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殲滅の後にその事件は起きました

狩りの2日目。

今日は少しだけ探索してから帰る予定になってる。

明日は学校だしね。


「あ、おはようございますクーラ先生」

みんなで朝食の支度を始めていると、クーラ先生が起きてきた。

「おはよう。みんな早いのね」

「何だか早く目が覚めちゃったのよね。森の中にいるからかしら?」

「それは寝ていても普段より気を張っているからよ、アーシュ。野営は眠りが浅いから疲れも抜けにくいの。2〜3日くらいなら大丈夫だろうけど、野営が続くと少しずつ疲れが蓄積していくから、長期の仕事を請ける場合とかは注意してね」


ああ、これまで何日間も野営を続けた事は無いけど、確かに野営の次の日って結構疲れが溜まってたかも。


「あれ? そちらはクーラ先生だけですか?」

「おはようノルト君。アイたちはまだ寝てるわ。昨日のあなた達の様子を見て、彼女達なりに色々考えされられたみたいだから。戦闘以外での魔法の有効性とかは特にね。・・・まあそれは私も一緒なんだけど」

「ああ、確かにあれって色々と便利ですよね。僕もカルア君に教えてもらうようになってから、ずいぶん考え方が変わったって実感してます」

「そう・・・だと思ったわ・・・」


僕をちらっと見たクーラ先生。その視線に込められていた、「やっぱりあなたが犯人だったのね」には気づかない振り。

だってノルトのあれは僕じゃないし。

僕がノルトに教えたのは、錬成の基礎とかちょっと気付いた事(・・・・・)とかだけなんだからね。勘違いしないでよねっ。



それからしばらく経った頃、ようやくアイたちも起きてきた。

目の周りが少し腫れてる? やっぱり夜はちゃんと寝なきゃね。

そしてワルツシェフ渾身の朝食が完成。

今日の朝食は、「静かな森の朝ごはん〜色鮮やかな原色きのこ達の(うたげ)、ちぎってきた葉っぱを添えて〜」だって。

ごちそうさま、すごく美味しかったよ! なでなで。



朝ご飯を食べ終わったら、それぞれテントを片付けて、テーブルセットはノルトが土に還して。

「じゃあ出発しましょう。」

森の奥へ出発!!


それから進む事、およそ1時間。

だけど、時々鳥の声が聞こえてくるくらいで、森の中はすごく静か。っていうか静かすぎない?

「クーラ先生、ちょっとこれ見て下さい」

ん? アイが何か見つけたみたい。

「さっきから足元くらいの高さに小型の生き物の齧った後がたくさん・・・」


クーラ先生が屈んでそれを確認、みんなはそれを見守っている。

「これは・・・ラットかしら? でもそれにしては少し大きいわね。この感じだと小さめのウルフくらい? でもそんな大きなラットなんて・・・」

そしてハッと何かに気付いたクーラ先生。

「カルア君、ちょっとこの付近を『俯瞰』して、何かおかしなものが無いか調べてみてくれる?」


さっきから展開している範囲には、怪しげなものはなさそう。

じゃあちょっと範囲を広げて・・・あれ? これって・・・

「ゴブリンの・・・集落?」

「やっぱり・・・。数は分かる? あと場所は?」

「ええと、数は10匹です。場所は・・・この方向にまっすぐ20分くらい進んだあたりです」


それを聞いたクーラ先生は少し考えて、

「みんないい? ゴブリンの集落が優先殲滅対象に指定されている事は知ってるわね? しかもこの集落はゴブラットを飼っている可能性が高いの」

と、ものすごく深刻そうな顔で語りだした。


「ゴブラットというのはゴブリンの顔をしたラットで、森の植物を食い荒らす害獣よ。大きさはラビットの倍以上あって繁殖力ももの凄く高いから、何かの切っ掛けで爆発的に繁殖して、森中の食べ物を食い尽くしてしまう事があるの」


あれ? それって何だか聞いた事が、いや読んだ事が、ある!


「それだけじゃないの。森を食べ尽くしたゴブラットは、食べ物を求めて大移動を開始する。その進む先に人の住む場所があれば、そこはゴブラットの大群に飲まれて消滅するわ。畑も家畜も、そしてそこに住む人たちもね」


そう、あの物語だ!

そんな危機に陥る寸前だった村に訪れ、その村を救ったのがあの主人公(ヒーロー)だったんだ!


