僕達に訪れた突然の危機、そして
セカンケイブダンジョンの攻略を開始して今日で10日目。
スティールはまだ進化しない。
うーん、このまま続けてて、本当に進化するのかな・・・
それでも踏破する時間はちょっとずつ短くなって、今日はこれが2周目。
それももう第5層まで終わったから、今回も後は最下層の6階層目を残すだけだ。
さあ、マジシャン君とソーサラー君、今日もよろしく!
――スキルが進化しました
「きたぁぁぁぁ!!」
思わず叫んじゃった・・・
「カルア! もしかして!?」
「進化、したのか?」
「そうなの、カルア君?」
「きた?」
「うん、今『進化しました』って・・・ちょっと待って・・・」
確認、確認・・・僕のスキル・・・っと見えた!
――コアスティールDp3
「やった! ちゃんと『Dp3《デプススリー》』になってる!」
「やったじゃない!」
「おめでとうカルア君!」
「ああ! おめでとうカルア!」
「カル師、おめ。祝☆進化」
みんな・・・
「うんっ! ありがとうみんなっ!!」
それにクーラ先生も。
「よかったわねカルア。頑張った甲斐があったじゃない」
「はい! ありがとうございます!」
そして暫くその場でみんなからの祝福を受けて・・・
「さあみんな、お祝いはここまで。そろそろ気を引き締めなさい。ここはダンジョンの最下層なんだから。この続きはボスを倒して街に帰ってから、ね。今夜は盛大にやるわよ!!」
「「「「「はいっ!」」」」」
よーし、そうと決まったらソーサラー君はささっと倒しちゃって・・・
うん、今夜が楽しみ!!
そしてボスの間に到着。
これが最後かなって思うと、ちょっと感傷的になったり。
もうここには何回来ただろう・・・少なくとも30回以上は来たんじゃないかな。
ここのソーサラー君ともすっかり顔馴染みで・・・思わず挨拶とかしちゃったり?
『よく来たナ。待っていたゾ』
「「「「「はあぁぁぁ!?」」」」」
「ちょっと、今しゃべったのって・・・コイツよね?」
「うん、僕にもそう見えたけど・・・クーラ先生?」
是非ご意見を!
「うーん、確かにしゃべる魔物もいるけど・・・でもゴブリンソーサラーがしゃべるなんて聞いた事が無いわ」
しゃべる魔物・・・初めて見た・・・
『フン、何を驚いていル。まさか言葉を理解するのが自分達だけだとでも思っていたのカ?』
「そんな事はないけど、しゃべるゴブリンソーサラーってのはあなたが初めてよ。それであなた、私達に話し掛けてきたのは何が目的かしら?」
驚く僕たちの前で、普通に話し始めるクーラ先生。さすがです。
『・・・夢を見タ。 何度も何度も殺される夢ダ。 ある時は剣で斬らレ、ある時は棒で殴らレ、またある時は素手デ・・・そしてワタシを殺すのハ、いつも必ずお前達だっタ』
待って、まさかそれって・・・
『そしてその夢の最後に母は言っタ。お前達とは戦ってはいけないト。会話し命を燃やしなさいト』
「命を燃やす? いえその前に『母』って誰?」
『母は母ダ。ワタシや同胞達を生みしこのダンジョン。全ては母より生まれ母のもとに帰ル。故にワタシ達は母の言葉には決して逆らわなイ』
「ダンジョンが・・・母・・・」
『だからワタシはお前達と会話しタ。だから次はワタシの命を燃やス。そしてお前達を招待しよウ。我らが母の、真なる最下層へト! ルラァァァァ!!!!』
うわっ!? ちょ眩し・・・・・・
その光が収まると、そこにいたはずのカルア達5人は全員その姿を消していた。
その事にクーラは一瞬呆然とし、だがすぐに我を取り戻す。
「あの子達をどうしたの!? 答えなさい!!」
クーラのその様子を見たゴブリンソーサラーはニタリと笑い、
『言っただろウ、真なる最下層へと招待するト。夢でワタシを殺さなかったお前ハ、その対象ではなイ』
「今すぐあの子達をここに戻しなさい! それが無理なら、私も同じ場所に跳ばしなさい!!」
血を吐くようなクーラの叫び。だが、
『無理ダ。ワタシの命は全て燃やし切っタ。もはやワタシには腕一本動かす事も出来ン』
「そんな!?」
