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第7話 【野生のエルフが現れた。エルフは●●●だった】

 

 国境を超えて以降、盗賊からの襲撃の頻度は激減した。


 代わりに盗賊ではなく魔物から襲われる頻度が増えたのだが、これは何処の国に行っても共通のようだ。


「御主人~。キック用の装備ってないの?」


 リティスは体格の違う魔物相手に苦戦したことが納得いかないようだ。


「女のブーツは十分に凶器だと思うがな」


 リティスの履いているブーツは頑丈に作ってあるし、これで蹴られたら下手をすれば骨が砕ける。


「うぅ~ん。そういうことじゃなくて……」


 リティスは言葉を探すように考え込む。


「要するに、蹴る時にパンツが見えそうになるのが嫌ってことですよね?」


「そう、それ!」


 ティーナに代弁してもらってリティスは頷く。


「そう言われても、そのメイド服は特別製だからな。代わりなんて用意してないぞ」


「そもそも、なんでメイド服なの?」


「……俺の趣味だ」


 俺が侍らせる美少女には可愛いメイド服を着てもらいたい。


 ただ、それだけなのだ。


「メイドって普通は使用人のことじゃないの?」


「美少女に可愛いメイド服を着せたら超可愛いに決まっているだろ」


「……それはそうでしょ」


 俺が言っているのは《1+1=2》だと言っているようなもので、流石のリティスにも分かりやすかったようだ。


「旦那様が仰っているのは組み合わせの問題で、旦那様はそういう組み合わせが好きだと仰っているのです」


「なるほど!」


 更にティーナから詳しく解説されてリティスは大いに納得した。


「つまり、御主人はメイドが好きってことだね!」


「違う。俺は可愛いメイドさんが好きなのだ」


「恐縮です♪」


「えへ♪」


 暗にティーナとリティスは可愛いと言ったようなもので、2人は笑顔を見せていた。






 そうして昼まで馬車を走らせると、視線の先に小さな町が見えて来る。


「町……っていうか村か?」


「地図によると一応は町という分類のようです」


 町と村の差は住んでいる住人の数のようで、住人が500人以下なら村で、500人以上だと町になるらしい。


 街に関しては条件が複雑で、主要な施設があることに加えて1万人以上の住人が居ることが条件だとか。


「……500人以上が住んでいるようには見えんな」


「きっとギリギリ500人を超えて町になったのでしょう」


「町だとなんかいいことあるの?」


「国から配布される支給金の額が増えるそうです」


 ティーナがこういうことを知っているのは、俺のところに来て以降、色々と勉強していたからだ。


 特に薬師ギルドに住んでいた頃に俺の同僚から色々な本を借りて読んでいたことが大きい――のだと思う。


「……町になってから500人以下になっても報告はしなさそうだな」


「そういう町もあるそうです」


 何処にでも小狡い奴はいるものだ。


 そんなことを考えながら町(仮)に入った。


「なんとなく町に入ってしまったが、ここに泊まる必要はないし、昼食だけ食べて先に進むか」


「そうですね」


「賛成」


 そうして町に一軒だけあるという食堂に入ったのだが……。


「昼時なのにガラガラだなぁ」


「外からお客さんが来ていないようですね」


 食事時だというのに殆ど客が入っておらず、ポツンと1人が奥に座っているだけだった。


 まぁ、その1人はフードを深く被って顔を隠しているので凄く怪しい客にしか見えないが。


 俺は、その客を一瞥しただけで直ぐに視線を逸らしたのだが、その客の方は俺達の方を見るやガタンっと椅子を倒す勢いで立ち上がり、ツカツカと俺――というかティーナに向かって詰め寄って来た。


