第4話 【獣人に氣功は鬼に金棒ってレベルじゃねぇ】
「は、初めまして、リティスと……申します」
俺が買ってしまった獣人の少女の名前はリティスというそうだ。
「とりあえず座れ。ティーナ、食事を用意してくれ」
「はい、旦那様」
とりあえずリティスを椅子に座らせて、ティーナが鞄から食事を取り出して机に並べる。
「よ、よろしいのですか?」
「そんな倒れそうな状態では話も出来ん。とりあえず食ってから話を聞かせてくれ」
「あ、ありがとうございます!」
そうしてリティスは泣きながら食事を始めた。
かなりの期間、真面に食事を取っていなかったのか、リティスは用意した食事を瞬く間に食べ尽くし……。
「お代わりいるか?」
「頂きます!」
更に追加で出した料理も残らず食い尽くした。
そんな急に食べて大丈夫なのかと思ったが意外と丈夫な胃をしているらしい。
「うぅ。こんなにお腹いっぱいになったのは生まれて初めてです」
そうして満腹になったリティスはまた泣き出した。
「やっぱり真面な扱いを受けていなかったんだな。何が娘同然だよ」
「……引き取ってくれたことには感謝していますが、娘同然と言われた時はどういう反応をすれば良いのか困りました」
「だろうな」
どう考えても賃金を支払うことなく扱き使っていたようにしか見えなかった。
それからリティスは自分の事情をポツポツと話し始めた。
「私のお父さんとお母さんは冒険者で、偶々仕事でこの街に来て、この宿に泊まっていたそうです。あ、お父さんは人間で、お母さんが獣人でした」
「ハーフか」
なんか俺はハーフに縁があるらしい。
「それで、暫くはこの宿を拠点に仕事をしていたみたいなんですが、その時にお母さんの妊娠が分かって、私が生まれるまでお父さんが頑張って仕事をしていたそうです」
「……この時点で嫌な予感しかしない」
「あ、はい。お察しの通りお父さんが仕事で出掛けて……帰って来ませんでした。お母さんは必死に頑張って私を育ててくれましたが、やっぱり仕事に出掛けて帰って来ませんでした」
「お、おう」
予想通り過ぎて、どういう反応をしたらいいのか困る。
「宿に残された私は行く当てもなくて、そのまま引き取られて……今に至ります」
「端折り過ぎだろ」
リティスの人生の大半がカットされてしまったぞ。
「でも本当に話すことがないんです。毎日、クタクタになるまで宿の仕事をして、後は屋根裏部屋に篭って寝るだけでしたから」
「客を取らされたりはしなかったのか?」
リティスの顔の造形は悪くないし、あの女将ならホイホイそういう仕事を取って来そうだが。
「この国で獣人の人気は低いんです。尻尾が生えているだけでアウトみたいです。基本的に労働力としか見られません」
「ってことは生娘か?」
「……お恥ずかしながら」
獣人差別が激しい国だからこそ純潔は守られたわけだ。
代わりに扱き使われていたみたいだけど。
「だが、俺は大きい方が好きなんだよなぁ」
「……そのようですね」
リティスはティーナの方を見ながら納得した顔をする。
「というか本気で俺達に付いて来る気か?」
「もう、この宿には居られませんから。前は繁盛していたから私の手も必要だったのですが、最近は閑古鳥が鳴いているので私が邪魔みたいです」
「……どう思う?」
俺は傍観しているティーナに聞いてみた。
「出来れば私を放置しないで欲しいです」
「だから、俺は大きいのが好きなんだって」
何故かティーナが涙目で俺に縋りついて来たが、俺がティーナを捨てるなんてありえない話だ。
ティーナはいずれGカップになる逸材だぞ。
身体の開発も順調だし、ティーナの身体の性感帯の位置はほぼ完全に把握出来た。
俺ならティーナを一晩中だって喘がせ続ける自信がある。
だから問題は図らずも引き取ることになってしまったリティスの扱いだ。
「ちなみに聞くけど、リティスのお母さんってどんな人だった?」
「私のお母さんですか?」
俺が聞くとリティスは困惑する。
「幼い頃に居なくなってしまったのであんまり覚えてないですけど、優しい人だったと思います」
「いや。そういうことじゃなくて、母親が巨乳だったらリティスも巨乳になる可能性があるだろう?」
