セントラルダンジョン探索です1
操化身から意識を戻したセカンケイブ。
「取り敢えずこれでセントラルも大丈夫ね」
色々想定外はあったけど、妹の成長にほっと胸を撫で下ろした。
「その様子だと、無事にダンジョンが出来上がったのかな?」
そんなセカンケイブに、ダンジョンコアを警護するために残っていたモリスが話しかけた。
「ええ。今頃あの娘、ダンジョン内にリソースを割り当ててるわね。最初にキッチリ設計してバランスを考えるってタイプじゃないから、トライアンドエラーっていうかビルドアンドエラーで楽しく組み上げてると思うわよ」
「へぇ・・・ダンジョンの構築っていうのも何だか楽しそうだ」
「ええ、楽しいわよ。まあそのダンジョンから外に出られないっていうのがその交換条件ってなると、ちょっと考えちゃうんだけどね・・・。今回はあなたにも随分とお世話になったわね、えっと・・・モラスさんだっけ?」
「モリスだよ! その間違い方はいただけないなあ。変な誤解を招きそうだよ。・・・僕は冒険者ギルド本部のモリス。一応カルア君の師匠だよ?」
「ふうーーん、じゃあつまり、カルアがあんな無茶苦茶なのはあなたの指導の賜物ってわけね」
若干ジト目のセカンケイブ。
「えええっ!? それはヒドい風評被害だよ! むしろ僕がいたからカルア君のあれがあの程度で済んでるって思って欲しいなあ。それに、もちろん僕もだけど、周りのみんなが相当頑張ってカルア君のフォローをしてるんだからね。胃に穴を開けながらさ」
セカンケイブのジト目に、モリスは心外だとばかりに心の内をぶちまけた。
と言っても、カルアのやらかしの一部にモリスの影響があるという事は否定できないのだが、それを全く意識していないところが実にモリスである。
だがそんな事情を知らないセカンケイブは、
「あら、それはごめんなさい。まあ確かに言われてみればその通りね。カルアのあれは見るからに天然だもの。あなたも苦労してるってわけね」
と、素直に謝った。
「ははは・・・この先もカルア君と付き合っていくつもりなら、君も覚悟した方がいいよ。きっと想像以上に苦労するだろうからね」
そして続くモリスの言葉に、セカンケイブは力無く同意する。
「ええ・・・そうね、私も何だかきっとそうなるような気がするわ」
「まあがんばってね・・・それで、あちらのダンジョンってどうなったの? カルア君が関わったのなら、きっととんでもない事になったんじゃないかって思ってるんだけどさ」
セカンケイブは先程までの出来事をモリスに話して聞かせた。ただしダンジョンコアへの付与を除いて。
「あっはっはっ、いやあまさか30階層とはねえ・・・うん、さすがカルア君だ。うぷぷぷっ・・・や、それにしても王都の近くにそんな大きなダンジョンが出来るなんてねえ。安全性とかは大丈夫なのかい? 暴走して氾濫とかしちゃったら困っちゃうよ?」
「コアの間はここと同じで完全に閉じちゃってるから、変な輩に侵入される事は無いわ。ダンジョンコアやあの娘に変な干渉さえしなければ暴走なんて起きる訳ないわよ」
セカンケイブの言葉にモリスはフムと考え、
「でもさ、ダンジョン内からだったらここに転移できるだろう? それってダンジョン内からならここに魔力で干渉出来るって事じゃない?」
その指摘はセカンケイブにとって盲点だったようで、
「そうか・・・そうかも。でもそれも閉じちゃうとカルアとかあなたもここに転移して来れなくなっちゃうし・・・」
「んーー、じゃあ転移だけ出来るようにしとくとかは出来る?」
「そうね、それだったら大丈夫か。うん、じゃあそうする。後でセントラルにもそうするように伝えとかなきゃ」
それからしばらくして、一通りセントラルダンジョンの状況を聞き終え笑い終えたモリスは、
「さて、それで今後の結界についてだけどさ、ふたつのやり方があると思うんだ。まあ多分君も同じことを考えてると思うけど」
「ええそうね、多分その通りだと思う」
「まあ一応言ってみると、まずひとつめはこの間話した通りダンジョンコアの結界に君たちが使う通信を通すよう改良する事。そしてもうひとつは・・・」
モリスの言葉にセカンケイブはニヤリと笑みを浮かべ、モリスの言葉を引き継いだ。
「ここやセントラルみたいにダンジョンコアを部屋ごと隔離する、よね?」