「幸いこの集落はゴブリンの数も少ないし、私達でも十分殲滅できるわ。それにもし万が一不測の事態が起きたとしても、あなた達の事はこの命に代えてでも護るから。という訳でみんな、今日の予定は変更。奴らを殲滅、駆除するわよ!」


分かってるよ主人公(ヒーロー)、僕たちで奴らを殲滅する。

クーラ先生にこれ以上不吉な事なんか言わせるつもりはないよ!




「あれが集落ね。見える範囲にゴブラットの姿は無し。巣穴の中かしら?」

ゴブリンの集落が見える場所まで移動した僕たちの目に入ったのは、森の中のちょっと開けた場所に点々と建つ、木の枝を寄せ集めたような粗末な住処(すみか)

そしてゴブリンは・・・10匹とも集落の中にいるね。

「ゴブラットは1匹も逃したくないわね。さてどうするか・・・」


考えるクーラ先生に、我らが誇る土プロからの提案が。

「あの、先生? 僕がこの集落を固めた土壁で囲んじゃいましょうか?」

「それは凄くいいアイデアだけど、魔力は大丈夫? 結構広いわよ?」

「2メートルくらいの高さまでだったら多分行けます。それで足りますか?」

「大丈夫、ゴブラットならその高さで全く問題無いわ。よし、じゃあまず最初に集落を壁で囲む、次にゴブリンの殲滅、そのあと集落に有るはずのゴブラットの巣穴を探す。今回は2パーティ合同ミッションよ。いいわね?」


全員頷き、そして作戦が決まる。

「よし・・・じゃあそれでいくわよ。まず最初に全員で集落に突入。ノルトが土壁を作って、他は全員外に出ているゴブリンを剣で倒すって事ね。同士討ちを防ぐため魔法攻撃は禁止で、小屋にゴブリンが立て篭った場合に限り、あたしが火魔法で小屋を焼いてワルツは燃え広がるのを防ぐ。そこから飛び出してきたゴブリンは近くにいる人が斬って殲滅完了、ゴブラットの巣穴を探すのはその後で。以上で間違いないわね?」

ふたたび全員頷く。

「じゃあ行くわよ? 作戦開始!」




僕たちは全員集落に突入。

僕たちを見て大騒ぎするゴブリンを尻目に、ノルトが土魔法で土壁を作る。

ノルトの魔力を受けて、地面から生えるようにせり上がる土壁。

でもゴブリン達にそれを気にする余裕はない。

だって次々と斬り倒されていくから。


グギャギャギャギャアーーーー・・・


これが最後、10匹目。

「小屋の中にはもう残ってないわね。ならゴブリンはこれで殲滅完了っと。あとは巣穴だけだけど・・・その前にこいつらどうする?」

こいつらっていうのは、転がってるゴブリンの死体。ゴブラット殲滅の邪魔になりそう。

「僕が森の中に埋めてくるよ。その前に魔石だけ取り出しちゃおう」

僕もこれくらいはやらないとね。


という事で、みんなでゴブリンを解体、というか魔石を取り出した。

ゴブリンって、素材にならないし食べられないし。

「じゃあちょっと捨てに行ってくるね」

で、僕はゴブリンの死体と一緒に森に転移。

土魔法で穴を掘って、その中にポイっと入れたら、掘った土を上から被せて「圧縮」。


「ただいまー」

戻ってくると、みんなはもう巣穴を見つけたみたい。

「この木も邪魔よね。カルア、これもお願いできる?」

小屋っぽく組まれたたくさんの枯れ枝。確かに邪魔になるよね。

という事で邪魔な枯れ枝たちは「転送」。

木々よ、森へお帰り。


「はあ、あんたってホント便利よねー。感心するわ」

すっきりと片付いた集落の中で、アーシュがポツリと一言。

「あはは、転移の事は秘密って言われてるから、みんなも他の人には言わないでね」

「言わないわよ! っていうか、言えない事多過ぎよ! もうあんたの存在自体を隠したくなってきたわ。あんたの事が広まったら、絶対こっちにも面倒事が回って来るし」


はは・・・それって言い方キツいだけで、チームのみんなと同じ事言ってない?



