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第10話 【目的地の帝都に着いたが広すぎる】

 

 路銀も確保出来たので、改めて国境に向けて馬車で出発する。


「美容って想像以上に奥が深かったのですね」


「私には無理ぃ~」


 ティーナとリティスは昨夜の魔女の指導が衝撃的だったのか、色々とダメージを受けているようだが。


「そんな言うほど難しかったか? 基本的なことしか教えていないと思うんだが」


「……お嬢様が口癖のように言っていた超絶美少女というのは欠片も冗談ではなかったのですね」


「当たり前だろ」


 冗談や酔狂で超絶美少女になれる程、超絶美少女は甘くないのだ。


「私、自信がなくなって来ました」


「私も~」


「むむ」


 これは困った。


 俺の選んだ美少女達が自信を喪失している。


 素は良いのだから頑張れば超絶美少女になれると思っていたが、思っていた以上に超絶美少女の難易度は高かったらしい。


「ちょっと日課を追加するだけなのに」


「「絶対にちょっとじゃない!」」


「お、おう」


 そんなに大変かなぁ?


 俺は自分の髪や肌のお手入れをするの凄く楽しくて全然苦にならなかったけど。


「お嬢様ってアレですよね。自分の好きなことに夢中になると周りが見えなくなるというか、《朝露の魔女》様が薬の話をしている時にそっくりでした」


「なん……だと」


 俺がアレと一緒?


 残念魔女と同列とかすんごいショックなんだけど。


「お嬢の先生ってどんな人なの?」


「ああ、そう言えばリティスにはまだ会わせたことがなかったな」


 ギルド本部への旅を始めてから拾ったリティスは先生の許へ連れて行く時間がなかったのだ。


「ギルド本部で無事にAランクになったらリティスも連れて行ってやるからな」


「……お掃除要員が1人増えてくれるとありがたいですね」


「そうだな」


 毎回のようにゴミ屋敷の掃除をさせられるからティーナの目に諦観が映っている。


「というか、旅の間は1度も行っていませんし、どうなっているのか怖いです」


「……考えたら駄目だ」


 2ヵ月も放置して、あの先生の家がどうなっているのか俺も考えるのが怖い。


 早めにAランクになって掃除に行った方が良さそうだ。


 少なくとも先生が自分で掃除をしている姿は欠片も想像出来ないんだもん。




 ◇◇◇




 街を出て数日が経過して、やっと国境が見えて来た。


「やっと着いたか」


「襲撃は減りましたけど、長く感じましたね」


「……退屈だった」


 実際、襲撃の頻度は減ったけど、気が抜けて退屈な時間が増えて暇だった。


 そうして俺達は国境に辿り着いて出国審査を受けることになったのだが……。


「なんかエルフが集まって怪しい集会を開いている町があるって噂なんだけど、何か知らないかな?」


「……シリマセン」


 ハーフエルフのティーナが同行者だったからか、そんなことを聞かれて知らないふりをしておいた。


 あんな無駄にプライドだけは高い厨二病どものことなんか知らないよ。






 出国審査の方は簡単に通ったのだが、帝國の入国審査は少し面倒だった。


「Aランクの昇格試験ねぇ。その割にはお連れさんは随分とランクが低いみたいだけど、どういう基準で仲間を選んだの?」


「美少女だったから」


「……そうなんだ」


「基本的に仲間はツラとムネで選んだ。リティスはまだ小さいが母親が爆乳だったと聞いているし、将来的に爆乳になる予定だ」


「……聞いてないよ」


「2人とも将来的にはGカップになる見込みだ。Gカップの2人に挟まれて寝るのが今から楽しみで……」


「もう通っていいよ! 早く行って!」


 折角、俺の理想の夢を語ってやったというのに、途中で切り上げる羽目になった。


 人の話は最後まで聞くように親に教わらなかったのだろうか?


「やっぱりAランクを目指すような人は普通じゃないんだなぁ」


 失礼な!