「うん、その通りだよ」
「そうなのよね、そもそも誰もここに来れなければコアだけ守る必要は無いって事でしょ? つまりここにはもう結界は張らなくって大丈夫、それにセントラルのところも同じ状況だから、コアにも結界はいらないって事になるわよね」
「うん、その一方で他のダンジョンは部屋を隔離するよりも結界を選択する可能性もあるよね。そこの精霊の希望や魔力の状況なんかによってさ」
ふたりはそれぞれ「うーん」と考え、
「まあ姉さんや妹達次第かな。それぞれ訊いてみるしかないわね。ただ魔力が足りないからって言われた場合はどうしよう。セントラルみたいにカルアに魔力注入してもらうっていうのもありだけど・・・それってみんな嫌がるかなあ?」
「うーん、どうだろうね。もしダンジョンコアに何らかの影響がでちゃうって事だったら、多少時間がかかっても『根幹の魔力』ってやつだけを使ったほうが良さそうな気もするしねえ。・・・まあでもさ、やっぱりそれも訊いてみるしかないんじゃない?」
「うん、どっちにしてもそれしかないわね」
と結論を出した。
「まあいずれにしろ、他のダンジョンにそれぞれ一度は行ってみないとね。そこで結界を改良したら、あとは君とそこの精霊とで話し合って決めてくれたらいいよ。ま、その為にはやっぱり君達の通信を調べる必要がある訳だから、この先やるべき事は予定通りと言えば予定通りって事だね」
セカンケイブは「そうね」と頷きながら、先程のカルアとの会話を思い出す。
「あ、そうそう。カルアもそこに同行する事になったから、よろしくね」
「ええっ、一体どうしてそんな話になったの?」
「私がお願いしたのよ。他の姉妹の操化身を作って欲しいって。それをセントラルのところに置いておけば、いつでも姉妹で会う事が出来るじゃない?」
「なるほど・・・ってちょっと待って!? それだと君たちの通信だけじゃなくって、その操作のための魔力も通すようにしないとダメじゃない! うわぁ、どうしようか・・・」
突然のクライアントからの仕様変更に頭を抱えるモリス。
要望に対する難易度についての開発者の気持ちは、大抵「それ簡単に言っちゃダメなやつ!」である。まあその逆の場合も割とあるのだが。
「カルア君の付与だから時空間魔法か土魔法なんだろうけど・・・感覚関連は『遠見』かな。で、人形を動かすところは土魔法、だけどこれは多分人形側で制御してるだけだろうね。だったら送るのはイメージと魔力だけかな。うーん、それでもちょっと開ける穴が大きくなりそうな・・・」
方法を模索するモリス。
「それだったら使用者登録の方が現実的かな。幸い対象が姉妹5人だけだし。・・・うん、それで行こう。オートカには精霊たちの魔力パターンを計測してもらったらいいかな。結界具にホワイトリスト機能を追加して、そこに5人分の魔力パターンを登録しちゃおう。うん、これだったら既存のコードを流用出来るから、オートカだけじゃなく僕のほうの作業も簡単になりそうだ」
「どう? 何とかなりそうかな?」
考え込んだモリスへ心配そうに声を掛けるセカンケイブ。
そんな彼女に満面の笑みを浮かべたモリスは、
「君達姉妹全員の魔力パターンを結界に登録するよ。そうすれば通信だけじゃなくって君達の全ての魔力が結界を通るようになるからね」
と胸を張って答えた。
途端に表情を明るくするセカンケイブ。
「ああ、それいいわね。だったらついでに『根幹の魔力』も結界を通るようにしてくれない?」
「うーん、根幹の魔力、かあ・・・調べてみてからじゃないと何とも言えないけど、まあやってみるよ。君の計測をする時に一緒に計測してみよう」
「うん、お願い」
こうして話を終えてセカンケイブを後にしたモリスは、その後ギルド本部に戻ってきたクーラと情報交換を行った。
そしてマリアベルにアポイントを取り付け、翌日マリアベルの店にてセカンケイブの報告を行う事となったのだが、彼の秘書であるロベリーが裏から手を回し、その報告はチームカルア全員集合の中で行う事となったのである。
さあ、今日はラルが作ったダンジョンを攻略する日だ。
いつも通り学校に集合して、そのまま森へ出発!
そして森に入った僕達は、やがてダンジョンの入口に到着したんだけど、そこには・・・
「あれ? モリスさん?」
ええっ、ここで一体何してるの!?
