セントラルダンジョンを探します
「それで、今日突然集まる事になった理由って、結局何だったの?」
場が落ち着いたところでピノは質問を投げ掛けた。
突然の女子会開催、会場はミレアの部屋。
そしてメンバーは前回と同じく、ミレア、ピノ、ロベリーの3人である。
「目撃情報があったの」
「目撃情報?」
「そう、今日この王都でピノ様とカルア君が仲睦まじくデートをしていたという目撃情報が」
「なっ!?」
驚くロベリー、そしてそっと目を背けるピノ。
「予定ではカルア君はまだフタツメにいるはずよね。それが今日は王都でデート? どういう事なのか、きっちり聞かせてもらえるかしら?」
「学校行事をサボって彼女とデートとか、カルアくんって実は不良くん? っていうかパーティの子達はどうしたのよ」
そう、今日ピノが呼び出された理由、それは女子会という名の女子裁判。
裁判長ミレアと判事ロベリーに対し、被告人ピノは身の潔白を証明する為、セカンケイブでの出来事を包み隠さず証言する事となった。
「そっか、室長が一昨日突然どっか行っちゃったのって、あれセカンケイブに行ってたんだ・・・帰ってからすごく忙しそうにしてたし、訊いても上手くはぐらかされてたから・・・けど、やっと分かったわ」
納得するロベリー。そして、
「なるほど。じゃあ昨日セカンケイブ攻略から戻って今日は一日休みだったって事か。それなら取り敢えず今日のデートについてピノ様は無罪って事でいいわね。じゃあ次は突っ込みどころ満載のセカンケイブの話をしましょうか」
何とか無罪判決を勝ち取ったピノは、ほっと息をついた。
「まあ色々と聞きたい事はあるんだけど、まず一番はコレよね」
そう言ってミレアとロベリーは目を合わせて軽く頷き、
「「『主に愛の戦士』って何よ!?」」
彼女達にとって最も重要なのは、隠しダンジョンの存在よりもダンジョンの精霊よりも、どうやらそこだったようだ。
「だって・・・『愛の戦士』って言い切っちゃうと何だか恥ずかしいっていうか・・・それにカルア君がいたし・・・後で正体がばれた時に気まずいかもって思って・・・だから『愛だけじゃないよ』って・・・」
「うーん、何だか分かるような分からないような微妙な理由ね・・・要するにピノ様、逃げ道を用意しときたかったって事?」
「はうっ!」
微妙な乙女心を一言で切って捨てられ、思わず胸を押さえたピノ。
「逃げ道にはなってないけどね」
「ひぐっ!?」
そのまますかさず止めを刺された。
「まあそう名乗ってしまった以上は、この先もそれで押し通すしかないわね。それで、『愛』以外の設定もちゃんと考えてある?」
「う・・・ない」
「じゃあそれは後で一緒に考えましょ。で、次だけど・・・わたし的には『撲撲棒』っていうのが気になってるのよね」
応用魔法研究所は魔法の軍事転用を主とした組織である。
その所長であるミレアは、仕事柄武器に対する情報は見過ごす事が出来ない。
「これがそうなんだけど・・・今朝、私の分にってカルア君が作ってくれたの。王都に来る前にヒトツメの森に行って試したんだけど、打撃感って言うのかな、これで魔物を打った時の感触がすっごく楽しいの」
ピノから撲撲棒を受け取ったミレアは、
「ほほう・・・うん、視えない。やっぱりロベリー式かあ。ちょっとロベリー、これ視てもらえる?」
自身は通常の付与しか視ることが出来ないため、そのままロベリーに手渡した。
「ええっと・・・ふーん、なるほどぉ・・・仕組みは単純だけど、発想が面白いわね。当たった瞬間に多少の負荷だけを残した差分のベクトルを発動させる事で、棒を最後まで強制的に振り抜かせるようになってるわ。発動は相手に接触している間だけだから、体への負担は無さそうね。・・・へぇ、棒同士の場合はベクトルを打ち消し合うのか。これは多分訓練用かな」
聖女の目でカルアの付与が丸裸にされる。
「へぇ・・・これは確かに発想の勝利って感じかな。ねえロベリー、この棒のコピーは作れる?」
「ええ、ギルドに行けば出来ると思う。もちろんカルア君の魔石じゃなくって抜いた魔石のほうで作るって事でしょ?」
「流石分かってるう! それでお願いね。時間がある時でいいから」
「りょーかーい」
「じゃあ次だけど・・・精霊とかってのはピノ様は見てないのよね?」
「そうなの。そのあたりは私が帰ってからの出来事で、全部カルア君から聞いた話なのよ」
