第5話 【あっという間に成長してしまう美少女2号】
翌日。
宿をチェックアウトして街を出た俺達は今日も馬車で道を進み、偶に現れる盗賊を撃退しながら進んだ。
とはいえ現れる盗賊が全部農民崩れの痩せ細った雑魚という訳ではなく、稀に体格が良く真面な武器を持った奴も現れる。
「死ねぇっ!」
巨漢で斧を持った山賊の親分って感じの男は正面のリティス相手に斧を振りかぶり、そのままリティスが腕を交差させた防御に勢いよく斧を振り下ろした。
ガキンッ!
だが斧が命中した筈のリティスの腕には傷1つ付いておらず、逆に硬質な音を立てて斧を弾き返していた。
「ふふん。そう簡単に私の肌に傷を付けられると思ったら大間違いだよ」
硬氣功で敵の攻撃を防いだリティスは鼻で笑いながら調子に乗っていた。
「あの攻撃、リティスなら普通に避けられたよな?」
「覚えた技を使ってみたかったのでしょう」
「やれやれ。危ないことをしないで欲しいんだけどな」
いくら硬氣功とはいえ、相手の力と技量がリティスを上回れば破られる可能性はあるのだ。
今回は相手が格下で無傷だったようだが、大事なリティスの身体に傷が付くリスクは犯さないで欲しい。
「昨夜は私が眠ってしまった後にお楽しみだったみたいですしね」
「…………」
あ、はい。昨夜も俺はティーナとお楽しみを堪能したのだが、先にティーナがダウンしてしまったので代わりにリティスを抱き寄せたのだ。
リティスは抵抗することなく俺の身を任せて来たのだが、意外なことにリティスのおっぱいがAカップからBカップへと成長していたのだ。
まだまだ十分な大きさとは言えないが、十分に揉めるおっぱいに俺は調子に乗ってリティスのパンツの中に手を入れたら――トロトロになっていた。
まだリティスに手を出す予定はなかったのだが、予想外に胸が大きくなっていたことと、完全に準備が出来ていたこと。
更にリティスの哀願するような視線を受けて、俺はリティスを寝ているティーナの隣に押し倒して――最高の初体験をプレゼントすることになった。
うん。リティスは初めてとは思えないくらい乱れて喘いでいた。
ティーナに気付かれるのも無理ないわ。
そういう訳で今日のリティスは絶好調だった。
「御主人! 見てる~?」
というか俺に良いところを見せようと調子に乗っていた。
「飼い主として、ちゃんと諫めてくださいね」
「……はい」
調子に乗って怪我をしないように面倒を見るのも飼い主の仕事らしい。
意外なことにティーナは言うほど嫉妬していなかった。
「旦那様は絶倫ですから。私1人で満足するとは最初から思っていませんでした」
「お、おう」
どうやら嫉妬しないというよりも、覚悟が出来ていたという方が正しいようだ。
リティスを引き取った段階で、こういう日が来るのは時間の問題だと思っていたらしい。
まぁ、確かに手を出す気はあったが、もっとリティスのおっぱいが大きくなってからの予定だったのだ。
「くぅ~ん、くぅ~ん」
ちなみに、そのリティスは御者として手綱を握っている俺の背後から抱き着いて甘えている真っ最中だ。
本当に犬みたい。
「リティス、ちゃんと警戒してくださいね」
「大丈夫! 御主人を守るのは私の役目だから!」
しかも獣人の本能なのか犬の本能なのか、俺を守ることを自分の役目だと思っているようだ。
まぁ、リティスは目も耳も鼻も良いので俺達の中では1番索敵に向いているからね。
俺の亜空間探査を除けば、敵を最初に発見するのはリティスだ。
「うぅ。なんかあっという間に私より強くなりそうです」
「獣人は近接戦闘のスペシャリストだからな。近接戦闘の成長度は半端ないみたいだ」
実際、この短期間で近接戦闘に限りティーナよりも強くなっている気がする。
本気で戦ったら魔術と銃撃があるティーナが負けることはないけど。
(こうなると、そろそろリティス専用の武器が必要だな)
まだ早いと思っていたが、準備を始めるとしよう。
◇◇◇
数日後。
