それぞれの休日、それぞれの家族
王立学校は本日から3連休となる。
カルア達パーティの面々は、この休みを利用して実家に戻って行った。それぞれの両親から冒険者登録の承諾を得る為に。
承諾を得る事が出来たら、いよいよ来週末は全員で冒険者登録に行く予定だ。
自分が足を引っ張る訳には行かないと、全員それぞれの地で気を引き締め直した。
ここは王都の北に位置するフタツメの街、そのすぐ近くにある大きな農園。
「ただいまーー」
入り口で声を上げたノルトに、ちょうど夕食の準備を始めようと土間に降りた母親のファムが声を掛けた。
「お帰りノルト。久しぶりだね。2年になってどう? 『先輩』とか呼ばれたりしてる?」
「ただいま、お母さん。そういえば新入生とは話した事無いなあ。あ、でも今年から面白い編入生が入ってきたんだ。カルア君って言うんだけどさ、今までヒトツメの街で冒険者をやってたんだって。それで魔法の才能があるのが分かって編入してきたそうなんだけど、本当に凄くってさ」
珍しく興奮した様子のノルトに、ファムは軽く驚いた。
「へええ、ノルトがそんなに一生懸命友達の事を話すなんて珍しいじゃないか」
「だって本当に凄いんだ。この間なんか新しい魔法を開発して発表しちゃったし、土魔法だって教わったばかりなのにもう僕と同じくらいの事が出来るようになっちゃってるし。もうびっくりする事ばかりだよ」
「それは凄い子もいたものだね」
珍しい我が子の様子に、ファムはうれしそうに笑った。
これまでは学校の様子とかを訊くと、にこやかに受け答えしていても、どこか冷めた感じを受けていたから。
「それで今日帰ってきたのは、お父さんとお母さんにちょっとお願いがあったからなんだ」
ちょっと言い難そうなノルトの様子に、少し怪訝な表情を浮かべるファム。
「何か良くない事でもあったのかい?」
「ああええっと、そういうんじゃないんだ。ちょっと許可が欲しいっていうかさ」
「ふむ」
そんなノルトの様子に、それ程深刻な内容でもなさそうだと感じたファムは、
「もう少ししたらお父さんたちも畑から帰ってくるだろうから、夕飯の時にでも話してみるかい?」
「うん、そうするよ」
全員家に戻った夕食の時間、食卓には久しぶりに家族全員が勢揃いした。
およそ2ヶ月ぶりの末っ子の帰宅に会話は弾み、今年の天候や作物の成長、相場の変動などの話から最近の家族の話に。そして弾むようにノルトが話す学校での話。
父タムボと母ファムは微笑ましげに、そして一昨年学校を卒業した兄ハタと去年卒業した姉ブロッサはそれを、懐かしげに聞いていた。
「それでお父さん、今日はちょっとお願いがあるんだ」
「ん? 何だいノルト、言ってご覧」
機嫌が良さそうなタムボの声に、ノルトはその「お願い」を口にした。
「友達と一緒に冒険者登録をしたいんだ」
それを聞いたタムボの目はキラリと光る。
「ほほう、ノルトは将来冒険者になりたいのかい? 隣に農園を広げてそこを経営するものだとばかり思っていたけど」
「ああ、それは今でもそのつもり。冒険者をやるのは学校に行っている間だけなんだ」
「ちょっと詳しく教えてくれるかい」
ノルトはタムボに向かって誠心誠意説明、いやプレゼンした。
先輩冒険者でもあるカルアの事、自分が覚えた土魔法による攻撃の事、パーティ戦闘の訓練で先生のお墨付きを得た事、自分を含む全員が回復魔法も使えるようになった事、以上の事から危険ではないし、危険な事はしないという事。
「ふむ、なるほど・・・」
そう言って考え込むタムボ。
隣では家族たちがそれを見守っている。
「それによりノルトが得るものはなんだい? それと、冒険者としての活動で勉強の時間が減ると思うけど、卒業までと卒業してからのプランはあるのかい?」
「僕が得るのは経験。ただ勉強していただけじゃあ絶対に得る事が出来ない経験を積む事が出来ると思ってる。それと卒業してからって言うか、これから経営する農園のプランはもう固まっているよ。それは一年中同じ野菜を生産できる『結界農場』さ」
再び光る父タムボの目。しかし今度はキラリではなくギラリ。
「その『結界農場』について詳しく聞こうか」
こうして父であり経営者でもあるタムボの興味を引く事に成功したノルトは、『結界農場』の仕組みと想定する利益を熱弁し、無事に冒険者登録の承諾を勝ち取る事となった。
