その1
おとぎ連合国の城下町に、新しくオープンしたカフェがあります。このカフェは、普通のカフェとは少し違います。なんとこのカフェ、ボードゲームをしながら、おいしいお菓子を食べられるという、夢のようなお店なのです。しかもそこの店長が、とっても優しくってかわいらしいので、人気が出ないわけがありません。『ルージュのおとぎボドゲカフェ』という名前のカフェには、今日もたくさんのお客さんがやってきています。
「ルージュお姉ちゃん、このゲームどうやって遊ぶの?」
小さな女の子が、栗色の髪の毛の女性にたずねます。赤くて大きなリボンは、まるで少女のように見えますが、これでも立派な店長さんなのです。ルージュという名前のその女性は、くりっとした目で女の子とそのグループを見ました。
「これはね、『お菓子の家を作ろう』ってゲームなのよ。やりかたを教えるわね」
白くて細い指で、お菓子の絵柄が描かれたパズルのようなパーツを、ルージュはつまんで女の子たちに教えていきます。
「ルージュちゃん、こっち、おとぎのワインをおくれ」
「レオさん、まだ飲むんですか? 飲み過ぎないでくださいよ」
女の子たちに手をふって、ルージュは慣れた手つきでお酒をグラスにそそぎます。
「ルージュちゃんもどうだい?」
「あら、わたしこれでもまだ14歳よ? お酒なんて飲めないわ」
おとぎ連合国では、お酒は20歳からです。じろりと見るルージュに、レオさんはもうたじたじです。
「わかってるさ。飲めるようになったら、いっしょにぜひ」
「お店のこと、いっぱいお手伝いしてくださるんなら、考えておきますね」
おとぎ連合国は、ルージュのように若いころから働いている人が多くいました。それでもルージュはかなり若いほうで、やはり一人ではお店を切り盛りできません。なので、お店の近くに住んでいる人たちに、手伝ってもらっているのでした。
「約束だぜ! じゃ、おとぎのワイン飲んだら、そこのぼうずたちにゲームを教えてやるとするか」
おうへいな態度のレオさんに、ルージュはまゆをつりあげました。軽くため息をついてから、お店の中を見てまわります。
――レオさんったら……。でも、レオさんたちがいるからこそ、『ルージュのおとぎボドゲカフェ』はやっていけるんだわ――
とある理由から、ルージュはおとぎ連合国の女王陛下、スノーホワイト七世に『ルージュのおとぎボドゲカフェ』を任せられました。ですが、お店こそ与えられましたが、お店の運営はルージュが自ら考えて進めなければなりません。
――わたし一人だったら、ずっと赤字だったと思うわ――
女王陛下はルージュに援助をご提案してくださったのですが、ルージュは丁重にお断りしました。ボドゲカフェは、みんなで作っていくものだと思ったからです。それこそ、ボードゲームと同じように。
――ワオンさん、今ごろどうしてるかしら? また一緒にボードゲームしたいなぁ――
ルージュにボードゲームを教えてくれた、オオカミのワオン(おとぎの森に住んでいる、とっても優しいオオカミさんです)のことを思い出し、ルージュはもう一度フーッとため息をつきました。
「のう、そなた。わらわにもその、ボードゲームとやらを教えてくれぬか?」
聞きなれない声と言葉遣いに、ルージュは一気に現実へと引き戻されました。ふりかえると、いつの間にか女の子が、タキシードを着た老紳士とともにお店の入口に立っていたのです。
「え、あ、はい! どうぞこちらへ」
あわてて席に案内しながら、ルージュは女の子と、老紳士を観察します。フリルのリボンがたくさんついた、美しいドレスをまとったその少女は、どう見ても貴族の令嬢そのものでした。それに、白銀の長い髪の毛に、白雪のような真っ白な肌は、まさに目も覚めるような美しさです。ルージュよりも年下、10歳くらいでしょうか?
――大変だわ、まさかわたしのお店に、貴族の方が来られるなんて――
女王陛下にはお会いしたことがありますが、ルージュは貴族となんてまったく縁がありませんでした。うまく接客できるか、胸がどきどきしてきます。しかしそこはボドゲカフェの店長、ルージュです。しっかりポーカーフェイスで、動揺を見せませんでした。
「それでは今日は、どのようなボードゲームをお探しですか?」
「楽しいやつがよいな! あとは、そうじゃ、かわいらしいのもよいの。なぁ、じいや」
「ジェラード様のおっしゃる通りかと」
あいまいな言い方でしたが、それでもルージュはすぐに頭を回転させて、パァッと笑顔を浮かべました。くりっとした目を輝かせて、はっきりした声で答えたのです。
「それでしたら、お客様にピッタリのゲームがございますよ!」