『ではワタシは母のもとに還ろう・・・ハハハ、真なる最下層に住む最強の同胞達よ、我らの恨みを・・・』
そう言い残し、ゴブリンソーサラーはダンジョンの地面の中に沈むように消えていった。
「何て事っ!! みんな・・・」
クーラは辺りを見回し気配を探るが、カルア達を見つける事も感じ取る事も出来ない。
「くっ、私にはどうする事も出来ない! 応援を・・・応援を呼ばなきゃ!!」
そしてクーラは走り出した。
ダンジョンを出たクーラは、フタツメに向かって走り続けていた。
「誰に連絡したら・・・フタツメの冒険者には無理。もっと実力者じゃないと・・・でもそれだけじゃダメ! これは時間との勝負、すぐに来れる人じゃないと・・・」
そして思い当たった一人の男。
「インフラ技術室のモリス室長! あの人にだったらギルド間通信で連絡できる! それにカルア君の推薦者だから他の関係者への連絡も! あと・・・何より転移を使える!!」
「みんな! 私が行くまで持ちこたえててよっ!!」
フタツメギルドに駆け込んだクーラは、目についた職員を捕まえ、
「緊急事態よ! 急いでギルド間通信を! 連絡先はギルド本部インフラ技術室長!!」
そのまま通信室に駆け込み、そしてモリスに繋がるや否や、
「カルア君達が大変なの! 急いで来て!!」
その次の瞬間、クーラのすぐ横に現れたモリス。
「カルア君がどうしたって!?」
通信相手の突然の登場に一瞬驚いたクーラだったが、
「ダンジョンボスに強制転送させられた。行き先は不明!」
「分かった。まずは現場の確認。今すぐダンジョンに行くよ」
そしてふたりの姿はその場から消え、同時にセカンケイブダンジョンの前に現れた。
「外から直接ダンジョン内には転移出来ないからね。ここで転送装置で入ってからボスの間に転移するよ!」
転送装置で入り口の間に入ったふたりは、そのままボスの間に転移。
「ここで消えたっていうのか・・・カルア君、無事でいてくれよ!」
ヒュォーイ、ヒュォーイ、ヒュォーイ、ヒュ・・・
突然ピノの頭の中に不安を誘うような音が鳴り響き、そしてそれは突然止まった。
音の発信源は恐らくピノの左手首付近。
「今のってアラート!? まさかカルア君に危険が!?」
これは今から10日前、不安に駆られたピノがロベリーのもとを訪れた時の事。
「さあ、じっくり話を聞かせてもらおうじゃない『ピノ様』」
「もう! 本気でその呼び方を続けるつもりなの、ロベリー?」
「ふふ、当たり前でしょ。そんな事より、一体どうしたのよ」
そしてピノは親友に自分の胸のうちを吐き出した。
「今回のカルア君のダンジョン攻略、どうしても嫌な予感が消えないの。ただの心配性かもしれないけど・・・何だかそれだけじゃないような、すっごく嫌な感じなの!」
ロベリーはそれを聞き、表情を曇らせる。
「うーん・・・ピノ様って昔から勘が鋭かったから、気のせいって言い切れないわね」
そしてロベリーに話す、ピノの『お願い』とは。
「うん。だからね、カルア君に危険が迫った時にすぐに駆け付けられるようにしたいの」
「なるほど・・・つまり離れた場所からカルアくんのその危険を察知したいって事ね?」
「さすがロベリー話が早い。そうなの。せっかくスーツを作ってもらったのに、危険が迫ってる事に気づけなかったりしたら、私・・・」
「まあ確かにそれは必要よね。でも『カルアくんの危険を察知』かあ・・・。普通に考えれば、カルアくんの方に状況を発信する仕掛けが必要なんだけど・・・例の『想定外センサー』機能みたいな」
そして頭を悩ませるロベリー。
「うーん、やっぱり単体での実現は難しいなあ・・・何か・・・ねえピノ様、あなたカルアくんと繋がってるような魔道具って、何か持ってたりしない?」
「ええっと・・・あ、通信具だったら持ってる」
「通信具か・・・使えるかな? ちょっと見せてくれる?」
ピノは、カルアからもらったブレスレットを外し、そっとロベリーに手渡した。
それを手に取り、付与を解析するロベリー。
