セントラルダンジョン報告会です
「おっと、カルア君じゃないっすか。お久しぶりっすねえ。今日はお友達とご一緒っすか」
ダンジョンを出た僕達にそう話しかけてきたのは・・・ええと・・・
「スラシュさん?」
そっか、調査班として来てるってモリスさんが言ってたっけ。
「そっす。スラシュっすよ。覚えていてくれて嬉しいっす」
「あら、スラシュばっかりずるいわ。私もいるわよカルア君」
「ジェニさん・・・」
だったよね?
「ふふふ、よかった。私の事もちゃんと覚えていてくれたのね」
「あれ? 今日来てるのってお二人だけですか? 他の皆さんは?」
「ああ、エド達の事っすか。まあチームって訳じゃないっすから、一緒じゃない事のほうが多いんすよ。けど、今日はエドが一緒に来てるっす。エドは今ダンジョンの中に入ってるっすよ」
「えっ、エドさんひとりでですか?」
だって発見されたばかりのダンジョンだよ?
安全第一だからって複数人で入るんじゃないの?
「そうっす。まあ最初に3人で入って、最初の階層には魔物が出ないって分かったっすからね。今はそこで広さとかを調べてるだけっすから、ひとりで十分っすよ。で、我々はここでダンジョンの中と外とで連携してデータを取ってたっす。これで大体ダンジョンの外壁の強度とかが掴めたっすから、あとはエドが持ち帰ってくるダンジョンの規模感の情報とこのデータを持ち帰って任務完了っす」
なるほど・・・
「今回は扉と転送装置の設置が目的っすからね。調査って言ってもこんなもんっすよ。まあこれで早くて明日、遅くとも数日中には扉と転送装置が設置されるはずっす。そしたら後は上の判断でいつでも一般公開が出来るようになるっす。・・・カルア君たちはこれから帰るっすか?」
「はい、それからギルドに行って・・・あ、でもモリスさん出かけてるんだっけ? もう戻ってきてるのかな」
「うーん、どうっすかね・・・まあ帰りの道中もお気をつけてっす」
って事で、調査班の人達に挨拶して帰ろうとした時、
「あっそうだ、ねえカルア君ちょっといいかな?」
ジェニさんが話し掛けてきた。
「はい、何でしょう?」
「えっとね、ちょっと私あなたに個人的なお願いがあって・・・」
何処となく上目遣いっぽい感じで・・・
「今度でいいから、カルア君の・・・見せてくれる? 室長には上手くはぐらかされちゃったけど・・・ねえ、あなたのって凄いんでしょう? 私、あの時からずっと気になっちゃってて・・・すっごく興味があるの。ね、お願い。いいでしょう?」
「ちょっ! ジェニさん! 子供相手に何言ってるっすか!」
「ええっ、だって興味あるじゃない! スラシュだって気になるでしょ? カルア君の魔法」
「まっ・・・魔法? ・・・すか」
「だって私とスラシュしか反応しなかったフィラストダンジョンのトラップが反応してるのよ? 魔力だって相当のものでしょ? それに室長が直接指導してるって話だし、学校でも活躍してるみたいじゃない。時空間魔法師だったら将来私達の後輩になるかもしれないんだし、やっぱり気になるわよ!」
だよね! 魔法だよね!
・・・あーびっくりした。まだドキドキしてるよ・・・
「まったく・・・ビックリさせないで欲しいっすよ。ジェニさん自分で気づいてないっす? さっきのジェニさんの言葉と雰囲気、まるっきり若い子を誘惑する悪いお姉さんそのものだったっすよ?」
「ええっ何よそれ!? そんなこと・・・ある・・・はず・・・あれ?・・・でもそう言われると・・・ええと・・・」
ジェニさん・・・さっきの自分の言動を振り返って気づいたのかな。
真っ赤になって俯いちゃった・・・
どうしよう・・・
「えっと・・・モリスさんが一緒の時で、モリスさんの許可が出たらって事でいいですか?」
「ぅぅ・・・恥ずかしい・・・私ったらもう・・・」
「あの、ジェニさん?」
「どうしよう、カルア君の顔見れないよ・・・すっごく気まずいんだけど」
「ジェニさぁーん。もしもーし」
「ぅぅぅ・・・・・・はっ!?」
よかった、やっと気づいてくれた。
「ええっと、ごめんねカルア君、さっきのは違うの。私、そんなつもりじゃなかったの!」
「大丈夫です。分かってますから大丈夫です。それで、魔法を見せる話ですけど」
「うん」
「モリスさんの許可が出たらって事でいいですか? 多分モリスさんが一緒の時にって事になるとは思いますけど」
「そっか・・・うん、それはそうよね。じゃあそれでお願いね。今度室長にお願いしてみるから」
