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第12話 【敢えて呼ぶのなら星の回復要因2号】

 

 結論から言えば俺達は全員で昇格することになった。


 俺は予定通りAランクに。


 ティーナとリティスはCランクになった。


 老婆はBランクでも良かった的なことを言っていたが、いきなりBランクだと問題が起きるということで最初はCランクで様子見らしい。


「2人がAランクに昇格する時になったら、また来るわ」


「はいはい」


 老婆は呆れたようにギルド本部を去る俺達を見送ったが、再会するのはそう先の話じゃないと思う。






 本来なら、これから地道に自宅のある街まで戻るのだろうが、俺には転移魔術があるので直ぐに帰る必要はない。


「ちょっと帝都を観光してから帰ろうか」


「良いですね」


「賛成♪」


 2人の賛同を得て俺達は帝都を見て回ることにした。


 まぁ、平たく言えばデートするってことだ。






 そうして楽しいデートの始まり――の筈だったのだが……。


「なんだ、あれ?」


 帝都の中央に聳え立つ巨大な建造物。


「帝都のお城……帝城でしょうか?」


「あそこに帝國の王様が居るのかな?」


「帝都の王様は皇帝と呼ばれている筈よ」


「こうてー、なんか強そう!」


 俺は2人が話すのを上の空で聞いていた。


「道理で帝國の領土に魔物が現れないと思った」


 人間に偽装した状態でも感じられるくらい強い波動が城から帝國全域に拡散して放たれている。


 並の魔物であれば尻尾を巻いて逃げ出すレベルの波動だ。


 ゴブリンなんて真っ先に逃げ出すに決まっている。


「悪い。観光は中止だ。まずは皇帝について調べるぞ」


「あ、はい」


「うん、わかったよ」


 2人には悪いと思いつつ、俺は帝都を回って話を聞き、皇帝に付いての情報を集めて回った。






 夜。


 借りた宿の一室に3人で集まって、集めて来た皇帝の情報を整理する。


「現在の皇帝は第28代皇帝のグランセラム=ゼルム=アルザンド。年齢は38歳。広大な帝國を統治する若き天才で、帝國の民から圧倒的な支持を受ける皇帝の中の皇帝」


 これが今日、調べた限りの皇帝の情報だ。


「ですが、これだと凄い皇帝だということしか分かりませんね」


「そうだね。なんか凄いこーていだね」


「とりあえず、忍び込んでみるしかないな」


 言いつつ俺は魔女に変身して――私に戻る。


「旦那様がお嬢様にならなければならない程の事態なのですか?」


「あの城から強烈な波動が放射されているのよ。あれが世界力を消費して出されているとしたら緊急事態だわ」


 あの波動には帝國を守る効果があるようだが、その為に世界力を消費しているのであれば黙っていられない。


「この部屋には結界を張っておくから、今夜は部屋から出ずに過ごしてね」


「分かりました」


「気を付けてね、お嬢」


「ええ。行ってくるわ」


 私は部屋から屋根の上に転移して、それから帝城を遠くから見つめて――一気に城まで転移で移動した。






 城に潜入した私は波動の発生源を探していた。


(波動が強過ぎて、何処から出ているのか特定出来ないわ)


 波動は常時発生しており、帝國の領土へと拡散しているようだが、ここまで近いと発生源が何処なのか分からない。


 気配を消し、透明化した上で転移を繰り返して城の中を探しているが、何処にも発生源が発見出来ない。


(皇帝は何処かしら?)


 とりあえず、何かを知っていそうな皇帝を探しているのだが、波動に邪魔されて探知が上手く機能しない。


(強い波動に押し流されて世界力を使った探知が上手くいかないなんて)


 そうして手探りで城の中を探していたら――広い部屋に出た。


(ここは……謁見の間?)


 もう夜だし、こんな時間に誰もいないと思っていたのだが……。


「誰だ」


 唐突に謁見の間に威厳のある声が響く。


 暗闇を透視してみれば、謁見の間の中央に置かれた玉座――帝座? に1人の男が偉そうに片肘を付いて座っている姿が見える。


「まさか……皇帝?」


 こんな時間に、こんなところで何をしているの?