「どうして混じり者がこんなところにいる!」


「え? え?」


 当然ティーナは混乱することしか出来なかったわけだが……。


「ていっ」


「げはっ!」


 唐突にティーナに怒鳴り散らした奴を俺が放置するわけもなく、とりあえず横から蹴飛ばして床に転がしておいた。


「なんだ、こいつ。よぇ~」


 ちょっと蹴っただけなのに大げさに転んだので思わず呟いてしまった。


「き、貴様ぁっ! 私を誰だと思っている!」


「いや、知らねぇよ。そう言うなら顔を見せろ」


 未だにフードで顔を隠しているのに何を言っているのか。


「あ、旦那様。この人は恐らく……」


 その俺にティーナが何かを言いかけたが、その前に目の前の奴が激高してフードを脱ぎ捨てる姿が映る。


 フードの下から現れたのはハチミツ色の髪と長い耳だった。


「エルフ?」


 そう理解するのと同時にティーナが何を言いかけたのかを理解する。


 そう言えば混じり者とか言っていたし、そういうことを言うのはエルフしかいない訳か。


「私は誇り高きエルフ族だ! その私の前に混ざり者を持って来るとは、どういう了見だ!」


「こいつって男? それとも女?」


 俺は目の前のエルフを無視してティーナに聞いてみる。


 なんか顔も中性的だし、体付きも細いので性別が分からなかったんだよね。


「えっと。多分、男性……かな?」


 答えるティーナも自信がなさそうだった。


「ふむ。胸もペッタンコだし、男なのか?」


「我らは、そこの混ざり者のように無駄な脂肪が付いたりはしないだけだ!」


「うるさ」


 エルフが目の前に居るのにいちいち叫ぶので耳がおかしくなりそうだ。


「貴様のような気味の悪い化け物は私がこの世から消し去ってくれるわ!」


 だが唐突に宣言すると、奇妙な動作で踊り始め、そうして掌に奇妙なエネルギーが集まっていき……。




 ダンッ!




「ぐぁっ!」


 その最中にティーナが銃撃して弾丸がエルフの肩を貫き、奇妙なエネルギーは霧散した。


「今のが自然力を使ったエルフの術か?」


「……恐らくは」


 ティーナも良く知らなかったようだが、どうやら攻撃されると察して咄嗟に撃ったようだ。


「き、貴様ぁっ! この私に! 純血の高貴な私に! 混ざり者如きが傷を付けて許されると思っているのか!」


「知るか」


「ぎゃぁっ!」


 騒ぐエルフの撃たれた肩を蹴ると、悲鳴を上げて床を転げ回った。


「おいおい。誇りとやらがあるなら無様な悲鳴なんて上げていないで根性で立ち上がれよ。そうやって床の上を這い蹲っていると虫みたいだぞ」


「ぐぐぐぅ……!」


 エルフは悔しそうに歯を食いしばっていたが、本当に激痛に耐えているのか立ち上がる気配は見せない。


「口だけか。なんというか情けないな」


「格好悪いね」


 俺が呆れて肩を竦めると、リティスが追従した。


「お客さん、騒ぎは困りますよぉ」


「ああ、悪い。こいつが急に絡んで来たんだ」


 俺達は騒ぎに気付いた店員に注意されたが、店員も倒れたエルフを一瞥しただけで直ぐに店の奥へと戻っていった。


「食事って気分でもなくなったし、先を急ぐか」


「そうですね。食料ならありますから馬車の中で食べましょう」


 そうして俺達は這いつくばるエルフを放置して店を出た。






 それから馬車に乗って町を出た俺達は適当にパンを齧っていたのだが……。


「初めて見たが、エルフってあんな感じなのか?」


「あそこまで傲慢なのは私も初めて見ましたけど、自尊心が高い人が多いのは事実ですね」


 どうやらティーナから見ても、あれは普通ではないエルフだったらしい。


「というか、なんであんなところにいたんだ?」


「さぁ?」


 流石にこれはティーナにも分からなかったらしい。


「格好から考えたら極秘で行動している感じだったけど、どうしてあそこにいたのかはサッパリだな」


 どう見ても自分がエルフだということを隠していることは一目瞭然だった。


 まぁ、ティーナを見た瞬間に激高して正体を見せていたので、そんなに重要な任務でもなかったのかもしれないが。


「エルフは基本的に自分がエルフであることに誇りを持っているのでエルフであることを隠したりしないのですが、それを曲げて隠していたということは重要な仕事の最中だったのかもしれません」