「…………」
うん。遺伝的にリティスが巨乳になる資質があるのかを知りたかったのだ。
「覚えている限りでは……凄く大きかったです」
「そうか!」
「覚えている限りでは……このくらいかな?」
そう言いながらリティスが提示したサイズは……。
「爆乳サイズだと!」
想像していたよりもずっと大きかった。
遺伝的には十分、巨乳に――爆乳になる素質はあるわけだ。
「仕方ないな。置いて行くのも可哀想だから連れて行くことにしよう」
「「…………」」
ティーナとリティスが同時に沈黙して白い眼を向けて来たが、きっと気のせいだろう。
こうして獣人のリティスが同行することになったのだが……。
「その前に健康診断をしておかないとな」
「あ。早速バラすんですね」
「?」
納得するティーナとは裏腹に困惑するリティスを放置して俺は詠唱を行ってアイテムボックスを開き、愛用の黒いローグを引っ張り出す。
それからクルリと一回転しながらローブを纏い俺は――私へと戻る。
「…………え?」
更にアイテムボックスから黒い三角帽子を取り出して被った。
「超絶美少女の《安穏の魔女》ケイリーンちゃん、参上♪」
そうして決めポーズを取りながら――パチンと指を鳴らした。
「えぇえええええええええええええええええええええええええええええええっ!」
その直後、リティスの叫びが部屋に響き渡った。
うん。即座に防音結界を張っておいて正解だったわ。
そうして魔女となった私はリティスに色々と話しながら身体を調べていった。
「少し栄養失調気味で疲労が溜まっているわね。調整しておきましょう」
リティスは今まで真面な暮らしをしてきていなかったが、意外にも病気などの兆候はなかった。
栄養状態と疲労状態を改善すれば、後は健康そのものだ。
「運が良かったのか、それとも獣人が本当に頑丈だったのか、どちらかしらね」
少なくとも宿の女将が意図した結果だとは思えないので、そのどっちかであろう。
「ふむふむ」
私は更にリティスを色々調べてみたのだが……。
「魔力が殆どない代わりに生命力が強いのね。これだと魔術なんかは殆ど使えないけど、生命力を使った氣功なんかには向いているわね」
人間は魔力や霊力、エルフとドワーフは自然力、精霊は精霊力を行使出来ると聞いていたが、獣人については聞いたことがなかった。
確かに魔術的な術を使う為のエネルギーには乏しいようだが、代わりに潤沢な生命力があり、氣功のような特殊な使い方が出来そうだ。
「氣功ってなんですか?」
氣功はマイナーなので当然のようにリティスは知らなかった。
私としても魔女になって世界と接続し――アカシックレコードにアクセスすることで初めて知ったことだが、生命力を使った氣功とは、身体の外に現象を起こす魔術などとは違って、主に身体の内側に作用する術と言える。
有名なのは身体の一部に氣を集中させることによって硬質化させる技術――硬氣功だろう。
まさに身体を鋼のように固くして攻撃を防ぐ術だ。
それに接触状態で自分の身体から相手の身体に氣を叩きこむ技――発勁なども有名だ。
私はそういうことをリティスに教えてあげると……。
「私って、そんなに凄いことが出来るんですか?」
「……頑張って訓練すれば、ね」
大昔は獣人が使う基本的な技術だったのだが、長い年月と迫害生活が続いて廃れてしまったようだ。
「が、頑張ってお役に立てるようになります!」
自分に出来ることがあると知ったリティスは少し張り切っていた。
◇◇◇
翌朝。
俺達は早朝に宿を出て、早々に街を後にした。
宿の女将は少しくらいリティスに何かあるかと思ったが、特にリアクションもなく俺達と同行するリティスを見送っていた。
「欠片も情なんてねぇじゃねぇか」
「あはは……」
流石のリティスも苦笑いしていた。
クズ過ぎて呆れしか出なかった。
そうして俺達は街を出て馬車を走らせていたのだが……。
「じぃ~……」
道中、何故かリティスがティーナをジッと見つめていた。
「どうかしましたか?」
「いえ、その……凄く、声が大きいんだなぁって思って……」
「…………」
