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第11話 【ギルド本部でのそれぞれの試験】

 

 帝都のギルド本部で一泊した俺は意外と豪華な部屋の中で目を覚ました。


 この部屋、1流ホテル並とまでは言わないが、絶対に普通の宿屋に泊まるよりも快適だと思う。


 だからという訳ではないが……。


「すぅ~。すぅ~」


「くぅ~。くぅ~」


 俺の左右には裸のティーナと裸のリティスが静かに寝息を立てて眠っていた。


 だって、この部屋、お風呂まで完備しているんだぜ。


 こんなところに女の子と泊ったなら、そりゃヤるだろ。






 流石にルームサービスはないらしいので、朝食はギルド本部の中にある食堂で食べることになった。


「なんだか薬師ギルドで暮らしていた時を思い出しますね」


「そうな」


 俺がティーナを拾った当初、俺は薬師ギルドの住居の一室に住んでいて、暫くはそこでティーナと暮らしていた。


 台所のない部屋だったので食事は薬師ギルドの食堂で食べていたのだ。


「…………」


 毎晩のようにチョメチョメしては隣室から苦情を出されていたけど。


 そんなことを思い出しながら食堂で朝食を食べていると……。


「…………」


 視線を感じた。


(見張られてる? 昇格試験を受けるからか?)


 他に理由が思い当たらず、試験を受ける者は監視されるのが定番なのかと思うことにする。


 朝食後、俺達はギルド本部に備え付けられた書庫に寄ってAランクの昇格試験について調べてみたのだが……。


(まだ付いてきているな)


 監視は張り付いて離れない。


 ちなみに昇格試験について書かれている書物は見つからなかった。


 過去の試験内容でも分かれば対策でも立てられると思ったが、そう簡単に攻略法を探らせてはくれないようだ。






 それから時間を潰す為にギルド本部の依頼が張られている掲示板の前に来て依頼を見てみたのだが……。


「普通だな」


「普通ですね」


「普通だね~」


 特段変わった依頼は張られておらず、今までの冒険者ギルドでも見て来た依頼が張られているだけだった。


「ギルド本部と言っても、いつも特殊な依頼がある訳じゃないみたいだな」


「当たり前と言えば当たり前ですね」


「だな」


 確かにギルド本部は建物が大きいし、沢山の冒険者が集まっているようだが、特殊な依頼が集まるという訳ではない。


 人が普通に生活している以上、普通の依頼が来るのは当然のことだ。


(鬱陶しいな)


