第18話 【魔女達は力を合わせて悪の大魔女に攻撃を仕掛けた。だが……】
私は空を高速で飛行しながら、更に視線を前に向け、その地点まで転移することで距離を稼ぐ。
何度も連続で転移を繰り返し、飛行速度と合わせて相当な速度が出せる。
文字通り時速1000キロで移動している私はあっという間に目的地にたどり着き……。
「どーん」
そのまま速度を落とすことなくダンジョンの中に突入した。
「何! 何? なんなのよぉ!」
そうして大混乱している魔女を発見して――速攻で世界力を注ぎ込んで制圧した。
「どいつも、こいつも自我が弱いわねぇ。少しは先生を見習いなさいよ」
あっという間に自我を世界に飲まれて人形になる魔女を見て呆れる。
仕上げに都市ごと封魂結界を張って関係者からエネルギーを搾り取って――完了である。
◇◇◇
「大事件になっているみたいですね」
「そらそうだろ」
薬師ギルドの自室で俺はティーナと話していた。
「国内の迷宮都市は勿論ですが、他の国の迷宮都市も次々と落とされているので凄い勢いで噂が広まっているみたいです」
落としている本人はここにいるけどな。
俺は国内の迷宮都市を落として以降、魔女の力で各地の迷宮都市に移動しては次々と制圧していった。
外にアンテナも張らずに引き籠っている魔女とか本当に雑魚同然。
警戒していた俺が馬鹿みたいだ。
「最悪の場合は全ての迷宮都市に馬車で移動する羽目になっていたし、その点では助かったかな」
移動だけで何ヶ月~何年も掛かった可能性を考えると、相手が不用心で助かった。
「残りは後何ヵ所でしたっけ?」
「後は……3ヵ所かな?」
既に判明している20の内、17の迷宮都市は落とし終わり、残りは3ヵ所だけだ。
(だが、ここに至っても、まだ裏切りの魔女は現れていない)
残り3つのダンジョンの中に裏切りの魔女がいる可能性はある。
だが20分の17で全てハズレを引いたと考えるよりも……。
(恐らく、残り3つの内のどれにも裏切りの魔女はいない)
最初から全てハズレだったと考える方が自然だ。
つまり、現時点で発見されているダンジョンの中に裏切りの魔女はいなかったということだ。
こういうのは大抵、意外な人物が黒幕だったりするのだが、そういう意味で考えると該当者は2名――ティーナか先生ということになる。
(でも俺の場合、逆転の発想で考えた方がしっくりくるんだよね)
裏切りの魔女という黒幕の正体が意外な人物だった、と考えるよりも――裏切りの魔女がラスボスである俺を欺く為に正体を隠して逆転を狙っている。
そう考えた方が正解な気がする。
うん。以前に考えた通り、この世界でラスボスが誰かを考えた場合、その正体は俺である可能性が高い。
異世界から召喚された勇者がラスボスである俺を討伐に来る、なんてラストは考えていたが、まさか正体を隠した謎の魔女が黒幕となって俺の討伐を狙っているとは思わなかった。
(いや。まだ裏切りの魔女が俺を狙っているとは限らないんだけどね)
今まで集めた情報から裏切りの魔女の存在を突き止め、そいつが世界の崩壊を加速させた黒幕だと考えてはいるが、まだ裏切りの魔女が俺を認識しているかどうかは不明なのだ。
俺が一方的に敵視しているだけという可能性もありえる。
(とは言っても、きっと裏切りの魔女は高みの見物でこちらを観察しているだろうな)
あんな複雑な術式を構築するような奴が、今の状況を察知出来ていないとは思えない。
きっとダンジョンが潰される様子を見て、こちらに仕掛けるタイミングでも計っているのだろう。
◇◇◇
今日も今日とて空を高速で翔ける私は残り3つの内の1つのダンジョンを目指して疾走していた。
いくら遠かろうと時速1000キロで移動すれば直ぐに目的地に着くし、目標の迷宮都市は目立つので間違える心配もない。
そうして迷宮都市上空に辿り着いた私は……。
「どーん」
今回もスピードを落とすことなくダンジョンの上空から突撃して床を一気にぶち抜いて最下層まで掘り抜いて行く。
うん。前回もだけど相当な力技だと自覚している。
でも、何個もダンジョンを潰して来たけど、このやり方が1番手っ取り早いのだ。
