全ての適性を調べた途中結果です
今日はお肉祭りだった。お肉食べ放題だった。
どの料理もシンプルだけど、味付けとかすごい工夫してあるみたい。
何をどうしたらあんな美味しい味になるのかさっぱり分からないけど。
うん、すごかった。
楽しい時間は過ぎるのが早い。ほんっとうに早かった。
美味しい食事と楽しいおしゃべりが一区切りしたところで、もうピノさんは家に帰る時間。
「カルア君、そろそろ私帰りますね。カルア君は今日大変だったんだから、ちゃんと寝て、体を休めなきゃだめですよ?」
「はい。ピノさん、今日もありがとうございました。とっても美味しかったです。外は暗いので家まで送りますね」
「ありがとうございます。じゃあお言葉に甘えて、コホン・・・、カルア君、私を家まで送っていただけますか」
「はい! もちろんです!」
ピノさんの家に向かい、二人で歩く。
しゃべっていても楽しい。無言でも楽しい。
ピノさんもそう感じてくれてるといいな。
「ねえカルア君」
「はい、何でしょうピノさん」
「魔法、楽しい?」
「はい! まだ何ができるって訳でもないですけど、何だか『まだ自分にもできることがある』って思えるのがすごく嬉しいんです。これまでいろいろと行き詰ってたので」
「そっか・・・そうですよね。カルア君、これまでずっと頑張ってましたもんね」
自分でも頑張ってきたと思う。
他の冒険者のみんなから冒険者についていろいろ教わったり、剣術の心得のある人からは練習方法とかも教わったり。図書室で本も読んだ。
そして教わったことをすべて実際にやってきて・・・なんとか辛うじて人並みといえるくらいにはなれたと思う。
「『まだできることがある』・・・か。そうですね、うん! カルア君も頑張ってるんだから、私ももっともっと頑張らないとですね!」
「ピノさんも何か頑張らないといけないことがあるんですか?」
するとピノさんはいつもの笑顔で、
「それはそうですよ。だって生きてるんですから」
ピノさんを家に送り届けての帰り道。
僕はさっきのピノさんの言葉を思い出す。そして、
『生きること? なんだ、また難しいこと考えてるな。そうだなあ、どんなことを成し遂げたいとか、どんな人間になりたいとか、まあそんな夢を持つってのもいいことだと思うぜ。だけどな、夢なんて絶対じゃないんだ。嫌になったらやめたっていい。別の夢に乗り換えたっていい。大事なのはな、夢をかなえることなんかじゃあない。死ぬ時になって自分に納得できるかってことさ。どうだ! 精一杯生きたぜ! ってな』
そんな主人公の言葉も思い出す。
そっか、僕だけじゃないんだ。みんな頑張ってるんだ。
ところで、ピノさんももしかしてあの本読んだのかな?
今度訊いてみよう。
そして家に到着。
今日これからやることはもう決まっている。
そう、光と土だ。
まず最初に調べるのは光の適性。
何故かって? それはもちろん、土に適性があったらそのままガラスを作ってみたいから。そのために砂をたくさん持って帰ってきたんだからね。
部屋の明かりを消し、ほのかに明るい外の光が入らないように全部の窓を閉め切って、最後に部屋の扉も閉めた僕は、手探りでテーブルまで辿り着き、椅子に座ったところでふと思った。
何で最初に明かりを消したんだろうって。
今日の部屋の明かりはテーブルに置いた手燭だったのに。
気を取り直して調べ始めよう。
ええっと、確か「目に魔力を集めて前が見えるようになったら適性あり」だ。
注意点は、まず「寝ない」。これは気を付けなきゃ。まだ次があるんだから。
それと「人生を振り返らない」。さっき十分振り返ったから、きっと大丈夫。
よし、目に魔力を集める!
・・・目に魔力を集める?
ってどうやるの?
魔力を外に出すのはできる。魔力を使うのもできる。回復でいつもやってるから。
でも体の中の魔力を使うことなく移動だけさせる? それって、どうやればいいんだろう?
体の中の魔力を目まで動かそうと、色々やってみる。
「うごけーうごけー」って。
10分くらいやってると、魔力がもそっと。あ、今のって動いた!?
今の感じでもう一度やってみると、今度ははっきり動くのが分かった。これか!
そこからもう10分くらい魔力と格闘して、目に魔力を集めることができた。
さあ、どうだ!?
見える! やった! 光は適性が・・・あれ? 見える? いや見えない。見えてないよ。でもなんだこれ? 見えてないのにどこに何があるのか完全に分かる。
これってどういうこと? 光の適性、あるの? それともないの?
まただよ! なんで『ゴブま』に書いてないことばっかり起きるのさ! もうっ!
