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第8話 【パーティの連携を確認する為の戦闘】

 

 今日も俺達は馬車での旅を続けている。


「そういえば……」


 そんな時、ふと思った。


「エルフや獣人には会ったが、まだドワーフには会ったことがないな」


「あ~……」


「それは……」


 そう言ったらティーナとリティスが苦笑いしていた。


「確かドワーフはドワーフの国に住んでいるんだったか?」


「そうですね。鉱山の国ドルセルクです」


「ある意味、有名だよね」


 ティーナだけではなくリティスも知っているらしい。


「何処にあるんだ?」


「大陸の中央にある火山地帯です」


 ってことは、今の目的地である帝國よりも遠いな。


「街の道具屋さんに行くと、大抵1本くらいはドワーフ製の包丁が売ってるんだよ」


「エルフの里にもありました」


 そう言いつつ苦笑いが止まらない2人。


「偽物でしたけどね」


「そうそう。偽物がすっごく多いの」


「お、おう」


 どうやらドワーフが作ったという包丁が出回るのはよくある話らしいが、大半は偽物らしい。


「本物は凄い切れ味と耐久力を持つと言われていますが、1万本に1本の割合でしか本物は見つからないそうです」


「そうそう。残りの9999本は偽物なんだって」


「宝くじみたいだな」


 包丁の真贋など素人に見分けられるわけもなく、本当に買う時は本物であるように祈ることしか出来ない。


 とはいえ、それだけ偽物が出回るということは本物の性能はかなりのものだということだ。


「まぁ、その話の後に言うのもなんだが、俺が用意した包丁の方が高性能だけどな」


「あはは……」


「台無しだよ~」


 実際、魔女が用意した包丁は選抜した金属から加工技術、更には付与された魔法まで唯一無二と言えるレベルになっている。


 ドワーフの技術が凄いと言っても人類の限界を超える訳もなく、魔女の力には敵わないのだ。


「ひょっとしたら伝説的な能力を持ったドワーフが奇跡みたいな確率で作り上げた生涯の最高傑作なら……ギリギリで並べるかもな」


「これって、そんなに凄い包丁だったんだ」


 言いながら鞄から包丁を出したリティスはマジマジと見つめるが……。


「よく分からないや。よく切れる包丁だとは思っていたけど」


「見た目は普通の包丁だからな」


 まぁ、普通なのは見た目だけで性能は伝説の聖剣よりも上だけど。


 ただ、安全装置によって間違っても使い手を傷つけるようには出来ていない。


 基本的にはただの包丁だ。


「いずれドワーフの国にも行ってみるかね」


「エルフとは犬猿の仲と聞いていますから、私は姿を見せない方が良さそうです」


 灰色の髪のティーナはハーフエルフだと一目で分かりそうなものだが、そんなことをドワーフが考慮してくれるとは思えない。


 つまり、ティーナの提案は真っ当ではあるのだが……。


「却下だ。俺が行くところにティーナが同行するのは当然だし、それを邪魔する奴は誰であろうとぶっ飛ばす」


 俺にだって譲れないものくらいはある。


「御主人、格好良い~」


「はい。恰好良い……です」


 結果、2人は頬を染めて俺を称賛した。






「ところでドワーフって強いのか?」


 とは言え、俺はドワーフに会ったことがないので、どのくらい強いのか知らない。


「ドワーフは鍛冶を専門とする人達が多いので、とても筋肉質な種族だと聞いています。私も会ったことはありませんが、身体の頑丈さは鋼鉄並だとか」


「あ。私もそう聞いたかも。剣で攻撃されても傷1つ付かなかったって話なら聞いたよ」


「マジかぁ~」


 ぶっ飛ばすの大変そうだな。


 素手じゃなく木剣を使っても良いかな?


「それにドワーフの人って皆、火と土の属性を持っていて、防御力を強化する術が得意だと聞きました」


「お、おう」


 更に防御力が上がるのか。


 ぶっ飛ばす時は魔女に変身しても良いかな?