「いやあ、カルア君おはよう! それにみんなもおはよう。その顔は、何故僕がここにいるんだろうって考えてるね? その答えは、『仕事に来た』のさ。新しいダンジョンが出来たんだ。入り口に転送装置を設置しなきゃいけないだろう?」
「ああ! なるほど!!」
言われてみれば、確かにそうだよ。
「今日このあと調査班が、そして明日には設置班が来るけど、その前に先ず僕が直接下見にってね。僕はこれから校長と会う約束があるからもうちょっとで帰るけど、君たちはダンジョンに入るんだろう? 調査班には君達の事は伝えてあるから、もし会ったら声を掛けてあげてくれよ。カルア君は会ったことあるよね。ほら、以前フィラストダンジョンの調査に行ったメンバーだよ」
ああ、あのにぎやかな人達。スラシュさんとジェニさんと、・・・ほとんど印象に残ってないけど、確かあと3人いたはず・・・
「今日のダンジョンの感想はまた今度聞かせてよ。じゃあみんな、頑張ってねーー」
モリスさんと別れた僕達は、そのままダンジョンの中へ。
もちろんまだ転送装置は無いから歩いてね。
「さあ、一体どんなダンジョンになってるのかしらね! カルア、あんたの妹だから色々やりすぎたダンジョンになってたりしてね」
「いや妹って言ったって一緒に育った訳じゃないんだからさ、別に性格が似るとかは無いと思うよ? って僕だってやり過ぎとかしないからね?」
多分・・・
「まああんたのやり過ぎに関しては取り敢えず置いとくとして――」
置いとくんだ・・・
「あの娘昨日言ってたよね、中身ほとんどあんたになっちゃったって。それってもう、似るとかそういうレベルじゃない気がするわ」
「それ魔力の話じゃ・・・」
「そうよ、魔力の話よ。でもねカルア、その魔力ってあんたのなのよ? なら何があっても不思議じゃないでしょ」
「うう」
そう言われると・・・そうなのかな。
「カル師、魔力もきっと、カル師色。わたしの事も染めてみる?」
「ちょワルツ! またあんたはどさくさに・・・」
「あははは、でも楽しみだよね」
「ああ、早く入ろう。どんな魔物が出るのか楽しみだ」
そして入り口の間の奥の扉を開くと、
「お子様専用フロア」
と書かれたでっかい看板が立っていた・・・
◇◇◇◇◇◇
お子様専用フロア
このフロアはちいさなおともだちのフロアです。
みんなでなかよくさいしゅするですよ。
こちら(地下第一階層)は15歳未満のお子様とその保護者の専用エリアです。
一般の冒険者の方はそのまま下のフロアにお進み下さいです。
[注意!]
ルール違反が多発する場合は厳正に対処するです。
セントラルダンジョン運営
◇◇◇◇◇◇
・・・
うん、なるほど・・・
そしてその看板の横には、「下のフロアはこちらから」の立て札が立っっている階段が。
「一応僕達も対象年齢に入ってるみたいだけど、どうしようか?」
「ちょっとだけ見ていきましょ。このフロアだってセントラルがせっかく作ったんだから、ちゃんと見て感想を言ってあげなさいよね、『お兄ちゃん』」
って事で、ちょっと散策してみる事に。
「へえ、この辺りは私のダンジョンと似てるかも」
「そうだねセカン・・・ってセカン!? いつからいたの?」
すぐ横から聞こえてきたセカンの声に普通に応えたけど・・・さっきまでいなかったよね?
僕のすぐ横、目線の高さに浮かんでるんだけど・・・
「さっきセントラルから、あなた達が来たって連絡があったのよ。それで私も一緒に見て回ろうかと思って操化身に入ってね。ここへはセントラルに転送してもらったってわけ。ねえアーシュお姉さま、私もご一緒していいでしょ?」
「ええ、いいわよセカン。一緒に行きましょ」
「やった!」
こうしてセカンも一緒に行くことに。
そのセカンが言った通り、この辺りはまるで外みたいに草原や森があって、セカンケイブダンジョンにそっくりだ。
草原から川原沿いに進んで森へ。
優しい木漏れ日の中をみんなで歩いて・・・何だかまるでピクニックに来たみたい。
「ふうーん、なるほどなるほど・・・」
セカンがしきりに頷いてるのは?
「どうしたの?」
「うん、さすが子供向けだけあって、危ない魔物とかは全然いないなあって。セントラルってばちゃんと考えてるじゃない」
「ああ、そう言えば魔物とかいないね。時々小鳥の声が聞こえてくるくらい?」
うん、すっごく長閑でいい雰囲気だよね。
「それに薬草とか香草とか、ちゃんと本来の植生に合わせて生やしてるし、森林マイスターの私の目から見ても十分合格点をあげられるわ」
セカン、いつからそんな肩書を?