ここミツツメの街は、王都の東に位置する大きな街である。
そんなミツツメの街で生まれ育ったネッガーは、今日再びこの地に帰って来た。
家の扉をくぐると、ネッガーを出迎えてくれたのは母親のシルと弟のローン。
「ただいま帰りました」
「お帰りなさい、ネッガー。久しぶりね」
「お帰りなさいっ兄上!」
優しく微笑むシルと溢れる笑顔のローンに微笑みかけるネッガー。
ちょうどそこに、ミツツメの警備隊長を務める父ベスタが帰宅した。
「おお、帰ってきたのかネッガー。では早速、前回からどれほど強くなったのかを道場で見せてもらおう」
ベスタはそう言うと、挨拶もそこそこにネッガーを連れて道場に移動する。そしてその後ろには当たり前のように同行する、期待に満ちた様子の母と弟の姿。
「む、帰ってきおったかネッガー。全員そこまで。場所を空けよ」
道場主である祖父のスターが声を掛けると、弟子たちは壁際に並ぶ。
彼らの視線が集まる中、
「では始めよう」
剣を取り正対する父と子。
やがてどちらともなく剣を合わせると、予定調和の如く流れるその剣は、やがてせせらぎから急流、そして激流へ。
長いような短いような剣戟の末、静止したベスタは我が子に声を掛けた。
「なかなか腕を上げたな。しかしこの程度か?」
その声にネッガーはニヤリと笑みを浮かべ、
「いいえ父上、今の俺にはもう一段上があります」
「ほう、ならば見せてみよ!」
こちらもニヤリと応えるベスタ。
こうして再び剣を交える父と子。
より速く、より激しく。より強く、そしてより美しく。
それを静かに見守る弟子たち、そして家族たち。その目の輝きもまた、より強く。
やがて彼らの溢す溜息と共に、道場は再び静けさを取り戻した。
「見事だ」
「ありがとうございます父上。本日はお願いがあって参りました」
「言ってみるがいい」
「冒険者登録をいたしたく」
「強くなれるのか?」
「間違いなく」
「ならばやってみるがいい」
「ありがとうございます」
脳筋たちに、言葉による説明は不要である。
そしてこちらは王都の南、ヨツツメの街。
「父よ、母よ、わたしは帰ってきた」
「ふふふ、相変わらずねワルツちゃん。お帰りなさい」
まったく挨拶になっていないような我が娘の帰宅の挨拶に、ふんわりと微笑みを返す、母トレス。
そして、
「帰ったか、ワルツ。待っていた」
厨房から顔を出す父コクサン。
ワルツの口調が誰から受け継がれたものかは、説明するまでもないだろう。
ワルツの家は、ヨツツメでは知らぬ者が無い超有名レストラン。
海がほど近いこのヨツツメに数多くあるシーフード専門のレストランとは違い、幅広いジャンルのメニューを揃えた、王都に近いスタイルのレストランである。
その大繁盛レストランも、今はディナータイムの準備中で客の姿はない。
「家に入る前に何か食べてく?」
「うん、いつもの」
「はい、いつものね。あなたお願い」
そして間もなくワルツのもとに届く、いつものプレート。
美しく盛られたピラフとその横に鎮座する湯気を纏いしハンバーク、向かいには清楚な佇まいのオムレツに、その黄色との対比が鮮やかなスパゲッティ。そしてそれら至高のソファには、気品溢れるタルタルのマントに身を包む、神々しき女王エビフライがその身を預ける。ここはワンプレートの王国、ならば当然ピラフの中央には王国の象徴、純白の高貴なる旗が、彼らの領土であると現し示す!
そう、つまりアレである。
目の前に置かれたプレートをキラキラした瞳で見つめ、まずは旗へとその手を伸ばす、今日も安定のワルツであった。
そして夜。
「そう、そのカルア君って子といつも一緒なのね」
「うん、カル師、マイ師匠」
「ふーーん、それでカルア君って、ワルツちゃんにどんな事を教えてくれるの?」
「カル師、色々凄い。すごい事を、わたしに、たくさん。開発とかも」
ぶふおぉぉぉぉーーーーっ!!!!
ワルツの言葉に盛大にお茶を吹き出す父コクサン。
それを横目に、静かに言葉を続ける母と娘。
「じゃあ、新しい事とかもいろいろ教えてくれたりとか?」
「うん、今まで知らなかった。カル師の、すごく熱い。わたしも熱く出来た」
がふぁっ!!! げふっ!! げはっ!! げほっ!!