「無礼であろうが」


「ぐっ!」


 困惑していた私は、その声に強烈な圧力を感じて思わず後退する。


「これ……威厳とか威圧とか、そういうレベルの圧力じゃないわよ」


 透視も面倒になったので、指をパチンと鳴らして周囲に灯りを点ける。


 帝座に座っていたのはやはり皇帝だと思うのだが、それ以外にも傍に控えるように1人の女性が帝座の傍に佇んでいた。


「……魔女?」


 こっちは正真正銘の魔女で、私の支配下にない野良の魔女だった。


「ワシを前にして余所見とは、何処までも無礼な奴め」


「ぐぅっ!」


 再び皇帝から圧力が放たれて、私は思わず膝を付きそうになった。


「ほぉ。跪かぬか」


 皇帝は膝を付かなかった私を感心するような目で見ている。


「皇帝陛下の御前です。無礼な真似はよしなさい」


 一方で魔女が私に向かって手を掲げて――魔法で跪かせようとしてくる。


「こっちは大したことがないわね」


 世界力を使った魔法なら私には通用しない。


 だから、やはり問題なのは皇帝の方だ。


「この圧力。どう考えても人間に出せるものではないわね。とは言っても魔女でもなければ神でもない。そうなると残るのは……」


 不可思議な力を使う皇帝の正体。




「竜……ドラゴンかしら」




 消去法で考えてドラゴン以外に考えられない。


「ほぉ。ワシの正体を看破するか」


 どうやら正解だったのか、皇帝は感心したような目で私を見ている。


「あんな強力な波動を常時放ち、魔女を従え、魔女を屈しようとする。こんなことが出来るのは神でなければ竜族だけでしょう」


 過去には魔女でさえも苦戦を強いたと言われる強者、ドラゴン。


 ドラゴンにもランクがあり、最弱と言われたドラゴンは人間の覇級魔術にさえ遅れをとったと言われているが、魔女の中で最上級であると自負する私にまで圧力を掛けることが出来るドラゴンは果たしてどの程度のランクなのか?