「いや、あっさり正体を見せてたじゃん」


 重要な任務だって言うなら、何してんの。


「きっと人間相手に正体を隠すことは出来ても、私を相手に正体を隠すことはプライドが許さなかったのだと思います」


「えぇ~。エルフから見てハーフエルフは人間より下って思っているわけ?」


「……恐らくは」


「差別的だなぁ」


 ティーナはこんなに可愛いのに。


 この世界で俺が敵対する種族は基本的に人間だけだと思っていたが、あの調子ではエルフと敵対することもありえそう。


「後でちょっと調べてみるか」


「あのエルフをですか?」


「ああ」


 さっきの町で会ったのは偶然だが、何処から来て、何をしていたのかくらいは調べておくべきだろう。






 その夜。


 転移魔術で自宅に帰った後は、ティーナとリティスを置いて、私は1人で転移を使って町へと潜入した。


(あのエルフは……あっちか)


 世界力を認識出来る魔女は世界力を介して追跡は容易だし、残滓を辿って過去の出来事を調査することも出来る。


 そうして私はエルフの許へ向かったのだけれど……。


(集会?)


 私はとある家の地下室に潜入。


 そこに居たのは昼間に見たエルフだけではなく、5人ものエルフが集まっていた。


「愚かなことをしたな。町でエルフを見かけたと噂になっていたぞ。もう、この町を集合場所にすることは出来なくなった」


「だが、混ざり者が居たのだぞ! 混ざり者の前でコソコソと身を隠す姿などを見せられるか!」


「混ざり者を相手に見栄を張ってどうする」


「人間から身を隠すだけでも業腹だというのに、混ざり者相手に見下されるかと思うと我慢など出来るか!」


 昼間のエルフは相変わらずのようで、残りの4人のエルフは呆れている。


「その混ざり者相手に不覚を取ったそうではないか」


「くっ。私は負けてなどいない!」


 叫びつつ、昼間にティーナに撃たれた肩を無意識に押さえる。


「どういう攻撃を受けたのかは知らんが、お前の肩には鉛の塊が埋まっていた。それを高速で飛ばす術を使われたのかもしれんな」


「混ざり者が術など使える訳がないだろうが!」


 ハーフエルフは自然力と魔力の混じり合ったエネルギーを持つので、それを制御することが困難であることを知っているらしい。


 まぁ、魔女の享受を受けたティーナはもう魔術を使えるのだけど、それをこいつらに教えてやる義理はない。


「そんなことより計画はどうなっている? もう長老連中の顔色を伺う生活はまっぴらだぞ!」


「分かっている。だが協力者が集まらない。エルフは基本的に日和見の性格の奴が多い。長老連中に不満があっても我慢しようという意見の方が多い」


「ちっ。腰抜け共が」


 こんな地下で何をしているのかと思ったら、どうやらクーデターを画策しているらしい。


(態々、人間の町に集まる理由があるのかしら?)


 この付近にエルフの集落があるわけでもないし、この町に集合する理由とはなんなのだろう?


(ふむ)


 そういえば長老連中と言っていたし、複数のエルフの集落の中心地点に近いのかもしれない。


 だとしても適当な森の中に集まれば良いし、人間の町を集合場所にしなければならない理由にはならないと思うけど。


 そう疑問に思って5人のエルフを観察していたのだけど、このエルフ達は全員が荷物を持っていることに気付く。


(中身は……香辛料?)


 透視で覗いたら中身は大量の香辛料だった。


 それに気付いた時、なんとなく事情を察した。


 こいつら、集落から代表で人間の町に買い出しに来た者達なのだ。


 食料は自前で何とか出来ても、香辛料を安定して手に入れることは難しい。


 そこで人間の町に買い出しに行くメンバーとなって、この町で買い物ついでにクーデターの集会を開いていた訳か。


(しょ~もな)


 クーデターを画策している奴らなので危ない奴らかと思っていたが、単純に厨二病的な思考で普段の愚痴を言っているだけの奴らだった。


 実際、話し合いの途中で酒を飲み始め、どんどん長老とやらへの愚痴が加速していく。


(無駄にプライドが高いだけの下っ端エルフだったか)


 口では大きなことを言っているが、仲間と計画を立てて愚痴を言い合っているだけで満足している三下達だ。


 こいつらが行動を起こすとしても、きっと100年後とかになるだろう。


(……帰ろ)