そして今度こそふたりに別れを告げ、僕達は王都に向かって歩き出した。
「カルア、誤解で残念だったわね」
ちょっと不機嫌なアーシュを宥めながら・・・
王都の某魔道具店。
マリアベルへの報告に訪れたモリスであったが、そこにはロベリーの暗躍によりチームカルアが全員集合していた。
そしてモリスはこの一連の出来事をチームカルアに報告する事になったのである。
「ほぅ、セカンケイブじゃあそんな事になっちょったんか」
「ふむ、まさかカルア君達の冒険でダンジョンの謎が解き明かされる事になろうとはな」
「それもそうですが、『主に愛の戦士ルピノス』ですか・・・一体何者でしょうか。クーラさんのお知り合いとの事ですが」
セカンケイブから戻ったモリスは、ルピノスの正体についてロベリーから強く口止めされていた。薄々「きっと言っちゃダメなんだろうなあ」と思っていたモリスだったが、これにより口外無用が確定したのである。
「まあ彼女の知り合いならば悪い人間ではないのだろう。ただ気になるのは、同じ日の夕方、うちのギルドでそれらしき人物の目撃情報があった事だが・・・」
謎の「はぐれたメタル」の目撃談である。
「ピノ君、君はあの目撃談について・・・ああそうか、君はあの日急用で出ていたのだったな。ちょうどルピノス氏らしき人物と入れ違いで戻ってきたのだから、その時の様子は見ていないか。・・・では街中ではどうだったかな? それらしき人物を見てはいないかね?」
「イイエミテイマセンガ」
「ふむそうか、まあヒトツメに現れた人物が『主に愛の戦士ルピノス』であったと決まった訳でもないしな」
「いやあ、なんとも謎の人物だねえ。あははははは」
ピノの大根っぷりに内心冷や汗を流すモリス。
そしてその後ろでそっとため息を漏らすミレアとロベリー。
しかしどうやら不審には思われなかったようで、
「まあカルア達を助けてくれた人物だからね、特に詮索する必要は無いだろうさ。それよりモリス、あんた今日はセントラルダンジョンに行ってきたんだろう? どうだったんだい?」
そのまま話題はセントラルダンジョンへと移っていった。
「ああ、カルア君のダンジョンね。うん、中々のものだったよ」
「カルデシのダンジョンじゃと? それっちゅうのは一体どういう意味じゃ?」
「ああ、まずはそこから説明しないとね。実はさ、セカンケイブの精霊からカルア君が頼まれ事をしてね・・・」
そしてモリスはセカンケイブから聞いたセントラルダンジョン構築の一部始終を面々に話して聞かせた。
「ほおぉーー、ダンジョンの構築とはカルデシのやつ、随分と面白い事をやっちょるのお!」
「はは・・・大きすぎる魔力で生まれたてのダンジョンが30階層にですか・・・」
「しかもダンジョンの精霊から管理者権限を奪い取ったの!? まったく本当に弟弟子くんってば・・・」
「・・・カルア君に妹・・・これは一度ご挨拶に行かなきゃ」
「ピノ様・・・いい? 相手は精霊だからね? もし相手が妹以上の関係を望んでも、話も聞かずにいきなり威圧とかしちゃダメよ」
「妹以上のっ!? そんな事あるのかな。ねえロベリー、そんな可能性あるのかな?」
ロベリーの不用意な一言で目がグルグルしたピノは、ロベリーの肩を掴んで詰め寄る。
「おっ・・・落ち着いてピノ様! 大丈夫、『もしも』の話だから! 妹だから!」
そんな微笑ましい一幕も挟みつつ、モリスの報告は進んでいった。
「まあそんな訳で、今日カルア君達は朝からセントラルダンジョンに行っているんだけど、ん? おや、ちょうどそのカルア君から通信が・・・はいはーい、カルア君どうしたんだい? ・・・ふんふん、ああそうか、ごめんごめん。でもそれだったらちょうどいいや。今校長のとこに来てるからさ、このまま君もおいでよ。今みんなにこれまでの事を話し終えたところだからさ、ここで今日の事を聞かせてくれるかい? ・・・うんそう、奥の部屋だよ」
そして満を持して、報告を待つ一同の前にカルアが現れた・・・
「こんにちはー。本当に皆さん来てたんですね」
「本当にって、いやだなあカルア君、僕が嘘つくわけないじゃないか」
「あはは、すみませんそう言うんじゃなくって、皆さんっていつも忙しいから」
ギルマスやピノさんまで来てるし・・・ギルドの業務は大丈夫? 受付もパルムさんひとりで・・・あ、パピさんたちが入ったんだった。じゃあ大丈夫、なのかな?