 それはそれとして、監視されている視線は鬱陶しい。






 試験は午後からということだったが、先に昼食を食べてから昨日の受付に向かうことにした。


「お待ちしておりました」


 余裕を持って受付に行くと、昨日の受付嬢が笑顔で俺を待っていた。


「一応、聞いておくんだが、試験を受ける者は監視する規則でもあるのか? いい加減に鬱陶しいんだが」


「…………」


 俺が受付嬢に尋ねると受付嬢は沈黙して顔を引き攣らせていた。


「ナ、ナンノコトデショウ?」


「わかりやす!」


 予想はしていたが、やはり監視者はギルド側からの試験を受ける者への監視だったらしい。


「私が悪いんじゃありませんよ! こんなに簡単に察知されてしまう試験官が悪いんです!」


「Aランクの試験なんだからプロを使えばいいのに」


「プロなんですよぉ! 元ですけど、Aランクで密偵を担当していた凄腕が監視をしている筈なんです!」


「……それ言って良いのかよ」


「あ」


 ポロっと口を滑らせる受付嬢。


 意外と愛嬌があるけど、プロとしては失格である。


「はぁ、やれやれ。困った子だねぇ」


 そうして呆れていたら、何処からともなく声が聞こえて来て――1人の老婆が現れる。


 同時に俺を監視していた視線も消えた。


「Aランクで密偵をしていたのって何年前だよ」


「……ざっと50年は前かね」


「超ベテラン!」


 一応、乗ってはみたが俺は騙されない。


 さっきまでの監視の視線の主と老婆は別人である。


 老婆の出現と同時に監視が視線を切っただけだ。


「芸が細かいねぇ」


「あんたみたいな可愛くないガキは嫌いだよ」


「よく言われる~」


 先生とかに似たようなことを言われていた。


「ザッカスの奴、田舎に引き籠ったと思ったらふざけたガキを送り込んで来やがって」


 ザッカス。


 聞き覚えのない名前だが、察するに例のギルドマスターのおっさんの名前なのだろう。


 覚える気はないけど。


「あたしは冒険者にとって必須の能力とは強さではないと考えている」


「そらそうだ」


 ただ強ければいいというのなら冒険者ではなく兵士とか傭兵になれば良い。


 冒険者とは依頼を達成する能力こそが必要なのであって、必ずしも強い必要はない。


「おっと」


 頷きつつも俺は老婆の口から撃ち出された含み針を首を傾けて避ける。


「……本当に可愛くないガキだよ」


「強さは必須ではないが、強いに越したことはないってことね」


「その通りだよ」


 Aランクになるような冒険者なら、最低限の強さは必要だろう。


 Aランクの冒険者がBランク以下の冒険者と戦って負けるのは沽券に関わる。


「Aランクに最低限必要な強さ。監視されていることに気付ける察知能力。食事に含まれていた毒を平然と平らげてピンピンしている意味不明な体質」


「一時期、猛毒を飲んで血反吐を吐いていた日常を過ごしたもんで」


「どんな生活環境だい」


 俺が食べた朝食と昼食に毒が含まれていることには気付いていたが、魔女の秘薬に耐えていた日々を思い出せば体内で分解出来る程度の毒なら全く問題にならない。


 魔女の秘薬はどんな耐性を持っていても無視して血反吐を吐くレベルの猛毒だったからね。


 体内に入った毒を分解する能力がなければ、俺は今生きていない。


 まぁ、ティーナとリティスの食事まで毒が入っていたら別の対応をしなければいけないところだったが。


「推薦状には、あんたにはAランク上位の実力があると書いてあったが……」


「それも確かめるか?」


「……死人が出そうだからやめておくよ」


 そう言いつつ老婆は俺が受付嬢に預けていた登録票を取り出して渡して来た。


「合格だ。あんたにはAランクの冒険者に必須と言える生存能力があると認めるよ」


「あざ~っす」


 返された登録票にはAの文字が燦々と輝いていた。


 少し予想外だったが、俺はAランクの昇格試験に合格することが出来たようだ。






「問題はそっちの2人だね」


 俺は無事にAランクになれたが、老婆はティーナとリティスに視線を向ける。


「Eランクの嬢ちゃんは分かるが、Gランクってなんだい。1日でFランクになれるのにサボるんじゃないよ」


「移動に時間を取られてランクを上げる暇がなかったんだよ」


「……ザロースの街は辺境だったね」


 ここでまた新事実発覚。


 俺が拠点にしている街はザロースという名前だったらしい。


「移動だけで2ヵ月掛かった。ランクなんて上げていられるか」


「やれやれ」


 老婆は肩を竦めつつリティスに視線を向けて……。


「あんたから見て、この子はどのくらいのランクだと思う?」


「強さだけならAランクでいけるな」


「マジかい」


 俺は正直に言ったつもりだが老婆は懐疑的だった。


「流石にAランクには出来ないが、ちょっと試させてもらうよ」


 こうしてリティスも試験を受けることになった。






 リティスが連れて来られたのは地下にある訓練場で、そこでは2メートル近い身長の体格の良い獣人が待っていた。


(熊系か?)