 私が介入する必要なしと判断して、私は自宅に転移することにした。




 ◇◇◇




 翌日、俺達は馬車の旅を再開する。


「それでは、昨日のエルフはただの買い出し要員だったのですか?」


「そのようだな」


「あんなに偉そうだったのに?」


「そういうお年頃だったんだろ」


 俺が今になってエルフの話をしているのは、あの後帰ったら普通に男に偽装して――直ぐに3人でベッドインしたからだ。


 3人でするの楽しかったです。


「そう言えば私が居た里でも定期的に買い出しに行く人が居ました。私は関係なかったので気にしていなかったのですが、あれは香辛料を買いに行っていたのですね」


「香辛料は育つ地域が限定されるし、育てるのも大変だからな。自前で用意するよりも買った方が楽なんだろ」


 エルフなら少数なので使う量もそんなに多くないだろうし。


「普段はあんなに人間を見下しているのに、こういう時は人間に頼るのですね」


 ティーナはエルフの行動に呆れていた。


「まぁ、プライドじゃ腹は膨れないからな」


 どんなに偉そうにしていても腹は減るし、どうせなら美味いものを食いたいと思うのが本能だ。


「俺としては本格的にエルフと争うことにならなくてホッとしたけど」


 昨日の一件は一部のエルフがイキっていただけだと判明したし、ティーナの話でもあそこまでアレなのは稀だと言っていた。


「私は……エルフと仲良く出来そうもありませんけど」


「別に敵対しないってだけで十分だろ。エルフはお仕置き対象になっていないから敵対すると面倒だと思っていただけだし」


「そうですね」


 俺がエルフと仲良くする必要はないと言うとティーナはホッとして笑顔を見せていた。




 ◇◇◇




 人間が使う魔術には明確なランクが存在する。


 初心者が最初に学ぶ初級魔術。初心者を脱した者が学ぶ下級魔術。中級者と認められる者が使う中級魔術。上級者にしか使えないと言われる上級魔術。そして一部の天才と言われる者にしか使えないと言われる覇級魔術だ。


 現在のティーナが学んでいるのは中級魔術と言われる領域だ。


「~♪」


 ティーナは歌うように詠唱し、踊るように振り付けで詠唱を補助して――1つの魔術を完成させる。


「ウォーターボール!」


 ティーナの手に水の球体が集まっていき、それを指定の的へと撃ち出した。


 的に命中した水球は的を粉砕した後に周囲に飛び散って――周囲を水浸しにした。


「流石、中級魔術はそれなりに威力があるな~」


「当たったら痛そう」


 俺とリティスが感想を漏らすが……。


「ふぅ。ふぅ。ふぅ」


 肝心のティーナは魔術の制御が大変だったのか息を切らせていた。


 ティーナが使ったのは水属性のボール系と言われる魔術であり、これが中級魔術と言われるものの中で代表的な魔術となる。


 ちなみに火属性のファイアボールが特に有名だが、それも中級魔術になる。


「ふぅ~。魔力にはまだまだ余力がありますけど、やっぱり制御が大変です」


「だろうな」


 ティーナは便宜上、魔力と呼んでいるが実際には自然力と魔力の混ざった混合エネルギーなので制御が大変なのだ。


 魔女の指導がなければティーナは魔術を使うことさえ出来なかっただろう。


「でも、やっと中級魔術を発動させることが出来ましたし、頑張れば上級魔術も行けそうです」


「まだまだ時間が掛かるし、ゆっくりでいいぞ~」


 ぶっちゃけ、上級魔術って殆ど使わないし、無理に使えるようになる必要はあんまりない。


 うん。詠唱も長いし、魔力の消費も大きいし、破壊力が高過ぎてオーバーキルになるので使う機会がないのだ。


 覇級魔術になると国に使い手が1人いれば良いというレベルの魔術だから、それこそ伝説級の魔物でも襲って来ない限りは出番がない。


 一説には伝説のドラゴンさえも覇級魔術1発で倒したという言い伝えが残っていると言われているが……。


(眉唾~)


 俺は信じていない。


 ドラゴンと言えば魔女でさえ苦戦するレベルの相手であり、それを人間の使える魔術程度で撃退出来る訳がない。


 それくらい、ドラゴンというのは脅威的な相手なのだ。


 ぶっちゃけ、神に近い力を持っていると言っても過言ではない。


(まぁ、ドラゴンにもランクがあるから最下級のドラゴンだったら人間の魔術でもギリギリ倒せないこともない……かな?)


 少なくとも魔女の時にアカシックレコードにアクセスして知ったドラゴンは、とても人間が太刀打ち出来る相手ではなかった。




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