私は魔女の錬金術を行使してリティス専用の武器としてナックルを準備した。
メリケンサックのように指に嵌めるだけの装備ではなく、拳を保護する為に拳を包み込む形のナックルだ。
「鋼鉄で出来たグローブ?」
見た目で言えばリティスの言うように金属製のグローブに近い。
「指はちゃんと動かせる? 付けていて違和感はないかしら?」
「……大丈夫」
両手に装着したナックルの調子を確かめてリティスは頷く。
「近接戦闘主体のリティスが投げを捨てるのは愚策だからね。ちゃんと指を動かして相手を捕まえるのに邪魔にならないように設計したわ」
「うん。凄くしっくり来る。ありがとう、お嬢!」
「どういたしまして」
私にお礼を言った後は、具合を確かめるように素振りでパンチを繰り返すリティス。
「……あれで殴られたら頭蓋骨が陥没してしまいそうですね」
「それどころかトマトみたいに弾けるわよ」
高速で繰り出されるリティスの拳を見て戦慄するティーナだけど、あれが直撃すれば陥没どころか粉砕である。
「もうリティスとは模擬戦しません」
「流石に手加減するでしょ」
「……手加減されるのは、それはそれで嫌です」
ティーナは色々と複雑そうだった。
「ああ。それと、これを渡しておくわ」
「?」
困惑するリティスに私が渡したのはティーナとお揃いの鞄だ。
勿論、リティス用のアイテムボックス仕様の鞄であり、東京ドーム並の容量がある。
「装備は普段はこれに入れておきなさい」
「うん♪」
リティスは嬉しそうに私から鞄を受け取り、肩に下げた。
その後、装備の具合を確かめる為に男に偽装した俺がリティスと模擬戦をすることになった。
「行くぞ」
「っ!」
不意打ち気味に放った木剣の一撃をリティスがナックルで防御する。
少し驚いた顔をしたリティスだが、続いて撃ち込まれた木剣の攻撃にも反応してナックルで受けていく。
「これ……」
「分かったか?」
「あ、うん。なんとなく」
リティスのナックルには単純に拳を保護する効果だけでなく、攻撃を防御した時の感触が拳に伝わるように作られている。
硬質な金属で拳を保護してしまうと、相手の攻撃力がどの程度なのかを測ることが出来ない。
防御が硬いからと言って敵の攻撃が全て同じだと感じてしまっては、敵の強さを推し量ることが出来ない。
そういうのを分からせる為に俺は強弱を混ぜた攻撃でリティスを攻撃していたのだ。
とはいえ、そろそろナックルの使い方も分かって来たみたいだし、少し本気を出してリティスの視線を誘導して特殊な歩法で死角に潜り込み――縮地でリティスの懐に潜り込んだ。
「っ!」
「は?」
だがリティスは初見なのに驚くべき反応速度で俺の姿を視界に捉え、そのまま攻撃を繰り出そうとしていた俺の腕を掴み取って、投げの体勢に入った。
「ちょっ……!」
まさか、こんなに完璧に縮地に対応されると思っていなかった俺は慌てて堪えようとするが、既に体勢は崩されて、足を刈られて、腰で浮かされて――あっさりと投げられた。
「ぐぇ」
背中から地面に落とされたが受け身を取ったし、追撃を受けなかったのでダメージは受けなかった。
「大丈夫ですか? 旦那様」
「……なんとか」
俺はティーナに手を借りて立ち上がるが、リティスは今の感触を忘れない為か、1人で動きのチェックを行っていた。
「私、もう本格的にリティスとは模擬戦したくないです」
「……同感だ」
縮地で懐に入られたと察した瞬間、リティスは近過ぎて打撃では駄目だと感じて瞬時に投げに切り替えた。
明らかに経験から来る行動ではなく、天然の直感による行動だった。
(あの一瞬で最善手を選び取れる本能って、天才って言うんじゃないのか?)
どうやら俺が引き取った子は類稀な才能の持ち主だったようだ。
模擬戦を終えた俺達はティーナが作ってくれた昼食を食べることになったのだが……。
「姉さまが作ってくれるご飯は美味しいです!」
「それは良かったわ」
何故かリティスはティーナのことを姉さまと呼び始めた。
(竿姉妹だからか?)
