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第6話 【いつかどこかの誰かさんの復讐者】

 

 最後に少し騒動はあったが俺達は無事に国境まで辿り着けた。


 そうして出国審査を受けることになったのだが……。


「どうぞぉ~」


「「「…………」」」


 入国だけでなく、出国に関しても適当だった。


「この国、もう駄目なんじゃないかな?」


「同感です」


「……複雑」


 生まれ育った国だけにリティスは複雑そうな顔をしていたが、擁護出来る要素がないのか反論はして来なかった。


(次の国は真面でありますように)


 俺は内心でそんなことを祈りながら、続いて入国審査を受けたのだが……。


「よく隣の国を抜けて来られたなぁ。あの国は今や商人も避けているから、もう誰も入ろうとしないんだよ」


「……凄く実感したわ」


 普通に同情された。


「それで、入国の理由は?」


「Aランクの昇格試験を受けに行く途中だ」


 俺は登録票を提示しながら答える。


「Bランクなんだ。それは凄いね。道理でお隣を抜けて来られるわけだね」


「通り抜けるだけで3桁近い盗賊に襲われたわ」


「それはご愁傷様」


 本当に厄介な国だったわ。


「昇格試験、頑張ってね」


「あざ~す」


 そうして簡単な審査だけで俺達は入国を許可されて次の国へと入ったのだった。






 それから馬車を走らせ続けること数時間。


「平和だ」


「盗賊が襲って来ないだけで凄く平和に見えますね」


「……退屈だよ」


 約1名を除いて俺達は平和な環境を満喫していた。


 馬車を走らせているだけで盗賊が襲って来ない環境は素晴らしい。


 ちなみにリティスは戦闘狂という訳ではないらしい。


 以前、リティスに戦う理由を聞いてみたのだが……。


『狩りは家族を養う為にするものだよ』


 真顔でそんなことを言われた。


 リティスにとって戦いとはイコール狩りであって、狩りは家族を養う為にするものだと認識しているようだ。


(流石、野生の本能が強い獣人は違うね)


 狩りはあくまで食料を得る為の手段であって、無駄に獲物を狩るのは愚か者の所業という訳だ。


 俺と一線を越えて以降、リティスの野生の力が増している気がするが、気のせいということにしておこう。






 ノンビリとした馬車の旅が続く。


「確か、この国を抜ければ例のギルド本部があるという帝國があるんだよな?」


「地図を見る限りはそうなっていますね」


「長い旅になったな」


「流石に慣れましたね」


 もう1ヶ月以上も旅をしているわけだし、流石に慣れて来たわ。


「夜には自宅に帰っているけどね」


「それは前の国の治安が悪いせいだ。俺のせいじゃない」


 俺には転移魔術という便利な手札があるのだから、夜に野営して盗賊に襲われる危険は避けられるなら避けるべきだ。


「私は夜目が利くから夜でも戦える気がするけど」


「寝ている最中に叩き起こされるなんて御免だよ」


「あ、そっか。そうだね。邪魔されたくないもんね」


「…………」


 うん。夜中にティーナとリティスを相手にチョメチョメしている最中に邪魔が入ったら腹が立つじゃん。


 2人を同時に相手にする3Pにも慣れて来たし、楽しい夜を邪魔されたくない。


「…………」


 ちなみに夢中になると声を我慢出来ない残りの1人はノーコメントを貫いていた。


「姉さまは声がおっきくて凄くエッチだもんね」


「…………」


 もう1人のせいで台無しだったけど。






 また手紙が来た。


 国境を抜けて馬車を走らせていたら商人と思わしき馬車とすれ違って、その商人から手紙を渡されたのだ。


 読んでみると、どうやら順調に勇者召喚の儀式の準備は進んでいるようで、召還されるのは時間の問題らしい。


「俺がAランクになるのとどっちが早いかねぇ」


 恐らく俺がAランクになるのと同時期に召喚されると思われる。


「勇者ってどんな奴だと思う?」


「えっと……聖剣を持っているとか?」


「凄く強そう!」


「だな。そんな感じだな」


 勇者のイメージは2人が言う通りのものだ。


 実際には召喚されるまでどんなのが喚ばれるかは分からない。


 分かっているのは俺というラスボスを倒す為に呼ばれる主人公様ということくらいだ。


(ラスボスだからって座して待っているとは限らないけどな)


 手下の魔女からの連絡で召喚される時期は把握出来ているし、召還された直後にラスボスが挨拶に行っても構わないよな?