「察するに竜王――ドラゴンロードと言ったところかしら?」




 私はドラゴンの頂点であると考える。


「ふむ。存外、頭の回る魔女も居たものよ」


 どうやら正解だったらしい。


 本人の自己申告なので自意識過剰なドラゴンという可能性もあるが、感じられる力から考えても相当上のドラゴンであることは間違いないだろう。


「その竜王が、どうして人間の国で皇帝なんてやっているのかしら?」


 ドラゴンの寿命から考えて、こいつが28代目とかいうのは誤魔化しで、初代から今までの全ての皇帝が全員、同一人物であったと考えるべきだ。


 問題は、どうして竜王が皇帝なんてやっているのかということだが……。


「何、ただの暇潰しだ。意味などない」


「……どいつもこいつも」


 退屈だからと世界を窮地に陥れようとする異界の神も居れば、暇潰しに何百年も皇帝として人間の国に君臨する竜王が居る。


「でも、丁度良かったわ」


「何?」


「星のエネルギーを回復させるのに、超越存在が1匹では足りないと思っていたのよ」


「ほぉ。ワシに挑むつもりか? 過去には勇者を名乗る者が挑んで来たが、挑戦を受けるのは久しぶりだ」


 退屈しのぎにでもなると思っているのか竜王は手招きして挑戦を受ける構えだ。


「でも、その前に……」


「ぬ?」


 私は竜王の前から転移で移動する。


「…………え?」


 出現ポイントは私に魔法が通じず、傍観者と化していた魔女の前。


「こっちを先に処理させてもらうわ」


「あ。やめっ……!」


 魔女の額に手を当てて世界力を注ぎ込む。


「…………」


 あっという間に自我を世界に飲み込まれて人形になった。


「何を考えて竜王なんかに仕えていたのか知らないけど、本来の仕事に戻りなさい」


「……了解」


 魔女は私の指示を受けて転移で移動していった。


「便利な駒だったのだが、まぁいい。貴様を代わりにするとしよう」


 私を見る竜王の瞳が縦に割れて、爬虫類のような眼に変化する。


「それが本気ってことかしら?」


「この程度がワシの本気である筈がなかろう。遊んでやるだけだ」


 そう言って掌に赤い球体を作り出して浮かべる竜王。


「エネルギーが有り余っていそうね」


 道理で常時波動を帝国全土に撒き散らせたわけだ。


 こいつにとって、その程度のエネルギーは余剰分の余りに過ぎないのだから。


「それ。受けてみよ」


 そう言いつつ、赤い球体を私に向かって放り投げて来る。


「っ!」


 見た目以上の密度のエネルギーで、想像以上に重くて受け止めるのがやっとだ。


「よい……しょ!」


 私はエネルギーの方向を上に逸らして、エネルギーが天井を突き破って空に消えていく。


「上手く逸らしたな。次はどうかな?」


 完全に遊んでいるのか、竜王は次の赤い球体を既に準備していた。


 それも2つ。


「それ。頑張って凌いでワシを楽しませるが良い」


 そう言って連続で赤い球体を飛ばしてくる。


 このままドンドン飛んで来る球体が増えると困るのだが――そろそろ時間である。


「よっと」


「む?」


 私が片手で赤い球体を受け止め、もう片方の手でもう1つを受け止めると竜王が眉を顰める。


「少し加減をし過ぎたか?」


「その判断は平和ボケしすぎでしょう」


 私は笑いながら両手の赤い球体を――吸収して世界力に変換した。


 異界の神にそうしたように、竜王の力を観察した上で分析の完了である。


「貴様、何をした?」


「ちょっと待ってくださいね」


 私は竜王を待たせて天井に空いた穴に手を掲げ――穴から赤い球体が降って来る。


 そう。これは私がさっき上空に逸らしたエネルギーだ。


 それを受け止めて吸収して世界力に変換、後に星に還元する。


「さぁ。続きを再開しましょうか」


「…………」


 さっきまで余裕ぶっていた態度だった竜王の顔からは余裕が消えて、心なしか顔が引き攣っていた。


「どうしました? そろそろ遊びは終わりにして本気を出してもらっても構いませんよ?」


「う……む」


 今まで帝座に座ったままだった竜王が自らの足で立ち上がろうとして……。




 ガチンッ!