気を落ち着けようと再度お茶を口に含んだコクサンだったが、今度は気管に入ったのか盛大に咽る。
それを見つめる妻と娘の眼は冷たい。
「じゃあワルツちゃんもちょっと変われた感じなのね」
「そう、太く長く。あと上手に飛ばせる。すごい勢いで。量もコップ2杯に」
「こここ、コップ2はいーーーっ!?」
度重なる興奮に限界を超えたコクサンは、その叫びを最後に崩れ落ちた。
「父、魔法の話で興奮しすぎ。実は魔法好き?」
「ふふふ、そうねえ、どうなのかしらね」
実に楽しげなトレス。これまでの微妙な言い回しは、もちろんすべて狙ったもの。
そしてワルツから想定を上回る素晴らしい回答が得られ、心底大満足といった表情であった。
「そうかあ、凍らせるだけじゃなくって、カルア君が開発した熱くする魔法も使えるようになったのね。それに作れる氷も倍の大きさになって飛ばすのも上達できたのかあ。カルア君って凄いお師匠さんなのね」
「そう、それで今度みんなでパーティを組んで冒険者登録する」
「それは楽しそうね。ワルツちゃんがんばってね」
「うん、がんばる」
哀れなコクサンに真実が伝えられるかどうかは、すべてトレス次第・・・
王宮からほど近い一等地。
そこに広がるのは王宮に次ぐ広さを誇る、ベルマリア家の敷地である。
今日もまた、その門を勢い良く駆け抜けるひとりの少女の姿があった。
「「「「「お帰りなさいませ、アーシュお嬢様」」」」」
扉を開けると一斉に出迎える使用人達。
これもまた、いつもの光景である。
「うん、ただいま! お父様とお母様は?」
「旦那様は執務室にてお仕事中です。奥様はサロンにいらっしゃいます」
そう恭しく答えたのは、筆頭執事のベクタ。
「わかったわ。じゃあお母様の所に行こうかしら」
「では一度お部屋で御髪を整えましょう」
そう言って荷物を受け取り、アーシュと一緒に部屋に向かう、筆頭メイドのラスタ。
ベルマリア家の邸内は、このふたりによって支えられているといっても過言ではない。
「そう言えばラスタ、今日また新しい魔法を覚えたわよ!」
「まあ、流石ですねアーシュ様。どのような魔法かお聞きしても?」
「ふふん、それはね・・・」
部屋への道すがら楽しげにラスタに話しかけるアーシュ。彼女にとってのラスタは、昔から頼れるお姉さんなのだから。
「お母様!」
着替えを終えたアーシュは母のいるサロンへ。
その扉を開けると、元気な声を響かせた。
ベルマリア家にとって、静謐と上品はイコールではない。
自分の言いたい事はハッキリと言って、それでいて相手の言う事も尊重する。上品さは仕草で表すものではなく人間性から滲み出るもの。
他の貴族を鼻で笑い飛ばすようなその教えが、代々根付いているためである。
「お帰りなさいアーシュ。その顔、今日も学校は楽しかったみたいね」
「ええもちろん。今日もカルアはやらかしてくれたわ!」
「ふふっ、最近のアーシュはカルア君の話ばっかりね。そんなにカルア君が好きなのかしら?」
「そそそ、そんなんじゃないんだからっ。あいつは見てて楽しいだけ。好きとかそういうんじゃないから!!」
「まあ! 見てて楽しいなら十分好きって事だと思うけど」
「違うもんっ!!」
思わず子供っぽい言葉遣いに戻ってしまうアーシュ。
そんな娘を見る母ララベルの楽しげな笑顔。
周囲の使用人達も思わず微笑む、幸せな空間がそこには広がっている。
「それでお母様、いよいよ来週冒険者登録をするのよ」
「あら、とうとう登録の日が決まったのね」
「うん、今頃みんな両親の承諾をもらいに行ってるはずよ」
「そうなの。じゃあ来週はアーシュの冒険者デビュー記念日ね。それにパーティ結成記念日にもなるのかしら。どう? せっかくだから仲間のみんなを呼んでパーティとかしちゃったら?」
良い事を思い付いたとばかりに手を打つララベル。
「うーーん、どうかなあ。みんなそういうのって好きかなあ?」
珍しく歯切れが悪いアーシュ。
「ふふっ、大丈夫よアーシュ。みんなが楽しめるような形式のパーティにするのだってホスト側の努めなんだから。あなたが『これならみんな楽しく思ってくれる』ってそう思えるパーティを考えたらいいの」