 見た目は熊のようにゴツいが、丸っこい熊の耳と尻尾のギャップが酷い。


「グロギナ! 力試しだ。あんたが相手をしてやりな」


「……分かった」


 どうやら無口な男のようで、対戦相手であるリティスを確認しても文句を言わずに静かに構えた。


「準備はいいかい?」


「リティス、ナックルは止めておけ。流石に死ぬ」


「はぁ~い」


 拳を構えていたリティスだが、俺が注意すると拳に装着していたナックルを外して鞄に仕舞った。


「別に武器を装備しちゃいけないなんてルールはないよ」


「いや、マジで死ぬから」


 リティスがナックルを装備するのは鬼に金棒なんてレベルではなく、鬼にバズーカを装備させるような反則だと思う。


「あんたが良いって言うならあたしは構わないけどね。それじゃ、はじめな!」


 そうして老婆の合図で対戦が開始された。






 熊男はどっしりと構える。


 見るからに力は強そうだし、筋肉に覆われた身体は耐久力も高そうだ。


 その熊男に一直線に飛び込んだリティスが最初にしたことは――ローキックだった。


 リティスの強烈なローキックが熊男の足に炸裂して……。


「ぐぅっ!」


 うめき声を上げつつも熊男は耐える。


「マジかい。グロギナを一発で崩しかけるなんて、どんな蹴りだい」


「いや。崩れるぞ」


「へ?」


 老婆が呆気に取られた声を上げる頃には既にリティスによる2発目のローキックが熊男の足に叩きこまれていた。


「ぐがっ!」


 熊男は涙目になって耐えるが――リティスは止まらない。


 右、左、右と連続で次々とローキックを熊男の足に叩きこみ続ける。


「…………」


 老婆は絶句である。


 そうして何発目か分からないリティスのローキックが熊男に叩きこまれて……。


「ぐぬぅっ!」


 ついに熊男の足が耐え切れずに、腰が落ちて――頭の位置が下がる。


「決まったな」


 俺の言葉通り、チャンスを逃すことなくリティスは熊男の懐に飛び込み――綺麗なフォームから会心のアッパーを下から顎に叩きこんだ。


 弧を描くように背中から地面に倒れ落ちる熊男。


「リティスがナックルを装備していなくて良かったな。ナックルを装備していたら……顎どころか頭まで粉砕していたぞ」


「……なんで、この子がGランクなんだい。詐欺じゃないか」


「それは俺もそう思う」


 どうしてリティスがGランクなんだか。






 熊男は思ったより重傷だった。


 リティスに砕かれた顎だけでなく、ローキックによって足の骨も折れており、全治2ヵ月と診察されて入院することになった。


「あの子のパワーなら態々足元から崩さなくても正面からでも打ち合えたんじゃないのかい?」


「体格差のある相手には頭を狙えるように、まずは足元から崩すように教え込んである。それに前衛として最優先は後衛に攻撃を通さないように、自分に注意を引き付ける戦いを教えてある」


「……チーム前提の戦い方かい」


「冒険者なんだからパーティで戦うのは当然だろ」


「そうだね」


 老婆は深く頷きながらも担架に乗せられて運ばれていく熊男を見送った。


「ちなみに、グロギナはAランクの前衛だよ。熊系の獣人で耐久力も高いのが売りだったが、あの子が崩れるところなんて初めて見たよ」


「俺がリティスに戦い方を教え始めてから、まだ2ヵ月も経っていないって言ったら信じるか?」


「……冗談だろう?」


「世の中には天才が居るんだって思ったもん」


「…………」


 Aランクを圧倒するGランクとか、訳分からないよね。


「まさか、そっちの子もかい?」


 老婆が次に視線を向けたのはティーナだった。


「ティーナは魔術師だ」


「魔術師? その子はハーフエルフじゃないのかい?」


 どうやら老婆はハーフエルフが魔術を使えないことを知っているようだが、どんなことにも例外があるということを忘れている。


「ハーフエルフは魔術を使えないなんて、誰が決めたんだ?」


「あんた、なんでもありかい」


 俺の正体は魔女なのだから間違えてはいない。


「ついでだから、その子も試験を受けるかい?」


「実力が見たいなら、そう言えば良いんじゃね?」


「……可愛くないガキだよ」


 こうしてリティスに続いてティーナも試験を受けることになった。






 ティーナの対戦相手に選ばれたのは同じ魔術師のようだった。


「あれもAランクか?」


「……秘密だよ」


 Aランクっぽい。


 対戦相手の女性の魔術師は魔術師らしい恰好で杖を持っている。


「ラディーナは魔術師の名家の出身で、特殊な術式《二奏流》の使い手だよ」


「あ。解説はしてくれるんだ」


「……暇だからね」


 というか単純に解説が好きなんじゃないだろうか?