「精霊については、明日にでも室長を問い詰めてみるわ。もうここまで聞いてるからって言えば、室長も今更惚けたりしないでしょ」
「それだったら私も一緒にモリス先輩を問い詰めたいわね。じゃあさ、ししょーのところに集まって話すように段取ってくれる?」
「あ、でもちょっと待って。明日カルア君達がセントラルの探索に行くって言ってたから、どうせならその結果と一緒に聞いたほうがよくない?」
「ああ、そのほうがいいかも」
「そうね、じゃあ次の日曜日か月曜日あたりかな? どうせモリス先輩の事だから、ししょーにはセントラルの事もすぐに報告するでしょ。そこに私たちも同席しましょ」
そして次の話題へ。
「じゃあ次はメタルピノスーツについてね。実戦投入してみてどうだった?」
「うん、何の問題も無かったよ。動きを妨げる事も無かったし、魔力弾も問題なく使えたし。それにしゃべっても私って気付かれなかったから、多分声も違って聞こえてたと思う」
「ふむふむ」
「魔力の消耗は前よりも減ったかな。これはロベリーが調整してくれたから?」
「そうね。カルアくんってまだ最適化とか考えてないんじゃないかな。でもまあそれはこっちでサポートしてあげればいい事だし、今はまだカルアくんは自由にやったほうがいい結果になるような気がする」
「ああ、それはあるかも。弟弟子君って興味と善意で無邪気にやらかすって感じ? そこが魅力なのよねー」
「えっ!? 魅力ってまさか・・・」
「あははは、もちろん恋愛感情とかじゃないから安心して。なんてったって私には愛するオートカ先輩がいるんだから。弟弟子君はあれよ、見ていて楽しいとか微笑ましいとかそんな感じ。ふふっ、驚かされるのも込みでね」
一瞬「まさか!?」と思ったピノだったが、軽く笑い飛ばしたミレアの言葉に胸を撫で下ろし、自分の早とちりに思わず苦笑した。何しろ相手は数年に渡る大恋愛を成就させたばかりのミレアなのだから。
そしてそのミレアから、
「さて、それじゃあそろそろ本題に入りましょうか。ピノ様、今日一日のカルア君とのデートの報告を。何処に行って何をして、何を話して何を感じたか。全て聞かせてもらいましょうか」
その横で同じく身を乗り出すロベリーも、
「ふっふっふ、これはあなたの為なのよピノ様。あなたの恋を前進させる『ピノカルプロジェクト』、その成功の鍵はリアルタイムの情報共有にあるのよ!」
そのふたりの表情を見て、ああこれは逃げ場無いやつだと悟ったピノは、今日一日のカルアとのアレコレを話し始めるのだった。
今日はセントラル探索の初日。
昨日はとっても楽しかったけど、気持ちを切り替えていかないとね。
「おはようアーシュ」
学校の門の前でアーシュとバッタリ。
「おはようカルア。みんなももう集まってるみたいね」
ホントだ、門の向こうでノルトとワルツとネッガーが手を降ってる。おはよー。
僕たちも合流して挨拶してると、そこにクーラ先生も到着。
「みんなおはよう。昨日はゆっくり休めた? 体調は大丈夫? じゃあ森に出発するわよ」
で、フタツメの街で毎朝やってた流れそのままに森へ出発!
「クーラ先生、ギルド本部ではどんな話になったんですか?」
道すがらアーシュが先生に質問した。
僕も訊こうと思ってたところだったから丁度よかったよ。
「そうね、驚いてはいたけど疑われる事は無かったわ。まあ報告したのが私とモリスさんのふたりだったからね。ただギルド以外への説明ではそうはいかないだろうから、王宮や各機関への説明は慎重に進めるみたいよ。ギルドとしては今まで通りダンジョンとは共存して、精霊と約束した結界の改良を進める方針になりそう。あなたたちのセントラル探索もギルドからの依頼扱いとなるわ。当然他の冒険者には非公開の極秘依頼としてね」
お伽噺が現実になったようなものだから、きっと大変なんだろうなあ。
あれ? でも・・・
「精霊がいるっていうだけで、結局今まで通りって訳にはいかないんですか?」
だってダンジョンはそのままそこにあり続ける訳だし。
「うーん、意思疏通が出来るっていうのが大きな問題なのよね。セカンケイブダンジョンが精霊との話しで不人気ダンジョンから資源ダンジョンに変わったでしょ? お伽噺だったらめでたしめでたしで終わるところだけど、実際は・・・」
「利権争いが始まる、か・・・」
利権争い?
