その2 ~インスト~
ルージュとジェラード、そしてじいやのテーブルは、いつの間にか人だかりの中にありました。『ルージュのおとぎボドゲカフェ』に来るお客さんの多くは、ルージュ目当てなのですが、特にルージュがゲームをしているすがたは一番人気なのでした。
「レオさん、ごめんなさいね」
「いいってことよ」
他のお客さんはレオさんに任せて、ルージュはジェラードとじいやに目をやりました。テーブルの上には、なんだかすごいかわいらしいゲームが広げられています。
「ほぉー、これはまた、ずいぶんとかわいらしいコマだのぉ」
ジェラードが、ものめずらし気にコンポーネント(ボードゲームに使う道具のこと)をいじっています。綿や布、糸などが、小さくかわいいミニチュアになっているのです。ルージュは仰々しく、ジェラードとじいやに言いました。
「今からお二人には、ぬいぐるみの仕立て屋さんになっていただきます」
「ほう、ぬいぐるみの仕立て屋か」
ジェラードの青い目が輝きます。じいやも片眼鏡をいじくり、興味深そうに聴き入っています。
「はい、ぬいぐるみの仕立て屋さんです。お二人は、そしてわたしも、ぬいぐるみの仕立て屋となって、貴族のご令嬢に気に入っていただけるような、そんなかわいらしいぬいぐるみを作る。このゲーム『シルクの天使たち』は、大まかに言えばそのような流れになっております」
「貴族の令嬢? おい、それならばわらわはせぬぞ。なぜ王女にぬいぐるみを届けぬのだ?」
「ジェラード様!」
じいやがあわててジェラードを止めます。ジェラードもハッとして、口をふさぎました。ルージュはくりくりした目をぱちくりさせましたが、ふふふと笑って答えました。
「もちろん、王女様にもぬいぐるみをお届けすることになりますよ。このゲームの一番の醍醐味はそこなんです」
ルージュの説明によると、『シルクの天使たち』では、貴族の令嬢たちにぬいぐるみを届けていき、そこで名声を得るとともに、うわさを広めていくというのです。うわさが王女の耳に入ったら、王女から直々に依頼が入ります。そこで気に入ってもらえるようなぬいぐるみを作れたら、高得点を得られるという、そういうゲームの流れでした。
「ほほう、それは面白そうじゃ! スノーホワイトの名に懸けても、これは負けられない勝負じゃのう」
「ジェラード様」
「ああ、いや、なんでもない」
ルージュはまたもやぽかんとして、ジェラードを見つめました。
――そういえばこの子、どこかで見たことがあるような――
「とにかく、早く始めるぞ! 細かなルールは後回しじゃ」
「あ、ちょっとお待ちください。最低限のルールだけお伝えしますから」
ルージュの説明したルールは次のようなものでした。
『シルクの天使たち』ルール
①このゲームは全部で6ラウンドあり、1ラウンドで4回アクションを行うことができます。アクションは時計回りに一人ずつ行います。
②アクションは、『ぬいぐるみの素材を買う』『ぬいぐるみを作る』『ぬいぐるみを売りに出す』『ぬいぐるみを令嬢に贈る』の4つです。順々に見ていくと……。
『ぬいぐるみの素材を買う』
場にランダムに出されたぬいぐるみの素材を買うことができます。素材は、高級なものほど品質のいい(つまり、令嬢たちに受けがよかったり、高値で売れる)ぬいぐるみを作ることができます。また、素材には色がついていて、令嬢ごとに好きな色が異なります。
『ぬいぐるみを作る』
自分が持っている素材を使って、ぬいぐるみを作ります。最初は製作レベルが低いですが、製作レベルを上げる素材を買ったり、単純に何度もぬいぐるみを作ることで、製作レベルを上げることができます。製作レベルが高いほど、より品質のいいぬいぐるみを作ることができます。
『ぬいぐるみを売りに出す』
自分が作ったぬいぐるみを、一般市場に出して売却します。これにより、お金を得ることはできますが、令嬢に贈ることはできないので、得点にはなりません(ここが一番のポイントです)
『ぬいぐるみを令嬢に贈る』
自分が作ったぬいぐるみを、社交界の令嬢たちに贈ります。プレゼントなので、お金は当然もらえませんが、得点をもらうことはできます。さらに、令嬢たちのうわさポイントも上がり、このポイントが一定数を超えれば、王女様とコンタクトを取ることができます。そうなれば、ぬいぐるみを王女様に贈ることも可能です。
③ぬいぐるみの設計図は、キャラクターによって違います。キャラクターによっては、材料費を押さえるかわりにあまりセンスがよくないぬいぐるみを作ることや、製作費は高いけれどもすごくかわいらしいぬいぐるみを作ることもできます。キャラクターはランダムで決まりますが、プレイヤーごとに相談して選んでもらっても構いません。
④最終的に6ラウンド終えて、一番得点の高かったプレイヤーの勝利です。注意すべき点としては、『お金は得点にならない』というところです。ちなみに余った素材も得点にはなりません。得点はすべて、令嬢や王女様にぬいぐるみを贈ることでしか得られません。