 ◇◇◇




 出発してから既に1ヵ月半が経過して、道のりの3分の2以上は踏破出来たと思う。


 もう直ぐ、この国の国境に辿り着くし、そこから帝國に入れば到着は直ぐだろう。


「と思っていたのに、ここでこれかぁ」


 俺達の前を防ぐように馬車の前に現れたのは――熊だった。


 しかも明らかに普通の熊よりも巨大な、魔物熊。


「リティスは前衛、ティーナは後衛、俺は遊撃で指揮を執る!」


「「はい!」」


 俺の指示によってリティスは前に出て、ティーナは後方で魔術の詠唱を開始する。


 俺は宣言通りに遊撃としての位置取りを確保して……。


「リティス、基本的には回避に専念! 攻撃がティーナに向かないようにだけ注意して引きつけろ!」


「わかった!」


 熊のパワーは今まで現れた奴らよりも数段上なので、リティスには回避を指示。


 リティスは熊の注意を自分に引き付けつつ、熊の攻撃の間合いに入らない位置でウロチョロして自分に注目を集めている。


「へいへい!」


 そうして手招きなどをしながら挑発も行う。


「おっと」


 苛立った熊から爪で攻撃されるが、間合いには入っていないので余裕を持って回避出来ている。


 まぁ、逆に言うと反撃の機会がないのだが……。


「リティス! ファイアボール!」


 攻撃は後衛であるティーナの役目。


 ティーナは魔術を発動する直前にリティスを呼んでから退避させてから魔術を撃つ。


「っ!」


 熊を目掛けて一直線に飛んでいく火球だが、リティスを退避させるのに一拍遅らせた影響か、熊は意外な反応速度で火球を避けて……。


「なん……のっ!」


 ティーナがそうはさせじと火球の軌道を変えて熊に直撃させた。


 うん。これが俺が無詠唱や詠唱破棄が嫌いな理由だ。


 完全に詠唱を行って完成した魔術というのは、魔術を放った後も制御が途切れないのだ。


 故に術者の意思で軌道を曲げることも出来るし、その気になればUターンして手元に引き寄せることも出来る。


 流石に今のティーナの技量ではUターンは難しいが、気合で少し曲げる程度の芸当なら可能だ。


 そうしてティーナの魔術は熊に直撃して……。


「グォォッ!」


「チャンス!」


 火球の直撃を受けて怯んだ今こそリティスの追撃の絶好の機会だ。


「足元から狙え!」


「了解!」


 俺の指示を受けてリティスは熊の足に強烈なローキックを叩きこむ。


「ッ!」


 ブーツに包まれた足から放たれる蹴りは熊であろうとも――効く。


「てい! てい! てぇい!」


 更にリティスは連続で熊の足をローキックで蹴り続ける。


「グォゥ!」


 そして、ついに熊の足が耐え切れなくなって、熊の体勢が崩れて頭が下がる。


「狙え!」


「はぁぁっ!」


 そこを逃さず、リティスは瞬時に熊の懐に入ると――見惚れるくらい綺麗なフォームからアッパーを繰り出して熊の顎を下から撃ち抜いた。


「グ……ォォゥ!」


 熊は呻き声を上げながら背中から地面に倒れて――動かなくなった。


「……仕留めた?」


 手応えは十分だっただろうが、リティスは警戒を緩めずに熊の間合いの外で待機する。


「ふむ」


 俺は結果が分かっていたが、リティスが警戒する中で熊に近付いて……。


「大丈夫だ。完全に死んでいる」


 勝利の報告を行った。


「やったぁ!」


「やりましたね」


 2人は喜んでいるが、ぶっちゃけて言えば、ティーナの火球で大ダメージを受けた上にリティスのナックルで殴れば熊程度で耐えきれる筈がないのだ。


 今回は2人の連携の為に俺は指示だけ出して2人だけで戦わせたが、多分リティス1人でも勝てた気がする。


 そのくらい、リティスは強くなっているのだから。


 勿論、ティーナも強くなっているのだが、流石に熊相手に1人では勝てないし、後衛であるティーナが前衛なしで戦う必要はない。


(もうちょいスムーズに中級魔術を使えるようになれば、後衛として1人前と言えるかな)


