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その4

「なんじゃと? なぜじゃ、これほどまでに美しい天使なのに、おぬしは何を言っておるのじゃ」


 ふくれっつらになるジェラードを、じいやがたしなめました。


「ジェラード様、お行儀が悪うございますぞ。ルージュ様は、ジェラード様にアドバイスを送ってくださっているのですから、聞いておかなければご自分が不利になりますぞ」

「むぅ……」


 じいやに言われて、ジェラードはしぶしぶルージュの顔に目をやりました。しかし、ルージュはいたずらっぽい笑顔で首を振るだけでした。


「なんじゃ、おぬし、アドバイスをくれるんじゃなかったのか?」

「アドバイスはもうあげたでしょう? どうするかは、ジェラードさんが決めていいのよ。そうしないと、面白くないでしょ?」


 またしてもふくれっつらになるジェラード。少し考えこんでいましたが、やがて天使のコンポーネントを手に取りました。


「おぬしのアドバイスなど不要じゃ! わらわはわらわの道を行くぞ!」


 そう言って、ジェラードは貴族の令嬢『マリアンヌ』に天使のぬいぐるみを贈ったのです。ルージュは面白そうに笑って言いました。


「残念ね。得点は1点のみよ」

「なにっ! なぜじゃ?」


 驚くジェラードでしたが、ルージュは『マリアンヌ』のカードを指さし説明しました。


「ほら、ここを見てちょうだい。マリアンヌの好きなぬいぐるみは、もこもこの羊よ。それに、好きな色もピンクだわ。だから白い天使のぬいぐるみを贈っても、マリアンヌにはあんまり興味を持ってもらえなかったってわけね」

「むむむ、そういうことだったのか……」


 歯がみしてマリアンヌのカードを見るジェラード。それに対して、ルージュはすまし顔で、令嬢の『シータ』にくまのぬいぐるみを贈りました。


「むっ、その令嬢は!」

「そうよ。好きな色はブラウン、ぬいぐるみはクマが好みなの。つまり、わたしの作ったぬいぐるみと相性バッチリだったってわけ。これでわたしの得点は7点ね」

「そんなに点数が高いのか!」


 青い目を見開くジェラードに、ルージュは白い指を軽く振ってうなずきました。


「そうよ。だからこのゲームは、誰にどんなぬいぐるみを贈るのか、ちゃんと計画しなくちゃいけないのよ。それに、資金繰りもよ」

「資金繰り?」


 ぽかんとしているジェラードでしたが、ルージュはじいやに目をやり言いました。


「じいやさんを見てればわかるわ」


 じいやはボードをしばらく眺めていましたが、やがて場にある緑色の綿をすべて購入したのです。ジェラードが面白そうに笑います。


「じいや、そんなに綿ばかり集めて、どうするつもりじゃ?」

「ジェラード様、ご自分のふところと、ご令嬢たちをよくご覧になってくださいませ」


 けげんそうな顔をするジェラードですが、ルージュにもうながされて、盤面をよく見ます。白雪のような真っ白な肌が、だんだんと青ざめていくのが見て取れました。


「ここにいる令嬢ども、みんな緑が好みではないか!」

「それだけじゃないわ。ジェラードさん、ご自分の資金を確かめてみて」


 ジェラードが急いでコインを数えます。それから盤面の素材とにらめっこして、またもや青い顔になってしまいました。


「わらわの手持ちの金では、何も買えぬではないか!」

「4つのアクションがどれもできなければ、アルバイトをするしかないわね。これで5金もらえるけど、製作レベルは下がっちゃうわ」

「なんじゃと!」


 頭を抱えるジェラードの肩を、ルージュがはげますようにポンポンッとたたきました。


「でも、次は5金プラスされているから、何かしらの素材は買えるわよ。今度は盤面をよく見て、ちゃんと計画を立てて素材を購入しましょうね」


 しょげ込むジェラードですが、ルージュがこっそり何か耳打ちします。とたんに顔がパァッと明るくなりました。


「それはまことか?」

「ええ、それもこのゲームの勝ち筋の一つよ。……さ、アドバイスは終わり。ここからは自分で考えてくださいね」


 鼻息荒く腕まくりするジェラードを、じいやはたしなめようとしましたが、その手を引っこめほほえみました。真剣に盤面をながめるジェラードに、じいやは軽くうなずきました。


 ラウンドごとに、それぞれのプレイングの傾向がだんだんとはっきりしていきました。ルージュはとにかく堅実に、盤面の令嬢たちに一番合ったぬいぐるみを贈っていきます。じいやは、ぬいぐるみをどんどん売り、そのお金で高価な資材や、製作レベルが上がる道具を購入して、高価なぬいぐるみを作成するスタイルのようです。そして、ジェラードは……。


「今度はこの『シャルロット』に、金のライオンのぬいぐるみを贈るぞ!」

「シャルロットはライオンは好きだけど、好きな色は青みたいね。残念ながら3点よ」


 なぜか盤面の令嬢たちの好みは無視して、最上級のぬいぐるみを作り続けていたのです。じいやが片眼鏡に軽く触れて、それからふぅむと考えこみました。


 ――なるほど、ジェラード様、考えましたな――

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