。
「…………」
カルディラナは一瞬だけ沈黙したが木剣を杖代わりにしている青年騎士と木剣を肩に担いでリラックスしている俺を見て状況を把握したようだ。
「ケイ殿、どうやら私の身内が迷惑を掛けたようだ。彼に代わって私から詫びさせていただく。申し訳なかった」
そう言って俺に頭を下げるカルディラナ。
「っ!」
青年騎士はその光景を見てショックを受けているが、誰のせいで頭を下げる羽目になっているのか分かっているのだろうか?
「気にしないでくれ。丁度、暇潰しがしたかったところなんだ」
勿論、俺は快く水に流すことを了承した。
副団長様に貸しが作れるのなら、こんなどうでもいい諍いなど本当にどうでもいい。
「カリュース、貴様には話がある。後で私の部屋に来るように」
「……了解しました」
青年騎士――カリュース君は意気消沈したようにガックリと項垂れて訓練場を去って行った。
「改めて申し訳なかった。熱意はあるのだが、まだまだ未熟な準騎士なのです」
「そうでもないだろう。重い鎧を着たまま防御力頼りに真っすぐ飛び込んで、力の限り目の前の敵を叩き切る。集団戦術として横一列に並んでやれば効果は抜群だろう」
「…………」
「今回の場合は1対1の戦いには不向きな戦法だったというだけの話だ。何年も訓練を続けなければ、ああもスムーズには動けないだろう。戦争でなら大活躍出来そうですね」
「……御慧眼です」
きっと内心では歯軋りしたいくらい悔しがっているだろうが、表面には出さないところは流石は副団長だ。
うん。騎士団の一員が客人である俺に無礼を働き、しかも騎士団が長い年月を掛けて練り上げて来た戦争用の訓練の内容を看破されてしまったのだ。
これは大失態という他ない。
勿論、カリュース君ではなく、俺から目を離してしまった副団長殿の大失態だ。
「お暇なようなら訓練に参加されていきませんか?」
失態を取り戻す為に俺にもなんか秘密を明かせと言いたいようだ。
「はいはい! 私がやりたいです!」
だが、俺の代わりに挙手して参加を表明したのはリティス。
「お嬢さんがですか?」
カルディラナはリティスの参加表明に困惑するが……。
「彼女は現在Cランクだが、実力はAランクに匹敵すると俺が保証しますよ」
「……そういうことであれば」
俺の秘密を暴けないのは面白くないが、俺の連れの秘密でも暴いて少しでも失態を取り戻そうと必死なようだ。
副団長はリティスの訓練への参加を――了承してしまった。
30分後。
訓練場には大勢の騎士達が転がっていた。
「良い運動になりました!」
そうして笑顔で礼をして俺の許へ戻って来る蹂躙者。
うん。リティスは1人で30人近い騎士を蹂躙して薙ぎ倒し、一方的な強さを証明してしまった。
リティスはまだまだ余裕だが、もうリティスに挑戦する騎士が居ないので継続は不可能だ。
「カルディラナ殿、相手は準騎士と見習いのようだが、こちらは良い運動をさせてもらった。感謝する」
「……どういたしまして」
倒れている全員が本当に準騎士と見習いだけなのかは知らないが、面子だけは守ってやったのだから文句はないだろう。
そうして俺はティーナとリティスを連れて訓練場を去ったのだが……。
「どうだった?」
「弱かった!」
「……だろうな」
リティスの正直な感想は聞かせられそうもない。
◇◇◇
翌日。
俺達が再び訓練場に顔を出すと……。
「ちっ」
カリュース君が面白くなさそうな顔をして俺から視線を逸らしていた。
「やぁやぁ。そこにいるのは準騎士のカリュース君じゃないか。元気かね?」
「…………」
俺が元気よく声を掛けると嫌そうな顔をして口を噤むカリュース君。