あ、うん。昨日はリティスが同室だったとはいえ、いずれそういう関係になるのだからと遠慮はしなかったんだ。
ティーナも最初は恥ずかしがっていたが、途中からは我を忘れて声を出していた。
その一部始終を目撃していたリティスは興味津々に俺達の行為をガン見していた。
「わ、私もいずれ、あんなことをされちゃうんだ。ドキドキ」
なんか1人でブツブツ言っていたが……。
「リティスは意外とムッツリさんだな」
「そうみたいですね」
見た目は可愛い系の犬娘なのに、意外とエロ娘だった。
そうして俺達は馬車を走らせていたのだが……。
「街の外って、こんなに治安が悪いんですね」
頻繁に盗賊が襲ってくる状況にリティスが驚いていた。
「街の中は怪しい奴が入らないように厳重に管理されていたが、逆に言えば町の外は危険ってことだからな」
「最近の街の外は危ないって噂は聞いてましたけど、こんなふうになっているとは知りませんでした」
ずっと街の中で暮らしている者には、街の外の危険など関係ないのだろう。
◇◇◇
数日後。
再び自宅へ転移魔術で帰宅した俺は……。
「2号さんか?」
「……そうだよ」
リティスを冒険者ギルドへと連れて行き、冒険者登録させることにした。
現在のリティスは俺の侍らせる美少女2号としてティーナとお揃いのメイド服を着て、時間がある時に訓練を施していた。
「次は獣人かよ。お前も好きだねぇ」
「うるせぇよ」
おっさんは俺を揶揄って来るが、なんとなく人間を避けていたらそうなってしまっただけだ。
「次はドワーフか? 精霊か?」
「ドワーフはないだろ」
ドワーフの女性には色々な説があるが、この世界のドワーフの女性は――ロリである。
好きな人には堪らないのかもしれないが、残念ながら俺の性癖には刺さらないのでアウトである。
俺の好みはあくまで巨乳なのだ。
だからという訳ではないが、ティーナには毎晩のように手を出しているが、リティスにはまだ出していない。
俺とティーナの行為を毎晩のように覗き見て鼻息を荒くして興奮しているが。
「獣人は身体能力は高いが代わりに魔術は使えないって話だが、大丈夫か?」
「俺が育てるんだぞ。問題などない」
「そうかい」
俺が断言したらおっさんは呆れたように肩を竦めていた。
登録を済ませてから今日は自宅に帰り、庭でリティスの訓練を行う。
リティスには格闘訓練を受けさせているが、その主な訓練相手はティーナだった。
「やぁっ!」
「わあ!」
獣人の身体能力が高いと言っても今はティーナに一日の長があるので、あっさりとリティスを投げるティーナ。
とはいえ、ティーナが綺麗に投げてくれたのでリティスは受け身が間に合ってダメージは軽減される。
「く、悔しい! 全然、勝てない~!」
リティスは最初は縮こまって敬語で話していたが、大分打ち解けて素が出て来たのか砕けた口調で話すようになっていた。
「当然です。まだまだリティスには負けませんよ」
これはリティスの訓練だが、ティーナの護身術の訓練にも丁度良い相手なので少し楽しそうだ。
「うぅ。このエッチなハーフエルフ強過ぎる」
「ふっ。もっと大きくならないと旦那様に相手をしてもらえませんよ」
「むぅ」
ティーナが自慢の胸を揺らすと、リティスは悔しそうに自分の胸をさすっていた。
俺がリティスを引き取ってから、まだ時間が経っていないので、いくら遺伝的に爆乳の素質があったとしても直ぐには大きくならない。
リティスの大きさはまだAカップだ。
「ふふん」
対して自慢げに胸を揺らしているティーナは、ついにFカップに突入して自分の成長を見せびらかしている。
現時点では色々な意味でティーナの圧勝だった。
◇◇◇
「やっ!」
体内で氣を練り上げたリティスは襲って来た盗賊の懐に潜り込んで――発勁を叩きこんだ。
「ぐぉぼっ!」
盗賊を色々な物を撒き散らしながら吹き飛んで、動かなくなった。
「リティスも大分強くなったな」
「そうですね。やっぱり獣人は格闘能力が優れています」
この国では頻繁に盗賊に襲われるが、素人だったリティスに実戦の経験を積ませるのには最適な相手だ。
相手は真面に訓練もしたことがない素人だし、ガリガリに痩せた半死人みたいな相手だ。