「さすがにアーシュは分かるか。そうなのよね、精霊とコンタクトをとって自分に都合の良いダンジョンに作り替えさせる事が出来れば、途轍もない利益を得る事が出来るわ。当然誰もがそれを望むでしょうね」
「それが利権・・・」
「そう。そしてその争いにダンジョンの精霊が巻き込まれたりしたら、それが大きな災いを引き起こしかねないの。それこそ、怒り狂った精霊達によって、全てのダンジョンが一斉にスタンピードを起こすとかだって、可能性としては十分考えられるわね」
「ちょっ、全ダンジョンのスタンピードとか怖すぎるわよ!」
「でしょ? だから一般に公開するのは、勝手にダンジョンの精霊にコンタクト出来ないようにキッチリ下準備してからになるわ。法や制度、あと設備とかもガチガチに固めてからって感じね。それに精霊達とも話をしておかないとね。だからこの探索も結構重大ってわけなのよ。という事だから、もちろん私もだけどみんな頑張ってね」
森を散策しながらのんびり探して・・・なんて思ってたのに、いきなり責任重大だよ。
セカンからもお願いされてた事だから、絶対見つけるつもりだったけどさ。
そんな話をしているうちに森に到着。
「じゃあ森全体を『俯瞰』して、それっぽいところを探してみるわよ」
まずは僕とアーシュで探してみたけど・・・
「ホントにあるのかしら? それっぽいところがどこにも見当たらないんだけど」
僕もアーシュもダンジョンを見つける事が出来なかった。
ダンジョンだったら視えない空間として認識できるはずなんだけどなあ・・・
モリスさんもそれでセカンケイブの『真なる最下層』を見つけたって言ってたし。
こんな時は・・・
「ノルト、何か良いアイデアはない?」
「うーん・・・あ、セカンに訊いてみたら? アーシュだったら連絡出来るんじゃない?」
「どうかしら? あたしから連絡ってした事ないのよね・・・『セカン、聞こえる?』・・・・・・返事無いわね。やり方が違うのか、聞こえてないのか・・・」
「あ、あの時モリスさん結界を戻さなかったっけ?」
「ああ、そうかも。だったら結界に邪魔されてて届かないんじゃない?」
「そっか・・・じゃあ次の策。カルア君、みんなでセカンケイブに転移して直接訊いてこようか」
ダンジョンの中に直接転移する事は出来ないから、転移先はダンジョンの入口だよね。
って事で転移するためにセカンケイブの入口を遠見したんだけど、あれ? 誰もいない?
もしかして森ダンジョンになった事って、まだ公開していないのかな?
まあいいや。丁度良いからこのまま転移しちゃおう!
ダンジョンの前に転移した僕達は、いつもみたいに入口の転送装置でダンジョンへ。
中に入ったら、そこからボスの間に転移っと。
「セカンー! 来たわよー!」
「わっ! 来てくれてありがとうアーシュ姉さま!」
アーシュが声を掛けた瞬間、ダンジョンコアからセカンが飛び出してきた。
ふふっ、アーシュってばそのまま抱きついてきたセカンに困ってるみたい。
どうしていいのかしばらく考えていたみたいだけど、左手を軽くセカンの背に回して右手でその頭を撫で始めた。
それですっごく嬉しそうな顔になったセカンは、そのままアーシュの胸に横顔を押し当てて・・・ふふっ、何だかホントにちっちゃな子供みたい。
暫くそうしていたセカンだけど、ようやく満足したみたい。
アーシュから離れて、
「それで今日はどうしたの、アーシュ姉さま?」
「ええ、ちょっと訊きたいことがあってね。さっき王都の森にセントラルを探しに行ったんだけど、時空間魔法に反応がなかったのよ。それでどうやって探せばいいのか困っちゃってね」
セカンはちょっと考え、
「うーん、もしかしてまだダンジョンになりきってないのかなあ。その状態だと魔力は素通ししちゃうから、普通の地面と同じ反応になっちゃうと思う」
「それじゃあ森を全部見て回らないと見つけられないって事? あたし達そんなに時間を掛けられないわよ?」
「私が近くに行ければあの娘の事を感じ取れるんだけど、私はここから動けないし・・・あ、ちょっと待って! アーシュ姉さまを通して感じ取ることだったら出来るかも! ちょっと繋げて・・・あれ? 繋がらない? あ、そうか。結界かあ・・・」
