五色が揃ったら次はアレですよね
ホームルームが終わって、そのまま校長室に連れて来られちゃったよ。
一体何だろう?
なんだか最近、いつも誰かに呼び出されてる気がする・・・
ああ、でも今日はちょっといつもとは違うんだよね。
だって・・・
「ううぅ、なんだかちょっと緊張するわね」
「僕もだよ。校長室なんて普通にしてたら卒業まで一度も来る事が無い場所だよね」
「ああ。俺もまさか校長室に呼ばれる日が来るとは思わなかった」
「カル師、堂々。常連?」
そう、みんなが一緒だから。
でもワルツ、常連さんじゃないよ?
「あらあらー? 皆さん大丈夫ですよー。すこーし落ち着きましょうねー」
「まあ初めてなんだから仕方ないんじゃない? こんなのは慣れよ、慣れ」
そして何故かレミア先生とクーラ先生も。
本当に一体何なんだろう?
そして校長先生から声が掛かる。
「皆さんよく来てくれました。今日集まってもらったのは、皆さんのカリキュラムが少し変更になったからなのです」
「カリキュラムの変更、ですか?」
冷静担当ノルト。
今日もリーダーの出番はなさそうかな?
「ええ。と言ってもごく短期間の変更です。何しろこの変更は、皆さんがセカンケイブダンジョンを攻略する時間を作るためのものですから」
「ええっ!? ダンジョンの!?」
ダンジョンと聞いてアーシュがグッと身を乗り出す。
今日もリーダーの出番はなさそうだな。
「ええ。ダンジョンを攻略するとなれば、準備と移動も含め最低1週間は必要でしょう。かといって勿論授業を受けない訳にはいかない。と言う事でカリキュラムの変更です。今日から2週間、君たちには終日座学を受けてもらいます。そして校外での実技授業として、その翌日から2週間をダンジョン攻略の時間とします」
「「「「「おおーーーーー!」」」」」
なるほど!
「ああ、そうそう。座学の最終日に、2週間分の内容がきちんと理解出来ているかの試験を行います。もし理解が足りていないと判断された場合は、ダンジョンに行くのは補習と再試験後となりますから、気を付けて下さいね」
「「ぐうっ・・・」」
ワルツとネッガーは自信なさげ? 頑張れー。
「この期間の座学の講師は、全教科レミア先生が務めます。普段とは別の部屋で行いますので、後ほど案内してもらって下さい。そしてダンジョン攻略は実技授業ですから、当然教師による引率が必要となります。そちらはクーラ先生が担当します」
レミア先生の授業!? どんな授業なんだろう・・・
普段の口調だと内容が入って来ない恐れ・・・
「あの! クーラ先生があたし達に付きっ切りになってる間、冒険者クラスの授業は大丈夫なんですか?」
ああ、そう言えば。
「ええ。サブの講師がいますから心配ありません。それにいざとなればまた臨時講師をお願いする根回しは出来てますからね」
根回し・・・
誰が来るのか、何となく分かったかも。
ブラック臨時講師と、もしかしたらピノ臨時講師、だろうなあ・・・きっと。
距離とか関係なくなっちゃったし。
それに昼間は時間に少し余裕があるみたいだし。
「さて、それでは次のお話です。カルア君、昨日マリアベルさんとミレアさんが作成したパーティ全員分の装備を受け取ったと聞きました。それを見せてもらいたいのですが」
「あはい、分かりました」
テーブルの上に全員分の指輪をひとつずつ並べる。
指輪は5色。指輪の色と装備の色が同じって事みたい。
「ふむ、どれが誰の物かはもう決まっているのですか?」
「いえ、これからです。全部色が違うから、みんなに好きな色を選んでもらおうと思って」
「ああなるほど。では今ここで選んでもらいましょうか」
校長先生の声でみんな指輪に手を伸ばすが、触れる手前でその手が止まった。
「ねえカルア、これってどういうものなの?」
「うん、これは『戦闘スーツ』って名前なんだ。全身を覆う柔らかな鎧みたいな装備なんだけど、普段は指輪に入っているんだよ。キーワードを声に出して魔力を流すと、今着てる服とその装備が一瞬で入れ替わって、今着てる服は指輪の中に収納される仕組みなんだって。装備の色は指輪と同じみたいだよ」
「へえ。じゃあ色で選べばいいって事ね。ふふん、だったら私がみんなにピッタリの色を選んであげるわ!」
そう言ってアーシュが選んだのは・・・
「まずはカルア、あんたは『赤』ね。やっぱりリーダーの色と言ったら赤でしょ。これで角が付いてたら完璧だけど。・・・あたしは『青』。陰のリーダーとしては青一択よね。それからワルツ、あんたは『水色』よ。もともと氷属性だったからイメージ通り。次にノルト、あんたは『緑』。農園キャラとして拒否は許されない色よね。それで最後にネッガーが『黄色』。何て言うか、筋肉とか力持ちキャラにピッタリの色じゃない? うん、もう全員完璧にイメージ通りよ!!」
誰からも反論はない。
全員納得したみたい。
「じゃあ早速着けてみましょうか。指輪をはめてキーワードだったわよね。キーワードって何?」
「今は『蒸着』に設定してあるって。後で自由に変えられるって言ってたよ」
「分かったわ。じゃあみんな指輪はもうはめたわね? 『せーの』で同時に装備するわよ」
アーシュが見回すと全員頷いた。
「よし、せーの!」
「「「「「蒸着!!」」」」」
おお! イッツァ、カラフル!!