通信講座で資格取ったとか?
「さっきの川も浅くて流れも穏やかだったし、子供達にはいい遊び場になりそうね。あ、でも子供が下層への階段を降りちゃわないよう工夫が必要ね」
「あはっ、セカンって子供向けの仕事とかが向いてそうだよね」
だってさ、さっきから指摘が的確すぎるよね?
「ふふふ、何言ってるのよカルア。ダンジョンなんてある意味子供向け施設みたいなものでしょ? 冒険者ってみんなおっきな子供みたいなものだし」
・・・否定できないかも。
「実際そんな冒険者達をこれまでずっと見てきたからね。これからはその経験を活かして大人気ダンジョンに上り詰めてやるんだから!」
そんな話をしながら、そしてみんなと今度はホントにピクニックに来ようかなんて約束をしながら、一回りして下層への階段の前まで戻ってきた。
うん、ここはすっごく良い所だったと思う。
あとでラルにもそう言ってあげるつもり。
「じゃあそろそろ本番ね。みんな、ここからは気を引き締めて行くわよ!」
そして僕達は階段を降りる。
◇◇◇◇◇◇
セントラルダンジョンへようこそ
さあ、ここからいよいよ冒険のスタートです。
この第2階層から最下層の第29階層まで、進むごとに難易度が高くなるですよ。
油断してるとホントに死んじゃうですから、みんな十分注意するです。
[注意!]
そこのあなた、本当にその装備で大丈夫です?
問題ないとか言ってる奴から死んでくですよ?
セントラルダンジョン運営
◇◇◇◇◇◇
何て言うか・・・すっごくラルらしさが溢れてるって感じ?
「微妙に緊張感が削がれるわね、これ」
「あはははは・・・」
直球の感想を漏らすアーシュ。そして、
「でもまあ、注意喚起は大事だよね。その先は受けとる側の責任かな」
「注意一秒、怪我一生。死して屍拾う者無し。生きて帰るのが冒険者」
「装備か・・・確かに装備は目的や状況によって見直すべきだ。この言葉、案外深いな」
クールな反応のノルト、クーラ先生の言葉をちゃんと覚えてるワルツ。あとネッガーには案外響く内容だったみたいだ。
「あなた達、無理はしないようにね。明日からは普通に授業があるんだし、帰りに掛かる時間も計算して、早めに撤収する事。いいわね」
クーラ先生からは先生らしい注意が。
そっか、明日からはまた学校かあ。
何だか久しぶりっていうか、変な気分・・・
武骨な石壁の通路で出来たダンジョン。
何処と無く光が広がり、結構先の方までよく見える。
所々にある扉を開くと、小部屋になっていたり通路が続いていたり。
ダンジョンって聞いたら最初に思い浮かべそうな、そんなダンジョン。
「何て言うか、これこそダンジョン!って感じじゃない?」
「そうだね。頭に思い浮かぶダンジョンのイメージそのまんまって感じ」
そんな僕とアーシュの感想を聞いたノルトが、
「ああそうか、これもつまり『本格派ダンジョン』って事なんじゃない?」
「なるほど・・・確かにそんな感じかも」
「ふーん・・・セカン、あんたの妹、結構やるわね」
「ありがとうアーシュ姉さま。セントラルは私の自慢の妹よ」
そんな感じで進んでいくけど、まだ階層が浅いだけあって出てくる魔物は弱くて少ない。
バットとかラビットとか、あとは時々ウルフとか。ほとんどが単体で出てくるあたり、初心者向けの階層なんだろうなあ。
そんな感じで進み続け、次は第5階層。
魔物はだんだん強くそして頻度と群れの数が増えてきた。そろそろ初心者向けは終わりかな?
「今何時だろう・・・そろそろお昼くらいかな? みんな、このあたりで休憩しようか」
「そうね。階段を降りる前に食事にするわよ」
ボックスから屋台で買ったご飯を出して、みんなでほっと一息。
「これ、私が見てきた冒険者の食事と違う・・・」
そんな僕達を見ていたセカンの感想だったけど、まあ普通はみんな携帯食だからね。
「セカンもどう・・・ってゴメン、操化身じゃ食べられないよね」
「まあそれはいいんだけど・・・今度うちでご馳走してくれれば」
「・・・んーー、分かったよ。じゃあ今度行った時にね」
「うん、楽しみにしてるわ」
お昼ごはんを終えた僕達は階段を降りる。
帰り時間を考えたら、あと2~3階層くらいが限界かなあ。
まあ転移なしで、だけどね。
年末年始は毎日更新!!
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