 鎖に引っ掛かって立ち上がるのに失敗した。


「あら、ごめんなさい。手癖が悪いので、つい拘束してしまったわ」


「…………」


 エネルギーの観察と分析を終えた直後から、私は密かに竜王に対神魔法――ではなく対竜魔法を仕掛けていた。


 竜王のエネルギーを奪い、世界力に変換して、星に還元する魔法を。


「神に匹敵すると言われたドラゴンの王ですが、やはりそう多くのエネルギーは持っていないようですね。期待外れです」


「なっ……! 貴様っ……!」


 私に失望されたことが捕らえられたことよりもショックだったのか、竜王は激昂して立ち上がろうとして……。


「とりあえず、反省部屋に行っていて下さい」


「待っ……!」


 何も出来ないまま反省部屋に転移していった。




 ◇◆◇




「ここは……」


 気付いたら竜王は薄暗い地下の狭い部屋に居て、身体を鎖で雁字搦めにされて動けなくされていた。


「ちっ。こんなもの……!」


 力任せに鎖を引き千切ろうと力を籠めるが――全く力が入らないことに気付く。


「ぬっ。くぅっ。こんなもの……!」


 竜王は様々な方法を試して拘束を解こうとするが、どれも失敗に終わる。


「……無駄だよ」


 そんな竜王に声が掛けられる。


 竜王が視線を向けると、1人の少女が竜王と同じように鎖で雁字搦めにされて拘束されていた。


「君には見覚えがあるね。確か竜王……だっけ?」


「貴様は……」


 竜王の方にも少女に見覚えがあった。


「神を自称していた目障りな女か。こんなところで何をしている?」


 少女は神――異界の神だった少女だ。


「あはは。見ての通りさ」


 鎖で拘束されたまま力を奪われ続ける現状に自嘲する異界の神。


「君って確か人間の国で王様をやっていた物好きな竜だよね? だから、あの魔女に目を付けられてしまったのかな?」


「あの魔女を知っているのか!」


 少しでも情報を得ようと竜王が身を乗り出すが――拘束されて全く動けない。


「あれは《安穏の魔女》、本人曰く安穏とはアンノウンで《正体不明の魔女》らしいよ。どういう意味かは知らないけど」


「あの魔女はどうしてワシの力を奪える! 本来、魔女に竜族の力を奪う程の力はなかった筈だ!」


 打開策を見つけようと竜王は異界の神に質問を繰り返す。


「あの魔女は観察と分析が得意なんだってさ」


「は?」


「だからボク達の力も観察して、分析すれば奪えるようになるんだって」


「……ありえん」


 少なくとも竜王の常識では、そんなことはありえないことだった。


「ボクもそう思うけど、実際に力を奪われているからね。今も余剰分の力は完全に奪われているから全く力が出せない」


「ぬ……ぐ」


 竜王は言われて気付くが、確かに力を奪われている感覚がある。


 じっくりと調べてみれば、異界の神の言う通り、余剰分が残らず奪われて力が全く出せない状態になっていた。


 このままだと回復する傍からエネルギーを奪われて、延々と奪われる状態が続くことになる。


 それから竜王は色々と試してみるが……。


「無駄だよ。ボクも可能な限りの方法を試してみたけど、どうやっても抜け出せなかったからね」


「ならば、どうしろと言うのだ!」


 諦観する異界の神に竜王は激昂する。


「簡単さ。今は無駄な努力をするよりも建設的なことをするべきだろう?」


「建設的?」


「ハッキリ言って、君がここにいるのは場当たり的な処置だと思うんだよ。あの悪辣な魔女がボク達に話相手を用意してくれる訳がないだろう?」


「…………」


「単純に君との遭遇が予想外の結果で、一時的に閉じ込める場所が用意出来なくてボクのところに送って来ただけだと思うんだよ」


「だから?」


「うん。だから……今の内に話せるだけ話しておこう。これから最低でも1000年は閉じ込められて孤独なままエネルギーを奪われ続ける生活を送ることになるんだから」


「…………」


 竜王は、それの何処が建設的なのかと思ったが、脱出が本当に絶望的であり、これから孤独に1000年を過ごすのだとしたら――ここでの会話が唯一の心の拠り所になることもありえる。


「……本当に脱出は不可能なのか?」


「異界の神であるボクが断言する。あの悪辣な魔女が脱出の可能性を残しているとしたら、それはボク達をより絶望させる為の罠だ」


「…………」


「この鎖を神や竜の力を使わずに自力で調べてみれば分かることだけど、とんでもなく性格の悪い罠が仕掛けられている。ボクは親切だから言わないでいてあげるけど、知らない方が良かったよ」


「…………」


 そこまで言われて誰が調べずにいられようか。


「さぁ。最後のお喋りを楽しもうじゃないか。いつ、あの悪辣の魔女が現れるのか分からないからね」


「……そうだな」


 竜王は異界の神に感化されて諦観に傾きつつあった。


 これが異界の神の罠という可能性も考えたが……。


(ない……か)


 目の前の異界の神からは完全なる諦観しか感じない。


 恐らく、脱出しようとあらゆる手を試して、その全てが無駄だと理解してしまったのだろう。


(ワシも、いずれはこうなるのか)


 無駄だと分かっても、これから孤独が待っていればきっと全てを試さずにいられない。


 そうして1つずつ試していき、1つ失敗する度に絶望して――やがて諦観が待っているのだろう。


(嫌だ。こんな……こやつのようにはなりたくない)


 異界の神の姿が未来の自分なのだと突き付けられて猛烈に拒絶の意思が湧いて来る。


 だが、魔女の鎖はそれで脱出出来るようには出来ていない。


(嫌だ。嫌だ。嫌だ)


 竜王は必死に鎖から脱出しようと足掻いて……。


「大丈夫だよ」


 異界の神の言葉に光明を見た。


「きっと3匹目が来るのは、そんなに遠い未来の話じゃない。直ぐに仲間が増えるさ」


「…………」


 但し、その光明は絶望という名の道への光明だった。




※ぶっちゃけ、竜王様はそんなに悪くないです(善性の存在という訳でもありませんが)。


暇潰しに帝國を作って皇帝として治めていただけで暴君という訳でもないですし、星のエネルギーを簒奪して世界を危機に追い込むようなこともしていません。


敢えて言うなら、悪の大魔女に見つかってしまうという運のなさが悪いです。


ケイリーンの第一目標は星のエネルギーの回復なので、こんな都合の良い回復要因を見つけたら確保一択です。


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