へえ、みんな少しずつ形が違うんだ。それに頭の部分はツルっとしたヘルムみたいな感じ。僕がかぶってるのはどんな感じなのかな?
「ちょっとカルア、自分の姿が見たいんだけど! 何とかならない?」
ええ・・・自分の姿って・・・鏡とか無いのかな?
「ああ、すぐに用意しましょう。『姿鏡』」
校長先生の魔法で、僕たちの前に凄く大きな鏡が。
そっか、確かに時空間の組み合わせで出来るなコレ。便利だし覚えとこっと。
みんなそれぞれ自分の姿を確認してる。
「ふーん。まあそんな悪くはないか。動きやすいし。実用性重視って感じ?」
「アーシュ、これ、超カッコいい」
「そ、そう? まあ感性は人それぞれだし、いいんじゃない? それでカルア、この『戦闘スーツ』って、どんな機能があるの? お祖母さまが作ったんだから、きっと凄い攻撃とか防御とかが用意されてるんでしょう?」
「ええっと、そういった機能は用意されてなくって、簡単に着脱出来るだけみたい。ただ、これを着る事で昨日の結界の持続時間を延ばせるんだ。と言う事だから、一度スーツを解除して昨日渡したペンダントを調整するよ。解除は頭の中で意識して魔力を止めればできるから」
「ちょっと待って。その前に『キーワード』を変えたいんだけど、どうやって変えるの?」
「ええっと、確かスーツを着た状態で『キーワード変更』って言ってから、新しいキーワードを言えばよかったはず」
しばらくみんな自分のキーワードを考えて・・・
「よし、じゃああたしはこれね。『キーワード変更、オーロラウェーブ』」
「わたし、これ。『キーワード変更、プリズムパワー』」
「僕はどうしようかな。『キーワード変更、グリーンフラッシュ』」
「俺はシンプルに『キーワード変更、変身』」
「あれ? カルアは?」
「僕は『蒸着』のままにするよ。何だかカッコいいし」
全員からペンダントを受け取り、自動魔力充填の追加と、ちょっとした微調整。
ペンダントを返したら、そのままみんなまたスーツを装備したんだけど・・・
うーん、なんだかキーワードがバラバラだよ?
これ、みんなで統一したほうがカッコよくないかな?