それはともかく、今はゴブラットの巣穴。

小屋に隠れていたそれは、地面に空いた直径1メートルくらいの穴だった。

「先生、これってどうしよう。このまま埋めちゃうってのもありかしら?」


「うーん、それでも解決するんだけど、ゴブラットの存在と殲滅が証明できなくなっちゃうから、あなた達の実績にならないのよね。冒険者になったからには、ちゃんと自分の功績を積み上げる意識を持たなきゃ駄目。『人知れず事件を解決』するなんて行為は、冒険者としては失格よ。絶対に生き残って功績を持ち帰る! これが一流の冒険者ってものよ」


功績を上げるだけでも駄目、生きて帰るだけでも駄目。か・・・

ホント、勉強になります。



「って事は、全部のゴブラットをここから引き摺り出す必要があるわね。どうしたらいいかしら」

んーー、そもそも何匹くらいいるんだろう?「俯瞰」っと・・・え!?

「アーシュ、ちょっとこの下の様子を見て」

「それ『俯瞰』でってこと? 使っていいなら見てみるけど・・・ってうそ!?」


「どうしたの?」

「クーラ先生、この中のゴブラット、100・・・ううん、200匹以上いるわ!!」

「ええっ、そんなに!?」

「こいつら全部外に出すなんて、一体どうすれば・・・」


そこでまた悩むみんな。

何かいい方法ないかな・・・


「いい匂いで、おびき出す?」

とってもワルツらしいアイデア。

「うーん、それも難しそうよね。でも『自分達から外に出たくなるように』って考えはすごくいいと思うわ!」

「自分達から外へかあ・・・それって外が凄く魅力的か、中が凄く居心地が・・・っ

ああ!」

「ノルト、もしかした何か思い付いたの?」


その問いかけにノルトは笑顔で・・・すっごく悪い笑顔で答えた。

「中にいられないくらい穴の中が暑く、いや熱くなっちゃったらさ、嫌でも出てきたくなるんじゃないかな」


ノルト案、満場一致で採用。

「あたしが穴の奥を加熱するわ。ワルツは表面の辺りを涼しく感じるくらいまで冷やしてちょうだい。ルビーはあたしとワルツを障壁で守って。他のみんなは少し下がって、飛び出してきたゴブラットを片っ端から斬り捨てる! いいわね?」

「「「「「「了解!!」」」」」」

「じゃあ始めるわよ」



しばらく待つと、穴の中から汗にまみれた大量のゴブラットが溢れ出し、凄い勢いで四方八方に走り出す。

地に手をついて魔力を送り続けるアーシュとワルツ。

その周りはゴブラットで埋め尽くされてるけど、障壁のお陰で大丈夫そう。

そして、高い土壁を越えることが出来ずにその内側を走り回るゴブラットたちを、僕たちは次から次へと斬り捨てて・・・


もうこれは戦闘というより駆除作業って感じ。

まあ実際害獣駆除なんだどね。

・・・そして穴から飛び出すゴブラットは徐々に数を減らし、やがて噴出は止まった。それとほぼ同時に、地上を走り回るゴブラットの姿も無くなり・・・



「あーー使い切ったぁ! もうあたし魔力残ってないわよ。完全に空っぽ! カルアもう大丈夫? 穴の中確認してくれる?」

そんなアーシュの声に、中を確認して・・・

「大丈夫、もう1匹も残ってないよ。」


「「「「「「「終わったあぁぁ!!」」」」」」」


殲滅完了、目標を駆逐したっ!!



で、そこからは本当に作業。

まずは僕が全部のゴブラットをボックスに収納して、一か所に(まと)めて取り出す。

次にそこから少し離れた場所に大きな穴を空ける。これも僕の仕事。

これで準備が完了。


そしたらみんなで片っ端からゴブラットの魔石を取り出して、終わったゴブラットを僕が次々と穴の中に転送する。

あとはこの繰り返し。


やがてゴブラットの山が消え、魔石の山を僕が収納。

みんな笑顔で「お疲れーーっ」を交している時、それは突然やって来た。


グギャギャギャッギャーーーオ!!

そんな叫び声と共に土壁を飛び越えて来た・・・えっと、ゴブリン?

そいつは僕たちには目もくれず、ゴブラットの死体が入った穴の前に。

何事!?