ダンジョンに入ってから世界力を介して最下層まで転移というよりも、こっちの方が遥かに奇襲に向いている。
そうして一気に最下層まで辿り着いた私は……。
「来たわね」
そこで3人の魔女に出迎えられた。
「あら、待ち伏せかしら?」
「白々しい。いくら外部との関係を断っているとしても、あんなに派手に動かれたら情報くらい入って来るわよ!」
そりゃ、そうだ。
そうして私の襲撃によって次々とダンジョンを落とされていると知った彼女達は、どうにかすべく生き残っていたダンジョンの魔女と連絡を取って、こうして協力して迎撃態勢を整えていたのだろう。
「これが何か分かるかしら?」
そう言って代表で話している魔女が提示したのは3人がそれぞれに両手で抱えて持っているバスケットボール大の水晶のようなもの。
「圧縮したダンジョンコア、かしら?」
本来のダンジョンコアはもっと大きかったが、持ち運びの為か圧縮して持ち出して来たらしい。
言い換えると世界力を小さく固めた塊だ。
「さぁ、やるわよ!」
その塊を3人の魔女は頭上に掲げ、なんらかの魔法を発動しようとしている。
「……結界?」
私に分かったのは、それが結界系の魔法だということだ。
「「「封絶結界、起動!」」」
そうして発動した結界は私と3人の魔女達を閉じ込めた。
「……何がしたかったの?」
封魂結界と違って、私には特に異変が起こらない。
「ふふん。この結界はダンジョンを応用した外部との繋がりを完璧に遮断する結界魔法よ」
「だから?」
「この中にいる限り、世界との繋がりも途切れているから特1級の魔女であっても世界力を補充することは出来ないってことよ!」
「ふむ」
私は周囲を見渡してみるが、確かに外との繋がりが切れているようで世界力が希薄になっている。
「これで、あんたは世界力を補充することが出来ない。だけど私達にはこれがあるわ!」
そう言って再び世界力の塊を掲げる3人。
重いだろうに、よく持っていられると思う。
「つまり、この結界の中にいる限り、あんたよりも私達の方が有利なのよ!」
そう言って3人は世界力の塊からエネルギーを引き出して、頭上に巨大な球体を作り上げた。
「手加減なしで初撃で決めるわよ! 喰らいなさい!」
そうして3人で協力して作り上げた巨大な球体は私に高速で迫って来て――避ける暇もなく私に直撃した。
エネルギーを球状にして敵に撃ち出すというのは攻撃手段として非常にオーソドックスだと思う。
ひょっとしたら、あの球体も着弾と同時に破壊の渦を撒き散らす攻撃的な魔法だったのかもしれない。
「ど、どうして……?」
だが、それは今となっては分からないし、これから知ることもないと思う。
「あなた達、魔女としての基本的な知識が欠けているんじゃないかしら?」
巨大な球体の直撃を受けても無傷でノーダメージだった私は呆れて3人に視線を向ける。
「ま、まだよ! 反撃の隙を与えずに攻撃を続けるのよ!」
代表で話す魔女の命令によって3人の魔女が次々と私に向けて攻撃を放って来る。
だが、いくら攻撃を受けようとも私は避けようとも防ごうとも思えない。
「魔女の基本的な能力の1つなのだけど、魔女には世界力を行使する権限があるわ」
攻撃を受けつつ私は3人に授業でもするように話し出す。
「それなら世界力って何かしら?」
「くそっ! 死ね! 死ね! 死んでよ!」
焦って私の話を聞いている余裕がないのか、3人はひたすらに攻撃を繰り返す。
「この世界には魔力、霊力、自然力、精霊力のような様々なエネルギーが存在するわ。その全てのエネルギーの頂点に位置するのが……世界力よ」
「お願いだから死んでよぉ!」
3人は私に攻撃を行いながら泣き出していた。
「つまり、魔女にとって最も基本的な能力とは、あらゆるエネルギーをその身に吸収して世界力に変換することが出来る力」
「あ」
やっと私に起っている現象に思い当たったのか3人は呆気に取られたように呆けた。
「だから私はあなた達の攻撃を避ける必要もないし、防ぐ必要もない。この結界の中では確かに外部から世界力の補充は出来ないかもしれないけど、それならあなた達が攻撃として飛ばしてくるエネルギーを貰えば良いだけだもの」