「それじゃ準備は良いね? はじめな!」


 そうして老婆の合図でティーナの対戦が始まった。






「~♪」


 ティーナは特に気負うこともなく、いつも通りに歌うように詠唱を始める。


「へぇ。古い術式だけど、丁寧で正確な発音の詠唱だね」


「婆さん、魔術にも詳しいのか」


「あたしが何年生きていると思っているんだい」


 最低でも50年以上ということしか分からん。


 一方で対戦相手の女性魔術師はティーナの詠唱を聞いて、完成まで時間が掛かると判断すると……。


「魔術師だからと言って接近戦が出来ないとは言っていないわよ!」


 杖を両手に持ってティーナに向かって殴り掛かっていった。


「それは、そうなるね」


 老婆は当然だというふうに頷く。


「~♪」


 だがティーナは対戦相手が杖を持って殴り掛かって来ても詠唱を止めずに続け、殴り掛かって来た杖を冷静に捌いて、そのまま――投げた。


「ぐぇっ!」


 背中から地面に落ちた対戦相手は咳き込んで呼吸困難に陥り、地面で藻掻いている。


「丁寧に詠唱を続行出来るのは接近されても対処する術があるからだって分かるだろ。ティーナには緊急時の為にしっかりと護身術を教え込んである」


「……もう驚かないよ」


 銃を出さなかったのはティーナとしても反則だと思ったからだろう。


 そうしてティーナの詠唱は進み……。


「ウォーターバレット」


 水の弾丸を作り出して対戦相手に向けて撃ち出した。


「ぐぅ。舐めるな!」


 倒れて咳き込んでいた対戦相手だが、装備していた腕輪に魔力を篭めると――不可視の盾が出現してティーナの水の弾丸を弾き飛ばした。


「盾の魔法道具か。良いの持ってるな」


「名家の出だからね」


 そうして立ち上がった対戦相手を見てティーナは距離を取る。


「もう容赦しないわ! 術式《二奏流》の神髄を見せてあげるわ!」


 そう言って詠唱を始める対戦相手なのだが……。


「水と……火の同時詠唱?」


 それは俺の知らない詠唱だった。


「あれが術式《二奏流》だよ」


 そうして完成したのは右手には水の魔術、左手の火の魔術を待機させる対戦相手の姿。


「2つの魔術を同時に発動させたのか」


「くらいなっ!」


 俺は少し驚いたのだが、なんか対戦相手は2つの魔術を同時にティーナに向かって解き放ってしまった。


「へ?」


 逆に予想外で俺は呆気に取られる。


「……ウィンド!」


 対してティーナは風の初級魔術を唱えていたようで、風を起こして2つの魔術の軌道を逸らして凌いでいた。


「ちっ」


 対戦相手は舌打ちするが――なんだかなぁ。


「折角の同時詠唱なのに、勿体ないことをするなぁ」


「なんだって?」


「同時詠唱で2つの魔術を同時に発動出来るのに、それで素直に2つの魔術として使うだけなんて……勿体ないじゃないか」


「?」


 困惑する老婆。


「見てれば分かるよ。ティーナもちゃんと観察していたし、分析も終わっている」


 俺の教えを受けたティーナは、ちゃんと俺のやり方を学んでいるのだ。


「~♪」


 そうしてティーナが詠唱を開始する。


「これは水と……風の同時詠唱?」


「そうそう。よく分かっているな」


 ティーナは俺が思ったことをちゃんと理解して実行する気のようだ。


「猿真似なんかにゃ負けないよ!」


 対戦相手もティーナに負けじと水と風の同時詠唱を開始する。


「嬢ちゃんは初級魔術みたいだけど、ラディーナは下級魔術だね」


「みたいだな」


 そうして詠唱していた2人の魔術が完成したのはほぼ同時だった。


 2人の右手には水の魔術を、左手には風の魔術が待機されている。


 対戦相手はそれをそのまま発動させようとして、目を見開いて硬直した。


 ティーナが両手の魔術を頭の上に持っていき――2つの魔術を合成したからだ。


「あんた、これを狙っていたのかい」


「そうそう。折角2つの魔術を同時に発動出来るんだから、合体させないなんて勿体ないだろ?」


 そうしてティーナの頭上で合成された2つの魔術は――氷の槍となって顕現する。


「氷属性の……槍」


 対戦相手はハッと我に返って両手の魔術をティーナに向かって解き放つが……。


「アイスランス」


 ティーナが放った氷の槍は2つの魔術を切り裂いて進み――対戦相手の足元に突き刺さった。


「え? ちょっ……!」


 そこから氷が広がっていき、対戦相手の足を登って――下半身を氷で覆うと止まった。


「ひぃっ! 冷たい! 動けない! 助けてぇっ!」


 対戦相手は氷に覆われた下半身を見て悲鳴を上げるが……。


「ティーナがその気なら全身を氷漬けにも出来たな」


「……試合は終了だよ。救助しな」


 老婆は嘆息して試合を止め、対戦相手の救助を命じた。




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