やっぱりさっきのも通信も結界が邪魔してたって事か。
「ねえ、この間の人に結界を止めてもらってくれないかな? セントラルを探す間だけでいいから」
「この間の人ってモリスさん? ちょっと待って、一度ダンジョンから出て通信具で訊いてくる」
「分かった。頼んだわよカルア」
ダンジョンの入口の間に転移して、転送装置でそのまま外へ。
「モリスさん聞こえます?」
通信具に呼び掛けると、
『聞こえるよー。カルア君達今日はセントラルを探してるんだよね。もしかしてもう見つけたの?』
「いえ、見つけられなくって探し方を訊きにセカンのところに来たんです。そうしたらセカンがモリスさんに結界を止めてもらえないかって」
『なるほど。じゃあ今からそっちに行くよ。今セカンケイブの前かな?』
「そうです」
『りょーかーい。じゃあ今行』
「くよーー」
今日はしゃべってる途中で転移して来るパターン。
「じゃあ中に入ろうか」
「やあやあお待たせセカン君。結界の改良は待たせちゃってすまないねえ。数日中に調査に来る予定になってるから、もうちょっとだけ待っててね。それで今日は結界を止めればいいのかい?」
「ええ、そうなの。アーシュ姉さまを通じてセントラルの気配を感じ取れると思うんだけど、その為には結界がね」
「なるほど。通信と同じように遮断しちゃうわけか。了解了解、ちょっと待ってね」
そう言ってモリスさんはダンジョンコアの結界具を操作、そして結界を停止させた。
「これで止まったよ。ちょっと試してみて」
「ええ。じゃあアーシュ姉さまに接続・・・うん、大丈夫!」
「よし、じゃあ僕は暫くここで待機してるよ。さすがにこのままここを離れるわけにはいかないからね。君たちは探索よろしくね」
「はい、出来るだけ急いで見つけてきますね」
「あ、そうだ。ちょうどいいからここを改装しちゃおっと。この部屋だけ森っぽくないのが気になってたのよね。じゃあ・・・、改・装っ!」
セカンの魔力が部屋に溢れ、ボスの間は光に包まれた。
その光が収まると・・・
「何よコレ!? 急にお洒落な部屋になっちゃって! これもうボスの間じゃないわね!」
部屋がお洒落な丸太小屋の中みたいになっちゃった。
「もう今更ダンジョンボスなんて用意する必要ないでしょ? ここは私の憩いの場にするわ。ついでにあなた達以外入れないように閉じちゃいましょ。あ、あの監視の魔道具はもう要らないから撤去しちゃってくれる? さすがに憩いの場をずっと覗き見られるのはいい気分じゃないから。もうここへはあなた達しか入れないんだからいいでしょ?」
「はは、了解。じゃあカルア君達がセントラル君を探している間に取り外しとくよ」
もしかしてこれって、さっきクーラ先生が話してた『誰でもダンジョンの精霊にコンタクトできちゃう』問題が解消しちゃったって事?
「よし、じゃあ行くわよみんな。カルア、転移よろしく」
こうして僕達は再び王都の森へ。
「セカン聞こえる? ・・・ええ、今森の中よ。セントラルを感じ取れる?・・・・・・ホント? どっちの方向? ・・・あっちね、距離は? ・・・なるほど。ちょっと待って、今俯瞰で確認してるから・・・あ、あれかな? 小さな洞窟みたいなのが見える。・・・うん、じゃあ行ってみるわ。・・・ええ、また後でね」
アーシュとセカンでセントラルの場所を見つけたみたい。
「見つけたわ。森の真ん中くらいの場所よ。じゃあ行きましょう」
そして僕達は森の中をひたすら歩いて、ようやくそれらしい場所に辿り着いた。
木々の中に大きな岩が鎮座し、その岩には人ひとり何とか通れそうなくらいの小さな穴が空いてるんだけど・・・
これダンジョン?
絶対奥行きが足りないと思うけど、ホントにダンジョン?
なんて考えてると、突然頭の中に女の子の声が!?
『ここはダンジョンじゃないですよー。だから早くここから離れるですよー。セントラルダンジョンなんてここには無いですよー』
あ、これ間違いないな・・・
こうして僕達は、セントラルダンジョンを発見した。
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