「おいおい。挨拶は礼儀作法の基本だよ? いつから騎士は礼儀を守れない無礼な集団に成り下がったのかな?」
「ぐっ! もう放っておいてくれ!」
「そんな冷たいことを言うなよ。今日も俺と訓練しようじゃないか!」
そう言って手に持った木剣を見せる。
「それとも騎士というのは挑戦を受けたら尻尾を巻いて逃げ出す負け犬集団なのかな?」
『…………』
ザワッと周囲の騎士達から無言の圧力が俺に向かって放たれる。
そうだよね。負け犬とまで言われたら騎士の誇りが保てないから黙っていられないよね♪
(旦那様、凄く楽しそうです)
(御主人、凄く悪い顔~)
ティーナとリティスが小声で何か言っている気がするが気のせいだろう。
「ふざけるなよ! 誰が負け犬だ!」
そして案の定、激昂してやる気になってくれるカリュース君。
単純な君が少しだけ好きになりそうだよ。
「はぁぁっ! とぉぉっ! たりゃぁっ!」
今日は反撃一発で終わらせることなく、猛攻を仕掛けて来るカリュース君の攻撃を回避することに努める。
(相変わらず素直な剣だなぁ)
カリュース君の剣には虚実――フェイントがないし、狙った場所に真っすぐ突っ込んで来る。
それに目も逸らさないし、視線で誘導するような動作も一切ない。
(戦争用の集団戦術ならそれでいいんだけど、こういう1対1の状況だと極端に弱くなるなぁ)
動きから何年も真面目に訓練を積んで来たことは分かるのだが、それはあくまで騎士団に必要な集団戦用の訓練なので、1対1だと真価を発揮出来なくなる。
それに真面目に――愚直に剣を振り下ろすだけなので……。
「ぐぇっ!」
足を引っ掛けるだけで簡単に転ばせられる。
「まだまだぁ! 騎士は引かないんだ!」
だが、直ぐに立ち上がって剣を構えて――愚直に突っ込んで来る。
(困ったな。なんか、ちょっと面白くなって来たぞ)
カリュース君は本当に真面目な騎士で、言われたことを言われた通りにやって来ましたってことが伝わって来る。
「とぉ」
「げぺっ!」
そんなカリュース君の腕を取って投げたら、真面に背中から地面に落ちてしまった。
受け身とか知らないのだろうか?
「げほっ! げほぉ! げほげほ!」
受け身を取らずに背中から落ちたので呼吸困難になって咳き込んでいる。
「大丈夫~?」
「う、うるさい! まだまだ、これからだ!」
そう言ってスタミナが切れて倒れるまで俺に挑み続けたのだった。
◇◇◇
「カリュースく~ん。あ~そぼ~」
「げっ!」
今日もカリュース君を遊びに誘ったら、カリュース君は顔を引き攣らせて不穏当な声を上げていた。
「ぼ、僕は忙しいんだ! 他を当たってくれ!」
釣れないことを言うカリュース君だが……。
「また、そんな負け犬みたいな言い訳して。騎士の誇りがどうたらこうたらあるでしょ?」
「……適当なことを言いやがって!」
なんだかんだ言っても真面目なカリュース君は騎士である以上は逃げるという選択肢を取ることは出来ないのだ。
「たぁぁっ!」
「だから、それは集団戦法としては有効だけど、個人で使うのには向いてないんだってば」
「だ、黙れ!」
同じことを繰り返すカリュース君に俺は親切にアドバイスしてあげる。
「個人戦に必要なのは、まずは足捌き! ほら、そんなに大股で歩かない!」
「う、五月蠅い!」
「基本は摺り足だよ~。こうやる」
「し、知るか!」
見本を見せてあげたのにカリュース君は素直じゃない。
剣はあんなに素直なのに。
(御主人、楽しそうだね)
(今まで適当に扱ったり雑に扱ったり出来る相手が居ませんでしたからね。きっと遊び相手が出来て楽しいのでしょう)
なんかティーナとリティスに友達いなくて寂しい奴みたいに思われてるんですけど?
べ、別に友達なんかいなくたって寂しくないやい!