「あれは・・・もしかしてゴブリーダー?」

「ゴブリーダー? それってゴブリンのリーダーとかですか?」

「いいえ。リーダーじゃなくってブリーダー。ゴブリーダーはゴブリンの突然変異種でね、強さは普通のゴブリンと変わらないんだけど、大量の魔力を持っていてその魔力で他の魔物をテイムして育てるのよ。そうか、あれだけ大量のゴブラットと共存できていたのは、あいつがテイムしていたからだったのね・・・」


それで、そのゴブラットの異常に気付いて急いで駆け付けたと・・・



穴に積まれたゴブラットの前で崩れ落ち鳴き叫んでいたゴブリーダーは、やがてゆっくりと立ち上がった。

その目からは真っ黒い涙みたいな何かが溢れ出し、それはだんだんと・・・まるで霧のように広がって、天に向かって叫ぶゴブリーダーの姿を包み隠し・・・


「こんな現象・・・一体何が起きてるっていうの・・・」



そんなクーラ先生の呟きが届いたとでも言うのだろうか。

その黒い何かは突然スッと消え失せ、中から姿を現したのはさっきまでのゴブリーダーとは全く別の何か。

その体はネッガーよりも大きく、体型もネッガーを越えるすごい筋肉質に。緑色だった肌の色は燃えるような真紅に変化していて、その全身からは黒いモヤのような何かが、噴き出すかのような勢いで立ち昇っている。あれってまさか、魔力!?


「あ、あれはまさか・・・」

「知っているんですか、クーラ先生?」

「ええ。といっても本で読んだ事があるだけだけど。その本によれば、あれは『護武荒男(ゴブラオ)』。激しい怒りによって変化した、伝説の(スーパー)ゴブリンだそうよ」


ナニソレ・・・



そんな話をしている僕たちに向かって、ゴブラオが超高速接近!

ほんの瞬きひとつの間に僕たちに突き出されたその拳は、だが僕たちの前に飛び出した頼れる前衛ネッガーに阻まれ、目標に届く寸前でその勢いを失う。

「やらせんっ!!」


「ネッガー!」

「大丈夫、ここは俺に任せてくれ。ようやく来た俺の見せ場だ!」

そう言ってニヤリと笑うネッガー。

あ、そのセリフって物語とかだと・・・


「みんな、下がるわよ!」

そんなアーシュの声に、僕たちは壁際まで下がる。

ネッガーは心配だけど、きっとここにいたら邪魔になる。



どことなく不安を誘ったネッガーだったけど、どうやら本当に大丈夫そう。

まずはスピード勝負から始まって、相手の裏の取り合いから死角の突き合い、そして躱し合い。


ゴブラオのパンチをスウェーで躱し、そのままネッガーは上段の回し蹴りに繋げる。その蹴りを屈んで躱したゴブラオの反撃は、回転の軸となるネッガーの左足を刈るローキック。それを躱すべく軸足一本で空中に跳んだネッガーは、捻る体の勢いをそのままにゴブラオに回転蹴りを叩きつける。読んでいたかのように躱しざま地を両手で突いたゴブラオは、その勢いで体を跳ね上げ空中のネッガーに両足蹴りを・・・


そんな激しい攻防がしばらく続き、交差する両者の蹴りが互いを後退させたその瞬間、ネッガーの全身から魔力が迸り、そして溢れだした。

「ふふっ、ネッガーは2段階目を開放したわね」

そうなんですか、解説のクーラ先生・・・


そこからはネッガーのターン。

力でも速さでもゴブラオを圧倒するネッガーに対し、身を護るだけで精一杯となったゴブラオはその勢いに飲まれるかのように後退を続け、そしてついにそのゴブラオをネッガーの重い蹴りが捉えた。


ドッゴォォォーーン!!

土壁に激しく衝突するゴブラオ。

「やったか!?」

そう声を上げたのは誰・・・?




グルギャーーーーオオオォォォ


フラグ回収とばかりに土煙の中から立ち上がるゴブラオ。

激しい叫びと共に、その体から噴出する黒い魔力の量が急増加した!?

「まさか、ゴブラオにも上があったっていうの!?」

「クーラ先生! あれってまさか身体強化ですか!? だって魔物なのに!?」

「あれは・・・人間の身体強化とは違う何かよ! でも魔物は魔力で体を動かす。だったら魔力の増大でパワーが増すことは必然っ!!」

「そんな・・・」

「でもあれは・・・まずい、ネッガー! 剣を使いなさい! 早くっ!!」



次の瞬間、ゴブラオは土煙の中からその姿を消し、

ギイイイイィィィィーーーン!!

激しい音と共に、ネッガーの構えた剣に肩から衝突した。


「ぐっ!! 刃が・・・通らん!」

一瞬その場に持ちこたえたネッガーだったけど、そのまま反対の壁まで飛ばされ、そのまま力なく地に崩れ落ちた。

「ネッガーーっ!!」

やばい早く速く急いでネッガーのもとに転移ぃ! からの界壁っ!