 火球を曲げてみせたのは及第点だが、1度使っただけで息が上がってしまうのは反省点だろう。


 これだと強敵相手に戦う際にリティスの足を引っ張ることになる。






 ティーナは自分の欠点が分かっていたのか、夜になると私の――魔女の授業を求めて来た。


「は~い。ここで魔力をロスしているわよ」


「ひゃぅっ!」


 駄目な部分を指で突いて指摘するとティーナは可愛い声を上げる。


「うぅ、お嬢様。変なところを触らないでください」


「ティーナは力み過ぎ。そんなだから魔力の制御をトチるのよ」


「むぅ」


 自分でも分かっているのか口をへの字に曲げるティーナ。


「そんな顔をしないの。リラックス、リラックス」


「はぅ」


 私が背後に回ってティーナの肩を揉むと途端に脱力する。


「魔術を使う際に重要なのは平常心を保つことよ」


「わ、分かっています」


「でも、そんなことを言われただけで平常心を保てるなら苦労はしないわ」


「…………」


「だから平常心が必要だと思った時には逆にギュ~って全身に力を込めてから、その後に力を抜くの。そうすると何故か脱力して良い感じになるわ」


「そ、そんな簡単なことで?」


「やってみなさい」


「は、はい!」


 ティーナは言われた通りに全身に力を込めて……。


「はふぅ」


 その後、気が抜けたように脱力した。


「あ。なんか、良い感じになりました」


「でしょ?」


 実際にはそんな単純な話ではないのだが、私の言うことは簡単に信じてしまうティーナだから暗示的な効果を自分で発揮させたのだ。


 うん。脱力効果があるのは本当だけど、リラックス効果があるのかは知らないのよ。


 でもティーナが効果があると思い込んだのなら、きっと効果があるだろう。


 こういうのが意外と大事だったりするのだ。




 ◇◇◇




 翌朝。


 再び馬車で出発したのだが……。


「えいっ。えいっ」


 何故かリティスが荷台に座ったままアッパーの練習を繰り返していた。


「何やってんの?」


「あ、うん。なんか昨日は凄く綺麗にアッパーが打てたんだけど、あの感じが再現出来ないんだ。だから再現出来るように練習」


「あ~」


 どうやら最後に熊にトドメを刺したアッパーはリティスにとっても会心の一撃だったらしい。


「見惚れるほどに綺麗なフォームだったからな」


「だよね!」


「……フォームからチェックしろよ」


「あ」


 座ったまま腕だけでアッパーを繰り出しても再現なんて出来る訳もなく、全体のフォームからチェックしなければ話にならない。


「流石、御主人!」


 指摘を受けたリティスは馬車の中で立ち上がって、全身のチェックをしながらアッパーの練習を始めた。


「幌まで壊すなよぉ~」


「は~い」


 一応、屋根代わりの幌まで壊さないように注意しておいたが、本気でアッパーをしたら確実に穴が空きそうだ。






「むぅ~ん! はふぅ」


 一方でティーナな脱力する為に全身に力を込めてから力を抜くという工程を繰り返していた。


「上手く行ってる?」


「あ、はい。凄くリラックス出来る気がします」


 まだ思い込みの暗示効果は効いているようで、ティーナは脱力した顔で返事を返す。


 効果がある内は黙っておくことにしよう。


 実際、リラックスした状態で魔術の詠唱を行うとスムーズに魔力の制御が行えているようだし、このまま慣れてしまえば脱力も不要になるだろう。


「はふぅ~。脱力した状態だと凄く詠唱しやす~い」


「…………」


 本当に大丈夫だろうか?