「ダンジョンには何と精霊が住んでいて、しかも王都にも新しいダンジョンが出来るという事ですからね。もちろんカルア殿が心配でというのもありますが、情報収集は当然仕事のうちですよ」
「ああ、なるほど」
そうか、確かにオートカさんの言う通りかも。
「うむ。それでそのダンジョンについてだが・・・カルア君、今日君が見て体験して来たセントラルダンジョンについて、これから聞かせてくれるかな?」
「はい。ええと・・・まず中に入ったらセカンがいて――」
「え? いきなり別のダンジョンの精霊が登場するの?」
「そうなんです。僕もビックリしたんですけど、一緒に見て回りたいからって、ラルに操化身を転移してもらったって言ってました」
「さすがカルデシ。初めっから普通じゃないのう・・・」
「それで、扉を進むとそこは草原や森になってました。眼の前には看板が立っていて、そこにはこの階層の利用制限やペナルティについて書かれていたんです」
「利用制限とペナルティ?」
「はい。子供と保護者専用フロアなので、それ以外の大人は利用禁止になってました。これが守られない状態が続くと、スタンピードを発生させるそうです」
「「「すっ、スタンピードぉ!?」」」
「はい、なのでギルドで注意喚起をお願いします。薬草や食材になる植物とかもたくさん生えているから、中にはルールを無視する大人も出るかもしれないので。本人は上手く誤魔化せてると思ってても、ラルには全部見られちゃってますよ」
「これは・・・きっちり管理しないとまずいね」
「さすがダンジョンの精霊、ペナルティがえげつないな」
「モリス、帰ったら奴に説明しときな。トップダウンできっちりやらせるんだよ!」
「はいもう了解ですよ。僕もこんなんでスタンピードとか起こされたくないからねえ」
「まあルールとマナーをちゃんと守ればすっごくいいエリアですよ。ピクニックとかにいいかも。あ、今度みんなで行きませんか? 全員僕の保護者って事でラルも許してくれると思いますから」
「がはははは、ダンジョンでピクニックとは何とも愉快な話じゃのお。ワシはその話乗ったぞ」
「ふん、まあ良いんじゃないか。落ち着いたら計画しようじゃないか」
やった!
「カルア君とピクニック、カルア君とピクニック・・・いいないいな。もう明日にでも・・・」
「ピノ様、明日は無理だから。それにこれは『みんなで』行くピクニックだからね。カルア君とふたりきりのピクニックはまた別に誘ったらいいじゃない。それだったら次の休みにとかでも大丈夫でしょ?」
「ロベリー天才! さすが聖女!」
「う、それ関係ないから・・・」
よかった、ピノさんも喜んでくれてるみたい。
「まあこの話はここまでだ。カルア、続きを頼むよ」
「はい」
次は下の階層についてだね。
「今話した場所は第0階層と呼びます。入ってすぐの注意書き看板の横には、下に向かう階段があります。一般の冒険者はここから下に進んでダンジョン探索の開始です。この階段は小さな子供は入る事が出来ないようになっています」
「はあ、何というか、親切設計だねえ。ダンジョンの説明を聞いてる気がしないよ」
「第1階層から第3階層まではバットとかラビットとかのヒトツメに多くいるような魔物ばっかりでした。なので、かなり簡単に進む事が出来ます」
「ふむ、まずは初心者向けエリアという事か」
「ええ。それを過ぎて第4階層、そしてその下の第5階層はゴブリンが中心のエリアでした。以前のセカンケイブダンジョンとほとんど同じ感じで」
「なるほど。順当だ」
「それで、第5階層ですけど、最後にゴブリンソーサラーがボスとして出てきたんです」
「ほほう、そのあたりもセカンケイブ準拠か」
「どうやらここまでが初心者向けエリアだったみたいで、階段を降りるとそこからが中級者エリアだと書かれた看板が」
「へえ、それはひとつの目安になるねえ。初心者は一旦そこで引き返せばいいって訳かあ」
と思うよね、ふつう。
「なんですけど、この階層が問題で」
「えええぇぇ、カルア君が『問題』なんて言うって、そんなヤバい階層なの!?」
「ええ。あれは本気でヤバいです」
もうすっごくね。
だって僕達手も足も出なかったし。
「出てきた魔物は全部コボルトの亜種でした。そして恐ろしい事に、それが色々たくさんの種類が出てきて、全部全部すっごく可愛いんです!」
「「「は!?」」」
「攻撃するのが躊躇われるどころか、攻撃するのを本能的に拒絶しちゃうんです。実際、僕達は1匹も倒す事が出来ませんでした。ひたすら逃げ回ってたんです」
「なんと・・・」
「可愛さが武器、という事か」
「何だろう、すっごく行ってみたいんだけど! ねえピノ様、これが終わったら一緒に行ってみない?」
「あ、じゃあ私も!」