 まぁ、相手によっては即座にバトルになるけど。


(可能性としては出会って5秒でバトルもありだな)


 召喚されたばかりの勇者に魔女を相手に戦える力があれば、の話だが。


「御主人は勇者と戦う気なの?」


「俺を討伐する為に召喚されるみたいだしな。俺にその気がなくても向こうが襲って来るさ」


 まだまだ星のエネルギーは不足しているし、俺の役目もまだまだ残っているのだが、人類から見れば俺は悪い魔女様だからな。


「その時は私が御主人を守るね!」


「わ、私も旦那様を守ります!」


「おう。頼りにしている」


 不覚にもちょっと感動した。


 人類はどうでもいいけど、この2人だけは何があっても守ろうと思えた。


(となると、やっぱり勇者は瞬殺だな)


 勇者君には出オチで退場してもらうとしよう。






「しかし、本当に何も起こらないな」


「逆に不安になって来ますね」


「……退屈」


 本当に何も起こらないまま馬車が進んでいく状況に、どうにも安心出来ない自分が居る。


 普通に考えれば、これが当たり前なのだが――嵐の前の静けさという言葉が頭を過る。


「なんだか悪いことが起きそうな予感がします」


 それはティーナも同感なのか、不安そうに身じろぎしている。


 今日は猪退治をしたり、国境を超える審査を受けたりで、もう昼を過ぎて時計があれば午後4時~5時くらいの時間だ。


 あと少しで日が落ちるということでもある。


「不思議と、こういう時の予感は外れないんだよな」


「私もです」


「……私も」


 神様お願い、みたいな願掛けは絶対に当たらないのに、こういう時の悪い予感だけは無駄に的中率が高いんだ。


 そうしていよいよ日が落ちて、周囲が暗くなり始めると――馬車の前方に黒い人影が見えて来る。


「……暗殺者か」


 刺客を送り込まれる覚えは、あんまりないんだけどな。


「……降りて迎え撃つぞ」


 早々に転移魔術で逃げるという手もあるが、こういう手合いはストーカー並にしつこい。


 延々と追いかけっこをするよりは、ここでケリをつけてしまった方が良い。


 俺達は3人で馬車を降りると、黒い人影を待ち受ける。


 そうして近付いて来た人影は、やはりどう見ても黒ずくめの暗殺者だった。


「一応、聞くだけ聞いてやるが、何か用か?」


 答えが返って来るとは思っていなかったのだが……。


「Sランク冒険者のロマーニオを探している」


 そいつは目的を語り出した。


「あのおっさんは魔女の森に入って行方不明だろ」


「それは知っている」


 本当は俺が封魂結界に閉じ込めて絶賛星の回復要因になってもらっているけど。


「それなら魔女の森に行けよ」


「……ロマーニオの最後の報告には貴様にAランク上位の実力があるので便宜を図って欲しいということが書かれていた」


「だから?」


「俺は実際に魔女の森へ向かい、ロマーニオを発見した」


「…………」


 こいつ、あの状態のSランクを見つけたのか。


「奇妙な結界の中に閉じ込められていたロマーニオは悶絶するほどに苦しんでいたが正気を失ってはいなかった」


 そりゃ、そういう結界だからね。


「俺はロマーニオを助け出そうとしたが、出来なかった」


 そらそうだ。魔女の構築した結界を人間に破れる訳がない。


「だが時間を掛けて少しだけ意思疎通が出来た。結界に遮られて言葉は届かなかったが、何とか筆談で情報のやり取りが出来た」


「マジかぁ~」


 封魂結界に囚われたまま外と意思疎通が出来るなんて、流石はSランクだと言わざるを得ない。


 ぶっちゃけ、海底5000メートルに死ねない状態で放置されるよりもきつい状況の筈だが、それでも目の前の男に情報を伝えたらしい。


「ロマーニオが俺に伝えた情報は1つだけだ」


 そう言って男は殺気を撒き散らしながら俺を睨みつけて言った。




「正体を現せ! 悪辣の魔女め!」




「はぁ」


 それを聞いて思わず嘆息してしまった。