そんな無粋なことを思ってしまったが、仲良くなるなら俺が文句を言う筋合いでもない。
「私としても前衛を務めてくれるリティスが居てくれるのは心強いです」
「ティーナは基本的には完全な後衛だからな」
緊急時の為に護身術を教えてはいるが、それが必要ないように立ち回るのが魔術師としての動き方だ。
そういう意味では前衛で防御の硬いリティスの存在は渡りに船だろう。
「うん! 御主人と姉さまは私が護るよ!」
自信を付けたリティスには以前のようなオドオドしたような挙動は欠片も残っていなかった。
(良いパーティになりそうだな)
前衛を務める獣人のリティスに後衛を務めるハーフエルフのティーナ。
そして全体の指揮を執り遊撃に動ける俺。
連携はまだまだだが、いずれは大陸最強パーティとか呼ばれるようになるかもしれない。
(勇者が邪魔をしなければ、の話だけどな)
地球からラスボスである俺を討伐する為にチートを持った勇者が召喚されるとか、今は考えたくなかった。
◇◇◇
そろそろ国境が近付いて来た。
「やっと盗賊に襲われる日々とはお別れですね」
「日中しか移動していないのに3桁近い盗賊に襲われたからな」
俺とティーナはそんなことを話しながら馬車を走らせていたのだが……。
「おおきくなぁ~れ。おおきくなぁ~れ」
リティスは1人で荷台に座りながら自分で胸を揉んで大きくしようと頑張っていた。
「流石にそんなに直ぐには大きくならんだろ」
「でも御主人は大きい方が好きなんだよね?」
「……そうだな」
大きいおっぱいが大好きです。
「それなら私ももっと大きくなる。姉さまには負けないもん」
「ふっ」
いくら爆乳の遺伝子を持つリティスでも現時点ではティーナには及ばないのでティーナは自慢げに胸を逸らして鼻で笑う。
流石Fカップは貫禄が違う。
「私は毎晩のように旦那様に揉まれていますから、いずれGカップに手が届きますよ」
「むぎぎ……」
まさかのGカップ宣言にBカップのリティスが歯ぎしりして悔しがる。
「わ、私もGカップになるもん!」
「ふっ。期待していますよ」
「むぅ!」
リティスがいくら騒いでもティーナの余裕は崩れない。
まぁ、毎晩のように俺を魅了して夢中にさせているティーナが自信を持つのは当然のことかもしれない。
そうして騒がしく馬車を走らせていた一行なのだが……。
「む」
「え?」
俺の亜空間探査とリティスの直感が同時に反応した。
「どうしました?」
「……何か来る」
「敵……だと思う」
俺とリティスはティーナに答えて馬車を止めて遠くに目を向ける。
そうして俺達の視線の先から土煙を上げて迫って来たのは……。
「猪?」
巨大な――馬車の3倍はありそうな猪だった。
「なにあれ~」
「えっと。多分ですが、ジャイアントボアだと思います。巨大な猪の魔物ですね」
「なんかすんごい勢いで走って来るんだけど!」
普通に考えて、このままだと俺達の馬車に激突して大惨事になる。
「とりあえずは足止めだな」
俺は焦ることなく詠唱を行い、迫って来る猪に減速のデバフを掛けた。
強者には簡単にレジストされて来た減速のデバフだが、猪にレジストする知恵などあるわけもなく、簡単にデバフに掛かった。
結果、猪の速度は目に見えて落ちた。
「なんでこんなところにいるのか知らないが、貴重な食料として確保させてもらうぞ」
「獲物は仕留めるよ!」
「援護はお任せください」
そうして前衛のリティスは猪に向かって飛び出し、ティーナは援護の為に魔術の詠唱を開始する。
減速のデバフに掛かった時点で勢いを失くして迫力は半減しているし、リティスも狩猟本能でやる気になっている。
「ウォーターニードル!」
更にティーナの水の針を飛ばす魔術によって猪は怯み……。
「てやぁっ!」
そこにリティスがナックルを装備して殴り掛かった。
悲しいことに猪に出来ることはなく、そのまま仕留められた。
戦闘終了後、俺は猪を解体しながら少し思ったことを話す。