 こうして俺達は念願のギルド本部のある帝國に入ることが出来た。


「今更だけど、帝國の名前ってなんだっけ?」


「えっと……どうでしたかね?」


「……知らない」


 俺だけでなくティーナとリティスも帝國の名前を憶えていなかった。


 俺はギルドマスターのおっさんに1度だけ聞いた気がするが、あんまり興味がなかったので全く覚えていない。


「俺って興味がないことは覚えられないんだよね」


「ああ、旦那様はそんな感じですね」


「うん。御主人はそんな感じ~」


「……そうか」


 まさか2人にもそう思われていたとは。


「逆に興味のあることに対しては凄い記憶力を発揮しますよね」


「そうそう。御主人はそんな感じ」


「お、おう」


 なんだろう。何故か褒められている感じがしない。


「ともあれ、後は帝都に向かうだけだな。出発しよう」


「はい」


「いこ~」


 そうして俺達は馬車を走らせて帝都へと向かうことになった。






 数時間後。


「帝國って言っても今までの国とたいして変わらないな」


「そうですね。もっと変化があると思っていました」


「……退屈~」


 帝國に入ってからの旅路は何の変化もなかった。


「変わったことと言えば魔物が襲って来なくなったことでしょうか?」


「そういや、全く襲って来ないな」


 ティーナに言われて気付くが、帝國に入ってから1度も魔物に襲われていない。


 前の国でも襲われる頻度が低かったから違いが分かりにくかったが、全く襲われないというのも妙だ。


「ギルド本部がある国だからゴブリンの駆除は徹底しているのかね」


 数時間も馬車を走らせてゴブリンを1匹も見かけないというのは旅を始めて以来、初めての経験だ。


「ゴブリンを完全に駆除出来るくらいの冒険者が居るってことかね? 流石はギルド本部のある国だけはあるな」


「それだけが原因とは思えませんけど」


「ふむ」


 確かに地道に駆除するだけでゴブリンを一掃出来たとも思えないし、もっと他に仕掛けがあるのかもしれない。


「……結界か?」


「帝國全域にですか? 帝國の領土は他の国に比べても断トツで広い筈ですよ」


「だよな~」


 そんなに広い範囲の結果を張る為には――それこそ魔女の力が必要になる。


 だが魔女がそんなに巨大な結界を張っていれば、俺が気付かない筈がない。


 俺が今まで気付かなかったということは、魔女の張った結界ではないということだ。


「うぅ~ん……分からん」


 結論、分からない。


 今度魔女に戻った時にでも詳しく調査してみよう。






 とは言え、襲撃がないので旅路が順調なのは純然たる事実だ。


「とぉっ! たぁっ! やっ!」


 暇すぎたリティスは荷台でアッパーの練習を始めてしまった。


「~♪」


 触発されたティーナも詠唱の訓練中。


 御者をしている俺だけが暇を満喫中だ。


「良い天気だなぁ~」


 なんか眠くなって来た。


 なんせ昨夜も遅くまで起きて――2人を相手にチョメチョメしていたからな。


 Fカップのティーナは勿論だが、Cカップのリティスも感度が良くて……。


「おっと」


 これ以上エロ妄想をすると我慢が出来なくなりそうなので、続きは夜まで取っておくことにしよう。


 分かっていることは俺が寝落ちしそうなくらい眠いという事実だけだ。


「こういう時の為の黒猫人形だよな」


 俺は御者席の隣に黒猫人形を設置して――ちょっと居眠りすることにした。






 気付いたら日が落ちて夕方になっていた。


 隣を見ると相変わらず黒猫人形が座っていて異常は感知されていなかった。


 荷台の方を見ると2人が1つの毛布に包まって仲良く眠っていた。


「……全員で寝るなよ」


 黒猫人形を設置していたとはいえ不用心な。


 起きて頑張っていたのは馬だけかよ。


「起きろ~。そろそろ帰るぞ」


「んぅ?」


「ふわぁ~」


 声を掛けると2人はそれぞれに目を覚まして寝起きの反応が返って来る。


 帝國に入ってから危険はないが、今日のところは帰って自宅で寝たい。


 そう思って俺は転移魔術で自宅に帰ることにした。




 ◇◇◇




 今日も暇な馬車の旅なので、ちょっと自分が使える魔術を整理してみようと思う。


 まず俺が使えるのは時空属性のバフである加速とデバフである減速。


 これらは両方とも下級魔術に分類されており、詠唱も長くはなく発動も早い。


 特に加速のバフは戦闘でよく使うので慣れており、スムーズに発動出来る。