光はこれで終わりにして、土の適性を調べる準備を始める。
テーブルの上に、中央に一掴みの砂を盛った皿を置いた。
「砂の形が変われば適性あり。形の指定にも挑戦」だったな。
よし、魔力を・・・あれ? 魔力、ずいぶん減ってる。さっきまでの半分くらいしか残ってないぞ。光の適性のときに使ったってこと? 目に集めただけなのに? うーむ、また謎が増えた。
いや今は土の適性だ。今度こそ砂に魔力を注いでみよう。
・・・動いた。
砂の表面が水の波紋みたいに波打って・・・
これって絶対動いてるよね!
よし一回落ち着け僕。
あれやってみようあれ。「自分の思い浮かべた形への変化」ってやつ。
思い浮かべる形は・・・ピノさん!
・・・は難しいから、レンガみたいな四角形にしよう。
四角くなった砂を思い浮かべながら、僕は砂に魔力を注ぎ続ける。
すると、砂が少しずつ形を変え・・・
「おお、四角くなった」
魔力を止めると、サラサラの砂は山の形に戻った。
間違いない、砂は僕の魔力で形を変えた。
ということは・・・
「土属性、適性あり・・・」
僕はニヤけるのが止まらなかった。
「土属性、適性あり!」
「土属性、適性あり!!」
「適性ありっ!!やったあーーーーーーーっ!!!」
僕は徐々に冷静さを取り戻した、のだと思う。
やりたい事があったのを思い出したから。
それは・・・
「ガラスを作ろう」
そして、皿の上の砂に向かい・・・
「あれ? どうやって?」
そう、適性があったって錬成のやり方を知らない。
なぜ今までそれに気づかなかったんだろう?
やりかたを知らなきゃ出来る訳ないじゃん!
僕はガックリと肩を落とし・・・でもそれで終わらないのが今日の僕、土魔法使いカルアだ。
「今日の魔力トレーニングは土魔法でやってみよう」
具体的にはどうするか。
さっき砂を四角くしたのと同じ感じで、「ガラスになれー」って思い浮かべながら魔力を注ぎ続ける。
魔力を使い切ってから更に使おうとするっていうのがトレーニングなんだから、別に問題ないはず。もしそれでガラスにする事が出来たらラッキー、くらいの気持ちで。
そして僕は砂に魔力を注ぎ続け・・・、今日も寝落ちした。
目が覚めると、あたりは薄暗い。
まだかなり早い時間のようだ。
それでもすっきりと覚醒した僕は、このまま起きることにした。
「早起きでこれだけ気持ち良く目が覚めるなんて、今日はいい一日になりそうな気がする」
そうして部屋の窓を開けると・・・
太陽は真上近くまで上っている。あれ? もう昼近い?
「そうか、完全に締め切ってたから・・・」
そう、光の適性を調べるため、すべての窓を完全に閉めていたことを忘れていたんだ。
この時間まで寝てたんだから、それはすっきり目が覚める訳だ。
いい一日どころか、その一日はもう半分を終えようとしているよ!
と自分にツッコんだところで気づいた。
「おなかすいた」
昨夜大量に食べたお肉のおかげで今までぐっすり眠れたけど、さすがにこの時間ともなればおなかも空く。
今日もピノさんが用意しておいてくれた朝ごはん、いやもう昼ご飯か。
ごちそうさまでした。
食器を片付けるついでに、昨日の砂も片付け。
砂の皿を持ち上げたとき、妙な違和感を感じた僕は、砂をそっと指でつついてみた。
「やっぱり・・・この形で固まってるよこれ」
そう、皿の上で小さな山になっていた砂は、そのままの形で塊になっていたんだ。
「これもギルマスに報告しなくちゃ」
片づけを終えると、荷物の中に砂の塊を入れ、僕はギルドに向かった。
「ピノさん、こんにちは」
「こんにちはカルア君。朝来なかったから今日はお休みするのかと思ってましたよ」
「それが実は・・・」
光の適性を調べるのに部屋を閉め切っていたら、部屋が暗くて朝になったことに気付かず、さっきまで寝ていたことをピノさんに伝えた。
「ふふふ、そうだったんですね。でもこれだけ寝てたってことは、やっぱり体は疲れてたんですよ。どうです? たっぷり寝て、体軽くなりました?」
「はい。今日はすごくすっきりした寝覚めでした」
「ならよかったです。からだ大事に、ですよ。冒険者なんですから」
「それで今日はギルマスとお話しされます?」
「ええ。そうできればと思って来ました」
「じゃあ、ちょっと待っててくださいね」
奥に行ったピノさんはすぐに戻ってきて、
「大丈夫だそうです。こちらへどうぞ」
今日もお茶を用意してくれたピノさんと一緒に、個室のソファに座っていると、
「カルア君、待たせた」
部屋に入ってきたギルマスはそう言って向かいに座る。