「ひょっとして、こいつって飢えた領民が食料にしようとして追い回していたんじゃないか?」
よく見れば猪の身体には何本もの矢が刺さっているし、槍で刺されたような傷も無数にあった。
「横取りしちゃった?」
「そうだとしても、こちらに逃がした以上は私達が責任を感じることではないでしょう」
「そらそうだ」
誰かが仕留め損ねた獲物を俺達が仕留めたのだとしても、それは逃げられた奴が悪いのであって俺達が文句を言われる筋合いはない。
そうして俺は解体の終わった猪の肉と素材をアイテムボックスに放り込む。
ティーナとリティスの鞄に入れても良かったのだが、こんなに大きいと調理が大変なので、暇な時に下拵えをやっておく予定だ。
そうしてアイテムボックへの収納が終わった後……。
「……来たか」
槍や弓を持った男達がぞろぞろと俺達の方へと歩いてくる姿が見えて来た。
「え? なんですか? あの人達」
「……横取り?」
まぁ、普通に考えれば獲物に逃げられた奴が追い付いて来たと考えるべきだろう。
そうしてやって来た男達は俺が解体して不要と判断した猪の残骸を見て顔を顰めた。
「これはお前達がやったのか?」
「……答える義理はないね」
「答えろ!」
そう言って男の1人が俺に向かって槍を突き付けて来た。
「Bランクの冒険者として、これは悪質な略奪行為だと判断するが、構わないのか?」
「これは俺達が先に見つけた獲物だ!」
「だったら名前でも書いておけよ」
「貴様ぁっ!」
激昂した男は、そのまま俺に槍を突き入れようとして……。
「Bランクだって言ってんのに」
「ぐぇっ!」
突き出された槍を逸らして掴み、そのまま奪って石突で叩きのめした。
「こいつ!」
「やりやがったな!」
結果、残りの奴らも激昂して俺に向かって武器を構え出した。
「まるで行動が蛮族のようですね」
「だな。常識的に考えれば交渉して俺から食料を買うとかするよな」
「御主人。こいつら殴って良いの?」
俺とティーナは普通に呆れていただけだが、リティスは戦意が高かった。
「ナックルは止めておけ。一撃で即死するからな」
「分かった!」
リティスは頷いて鞄にナックルを仕舞うと、意気揚々と拳を構えた。
ハッキリ言えば、戦いにすらならなかった。
全員がリティスに素手で殴り飛ばされて、一撃で昏倒した。
盗賊相手に実戦経験を積んだリティスの強さは本物だった。
まだ動きに雑なところもあるが、それを踏まえても並の相手では勝負にもならない。
「最低でもBランク以上の冒険者じゃないとリティスの相手にならんな」
「獣人って強いんですね」
「リティスが強いんだよ」
明らかに強いのは獣人だからという理由ではなく、リティスという天才だから強いのだ。
うん。氣功を学んだ獣人って冗談抜きで超人的に強くなるんだ。
これでまだ訓練を初めて1ヵ月未満というのだから、昔の獣人はどれだけ強かったのだろう。
まさに戦闘民族だったってことだろう。
「御主人。この人達弱いよ~」
「弱いな~」
リティスの強さは別としても、こいつらが弱いということは事実だった。
「どうするの?」
「放置で良いだろ」
このままだと盗賊に身包み剥がされそうだが、そこまで面倒を見てやる義理はない。
殺されなかっただけありがたいと思ってもらいたい。
「でも問題になりませんか?」
「Bランクの冒険者である俺に襲い掛かって来たから返り討ちにしたら問題なのか?」
「……それもそうですね」
問題というのならBランクである俺に襲い掛かったという事実が問題だし、まさかそれを返り討ちにしたことを責められる謂れはない。
まさか狙っていた獲物に逃げられて、追っていった先で既に獲物が仕留められていたから、なんて理由で正当性を主張することなんて出来る訳がない。
「そう言われると、この人達って盗賊みたいですね」
「似たようなもんだろ」
結局のところ暴力で人の獲物を奪おうとしたのだから。




