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第13話 【新しい依頼は勇者召喚の立ち合い?】

 

 星のエネルギーが26%から33%まで増えた。


「微妙~」


 竜王からエネルギーを奪って3割を超えるエネルギーを確保出来たとはいえ、超越存在2匹を捕らえてエネルギーを奪っても、まだこの程度だ。


「超越存在って、もっと高エネルギー体みたいなのを想像していたのに、実際に奪ってみるとショボいエネルギーしか持っていなくてガッカリだわ」


 今後1000年は2匹からエネルギーを奪えるとはいえ、もっと一気に星のエネルギーを確保出来ないものか。


「ふむ」


 とりあえず帝國の帝城から放たれていた波動は消えていて、やはりあれは竜王が余剰エネルギーを使って放っていた波動だったようだ。


 他にもエネルギーが残っていないか調べてみるが……。


「調べられる範囲には残っていないわね」


 ざっと調べられる範囲には竜王のエネルギーは残っていなかった。


「ちょっと来て頂戴」


「……はい」


 私の呼び声に応えて現れたのは、さっきまで竜王に仕えていた魔女だ。


「あなたが竜王に仕えることになった経緯を話しなさい」


「はい。私が竜王に仕えることになったのは……」


 そうして聞き出した内容を纏めると、どうやら竜王とは知らずにちょっかいを掛けてしまい、返り討ちにあって恐怖で逆らえずに従っていたらしい。


 竜王は帝國を治める皇帝だったからなのか世界力を無駄に消費して世界を消耗させることには興味がなかったらしく、世界力を使った魔法はあまり要求されなかったようだが。


「ふぅ~ん。竜王は良い主人だった?」


「いえ。普通に屑野郎だと思います」


「あ、そう」


 魔女にとって良い主人であったのなら少しくらいは拘束期間を短縮することも考えたのだが、屑野郎と言い切られる時点で短縮の必要は感じない。


「あなたは帝國に残って竜王の残したエネルギーがあれば残らず回収しなさい」


「……了解」


 後の帝國のことは彼女に任せれば大丈夫だろう。


 どのくらい帝國に居たのかは知らないが、彼女以上に帝國に詳しい魔女も居ないだろうし。


「…………」


 一瞬、帝國も封魂結界で囲んでしまおうかとも思ったのだが、帝國の者達は世界力を無駄遣いすることに協力した訳ではないので止めておいた。


 意外なことだが星からエネルギーを吸い上げる装置は帝國では使われていなかったみたいだし、このまま放置で良いだろう。


 まぁ、皇帝が居なくなった帝國がこれからどうなるかは知らないけど。


(皇帝が竜王だったなら実子とかいないだろうし、大混乱になりそうね)


