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本気な狂気が恐怖で好き

作者: 一色 良薬

 相変わらずすごいな。

 隙間なく膨れた角形A4封筒。田所は分厚い中身を取り出し、つらつらと綴られた文章に瞬きを繰り返した。


“猛暑が続く日々ですがいかがお過ごしでしょうか。八月が終わりに近づいていますが、秋の訪れを感じられない気候に田所さんの体調管理が心配になります。今年は熱中症で救急搬送される方が大勢いるとニュースで報道されていました。適度に水分補給などをして無理せず活動していただけたらと思っています。”


“話が変わりまして。先日田所さんが出演された舞台を拝見させていただきました。田所さんが演じられたキリシマですが、普段とは一風変わった配役でしたので作品として見るまでは想像もつかなかったのですが、圧巻の憑依力でぐっと惹きこまれました。特に歪んだ闇の中で生きているキリシマが、対照的なヤギリと互いの信念のぶつかり合いをする長台詞対決には痺れてしまいました。”


“田所さんが先日番宣に出られた時におすすめ品として紹介された、やななしの水ようかんを取り寄せて食べました。つややかでさっぱりとしたあんこの甘味。さわやかな柚子の味わいが隠されていて、今の季節にぴったりの和菓子でした。田所さんのおかげで新しい美味しい和菓子に出会えました。ありがとうございます。”


「毎月飽きずに送ってくれるよなぁ……この人」

 数十枚にわたる熱量高い手紙に目を通しつつ、封筒に書かれた名前をちらりと見る。

 本名ではないハンドルネームが記されており、その隣には丁寧にアカウントIDも付属されている。

 自分はこういうもので怪しいものではありません。ただ純粋に応援しているだけです。

 手紙や分かる範囲で開示された個人情報から伝わる遠慮さ。の中に潜む熱狂的な狂気の純粋な好意が怖いとは思う。

(でも嬉しいよな)

 十年経っても売れてない舞台俳優を見ていてくれるなんて。怖さよりも重たい愛が嬉しい。

「もう少し頑張ってみるかぁ」

 狂気が続くまではこの世界で。

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