「ペンダントの結界と風の循環は単独でも起動できるけど、スーツを装着すると連動して起動するようになってるからね。それと、ペンダントは自分の魔力じゃなくって充填した魔力で動作するようになったよ。結界の動作時間は10分間。一応最長20分まで稼働するんだけど、これは非常用だから、必ず10分で解除するように心がけて。1分前からペンダントが点滅してアラームが鳴るから、そこから1分以内に戦闘を終わらせること」
「「「「了解、博士!」」」」
「博士じゃないよっ!?」
カルア達と教師達が校長室から退出した後、校長室の一部の空間が溶けるように揺らめき、その中からモリス、マリアベル、ミレアの3名が現れた。
「いやあ、さすがのカルア君もミレア君の『隠蔽』は見破る事が出来なかったようだねえ。よかったよかった」
「まあ、私のはプロテクトマシマシの軍事用だから。それにしてもオートカ先輩、今日は用事で来れないなんて」
「ふん! いつもいつでも側にいるなんて保証は何処にも無いんだよ、このバカップルが」
「あははは、そりゃそうだ」
「バカップルって言った! でもいいですよーだ! それでも私は先輩の事を、いつでもいつも本気で想ってるんですから!」
「ああ、はいはい分かったよ。このバカップルが」
「二度も言った! 他の人からは言われた事ないのに・・・」
「あの、そろそろ本題に・・・」
出て来て早々騒々しい面々に、たまらず声を掛けるラーバル。
「ああ、そうだね。で、あんたたちはどう見た? あたしは上手く行ったんじゃないかと思ったがね」
「はいししょー。私も大成功だと思いまーす」
「うんうん、これはもう僕たちの大勝利と言ってもいいんじゃあないかなあ。上手い事ミレア君の装備に落ち着いたみたい。ふふふ、カルア君が異次元のやらかしを炸裂する前に、僕たちの見知った技術に着地点を誘導する。まったく大成功だよ。・・・これが毎回上手く行っちゃうとそれはそれで楽しくないけど、でもいつもいつも『想定外』に踊らされる僕たちじゃあないんだよカルア君。ぬふふふふふふふふふ」
不敵に笑うモリス。
そして、
「全くその通りさ。あっはっはっはっはっ・・・」
「弟弟子君にやられっぱなしって訳には行きませんからね。うふふふふ・・・」
「生徒を導く事は教師の務めですからね。ふふふふふ・・・」
満足げに笑う、大人気無い大人達の姿がそこにはあった。
一方、校長室を出て特別教室に向かうカルアたち。
「そう言えばカルア、さっきみんなのペンダントを再調整した時、何か別の事もしてなかった?」
さっき朧げに感じた違和感をカルアに訊いてみたアーシュ。
「へえ、よく気付いたねアーシュ。ああ、でも大した事じゃないんだ。魔石に中途半端な余裕があったからさ、全員分の魔力を集中して土人形を生み出す機能を追加したんだ。ほら、攻撃とか防御の手が足りなくなった時に便利そうじゃない?」
「ああ確かにそれなら微調整レベルね。でもなかなか気が利いた機能じゃない」
「でしょ?」
「でもあんたとノルトで本気を出したら、あたしたち全員が乗り込めるくらいの土人形を作れるかもね」
「ああ、それも面白そう! ね、ノルト?」
「そうだね。それくらいだったら、ちょっと頑張れば出来るんじゃない? 今度やってみようか?」
「うん! みんなもいいよね?」
「「「「了解、博士!!」」」」
「博士じゃないよっ!?」
「「「「「あはははははははは・・・」」」」」
何処までも無邪気な子供たちの姿がそこにはあった。
モリス達、残念っ!!
今日も授業は全部終了。
そのまま真っ直ぐ部屋に帰って、そこからヒトツメに転移っ!
「なんだカルア、随分久しぶりじゃないか」
「ホントだねえ。学校はどうだい? 楽しくやってるかい?」
「おいおい、まさか寂しくなって帰ってきたんじゃあないだろうな? ホームシックってやつかあ? ぎゅーってしてやるから、こっち来いよ! がはははは」
今日もギルドの食堂では一仕事終えた皆さんがパーティ中。
うん、あれが冒険者がやるパーティってやつなんだよね。
アーシュのおかげで判明、あの人たちは冒険パリピ。
「いやだなあ、そんなホームシックとかじゃあないですよ。あっちに友達も出来たし、それにその友達とパーティを組んで冒険者もやってるんですから」
「「「「「なんだってーーーーっ!!!!」」」」」
うわぁ、皆さん驚きすぎ!