「ふんふん、なるほど。こっちの魔石がボックスで、横の四角いのが通信か・・・うーん、どっちの付与もちょっと力ずくな感じね・・・ってこの通信、まったくセキュリティが考慮されてないじゃない! あっぶな・・・いやでも今は逆に好都合か。これならこっちからアップデートだって・・・うん! 出来るわね・・・よっし、そうと決まれば、『ロベリー3分ハッキング!』」
チャララッ・チャン・チャン・・・
と軽快なリズムを口ずさみながら、ロベリーは思考を進めていく。
「ええっと、まずは仕様からね。こちらを親であちらを子として・・・子の方に危機察知を付けて・・・危機を親に発信・・・あ、向こうはダンジョンか・・・よし、じゃあ転送装置をただ乗りして・・・そうだ、せっかくだから暗号化も・・・うん、セキュリティ大事! ・・・でもバックドアは仕込んでおこうっと。も・ち・ろ・ん、メンテナンス用にねっ!」
そして聖女の付与。
「いい? 今からするのは、あなただけへのお話じゃないの。あなたの大事な相方にも一緒に話さないといけないの。だからお話しする前に、まずあなたを通して相方さんに接続するわ。・・・うん、ちゃんと繋げられたわね、どっちもいい子よ。じゃあふたりともよく聞いて。あなたたちって実は・・・」
ロベリーが行ったのは、踏み台からの遠隔付与。
その遣り口は彼女の言った通り、正にハッキングそのものであった。
そして・・・
「よっし完璧ぃ!」
「もしかして、もう出来たの?」
「うん! 我ながら会心の出来よ! じゃあさっそく説明するわね」
そして始まる取り扱い説明。
「まず流れとしては、最初にカルアくんのブレスレットが危険を察知するじゃない。危険っていうのは『想定外の危機』と『身体へのダメージ』ね。このどちらかを察知したブレスレットは、ピノ様のブレスレットに危険信号を発信する。そしてピノ様のブレスレットがその信号を受信して、ピノ様の頭の中にアラームを鳴らすって訳。で、この信号は何と、『ダンジョンの中からでも届く』の」
「え? ダンジョンって、中から外へも外から中へも魔法が届かないんじゃなかった?」
「っふっふっふ、そこがロベリー様の腕の見せ所ってやつよ。あなた不思議に思わなかった? そのダンジョンのボス部屋の様子を、何故冒険者ギルドで映像監視出来るのかって」
「あ、そういえば・・・」
「あれはね、ダンジョン入口の中と外にそれぞれ設置された転送装置が中継してるの。あの転送装置はね、実は特殊加工されたケーブルで有線接続されていて、あの装置によるダンジョン内外への転送や映像の中継は、そのケーブルを通じてやり取りしてるってわけ。という事で、危険信号の送受信をその経路にただ乗りさせる事で、ダンジョンを貫通した察知が実現出来たって訳なのよ!」
胸を張って親友に説明するロベリー。
ギルド設備の不正利用なので、バレたら当然ただでは済まないのだが。
「もちろんただ乗りがギルドにバレる事は絶対に無いわ。だって、ただ乗りを発見する方法そのものが存在してないんだもの」
「よかった、じゃあ安心ね!」
ピノに罪悪感は欠片もない。
誰に迷惑が掛かる訳じゃないし。そもそもカルアファーストだし。
「あと、通信にセキュリティが全く考慮されてなかったから、暗号化するようにしといたから。誰かに通信を覗かれたりしないようにってね。それから何かあった時の為に、後からでもメンテナンス出来るようにしといたから、もし後で何か問題とか見つけたら言ってね」
「うんっ! ありがとうロベリー!!」
ロベリーに罪悪感は欠片もない。
だってメンテナンス用だし。時々通信の状況の確認とかはするかもだけど。
「あと大事な事を言い忘れてたわ。カルアくんのいる方向が分かるようにしといたから、そこ目掛けて飛んで行きなさい! でもこれは魔道具同士の結び付きによるものだから、ダンジョンの外壁を越えられないの。こっちもダンジョンに入っちゃえばもう大丈夫なんだけどね。まあそんな訳で、これがこのロベリー特製の『カルアくん危機警報システム』、名付けて『カルアラート』よ!」
「な、名前・・・凄いけど名前・・・」
そのカルアラートが鳴り響き、そして途中で途切れた。
つまり、アラートが遮断される程の危機がカルアに迫っている!