展開したばかりの界壁の向こうでは、その界壁を激しく叩くゴブラオの姿が。ギリギリ間に合ったーーーーっ!!

「復元」

ネッガーの傷は大した事ないように見えるけど、ここは念のため復元で。



さあ、急いでここから移動しなきゃ。

まずはゴブラオの動きを止める「冷却」!

よし、ゴブラオが凍りついた!

今のうちにネッガーの剣を鞘に納めて、それからその体を抱えて、

「『転移』!」

みんなのもとへっ!!



「ネッガーは!?」

みんなの所に戻ると、みんな心配そうにネッガーの顔を覗き込む。

「もう大丈夫、回復も済んだよ。もともと大した怪我はしてなかったみたいだ」

「はああ、よかったぁーーー」

「それじゃあ・・・あとはあいつをどうするか、よね」

その視線の先にはゴブラオが。

既に氷にはたくさんのヒビが浮かび、今にも中から出てきそうだ。


「ふむ、カルア君は別として、みんなもう魔力も体力も残ってなさそうね」

クーラ先生のその冷静な指摘に、誰からも反論はない。実際その通りだったから。


「そのカルア君も、ゴブラオのあの速さについていく事は出来ない。でしょう?」

「その、通りです・・・」

攻撃を当てるどころか、さっきのあの動き、目で追う事すら出来なかった。俯瞰だってしてたのに。こうなったら把握した全空間のスティールで・・・でも・・・




悔しげな僕の返事にクーラ先生は軽く微笑み、そして僕たちひとりひとり順に視線を合わせ、最後にこう言った。

「分かったわ。みんな今までよく頑張ったわね。ええ、本当すっごく頑張った。これだったら、あなたたち全員もう立派な冒険者よ。ほら胸を張りなさい」


そしてクーラ先生は、今まで一度も見せた事の無い優し気な笑顔をこぼし、僕たちに言葉を続けたんだ。


「そうね、本当によく頑張った。だから今はもう十分。あなた達はこれからきっと、もっともっと強くなる。それこそ、あのゴブラオなんか目じゃないくらいにね。だから・・・」


クーラ先生、そんなまさか・・・


「だから後の事は、あいつは私に任せて、みんなは・・・」


ダメだよ先生、それ以上口にしたら・・・


「「「「「くっ、クーラ先生っ!?」」」」」


み、みんなもクーラ先生が言おうとしてる事に・・・




「後ろで見学してなさい」

「「「「「はいぃぃ!?」」」」」



全身に貼り付いた氷を粉々に吹き飛ばすゴブラオ。

その前に降り立ったクーラ先生は、さっきまでとは少し違う笑顔で、

「あなたの強さもまあまあだったわよ。そうねえ、じゃあ私の弟子(・・)を虐めてくれたご褒美に、初めから2段階めで相手してあげようかしら」


ああ、これダメなやつだ・・・



そこからはあまりに一方的だった。

ゴブラオの攻撃はクーラ先生にはかすりもせず、クーラ先生が動けばゴブラオはサンドバッグに。

そしてゴブラオの表情はだんだん絶望の色を濃くし、それでもギリギリのところで耐えているみたい。

・・・何故だろう、今は何だかゴブラオを応援したくなってきたよ。


「ったく、あなた無駄に固いわねえ。うーん、どうしようかな。このままだと帰るのがちょっと遅くなっちゃいそうだし・・・」

なんて事をつぶやき、次の瞬間僕の前に姿を現すクーラ先生。

「カルア君の剣には使用者制限を付けてなかったわよね。ちょっと貸してくれる? 殴るのが面倒になっちゃって」


あっはい、どうぞ・・・



そしてゴブラオの体は綺麗に左右に分かれました。

「ふっ、伝説とは言っても所詮はゴブリンね。さて、じゃあみんな後片付けして帰るわよ-ー」




ゴブラットの穴に土を被せ、ノルトの土壁は僕が撤去。

ゴブラオはそのままギルドに持ち帰る事になって、僕が収納。

そうこうしてるうちにネッガーも目を覚まし、

「さあ! ギルドに報告しなきゃいけないから、寄り道しないでまっすぐ帰るわよ」


こうして僕たちの初めての狩りは終わり、僕たちは無事王都に帰り着いた。



何だか色々あったけど、結局今日の感想は「クーラ先生が最強!」

そしてネッガー、君いつの間にかクーラ先生の弟子になってたみたいだよ?

頑張れ。

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