 偽装の為の養子くらいは居るかもしれないが、それでも今までのようにはいかないだろう。






「ただいま~」


 私は全ての用事を終えて宿の一室に戻った。


「お帰りなさいませ、お嬢様」


「おかえり、お嬢」


 出迎えてくれたティーナとリティスに頷いて私は偽装して――俺になる。


「疲れた~」


「帝城で何かあったのですか?」


「……突然ドラゴンが襲って来た」


「「えぇ!」」


「流石にドラゴンは強かったわ~」


「倒したのですか?」


「倒したというか、捕らえたかな?」


「すご~。御主人、すご~」


「旦那様はドラゴンスレイヤーですね」


「倒したのは魔女だから公表は出来ないけどな」


 竜殺しよりも皇帝殺しの方が問題になりそうな気がするけど。


「明日こそ帝都を観光しような」


「「はい♪」」


 2人と今日は出来なかったデートの埋め合わせをすると約束をして――チョメチョメをして眠ることにした。




 ◇◇◇




 翌朝。


 のんびりと起き出して3人で朝食を食べた後、さぁ観光だと出掛けようと宿を出たら……。


「失礼。Aランク冒険者のケイ殿でしょうか?」


「……チガウヨ~」


 如何にもギルドの職員という恰好をした男に呼び止められてすっとぼけた。


「ギルド本部より、あなたに緊急の依頼を持って参りました」


「違うって言ってんだろ!」


「はい。議長が本人なら必ず惚けるだろうと言われておりましたので確信出来ました」


「あのババア!」


 推測でしかないが、議長というのは昇格試験で出会った老婆のことだろう。


「見ての通り、これからデートなんだよ」


「3人一緒で構わないと言われています」


「……こっちが構うわ」


 暫し押し問答が続くが、どうやら向こうは引けないというか、引く気はないらしい。


「めんど~」


「まぁまぁ、観光ならいつでも出来ますから」


「御主人、早く話を聞いて美味しいもの食べに行こうよ~」


「……そうだな」


 2人にまで宥められて、俺は渋々職員に連れられてギルド本部へと向かうことになった。






 そうしてギルド本部の会議室に連れて来られた俺達は例の老婆との早すぎる再会を果たしていた。


「次に会うのは2人のAランク昇格の時だって言ったのに」


「あたしとしても、こんなに早く再会するとは思ってなかったよ。座っておくれ」


 老婆は肩を竦めながら俺達を席に座るように促して、職員にお茶を淹れるように指示する。


「それで?」


「あんたも冒険者なら最近の異常を察知しているだろう?」


「……色々あり過ぎてどれのことだよ」


「思いついたのを纏めて全部で良いよ」


「大雑把だな」


「ともあれ、そういう異常とも呼べる事件の裏に、それらを引き起こしている黒幕が居るって話だ」


「…………」


 それって俺のことじゃね?


「そんなの誰が言ったんだよ」


 とはいえ、それは内緒なので探りを入れてみる。


「……聖教会」


「一気に胡散臭くなったな」


「それはあたしも同感だけど、冒険者ギルドとしても聖教会の影響力は無視出来ないんだよ」


「ふぅ~ん」


 聖教会というのは、この世界における最大の宗教組織のことで、その影響力は絶大とも言える。


 流石の冒険者ギルドも聖教会は無視出来ないらしい。


「ともあれ、聖教会はそういう黒幕の存在を突き止めたから、何とかしたいという旨を報告して来たんだよ」


「何とか出来んの?」


 相手は世界最強の魔女だよ?