 次に同じく時空属性の転移魔術。


 これは魔女の転移魔法を参考に色々と機能を削り取って簡略化したものなので、効果の割に中級魔術という分類になる。


 それに対してアイテムボックスは初級魔術に分類される。


 何故なのかと言えば、あれはあくまで魔女の魔法であるアイテムボックスに干渉するだけの魔術なので、魔術としては相当簡易な部類に入る。


 もっと言えば、魔女側からアイテムボックスに干渉しやすくなるように工夫されている為、こちらから魔術で干渉が容易になっているのだ。


 まぁ、本来は強固な金庫のように簡単には干渉出来ないのだが、専用の鍵を持っていれば簡単に開けられるという原理に似ている。


 人間に偽装した俺がアイテムボックスを使えるのは、そういう理由からだ。


 それに対してクリーンの魔術だけは魔女が本気で妥協なく作り上げた魔術なので、実は名前に反してあれは上級魔術なのだ。


 一応、分類としては汎用魔術に区別されるのだが、未だにティーナが使うことが出来ないのはそういう理由からだ。


 亜空間探査?


 あれも実は上級魔術で、1度展開すると5時間は継続して展開出来るというふうに組み上げてある。


 何度も展開するのが面倒だったから1度展開したら継続して展開出来ると便利だと思ったからだ。


 魔女の力で便利な魔術を組み上げると大抵が上級魔術になってしまうのが難点だった。


 転移魔術のように色々削って簡略化すれば中級魔術に収めることも出来るが、削り過ぎると逆に使い勝手が悪くなるので上級魔術で妥協した。


 え? 覇級魔術は使えないのかって?


 実は使える。


 念の為、魔女に戻らずに使える切り札的な手段として時空属性の覇級魔術も開発してあったのだが……。


(使い勝手が悪すぎて使う機会がないんだよな)


 世の例に漏れず、覇級魔術は大規模破壊魔術であることが多く、俺の覇級魔術も超広範囲に破壊を撒き散らす系だ。


 危なくて普段使い出来る代物ではない。


 戦争にでもなれば大活躍出来るのだが……。


(人類同士の争いに介入する気ねぇし)


 魔女はあくまで世界の守護者であって、人類同士の争いに干渉する気はなかった。


 そういう訳で、今後も使う機会は訪れそうにない。




 ◇◇◇




 暇な旅を続けること数日。


「あれが帝都かぁ」


「大きいですね。ここからでも大きさが伝わってきます」


「はぇ~」


 やっと帝都が見える位置まで辿り着くことが出来た。


「とは言っても、まだまだ遠いんだけどな」


「大き過ぎて遠近感が狂いますね」


「え? あれって、そんなに遠いの? 見えてるのに?」


 確かに帝都が見える位置までは着いたが、帝都が大き過ぎて見えているだけで、まだまだ距離は遠い。


「世のAランクは皆こんな苦労をして昇格試験を受けに来ていたのか」


「来るのも帰るのも大変ですよね」


「でも、次からは御主人の転移魔術で飛んで来れるよね?」


「「…………」」


 リティスの言葉に思わず俺とティーナは沈黙する。


 それはそうなんだけど、それを言っちゃ台無しである。






 それから時間を掛けて帝都に近付き、数時間を掛けてやっと城門まで辿り着いた。


「遠かったねぇ」


 リティスが遠すぎてだれているが、ハッキリ言って同感だ。


 見えてから、こんなに時間が掛かるとは思わなかった。


 そうして城門の前に3列に並んでいる1つに並んで順番を待って、やっと順番が回って来た。


 担当したのは門番をしていた兵士の1人なのだが、こういう場合は皆同じ反応をする。


「ほぉ、Bランクか。ということは目的は……」


「Aランクの昇格試験を受けに来た」


「やはりか。新しいAランク冒険者が誕生するのは歓迎だ。頑張ってくれ」


「ありがと」


 とは言え流石はギルド本部がある帝都というところか。


 Aランクの昇格試験を受けに来る者も少なくはないのか慣れた対応だった。


 俺の連れということでティーナとリティスも問題なく入れた。


「後はギルド本部に行って、推薦状を渡して試験を受けられるように予約を入れるだけだな」


「あ、そういう手順なのですね。てっきり推薦状を渡したらそのまま試験が始まるのかと思っていました」


「向こうだって、いつ、誰が、何人来るのか分からない訳だから、そんなに早く対応出来ないだろう。まずは予約をして個人で試験を行うのか、それとも人数が集まってから集団で試験を行うのかは、行ってみないと分からないな」


