プロローグ 【アタオカ女に絶望させられる1号】
※思ったよりも伸びなかったので中断も考えたのですが、どうせなら出来ている2章までは投稿してしまうことにしました。
本日は1時間後にもう1話、投降します。
どうぞよろしくお願いいたします。
「うぅ。どうしてこうなった」
もう何度繰り返したのか分からない言葉が再び少女の口から洩れる。
その少女は地下の狭い部屋に閉じ込められた上に、鎖で雁字搦めに拘束されており、身動き一つ出来ない状態で放置されていた。
「ボクが何をしたって言うんだ」
少女――異界の神と呼ばれた存在は自分の状況を嘆く。
まぁ、普通に考えれば世界を破滅に導くような行いをして、それを世界の守護者たる魔女に見つかってお仕置きされただけだが。
暇潰しの娯楽で世界を危機に貶めようとしたのだから当然の罰だ。
「……あんなアタオカ女に関わるんじゃなかった」
異界の神は改めてアタオカ女を思い出す。
(そりゃ、初めて存在を知った時から普通じゃないとは思っていたけどさ)
異界の神がアタオカ女と呼ぶ存在――《安穏の魔女》ケイリーンの存在を知ったのは、彼女がダンジョン潰しを開始してからだ。
ダンジョンに乗り込んだアタオカ女は速攻でダンジョンを掌握した挙句、管理と運営を行っていた堕落した魔女の前に現れて――即座に世界の奴隷に変えた。
(爽快な蹂躙劇は見ていて面白かったけど、関わるべきじゃなかった)
圧倒的な実力を背景に次々とダンジョンを攻略していく様は見ている分には面白かったのだ。
見ているだけなら。
彼女が神となって長い時間が経過したが、そうして神として過ごしていく内に理解したことは――神とは退屈なのだということだった。
当初は神の圧倒的な力に酔って、その力を振るうことに快楽を覚えることもあったけれど、やがてそれにも飽きると全てがつまらなく感じた。
何をするにしても苦労が伴わないので達成感がないのだ。
(あのアタオカ女が人間に偽装なんてしているのは、これを避ける為か)
それは魔女も同じはずだが、あのアタオカ女は人間に偽装することで万能感を手放し、苦労と達成感を取り戻した。
「ぐぐぐ……」
異界の神は、もう何度目になるか分からない拘束からの脱出を試みるが――当然のように失敗に終わる。
その絶望的な状況で異界の神は思う。
確かに神としての生活は退屈の一言に尽きた。
「うぅ。どうしてこうなった」
だが、少なくとも自由があった。
手足を動かして自分の意思で動くことが出来る自由が。
「……あの頃に戻りたい」
今の環境には欠片も存在していない自由が。
もしも、彼女が解放されて自由を取り戻すことが出来たのなら、もう2度と退屈は嫌だなんて我儘を言ったりはしないだろう。
再び自由を得ることが出来れば、の話だが。
「あのアタオカ女、本当に頭おかしい」
そうして必死に拘束を解こうと頑張り続けた結果、この拘束の性質というものが少しだけ理解出来て来た。
(この拘束、ボクの自由を奪うだけじゃなく、ボクの神としての力を吸い上げて世界に還元する能力がある)
お陰で異界の神は神としての力を封じられ、延々と力を吸い上げられ続ける世界のバッテリー代わりにされ続ける。
(性質が悪いのは吸い上げる力を調整してボクが干乾びないようにしているところだ)
吸い上げる量と自然回復する量が釣り合うように調整されている為、半永久的に力を吸い上げられるという環境が完成してしまっていた。
おまけに……。
(あのアタオカ女、本当に性格が悪い)
アタオカ女こと《安穏の魔女》ケイリーンは以前に異界の神を1000年後に解放すると約束している。
確かに神としての寿命を考えれば1000年くらいは余裕で生きていられるだろうけど……。
(この拘束は……完全じゃない)
神としての力を封じられているので自力で拘束を、時間を掛けて分析してみた結果だ。
隙がなく、異界の神の力を持ってしても抜け出すことが出来ないように見えているが、ほんの僅かに隙間があり、その隙間を突いて時間を掛けて解析していけば、いつかは拘束を解くことが出来るだろう。
「…………」
問題は、その肝心の解放に掛かる時間が1000年ということだ。
(絶対に偶然じゃない)
勿論、こんな偶然があるわけもなく、この拘束の隙間は故意に作られたものなのだ。
つまり、頑張って拘束を解析しても解放に1000年掛かるし、黙って何もせずに耐えていても1000年後には解放される。
「性格破綻者のアタオカ女め」
この事実に気付いた時、異界の神は途轍もなく絶望した。
何故なら、何をどうあがこうと全ては魔女の掌の上ということなのだ。
頑張っても無意味だし、何もしなくても無意味。
彼女の存在そのものが無意味であると突き付けられたようなもので、それに気付いた彼女の絶望は深かった。
(……気付かなければ良かった)
頑張って拘束の解明など行わず、虎視眈々と解放を狙っているふりをしておけばよかった。
そうすれば、少なくともここまで絶望することはなかった。
無駄に頑張ってしまったからこそ、更に絶望することになったのだ。
(分かっている。分かっているさ。これこそがアタオカ女の狙いだってことは)
アカオカ女は異界の神が無駄に頑張って絶望するように仕組んだ。
この経験は異界の神に致命的なトラウマを植え付け、もう2度と頑張りたくないと思わせるには十分な効果を発揮した。
囚われて無力化されたとはいえ、異界の神は腐っても神だ。
反抗の意思を持ち続ければ、いつか予想外の抵抗を受けることもありえる。
それを警戒して異界の神から頑張る意思を挫くことこそがアタオカ女の狙い。
その全てが分かっているのだから、これからも異界の神が頑張り続ければ奇跡が起きるかもしれない。
(そうだ。分かっている。分かっているんだけど……)
それが分かっているからと言って、本当に頑張れるなら異界の神は退屈凌ぎで世界を窮地に陥れたりしなかった。
「うぅ。誰か……助けてぇ」
結局のところ、彼女は偶々神になることが出来ただけの運が良いだけの甘えん坊。
強い意思を持って、ひたすらに努力を続けるなんて真摯な行動とは無縁の神だ。
アタオカ女の性格の悪い罠に気付いた時点で心が折れてしまっていた。
(あのドS女のことだから、単純にボクに嫌がらせしたかったというだけかもしれないけど)
実際のところ、それもあるだろう。
アタオカ女とは頭のおかしい女だからこそアタオカ女なのだから。