 別にこんな奴を相手に正体を明かす必要性は全く感じないが、言い返す為には今の姿では説得力がない。


 俺は仕方なく詠唱してアイテムボックスを開き、中から愛用の黒いローブを引っ張り出す。


 そしてクルリと一回転しながらローブを纏い俺は――私へと変わる。


 更にアイテムボックスから黒い三角帽子を取り出して被った。




「私は《安穏の魔女》ケイリーン様です。そこを間違えないように」




 私は右手の人差し指を立てて、メッと目の前の男を叱る。


 同時に世界力による広域探査を実行してみるが……。


「本当に1人で来たのですか? 魔女を相手に無謀過ぎるでしょう」


「黙れ! 貴様を殺してロマーニオを解放するのは俺の役目だ!」


「……ホモ?」


 こいつがSランクとどういう関係なのかは知らないが、どうやら特別な感情を抱いていたらしい。


 更に魔法を使って痕跡を辿ってみたが、マジでこいつは魔女の森から出た後は仲間――というか冒険者ギルドという組織に接触することなく私を延々と探していたらしい。


「執念だけは認めますけどねぇ。でも愚かとしか言いようがないですね」


「黙れ!」


 男は呆れる私を黙らせて、両手を懐に入れて何かを取り出した。


 それは紫色の水晶のようなもので……。


「《魔女封じ》? それも2つも。よく手に入ったわね。高かったでしょうに」


「貴様を殺す為ならば、このくらいは安いものだ!」


 確かに《魔女封じ》は1つよりも2つの方が強力になるし、効果は単純に2倍になる。


「くらえ!」


 そうして男は両手の《魔女封じ》を同時に私に向けて発動させた。


 私の足元から通常の倍の紫色の鎖が飛び出してきて――あっさりと弾かれる。


「なっ……!」


「あのSランクから聞いていなかったの? あの魔女は《魔女封じ殺し》を持っているから気を付けろって」


「なん……だと」


 まぁ、封魂結界に囚われたまま私の情報を伝えただけでも大金星だが、私に《魔女封じ》が通用しないということまでは伝えられなかったのだろう。


「さて。もうお仕舞いみたいですけど、特別サービスにあのSランクと同じ結界に閉じ込めてあげましょう」


「っ!」


 目の前の男はハッとして踵を返して逃げようとしたが、私が指をパチンと鳴らす方が遥かに早かった。


 防音結界のお陰で悲鳴は外に漏れず、結界の中では壮絶な苦痛を味わう男の顔が見えている。


「このままだと夢に出そうだし、中を見れなくしておきましょう」


 そうして再び指をパチンと鳴らして中身が見えないように細工しておいた。


 これで、この封魂結界は唐突に出現した意味不明な球体となった。


 誰にも姿を認識されないまま100年後までここに放置である。


 それを確認して、私は再び男に偽装して……。


「さて。今日のところは帰るか」


 ポカンと呆けていた2人を誘って転移魔術で自宅へと帰ることにした。






 自宅に帰ってから色々と聞かれた。


「旦那様って本当に人間には容赦がないんですね」


「だって星からエネルギーを吸い上げて美味しい蜜を吸っていたのはあいつらなんだから、責任くらいは取ってもらわないと」


 封魂結界は人間の魂からエネルギーを奪って星に還元することが目的だが、罰の意味合いも持っている。


 星からエネルギーを吸い上げるという所業は、そのくらい罪深いことなのだ。


 他の奴は許しても魔女である俺は絶対に許さない。


「正直、世界中の人間に責任を取らせようかとも思ったが、それは先生に止められた」


 あの人、普段は駄目魔女なのに、こういう時は常識人ぶるんだから。


「あの……御主人。その中には獣人も含まれてるの?」


「含まれてないぞ。対象はあくまで星からエネルギーを吸い上げていた人間だけだ。だから獣人は勿論だがエルフもハーフエルフも含まれていない」


「そ、そうなんだ」


 リティスはホッと息を吐いている。


「まぁ、根本の原因を作った奴には絶賛お仕置き中だがな」