それでも当初はガチガチに緊張していたリティスだが、ティーナの銃に援護されながら何度も実戦を経験する内に勝負度胸も付いたらしい。
今では盗賊の対処の大半はリティスが受け持っている。
氣功の方も色々な技を使えるようになって来たが、なにより身体強化によって超人的な身体能力を獲得したのが大きい。
ぶっちゃけ、あまりにも動きが速いので俺は加速のバフがないとリティスの動きが見えなくなって来ている。
氣功を習得した獣人の身体能力はまさに超人だった。
とは言ってもリティスの身体がムキムキになっているわけではなく、あくまで生命力を練り上げて氣に変換して、身体を強化しているだけで触ると普通に柔らかいし、見た目も華奢なままだ。
おっぱいは少し大きくなったけど。
「もう盗賊ではリティスの相手にならんな」
「オークくらいなら普通に倒せそうですね」
リティスの強さは傍から見てもDランククラスの魔物はなら余裕に見える。
とても未だに依頼未達成のGランクには見えない。
「…………」
そういう意味ではティーナもEランクには見えないけど。
盗賊を撃退しながら道を進むと、やがて次の街が見えて来る。
「あれが今日泊まることになる街ですか?」
「そうなるな。この国では防衛がしっかりしている街じゃないと危ないから泊まれる街が限られる」
途中に小さな町や村はいくつかあったが、安全に泊まれる環境ではなかったのでスルーして来たのだ。
門番にはハーフエルフと獣人を連れているということで眉を顰められたが、俺がBランクであることを明かすとあっさりと中に通された。
「Bランクってやっぱり信用度が高いんだな」
本来はチンピラやゴロツキ扱いの冒険者が信用されるのだからランクは重要かもしれない。
同行者はEランクとGランクだけど。
そうして紹介された宿にチェックインして、3人で身体を休めていると――ドアをノックされる音が響く。
「まさか、また娘を買ってくれって話じゃないだろうな」
「…………」
思わず呟くとリティスが視線を逸らした。
リティスの責任ではないが、思わず警戒してしまう。
「……誰だ?」
そうしつつドアの外に呼びかける。
「お客様にお手紙が届いております」
「手紙?」
困惑しつつ扉を開けると、宿の主人が言葉通りに手紙を携えていた。
手紙を受け取って扉を閉め、3人で手紙を読んでみると……。
「暗号?」
奇妙な文字の羅列が書かれていた。
「私、まだ文字は読めないけど、御主人は読める?」
ティーナが俺を旦那様と呼ぶのに対して、リティスは俺を御主人と呼ぶようになった。
益々犬っぽいと思ったのだが……。
「御主人。私は狼の獣人ですからね」
「お、おう。分かっている」
実はリティスは犬ではなく狼の獣人であるという驚愕の事実が判明した。
リティスは茶髪に焦げ茶色の瞳だから、てっきり犬だと思っていた。
「それで、これはなんて書いてあるの?」
文字を勉強中のリティスが聞いて来るが……。
「分からん」
俺に暗号解読が出来る訳もなく、意味不明の文字列でしかなかった。
その後、色々とやってみたが解読には至らず、結果として分からないという結論に達して手紙は放置された。
「気になりますね」
「だよね。モヤモヤする」
「……仕方ない」
俺は仕方なく魔女に変身して暗号を解読することにした。
そうして改めて暗号を見てみた。
「どうですか? お嬢様」
「お嬢、暗号読めた?」
ちなみにティーナは私をお嬢様と呼ぶがリティスはお嬢と呼ぶようになった。
「これは暗号ではないわね。魔女専用の緊急通信用の連絡だわ」
手紙には受け取った人間を催眠状態にする仕組みがあり、強制的に手紙を私に届けるように細工されていたのだ。
差出人は私が世界力を送り込んで世界の人形へと変えた1人で、現在は私の部下のような立ち位置で働いている魔女だ。
そして肝心の手紙の内容なのだが……。
緊急連絡。某国にて勇者召喚の兆候あり。注意されたし。
「やれやれ。このタイミングで主人公様の登場か」
ラスボスである私を倒す為の主人公が出現するという連絡だった。
もっと暇な時に来て欲しいと思うのは贅沢なのだろうか?