「……勇者召喚」


「…………」


 そう言えば、それがあったな。


「聖教会は伝説の勇者を召喚することで、今回の黒幕に対処するつもりらしい」


「そういや、そんな噂を聞いたな」


「噂?」


「時期的に俺がAランクに昇格するのが早いか、それとも勇者が召喚されるのが早いか、みたいな話を聞いた」


「何処で聞いたんだい?」


「俺にだって独自の情報を持って来る伝手くらいはあるんだよ」


「へぇ。良い耳を持っているね」


 世界中に散らばっている手下の魔女達だけど。


「本当に勇者が召喚されるのかは知らないけどね、冒険者ギルドとしては聖教会が勇者を召喚するのを黙って見ているわけにはいかないんだよ」


「おい。ちょっと待て。嫌な予感がする」


「おめでとう。あんたには冒険者ギルドのAランク代表として勇者召喚の儀に立ち会う権利を上げようじゃないか」


「いらねぇ~」


 どうして俺が呼ばれたのかと思ったら、面倒なことを暇な俺に押し付けようって算段かよ。


「そういうのは、あの熊の獣人のおっさんとか、同時詠唱の女とかにやらせろよ」


「グロギナは入院中だし、ラディーナは自信喪失して実家に帰っちまったよ」


「OH……」


 そういやティーナとリティスにコテンパンにされていたな。


「あんたらが貴重なAランクを2人も脱落させたんだから、あんたらが責任を取りな」


「それはこじつけが過ぎる」


 試合を組んだのは、この老婆の筈だ。


「良いじゃないか。帝都に来るまで2ヵ月も旅をして来たんだろう? それがちょっと延長されるだけさ」


「……何処に行けって言うんだよ」


「聖王国」


「え? どこにあんの、それ?」


「お隣だから馬車で2週間もあれば到着出来るよ」


「隣国かよ!」


 世界最大の国家である帝國の隣に世界最大の宗教国家を置くなよ。


「帝國は大きくなり過ぎたからね。それに歯止めを掛ける役割を持った奴が近くに必要だったのさ」


「……聖王国って聖教会の総本山的な国だろ? 歯止めになんの?」


「こほん! ともあれ、そういうわけだから、あんた達には聖王国に行ってもらうよ!」


「……誤魔化した」


 間違いなく歯止めにはなっていなかったようだ。


「Aランクになってからの初仕事だよ。報酬は弾むから頑張っておくれ」


「……帰りてぇ~」


 魔女として勇者の召喚直後にお邪魔して色々と台無しにしようとは思っていたが、まさかAランクの冒険者として勇者召喚に立ち会うことになるとは思ってもみなかった。






 そういう訳で俺達は断れない仕事を押し付けられて聖王国へと向かうことになってしまった。


「すまん。デートは延期だ」


「Aランクって大変なんですね」


「……お腹空いた」


 不本意なことに、またもデートは延期になってしまい、俺達は聖王国に向かう為の準備をする羽目になった。




 ◇◇◇




 翌日。


 俺達はギルドから正式な依頼を受けて聖王国へと出発した。


「もっとのんびりと帝都を観光する予定だったのに」


 馬車を走らせながら俺は嘆息する。


「旦那様の転移魔術なら、いつでも戻って来られますよ」


「そうだけどさぁ~」


 2人のAランクの昇格試験の件もあるし、帝都にはいつでも転移魔術で来られるように目印を設置済みだ。


 だが、たったの数日で帝都を離れることになるとは思っていなかったのだ。


「勇者め、この恨みは忘れんぞ」


 これから召喚される勇者に責任はないが、八つ当たりの対象は勇者しかいないので勇者に恨みをぶつける。


「でも、本当に勇者なんて召喚出来るのでしょうか?」


「今回の仕事の詳細を書類にして受け取ったが、召還を主動するのは聖女らしい」


「聖女? 旦那様が嫌いな聖女ですか?」


「そうそう。俺が嫌いな聖女」


 俺の正体が魔女だからということもあるが、相性的に聖女はあんまり好きじゃないのだ。


「そういえば聖女ってなんなのでしょう? 名前からして魔女と何か関係があるのですか?」


「魔女は世界を護る使命を持った守護者で、聖女は堕落した魔女を狩る使命を持った選定者だよ」


 魔女の中に堕落して世界を護る使命を放棄する者が居たら、聖女が魔女特攻の能力を使って魔女を狩り、新たな魔女を選定する。


 それが本来の聖女の役目だ。


 俺はそういうことを2人に説明したのだが……。


「え? 聖女って聖教会のシンボル的な人かと思っていました」


「私も」


「そう思うよな」


 だから俺は聖女が嫌いなのだ。


「どういう経緯があったのかは知らないが、聖女は本来の役目を忘れて聖教会の犬に成り下がっている。本来は世界中で堕落していた魔女を狩り尽くして、新しい魔女を選定して回らなくちゃいけないのに、聖女本人が堕落してどうすんだか」


 俺が魔女として覚醒した時、世界中の魔女は堕落しきっていた。


 俺はその状況に愕然として魔女として世界を護る為の活動を開始したわけだが、本来ならばそれは聖女の役目だった。


 そうして世界の崩壊を防ぎ、世界の安定の為に頑張っていた俺の耳に届いたのが――聖女の堕落の報告だ。


 俺が聖女を嫌いになるのに十分な理由だろ?