 そもそも、帝都が見えてから到着するのに無駄に時間が掛かったので、もう時刻は昼過ぎだ。


 時計があれば午後3時を過ぎている。


 この時間に行って、即座に試験が受けられるなら逆に凄い。






 そうして門番に聞いたギルド本部へと移動したのだが……。


「大きいな」


「流石はギルド本部ですね。今までの冒険者ギルドの中で一番大きいです」


「おっきぃねぇ」


 俺達の前に聳え立つのは巨大な建物だった。


 城とまでは言わないが、屋敷と言われても納得する大きさだ。


 少々及び腰でギルド本部の中に入ってみたのだが、この時間帯にも拘らず大勢の人が集まっていた。


「人は大勢いますけど、広すぎて混雑しているようには見えませんね」


「そうだな」


「それに、色々な人種の人がいます」


「……そうだな」


 ギルド本部には人間だけではなく、エルフや獣人の姿もチラホラあった。


 エルフはこちら――ハーフエルフのティーナに気付くと例外なく顔を顰めていたが、文句を言ってくるほどに非常識な奴はいなかった。


 やはり、あの町にいたエルフは例外中の例外だったらしい。


 獣人はエルフよりも多く見かけたが、色々な種類の獣人が居て判別は難しそうだった。


「あっちかな?」


「そうみたいですね」


「受付いっぱいだねぇ」


 リティスの言う通り、ギルド本部の受付は8人も受付嬢が居て、それぞれに丁寧な対応をしている。


 俺はその内の1つに並び順番を待つ。


「今日は並んでばっかりだな」


「帝都は凄く人が多いですからね」


「……飽きた~」


 帝都に入るのにも並び、ここでも並んで、3回目がないことを祈ろう。


 そうして、やっと俺の順番が回って来た。


「いらっしゃいませ。本日は冒険者ギルド本部へ、どのような御用件でしょうか?」


「Aランクの昇格試験を受けに来た。これが推薦状で、こっちが登録票だ」


「はい、確認させて頂きます」


 俺の登録票で俺がBランクであることを確認した受付嬢は、続いて推薦状の入った封筒を開いて中の書類を読んでいく。


「まぁ」


 そうして黙って推薦状を読んでいた受付嬢なのだが、何故か途中で驚いたように俺の顔を見て来た。


「あのおっさん、余計なことを書いたみたいだな」


「そのようなことはございませんわ。おほほ」


 受付嬢は笑って誤魔化したが、全く誤魔化せていない。


 おほほって笑う奴、初めて見たわ!


「こちら確認させて頂きました。ご希望の試験日時はございますか?」


「そう聞いて来るってことは試験は個人で受けるのか」


「うふ。察しの良い方は好きですよ。ご推察の通り、試験は個人単位となっております。稀に希望者10人以上が集まった時は集団で試験を行うこともありますが、そういうことは10年に1度あるかどうかと聞いています」


「そらそうか。俺としては早めに試験を受けたいと思っている。1番早く受けられるのは?」


「それなら明日の午後からは如何でしょうか?」


「早いな」


「Aランクの昇格試験は重要ということもありますが、受ける人が少ないので予定は基本的にガラガラなんです」


「なるほど」


 まぁ、Bランクの時点で普通に驚かれることが多かったし、Aランクとなれば超希少ということなのだろう。


「それなら明日の午後で頼む。それと今日泊まる為の宿を紹介してくれ」


「それならギルド本部内に宿泊施設がありますので、本日はそちらにお泊り下さい。お連れ様も御一緒に泊まれる広さがありますから」


「広いとは思っていたが、ここって宿泊施設もあるのか」


「お客様のようにAランクの昇格試験を受けに遠くからいらっしゃる方もいますから、宿を紹介するよりも宿泊施設を作ってしまう方が合理的だったのです」


「至れり尽くせりだな」


「それではお部屋まで案内いたしますので、こちらの職員に付いて行ってください」


 いつの間に連絡していたのか、傍に職員が控えており、俺達を泊まる部屋まで案内してくれることになった。


 本当、流石はギルド本部だね。




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