その事に思い至ったピノは、キッと宙を見据え、
「待っててカルア君、今助けに行きます!」
そして消えた。
ピノが応対中だった冒険者と、隣のカウンターでそれを目撃したパルムを残して・・・
「仕事・・・」
セカンケイブダンジョンの前に転移したピノは、転移装置を使ってその中へ。
「どうしよう、中に入ったのにまだカルア君のいる方向が分からない・・・」
もし今も危機的状況が続いているのであれば、通信を試すのはリスクが高すぎる。
ならば打てる手はひとつ。
「よし! とにかく方向が感じられるようになるまで進もう!」
ピノは走り出した。
その進路上にいた不幸なゴブリン達を撥ね飛ばしながら・・・
第6階層、ボスの間。
「困ったな、何処を視てもカルア君達が見つからない」
「『真なる最下層』って言ってたから、多分ここより下だとは思うんだけど・・・」
カルア達の気配を探すモリスとクーラだが、未だ発見には至っていない。
そんなふたりの前に、
「あれ!? モリスさん!?」
「ピノ君!?」
「ピノ先生!?」
ついにピノが合流した。
「それでカルア君は!? カルア君はどこですか!?」
モリスに詰め寄るピノ。そのピノにクーラが状況を説明した。
「なるほど・・・この更に下に階層が・・・」
「ええ、どうやらそうらしいの」
「・・・カルア君ったら、またダンジョンで転送されちゃったのね」
「ぶっ!!」
ピノの呟きがモリスにクリティカルヒット!
だがここで笑う訳にはいかない。必死で耐えるモリス!
「モリスさんの遠見でも見つける事が出来ないんですね」
「うん、そうなんだ。多分何かに妨害されてるんだとは思うんだけど」
ピノは少し考え、
「じゃあ逆に視えない場所ってどこです?」
その言葉にハッとするモリス。
「そうか! 視る事が出来ない空間、それがすなわち彼らの言う『最下層』って事か!!」
そしてモリスは範囲を広げ、あらためて遠見を行った。
すると、範囲の外側方面にはダンジョン外壁と思われる限界域が、そして下方には・・・
ダンジョン外壁とは明らかに異なる、不可視の空間が存在している!
「あった! この下約10メートル、そこから下に空間がある」
「10メートル・・・それくらいなら」
ピノは両の掌を地面に打ち据え、緩んだ地盤をペンダントに『収納』した。
するとその下から現れたのは、平らで艶やかな黒い壁。
「これが最下層の上壁、か・・・」
その壁の上に降り立ち、ナックルダスターを装着したピノ。
身体強化を発動して壁を殴ってみる。
するとその壁は一瞬揺らめくように波打って小さな穴が開き、そしてすぐまた塞がった。
「この感じなら全力で殴れば通れると思うけど、それだと魔力が・・・」
そう、例え中に入れたとしても、その先に強大な敵が待ち受けている可能性が高い。
中に入るために魔力を使い切る訳にはいかない。
「なら穴を開けるのは私がやるわ」
ピノの横に降り立ったクーラ。
「多分私の魔力はそれで尽きると思う。あの子達の事はピノ先生、あなたにお任せします」
クーラの信頼にピノは頷き、
「分かりました。じゃあお願いします」
クーラにひとつだけお願いを。
「あそうだ、私が来たって事は内緒に。気づかれないように変身していくので」
「ええ、お安いご用よ。その理由も見当が付くしね。・・・じゃあ行くわよ」
そしてクーラはその全ての力を・・・
「全解放っ!!」
クーラが全力で放った拳は、その黒い壁に人ひとり通れる程の穴を穿ち、
「行って!!」
その叫びを受けてピノはその穴に突入した。
「頼んだわよ、ピノ先生・・・」
ダンジョンの中に発生した、言わば『異界の壁』。その壁を物理的な力のみで抉じ開けるという偉業を達成したクーラは、その代償としてほとんどの魔力を使い切ってしまった。
その急激な魔力消費によりその場にへたり込んだクーラだったが、遥か上方から掛かるモリスの声に慌てて立ち上がる。
「クーラくーん! この床の大穴とさっきの物凄い衝撃で、この部屋が今にも崩れそうなんだ! 何とか結界で支えてるんだけどさ、急いで上がってきて修繕を手伝ってーーー!!」
何とか10メートルの高さを掛け上がり、モリスの横に立つ。
「それでどうやって修繕するつもり?」
「うん、ダンジョンコアの結界を外すことで封印を解いて、ダンジョンコアに修繕させるんだよ」
その返答に、こっちはこっちで大変な事になりそうだと、見えない天を仰ぐクーラだった。
一方こちらはセカンケイブダンジョン第7層に降り立ったピノ。
「カルア君・・・感じる! もっと下の階にいるのね。すぐに行くから待ってて!」
ピノは軽く顎を上げ、右拳を左上前方に突き出した。
そして、メタルピノスーツを着装する。
「ルピノス!」
着装のキーワードには、変身後の偽名がそのまま設定されている。
これは、少女3人が深夜の勢いで採用したカッコいい名前である。
そして当然そのカッコいい変身ポーズもまた、深夜の勢いによるものなのだ!
行け、ルピノス! カルア達を救うために!!