 2人が訓練で順調に強くなっていく最中、俺だけは停滞している状態だ。


(観察と分析に特化している以上、参考になる奴がいないと成長が望めないのが俺の弱点だな)


 強い奴の戦いを観戦するだけでも強くなれるが、なんでもかんでも無節操に取り込んでいくわけではなく、俺の必要と思える部分だけを選んで選定し、最適化した上で取り込んでいる。


 だから今の俺にとって足りないものというのは思い当たらないし、更なる強者と戦う際に苦戦した時に必要な物を取り込んでいくという形になる。


 俺にとって強者を観察して分析することはパーツを増やす作業であり、そのパーツを取り込むにも色々と最適化が必要なので、選別には気を使う。


 そして今の俺に必要な物と言えば……。


(遅延魔術、かな?)


 無詠唱や詠唱破棄は嫌いだが、どうしても詠唱をしている暇がない場合も存在する。


 戦術的には撤退しなければならない状況だが、今の俺には守らなければならない者が2人も居る。


 そういう時に必要になるのが、事前に詠唱を済ませて発動を遅延させて待機させておくという技術だ。


 具体的に言うと、朝起きた時に詠唱を済ませておき、必要な時に魔術を解放することが出来るようにするということだ。


 完成した魔術を発動待機状態にしたまま1日を過ごすということになるわけだが、まさに俺が必要としているのは、そういう技術だ。


 未完成の魔術を無詠唱や詠唱破棄で発動させるなど美学に反するが、完成した魔術をいつでも発動出来るように待機させておくというのは非常に俺好みだ。


 問題は、その発動待機状態を維持する為には相当慣れが必要だということだろう。


(練習が必要だな)


 流石に、これは一朝一夕で出来る気がしない。




 ◇◇◇




 更に数日が経過して、国境までの道沿いで最後の大きな街に到着した。


 この街を超えれば国境まで数日の距離だ。


「というわけで、もう直ぐ国境なのだが、その前に重要な話がある」


「「?」」


 俺の言葉に困惑する2人。


「ぶっちゃけ、金がない!」


「「…………」」


 言い訳になるが、3人で1ヵ月以上も旅をすれば色々と出費が重なって、予想以上に予算の減りが早かったのだ。


 リティスって意外に食べるし。


「…………」


 そのお陰かどうか分からないが、リティスはBカップからCカップに成長したのだから文句はないけど。


 毎晩のように揉んでいた成果かもしれないが。


「……御主人のエッチな視線を感じる」


 定期的にメイド服を更新していることもお金が減っていく理由の1つだ。


「~♪」


 勿論、リティスだけでなく、自慢げにおっぱいを俺に強調してくるティーナのメイド服も短いスパンで更新している。


 既にFカップのティーナさんだが、成長は止まっておらず――Gカップが見えて来た。


 もう爆乳という単語でも間違いではないのではないかというレベルになっている。


「ふぅ~♪ 大きいと重くて大変なんですよぉ?」


「……姉さまが面倒な女みたいなこと言ってる」


 爆乳を揺らすティーナから自分のCカップを守りながらリティスが苦言を呈する。


「そんなふうに聞こえたならごめんね♪」


「くっ!」


 だがティーナの余裕は崩れないし、リティスの方が悔しそうに唇を噛みしめる。


「御主人! 私ももっと大きくなりたい!」


「うんうん。大丈夫だぞ。リティスには爆乳の遺伝子が受け継がれているから、よく食べてよく運動すれば直ぐに大きくなるさ」


「うん!」


「…………」


 益々食費が嵩みそうなことを言ってしまった。


「ともあれ、次の街で金を稼ぐぞ」


「「はい!」」


「…………」


 本当は自宅に転移魔術で帰ってからおっさんに仕事の依頼がないか聞いた方が確実に稼げると思うのだが、こういう知らない街で仕事をするのも経験だろう。


 とは言ってもティーナはEランクだし、リティスに至ってはGランクだ。


 基本的には俺がメインで依頼を受けて、2人には手伝ってもらうのが良さそうだ。




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