「…………」
「しかも、通常のエネルギーを使った攻撃ではなく世界力を使った攻撃なら、態々変換する手間がない分、容易に吸収出来るのよね」
そう。魔女に対して世界力を使った攻撃を仕掛けている時点でエネルギーを分け与えているようなものなのだ。
ダメージなんて欠片も受けることなく回復していくだけだ。
おまけに私の場合は吸収して世界力に変換したエネルギーは即座に星に還元してしまうから、オーバーフローで自滅するということがない。
「これで少しは魔女のことが理解出来たかしら?」
本来、魔女同士が戦う場合はお互いに相手の攻撃エネルギーを吸収して回復してしまう為、戦いにすらならない。
だが、私と彼女達3人とでは前提条件が異なる。
「さぁ。お仕置きの時間よ」
「「「ひっ!」」」
確かに魔女はあらゆるエネルギーを吸収出来てしまうので攻撃は無意味だ。
だが、彼女達は世界力を無理矢理注ぎ込むことによって世界との繋がりが強くなって――自我が世界の意思に飲み込まれて世界の為だけに動く人形になってしまう危険を抱えている。
私が膨大な世界力を吸収しても平気なのは、私の魂が異界から来た魂という異物だからであり、この世界で生まれた魂を持つ彼女達では自我を強く持たなければ飲み込まれてしまう。
「結界解除」
私は指をパチンと鳴らして彼女達から貰った世界力を使って結界を解除してから、外部から世界力を吸い上げて――彼女達に向かって注ぎ込んだ。
「ひぎゃぁっ! やめ……やめてぇっ!」
3人は必死に抵抗しようとしたようだが、数秒抵抗しただけで直ぐに自我を世界に飲み込まれて世界の人形と化した。
「弱っ……」
やはり先生以外の魔女は自我が弱過ぎる。
だが、これで20のダンジョンの全てを運営していた魔女にお仕置きを施すことが出来たわけだが、やはり肝心の裏切りの魔女は姿を現さない。
(まずは、この3人に道案内させて、各自が管理していた迷宮都市を封魂結界で囲んで後始末をしましょうか)
直ぐに何も起こらないというのなら、まずはやることをやってしまおう。
◇◇◇
「というわけで、世界中に点在していたダンジョンは残らず破棄することに成功したのですが、肝心な黒幕の所在は分かりませんでした」
私はティーナを連れて先生の許にダンジョン攻略の報告に訪れていた。
「ふぅ~ん。それで、ダンジョンから回収した世界力で少しは星のエネルギーは貯まったのかい?」
「それがサッパリです」
各ダンジョンのダンジョンコアに使われていた世界力の解放には成功したものの、管理する魔女の限界値までしか世界力を蓄えられない制約の為か、そんなに大した量のエネルギーは回収出来なかった。
「それなら、その黒幕とやらを倒せば、膨大な量のエネルギーが手に入るのかい?」
「それも望み薄ですねぇ」
裏切りの魔女がどの程度の力を持っているのか知らないが、一般的な魔女であるなら所持しているエネルギーを回収しても焼け石に水だろう。
「他にエネルギーを回収する算段は?」
「ありませんね」
「……駄目じゃん」
先生は大鍋をかき混ぜながら私の話を適当に聞き流している。
薬を作っている時の先生は基本的に人の話に惰性で頷いているだけで、真面目には聞いていないのだ。
「他に何か情報が入っていないですか?」
「最近は何処に行っても迷宮都市が壊滅したって話しか聞かないねぇ。あんたが暴れすぎなんだよ」
「ちゃんと隠密行動していましたよ」
「自分の正体を隠したって、世間が大騒ぎしているんだから、どうしようもないだろ」
それはそう。
「だって、ダンジョンなんてふざけた代物、1秒だって早く排除したかったのですもの」
世界を維持する為の世界力を使って、あんな物を作るなんて魔女に喧嘩を売っているとしか思えない。
「お前は、その黒幕を探すのかい?」
「そのつもりでしたけど、手掛かりは、もうないですね」
ダンジョンのマニュアルを魔女達に配っていたようだが、ダンジョンに潜伏していなかった以上、行方は分からない。
とはいえ……。
「多分、近い内に私に接触してくるでしょうから、その時に対処するつもりです」