「それじゃあ早速聞かせてくれ」
僕はまず、光の適性を調べていた時のことを話し始めた。
「真っ暗な部屋の中、目に魔力を集めました。魔力の動かし方とか全く知らなかったので、最初はそのやり方を探すところからでした」
「そうか。君はまだ魔力操作も知らないのだったな」
「魔力操作?」
「そうだ。魔力を使うには、まず魔力を操作する方法を学ぶところから始まるんだ。あらためて考えると、君は順序が滅茶苦茶だな。なぜそれで魔法が使えてるんだ?」
「使えるって言っても、見よう見まねの回復だけですから」
「いやそれが一番不思議なんだが・・・まあそれはいい。それからどうなったんだ?」
「色々試行錯誤しているうちに、目に魔力を集めることは出来るようになりました。それで部屋の様子を見ようとしたんですが、見えないのに見えたんです」
「見えないのに見えた・・・というのは具体的にどんな感じか教えてくれるか?」
「目では全く見えていないんです。それなのに、頭の中にははっきりと部屋の様子がわかったんです。これって何なんでしょう?」
僕の言葉に、しばらく考え込むギルマス。
「あくまで推測だが、それは光魔法ではなく時空間魔法かもしれんな」
「時空間魔法ですか?」
「うむ。カルア君、この間一緒に森に行った時、私が離れた位置にいる魔物を探し出したのを覚えているか?」
「はい、もちろんです。凄くびっくりしましたから」
「うむ、その時、『時空間魔法でも似た事が出来る』と言ったが、その魔法の初歩ではないだろうか」
「そうか、それで見えないのに分かるように・・・」
「先ほど言った通り、あくまで推測だ。今はまだな。だがもしそうであれば、カルア君、そのあと魔力は減っていなかったか?」
「あ、減っていました。半分くらいになっていたので、何故だろうって不思議だったんです」
「魔法として発動したのだったら、魔力を使うのは当然だろうな」
ギルマスのその言葉に、すごく納得した。僕の抱えていた疑問は解消された気がする。だから、
「ギルマス、僕やっぱり早く時空間魔法の詳しい人に会ってみたいです」
「ああ、そうだな。これなら早いほうがいいかもしれん。もう一度頼んでみよう」
「ありがとうございます。すみませんが、よろしくお願いいたします」
「もちろん構わない。以前も言ったと思うが、私自身が知りたいのだ」
ここでお茶を一口。そして次の話題へ。
「そのあと、土魔法の適性を調べました」
「そちらはどうだった?」
「それなんですが、ギルマス! 僕適性あったみたいです!」
「なんと! 土魔法の適性とはすばらしい。詳しく聞かせてくれ」
僕は砂が波紋のように波打ったこと、四角い形を指定してその通りになったことを話した。
「うむ、それならば適性があることは間違いないだろう」
「それでですね、昨日はそのままその砂に向かって魔力トレーニングをやったんです。そうしたら、朝になって砂がこうなっていました」
僕はそう言って、取り出した砂の塊をギルマスの前に置いた。
「これは・・・」
ギルマスは手に取って砂の塊を見まわした。そして指ではじいてその音を聞き、
「ガラスになりかかっているようだな」
「本当ですか?」
「うむ。この状態ならば、おそらく錬成の最初の段階だと思う。これで魔力さえ足りていれば、ガラスになるのかもしれんな。カルア君、もちろん君は錬成も知らないのだったな」
「はい。昨日は『ガラスになれー』って念じるような感じで魔力を注いでました」
「なるほど。効率は高くないが、方法としては間違っていない。敢えて極端な言い方をするなら、つまり魔法とは思い浮かべた事象を具現化することなのだから」
「それって、何でも思い通りにできるってことですか?」
「まあ『極端な言い方をするならば』だ。実際はそこまで単純でも万能ではない。それ故に効率的な魔力の使い方というのが研究されているのだ。錬成もその結果方法論として体系化されている。つまり、『手順が用意されていて、学ぶ事が出来る』のだ」
「僕、学びたいです。知りたいです!」
「わかった。そちらもすぐに手配しよう。しばらく待っていてくれ」
「はいっ」
そうして僕はその日を待つ。生活の合間にひたすら魔力トレーニングを繰り返しながら。
言われてするようなものじゃないとは思いますが、実はブックマークはひとり増えるごとに2ptもらえるんです。(チラッ)
あと、評価をもらえると凄く励みになります。(チラチラッ)
もしよかったら、このあとほんの数秒だけお時間を下さい。