「第6階層は小型のコボルト、そして第7層は大型のコボルトでした。どっちもみんなモフモフしてて可愛くって、それに表情や仕草も・・・」
「「「「きゃーーー」」」」
女性陣の食いつきが凄い。
全員・・・
「それでとうとう1匹も倒す事なく第8層への階段に辿り着いたんですけど、そこはコボルト達を倒さないと入れないようになっていて」
「何て事!」
「それでアーシュが怒っちゃって、クレームを入れる為にってラルの所に転移したんですけど」
「それでガツンと言ってやった訳ね」
「うんうん、よくやったアーシュ。それでこそあたしの孫だよ!」
「いえ、逆に言い負かされちゃったんです」
「「「「なんだってーーーっ!!」」」」
まあそれだけ聞けば驚くよね。
「ラルが言うには、ダンジョンで生み出す魔物にはどれも違いとかは無くって、可愛いかどうかは作る時のオプションで見た目を変化させてるだけ。作る側からすればコボルトもゴブリンも同じなのに、ゴブリンは楽しそうに倒してコボルトが可愛いからって文句を言うのはおかしいって」
「むう、確かにそれはその通りだろうけどさ・・・」
「ふむ、どちらの意見も理解できるな」
そうなんだよね、僕もどっちも間違ってなくってどっちも正しいと思ったんだ。
「それで、この階層では中級者としてやっていくための心と覚悟を試すのが目的だったそうなんですけど、1匹も倒さずにクリアするのも強さと覚悟を現しているからって、ルールを変更する事になったんです。それで条件付きボスの間っていうのを設置して、普通にコボルトを倒して辿り着いたら普通のボス戦、1匹も倒さずに辿り着いたら敵意を持たないコボルト達に囲まれて一定時間楽しく過ごせるようになりました。あれは楽しかったなあ・・・」
「カルア君、君たちもしかして・・・」
「ええ。みんなで可愛いモフモフ達に囲まれて、あれはすっごく幸せな時間でした」
「そうか、つまり1匹も倒さなければ私達も・・・」
「これはますます行かざるを得ないとしか」
「じゃあ早速・・・」
ピノさん達、今にも飛び出して行きそう。
でもちょっと待って・・・
「その後ラルと話をして、その中でちょっと方針変更っていうか、もう少し改善点があって」
「改善点?」
「ええ。いくら条件付きとはいえ、第5層でボスが出たのに第7層ですぐまたボスが出るっていうのはどうかって話になって」
「ああ、それは確かにそうだねえ。やっぱりある程度の法則性っていうのは必要だろうねえ」
「そうなんです。それで次のボスの間は第10層にするべきなんじゃないかって話になって、じゃあどういう構成にしようかって相談したんですけど」
「ごくり・・・それで、どうなったの?」
「はい。第6層と第7層でそれぞれ小型と大型のコボルト亜種、そして第8層と第9層では小型と大型のケットシー亜種が出てくる事になりました。そして第10層では――」
「第10層では?」
「それらすべてが出てきます」
「「「「「おおっ!!」」」」」
「いや待て、ではつまり条件付きボスの間では・・・」
「はい。・・・ご想像の通りです!」
「「「「「っ――――――!!」」」」」
シュンッ
「まあ僕達がダンジョンを出てから改造を始めたから、僕はまだその仕様の部屋は見てないんですけど・・・って、あれ!?」
ピノさんとミレアさんとロベリーさんがいない・・・ベルベルさんも・・・
「行っちゃったねえ」
「うむ。行ってしまったな」
「ああ、流れるようにピノの嬢ちゃんの周りに集まって転移して行きおった」
「まあ、楽しそうで何よりですよ」
「じゃあ僕達もこの辺でお開きにしようか。カルア君、他に伝えておかなきゃならない事ってあったかい?」
他に・・・は、もうないかな。
「これくらいだったと思います。あ、他のダンジョンの結界の改良に僕も一緒に行く事になったんですけど」
「ああ、セカンケイブ君に聞いたよ。日が決まったら連絡するね。オートカもセカンケイブの計測よろしくね」
「ええ、分かりました」
という事で、報告も無事終了。
さあ、明日からは学校の再開だ。
ってあれ? そう言えば校長先生がいないや。今日は不参加だったのかな?
王都近くのセントラルダンジョン。
その日、セントラルダンジョンの第6階層から第10階層にかけて、楽しそうな女性の声が一晩中響き続けたという。
「それがですね、ひとりとんでもないのがいたですよ。普通に襲いかかっていった魔物を一瞬で捕らえてモフり倒してからリリースしてったです。あれってキャッチ&モフ&リリースとでも呼べばいいです? お陰でうちの子たち、それからすっかり自信失くしちゃって」
これはさる筋より手に入れた、ダンジョンの精霊による証言である。
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