「接触? して来るのかい?」
「恐らくは」
これは私のただの勘でしかないのだが、裏切りの魔女は私に注目しているし、近い内に私の前に現れる。
「自分で言うのもなんですが、私って魔女の中でも相当ですし、私に興味を抱かないということはないと思います。だから直ぐに近付いて来るでしょう」
「ふぅ~ん」
問題は、それが1ヵ月先か1年先か不明な点だろう。
不老不死の魔女の時間感覚で接触するのを待っていたら、いつになるか分からない。
「例えばですけど、先生が部屋の掃除をしろと言われたら……いつぐらいに掃除をしますか?」
「……気が向いたらだね」
これだ。
先生が自主的に掃除をするのを待っていたら平気で10年や20年は先送りされてしまう。
不老不死の魔女にはそれを待てるだけの時間があるのだから。
そういう感覚で待たされるのは――流石に困る。
俺は自分の部屋に戻り男に偽装してから――ティーナを抱き寄せた。
「あう。旦那様ぁ、いきなりは困ります~」
そう言いつつもティーナの態度は俺を拒否する姿勢は全く見られない。
というか、最近はダンジョン潰しに忙しかったからか、久しぶりに構ってもらえて嬉しそうだった。
俺はそのままティーナの身体を弄っていたのだが、ふとした瞬間にティーナと視線があい――ティーナが目を瞑ってキス待ちの態勢になる。
「んぅっ……!」
無論、俺は逆らうことなくティーナと唇を合せ、ティーナの口の中に舌を差し入れるとティーナの舌が待ち構えていたように俺の舌を絡め取って来た。
そのままたっぷりとディープなキスを楽しんでから――俺はティーナをベッドの上に押し倒した。
事後。
「~♪」
たっぷりと愛し合った俺達は裸のままベッドで抱き合って横になり、ティーナは御機嫌に俺の胸に頬をスリスリしてくる。
(そろそろ本格的に引っ越しを考えないとなぁ)
まだ昼間だというのにティーナの喘ぎ声を何時間も聞かされる隣室の住人からの苦情は既に日課となっている。
(そういや、冒険者ギルドでもいくつか物件を確保しているって聞いたな。俺ってエースだし、おっさんに言って家を貸し出してもらうか)
まぁ、きっと冒険者ギルドから近い位置にある物件で、緊急時には夜だろうと叩き起こされるという仕様なのだろうけど。
(でも、金もそんなにないし、格安で貸してもらうか)
「あんっ♡」
考えごとをしつつも俺はティーナの形の良い可愛らしいお尻を撫でる。
ティーナのおっぱいは日に日に大きくなっているが、お尻の方も引き締まっている割には柔らかくて、とっても触り心地が良い。
「あ。んっ……はぅっ」
ティーナは俺にお尻を撫でられるまま、抵抗もなく短く喘ぎ声を漏らす。
(うむうむ。ティーナの身体の開発は順調に進行中だ)
一般的には知らないが、俺はティーナを徹底的に開発して、俺専属の淫乱娘にしてしまっても良いと思っている。
他の奴には指一本触らせる気はないが、俺が触れただけで発情するエロ娘になってくれるのが理想だ。
幸い、魔女の設定によって俺の偽装した身体は絶倫と言える精力を持っているのでティーナを欲求不満にしてしまうことはない。
(引っ越したら近所への騒音とか考えずに一晩中やりまくるかなぁ♪)
「旦那様ぁ♡ 私、もう……!」
「おいで」
「~♡」
考えごとの途中、我慢が出来なくなったティーナが潤んだ目で俺を求めて来たので許可すると、ティーナは目を♡マークにして俺に襲い掛かって来た。
(すまん。隣室の住人達よ。今日も苦情は受け入れるから我慢してくれ)
完全に発情したティーナは俺の上に跨り、慣れた動作で合体して――リズムよく腰を振り始めた。
勿論、完全に発情して我を忘れたティーナに声を我慢するなんて意識が残っているわけもなく、部屋の中にはティーナの喘ぎ声が盛大に響き始めた。
◇◇◇
後日、引っ越す旨をセラに伝えると……。
「え? 引っ越すの? 確かに周囲の子達の苦情は凄かったけど、貴重な錬金術師に居なくなられると困るんだけど。所属までは変えないよね?」
「……善処する」
とりあえず錬金術師としてはまだ必要とされているようなので定期的に顔を出すことにした。