「そいつはめでたい! よかったなあカルア! こっちには年の近い冒険者がいなかったからなあ。うんよかったよかった!」
「ホントだねえ。あたしも嬉しいよ。ああ、あのカルアがねえ・・・」
「おお! 本当によかった! ほら、ぎゅーってしてやるから、こっち来いって!」
「もう! 皆さん大袈裟すぎですよ! でも・・・ありがとうございます」
「ばっ・・・ばかやろう! こちとら最近年のせいか涙腺が緩みっぱなしなんだ! 妙な不意打ちするんじゃねえ!!」
「あははは・・・なんですか、それ」
「ああもうほら、行った行った! いつまでもピノちゃんを待たせるんじゃないよ!」
「もう、分かりましたよー」
「ふふふ、こんにちはカルア君。みんなカルア君に会えてうれしそうですね。皆さん最近はいつもカルア君の話ばっかり・・・」
「ちょっとピノちゃん! それ言っちゃダメーー!!」
「はーーい。ごめんなさーーい」
ふふふっ、相変わらず楽しそうだなあ。
「それで今日は私ですか? それともギルマス? まさかパルム・・・」
「ちょピノ! 自分の冗談に刺さって冷気振り撒かないで!!」
「あははは、ちょっとピノさんに用事があって」
「あっはい、私ですねっ! ええっと・・・ちょっとだけ片づけなきゃいけない仕事が残ってるから、その間ギルマスとお話しして待っててもらえますか?」
「分かりました。じゃあちょっと失礼しますね」
もう行き慣れたギルマスの執務室。
最初はあんなにドキドキしてたのになあ。
コンコンコン。
「うむ、入って構わんぞ」
「失礼しまーす」
「おおカルア君、こちらに来るのは珍しいな」
「こんにちはギルマス。今日はちょっとピノさんに用事があって」
「そうかそうか。ここは君のホームグラウンドだからな。せっかく転移でいつでも来ることが出来るんだから、遠慮なくいつでも来るといい」
「はい、ありがとうございます」
こう暖かく迎え入れてもらえると、帰ってきたなあって感じでほっとする。
「そう言えばギルマス、もしかしてまた臨時講師の依頼とかって来てたりします?」
「うむ。よく知ってるな。もしかして学校で聞いたのか?」
「はい。2週間後くらいにクーラ先生とフタツメのダンジョンに行くので、その間に臨時講師を手配するかもって聞きました」
「ああそれだ、間違いない。だがそうか、2週間後に行くのだよな。だったらネッガー君の指導はその前にしておきたいところだが・・・」
ん? ネッガーへの指導?
「あの、それって?」
「ああ、私の戦闘方法を彼に伝授するつもりなのだ。今のままだと少し不器用な戦い方に偏りそうだからな」
「へえ、そうなんですか。やっぱりギルマスくらいになると、そういう事も見えてくるんですねえ・・・凄いや」
「まあ、そう素直に感心されると若干くすぐったいのだが・・・おお、ピノ君が来たようだぞ」
「え? 本当ですか?」
コンコンコン
「ギルマス、よろしいですか?」
「ホントだ・・・」
「まあこういった技術を伝授するつもりなのだよ。ピノ君、構わないぞ」
「失礼します・・・カルア君、お待たせしました」
「はいピノさん。じゃあギルマス、ありがとうございました」
「うむ、これからも頑張りたまえ」
こうして、久しぶりにピノさんとふたりで歩いて家に。
あ、奥様方・・・サマンサさん達に声を掛けとかなきゃ。
「おやカルア、きょうはピノちゃんと一緒かい」
「はい。こんにちはサマンサさん」
「あんたあたしの名前を・・・って事はもしかして・・・」
「はい! 母さんに会えました!」
「っ!! そうかい! よかった! よかったねえ!!」
目に一杯の涙を浮かべるサマンサさん。
「ありがとうございます! サマンサさん達にも色々お世話になって・・・」
「いいんだよ! そんな事は! ああ、これで今度こそあたし達もあんたの母親との約束を果たす事が出来たって事なんだねえ・・・」
「サマンサさん・・・」
「ああもう! くすぐったくってしょうがないから、名前で呼ぶんじゃないよ! 今まで通り『奥様方』にしといてくれ!」
「はい! 分かりました!」
「さあ行った行った! ピノちゃんを待たせちゃいけないよ!」
家に入るとピノさんが、
「まずはご飯の支度をしちゃいましょうか。材料もたくさんボックスに入ってるし、今日は何にしようかな。あ、カルア君、空いた鍋があったら出しちゃって。それで作るから」
なんて感じで、僕の入り込む余地のない速さで動き始める。
今、身体強化してる? してない? どっちなんだろう・・・
こうして美味しい楽しい晩ご飯も終わり、いよいよ今日の本題へ。
「実はピノさん、ピノさんにこんなのを作ったんです」
そして取り出すナックルダスター! ババンっ!!
「あら素敵! つけてみてもいい?」
「はい! 是非つけてみてください!!」
ああ母さん、やっぱり女の子へのプレゼントはナックルダスターなんだね・・・
そして結界の鎧の説明とかして・・・
「ふーん。とりあえずこのまま使っても魔力切れの心配は無さそうかな・・・でも、一瞬で全身を覆う『戦闘スーツ』かあ・・・顔も見えないんだよね? ・・・ベルベルさんにお願いしてみようかな。色はそう、黒か銀で・・・」
なんて声はとりあえず聞こえない振りをして・・・
今度はちゃんとふたりきりでピノさんにプレゼントする事が出来たんだ。
【評価のお願い】
よろしかったら、この下から☆での評価をお願いします。
ポイントが少ないと、作品の存在にすら中々気付いてもらえないんです。