 異界の神からはまだまだエネルギーを搾り取る予定だ。




 ◇◇◇




 翌日。


 俺達は転移魔術で例の暗殺者の入っている球体の傍まで戻って来て、そこから再出発した。


「中は見えないですけど、気味が悪く感じますね」


「そうな。見えなくしたら逆に不気味か」


 実際に見えなくても中身を想像してしまって不気味さがアップしている。


 とは言っても、どうにかするアイディアはないので今は放置である。






「しかし、あいつは何がしたかったんだろうな?」


 昨日の暗殺者が俺のことを冒険者ギルドに報告していれば、俺は多少なりとも対処に手間が掛かった筈だ。


 魔女の力を使って俺の正体を知った奴から記憶を消すか、存在ごと消してしまうという工程が必要だった。


 それなのに自分1人で俺を何とかしようと向かって来たのだ。


「何か譲れないものがあったんじゃない?」


 答えを示したのは意外にもリティスだった。


「なんとなくだけどね」


「……なるほど」


 そういやホモかと思うほどにSランクに拘りを見せていたし、自分の力でSランクを助けようと思っていたのかね?


 まぁ、俺を殺したとしても世界力の供給を断たないと封魂結界は解除されないので意味はなかったけどね。


 封魂結界が解除されるのは中に入っている人間の魂からエネルギーが尽きるか、もしくは世界から世界力が消えた時だ。


 まぁ、俺が俺の意思で解除するというのも1つの手だが、俺が自分で解除するなんてことは俺でも想像出来ない。


 未だに世界中の人間に責任を取らせるべきだと割と本気で思っているし。






 そうして昼まで馬車を進めたわけだが、チラホラと魔物が姿を見せるようになった。


「なんか見張られて居たっぽいな」


「そのようですね」


 どうやったのかは知らないが、俺達が魔物や盗賊に襲われないように見張っていなければ、何時間も魔物に遭遇しないなんて環境にはならない筈だ。


「結界、でしょうか?」


「そういうのって自力で張らない魔法道具なら相当高いんじゃないか?」


 以前Bランク5人組に地雷系の魔法道具を使われたが、後で調べてみたら馬鹿みたいな値段がするのだと知った。


 ぶっちゃけ、家が一軒新築で買えるようなお値段だ。


 殆ど値は下がらないので保険として持っておくだけなら良いが、使った瞬間に大赤字決定である。


 そういうのを、あの暗殺者は何個も持っていたことになる。


「まさに執念だな」


 目的を達成する為に金に糸目を付けずに準備したのだろう。


 というか《魔女封じ》っていくら出せば買えるんだ?


 前に国家でも4つしか買えなかったとか聞いた気がするが、どうやって手に入れたのだろう?


(ひょっとすると散財したんじゃなくて盗んだのか?)


 どう考えても個人の貯金でどうにかなる額じゃない。


(まぁ、どうでも良いか)


 俺が考えたところでどうにもならないし、考えるだけ無駄だ。






 当たり前だがゴブリンはリティスよりも身長が低い。


 そうなると拳で攻撃する際には下方向に向けて攻撃する必要があるわけで……。


「あ~! 面倒臭い!」


 とても面倒臭い。


 同じくらいの体格の相手なら対人用の格闘術も通用するのだが、体格の違う魔物相手では勝手が違うようでリティスは苦戦を強いられた。


「えい! キ~ック!」


 面倒になったリティスはゴブリンを蹴り始めたのだが……。


「蹴りを連発するとパンツが見えるぞ」


「ひゃっ!」


 メイド服はロングスカートとはいえ、あんまり蹴りを使うと捲れ上がるのは当然の話だ。


 リティスは慌ててスカートを抑えたが、正面に居たゴブリンは既に蹴り殺されているので真偽を確かめる術はない。


「うぅ~。エッチ」


 リティスはゴブリンに文句を言ったが、お門違いにも程があると思う。




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