「そういう訳で俺は聖女が嫌いだ。なにが勇者召喚だよ。そんなことをしている暇があるなら魔女に活を入れて回れよ」


 聖女には魔女が正しく守護者である為の抑止力としての役割もあるのに、信者にチヤホヤされてのぼせ上りやがって。


「出来れば聖女にもお仕置きしたいところだが、聖女は魔女とは別系統の存在だから魔女としてちょっかいを掛けるのも正当性に欠ける。今回は見送りだな」


「勇者を召喚するのは構わないのですか?」


 俺の発言にティーナが疑問を挟んで来る。


「正直、勇者召喚に関しては魔女は関わっていないからよく知らないんだ。聖女の規定でどうなっているのかは知らんが、少なくとも魔女の規定では禁止されていない」


 だから魔女として勇者の召喚を未然に防ごうとは思っていない。


「召喚するのに世界力を大量に消費するというのなら話は別だが、そうでないなら別世界から人間を1人召喚するくらい大きな問題じゃない」


「でも、その勇者は旦那様を討伐する為に召喚されるのですよね?」


「そうらしいな」


「……大丈夫なのですか?」


 ティーナは不安そうに俺を見ている。


「勇者が神やドラゴンよりも強くなければ、な」


 正直、そこはあんまり心配していない。


 魔女として伝説の勇者の記録は知っているが、少なくとも神を超えるような存在ではなかった。


「……寧ろ、超越存在ならまた星の餌が増えるんだけどな」


「御主人、何か言った?」


「なんでも~」


 リティスが困惑していたが、俺は笑って誤魔化しておいた。






 そうして帝都を出てから馬車を走らせていたのだが……。


「あ、魔物」


 帝國の領土でも魔物をチラホラと見掛けるようになっていた。


(竜王を捕らえて波動がなくなった影響だな。もう帝國は特別な国ではなくなった)


 竜王の加護とも言える竜王の波動がなくなって、普通に魔物が出現するようになったのだ。


 帝國の民にとっては今までの生活が崩れたと思うかもしれないが、これが本来の世界の姿なのだから文句を言われる筋合いはない。


(まぁ、竜王は暇潰しに帝國を統治していただけで世界の害悪ってわけじゃなかったけど、あんなところに居を構えられたら……捕まえてくれって言っているようなもんだろ)


 まだまだ星のエネルギーは不足しているのだから、超越存在を見つけたらドンドン捕らえていく方針である。


「くくく……」


「あ。御主人が悪い顔してるぅ~」


「しっ。リティス、邪魔をしてはいけませんよ」


 おっと。


 思わず世界の為の思考が漏れてしまったようだ。


 いやぁ、魔女のお仕事は大変だなぁ。


(勇者も超越存在だといいなぁ)


 そんなことを思って俺はうっすらと笑うのだった。


(御主人、また悪い顔~)


(旦那様って偶にああいう顔をするわね)


「…………」


 とりあえず口元は引き締めておこう。




 ◇◇◇




 今回の依頼を受ける際、出発前に冒険者ギルドから準備金として金貨50枚を受け取って来た。


 日本円に換算して約150万円だ。


 勿論、これは報酬の一部ということで返さなくてもいいし、依頼を達成した場合は追加で金貨300枚が支払われることになっている。


「流石Aランクは報酬も破格だねぇ」


 日本円に換算して900万円である。


「それだけ今回の仕事は重要ということではないでしょうか?」


「つっても勇者召喚に立ち会うってだけだろ」


 別に勇者をどうにかしろとは言われていないし、召還を見届けた後は帰ってしまっても構わないだろう。


「報酬の受け取りはどうなっているのですか?」


「……ギルド本部で受け取る手筈」


「絶対になにかありますよ、それ」


「お、おう。俺もそんな気がして来た」


 言われてみれば報酬の受け取りがギルド本部に限定されているということは、俺達は必ず帝都に戻って来なければいけない訳で……。


「あのババアも何事もなく終わるとは思っていないってことか」


 どうやらひと悶着あるのは確実らしい。


「Aランクになって初依頼がこれかぁ。帰ったらおっさんにも色々依頼を押し付けられそうだし、あんま楽は出来そうもないなぁ」


「何故か旦那様って偉い人に目を付けられますよね」


「目立たないように活動しているはずなんだけどなぁ」


「「…………」」


 ティーナだけでなくリティスまで『マジか』みたいな顔で見て来るのは止めて欲しい。


 ちゃんと魔女としての正体は隠しているのだから、俺としては目立たずに行動しているんだよ。


 正体が発覚したら巻き込まれる騒動は今の比ではないだろう。


「……引退しようかなぁ」


「Aランクになった直後に!?」


「御主人、もうちょっと頑張ろうよ~」


 とりあえず2人には普通に説得されたわ。




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