◇◇◇
毎日のようにカリュース君と遊んで楽しかったのだけど、それでも予定の日時――勇者召喚の日はやって来る。
俺は冒険者ギルドの代表として、勇者召喚の儀式に立ち会うことになっている。
「ここが勇者を召喚する儀式の間か」
「ここも広いですね」
「教会って何処も大きいんだね」
俺達は総教会の中でも特に広い儀式の間と呼ばれる場所に案内されていた。
どうして、この場所が選ばれたのかというと……。
「魔法陣か」
床には巨大な魔法陣が描かれており、この部屋以外では魔法陣を描き切れなかったからだろうと思われる。
それに、この部屋には俺達以外にもそれなりの人数の人間が集まっていた。
「主要国の代表達か」
誰が何処の国の代表かは分からないが、影響力の強い国からは代表が選ばれて勇者召喚の立ち合いに参加しているのだろう。
俺が冒険者ギルドの代表を務めているように。
この場に立ち合ったからと言って勇者の協力を得られるという訳でもないと思うが、少なくとも召喚された勇者と初期に面識を得るというのが重要になる可能性があると考えているのだ。
そうして俺達、各国の代表者達が魔法陣の外で待機していると、やがて奥の扉が開かれて複数の神官を引き連れた白い修道服を纏った女が現れる。
(あれが聖女か)
確かに見た目は聖女と言われても納得する姿だ。
金髪碧眼の整った容姿と白い修道服。
聖女と言えば、これだろうという容姿を完璧に体現していると言っていいだろう。
とはいえ……。
(好みじゃないなぁ)
確かに容姿は整っているし、十分に美少女と言える女性なのだが――俺はチラリとティーナの方に視線を向ける。
「?」
ティーナは俺に見られて困惑しているが、困惑する姿でさえティーナのFカップはプルンと音を立てそうな勢いで揺れる。
それにティーナの隣で待機するリティスもDカップに近い大きさに育ちつつある。
対して聖女は……。
(まさに絶壁だな)
欠片も、全く、全然、これっぽっちも膨らみを感じられないのだ。
ぶっちゃけ、脱がしても男との違いを判断するのが難しいレベルでペッタンコなのだ。
男と女では乳首の形が違うと言われているが、ちょっと太った男の方が大きいくらいの胸の前ではそんなことはどうでも良い。
やはり女性の魅力と言えば母性の象徴が重要だと思うのだ。
具体的に言えば、おっぱいは大きい方が良いに決まっている。
異論は認めるが、俺は大きいのが好きだという意見は絶対に変えないし曲げない!
「さて、お集りの皆様。これより勇者召喚の儀を開始致します」
そんなことを考えていたら聖女の宣言と共に勇者召喚の儀が開始されることになった。
どんなことをするのかと思えば、俺達のような立ち合いの代表者は引き続き魔法陣の外で待機することになり、聖女と神官達で忙しく動き回ってあれこれ準備を進めている。
「あれって事前に準備出来なかったのかな?」
リティスが誰もが思ったことを言ってくれる。
「宝石や薬品を定位置に並べているみたいだし、劣化を防ぐ為に直前まで準備出来なかったのかもな」
「そうなんだぁ~♪」
俺がリティスの頭を撫でながら推測すると、リティスは嬉しそうに尻尾を揺らして喜んだ。
最近は野生化というよりペット化している気がする。
そうして俺達は準備が終わるのを大人しく待っていたのだが、やっと準備が終わったのか、聖女が魔法陣の中心に立ち、神官達が聖女を囲むように四隅に散っていく。
そうして全ての準備が整い……。
「●▲◆★■▼●▲◆……」
聖女の口から不可思議な言語のような詠唱が紡がれる。
(何語だ?)
この世界の言葉ではないし日本語でもない。
明らかに俺の知らない言語で詠唱が行われていき、四隅の神官達も聖女に同調するように不可思議の詠唱が開始される。
(分からん。魔女に独自の暗号があるように、聖女にも独自の言語があるってことかな?)
俺に分かることは聖女の詠唱に反応して巨大な魔法陣が発光を始めているということだけだ。
そうして魔法陣の発光はドンドン強くなっていき、やがて光が部屋を埋め尽くして――眩い光が視界を覆い隠した。
(まさか、この光に紛れて勇者(仮)を連れて来るなんて手品じゃないだろうな)
そんな阿呆なことを考えていたら徐々に光が収まって来て、完全に光が消えると……。
(あれが勇者か?)
聖女の傍に1人の黒髪の少年が呆然と座り込んでいた。