それを聞いて再び考えるアーシュ。
「そうか・・・そうよね! 好きかどうかじゃない、好きに思えるパーティにすればいいのよね! 私やるわ。きっとみんなを満足させてみせる!!」
「ええ。がんばってねアーシュ。なんだったらみんなにそれとなく訊いてみるのもいいかもね」
「ありがとうお母様! 私やってみる!!」
次にアーシュが向かったのは離れの別宅。
「お祖母様、久しぶり!」
「ああ、いらっしゃいアーシュ。よく来たね」
そこでアーシュを待ち構えていたのは、ベルマリア家前当主「マリアベル・ベルマリア」、一部での通称ベルベルさんである。
「しばらく顔を出さなかったじゃないか。学校が忙しかったのかい?」
「うん、それもあるけど、お祖母様も忙しそうだったから。ずっとカルアの事とかで大変だったんでしょう?」
そんな可愛い孫娘の気遣いに、
「ああ、そうだったのかい。ありがとうよアーシュ。でももう大丈夫さ。カルアの奴ももう学校には馴染んだろうから、あたしの出番はこれからどんどん少なくなっていく筈さ」
そう言って、他の誰にも見せた事の無い柔らかい微笑みを浮かべるマリアベル。
「あれ?」
そんなマリアベルの顔にふと違和感を感じ、不思議そうな目で見つめるアーシュ。
「ん? どうしたんだい、アーシュ?」
「お祖母様、化粧品か何か変えた? 何だか肌がもの凄くつやつやしてない?」
「ああ、分かっちまうかいアーシュ? 実はさ、近々売り出させる最新の化粧品を発売前に手に入れる事が出来てね、最近はずっとそれを使ってるのさ」
「お祖母様、ちょっと見せてね」
アーシュはマリアベルに近づき、あらためてその顔をのぞき込んだ。
「やっぱり。顔の作りは変わってないからぱっと見は気付かないかも知れないけど、肌が前と全然違う・・・」
アーシュもやっぱりレディ、美容には敏感なのである。
「ねえお祖母様? お母様はこの化粧品のことを知ってるのかしら?」
「いや、あたしは言ってないからね。他からの情報もまだ無い筈さ」
「言っておいたほうがいい、よね?」
「あ・・・」
「ううん、絶対言っておかないと不味い事になる気がするわ」
「そ、そうだね。確かにその通りだ・・・。よし、後でこれを届けてやってくれるかい。ララベルならこれひとつで十分効果が出る筈さ。使い方は『顔に軽く塗ってから魔力を流す』だけだから、それも伝えてやっとくれ」
そう言ってマリアベルは、モリスからぶん取った10個のうちの1個をアーシュに手渡した。
「分かった、渡しとくね。それでこのクリーム、どれくらいでハッキリ効果が出るの?」
「魔力にもよるだろうけど、まあ遅くても2〜3日ってところかねえ」
「そっか。じゃあお祖母様がお母様に会うのは、その後がいいと思うわ」
「ああそうだね、そうするとしよう。ありがとうよアーシュ、お陰で助かったよ」
母子間戦争に繋がりかねなかった問題を解消し、話題はアーシュの魔法に。
「それでアーシュ、あんた魔法はどんな感じだい? 今年から実技が始まったろう?」
「ええ、順調よ。まだ全属性出来るようにはなってないけど、結構色々と使えるようになってきたわよ」
「ほほう、そうかいそうかい。じゃあさ、あたしにも何か見せてくれるかい?」
「もちろん。まず土魔法だけど」
そう言って空中からサラサラの砂を取り出すアーシュ。
ガラスの材料となる、あの川原の砂である。
「ちょっとアーシュ、あんた今どこからそれを・・・」
「え? ああ、ちょっとカルアから収納を教わったの。便利よねコレ。それで土魔法なんだけど」
そう言って今度はその砂を人型にしてテーブルの上で動かし始める。
「最近やっとカルアに勝ち越せるようになったのよ。もうあいつ強すぎるんだから」
その砂人形は、剣舞のような動きからダンス、そして動物のような形に姿を変えてからアーシュに収納された。
「それから火魔法ね。あたしってほら、火魔法得意だったじゃない? なんだけど」
そう言って空中に小さな火球を浮かべるアーシュ。
「ここから『加熱』出来る事に気付いたのよね」
その声と共に、火は徐々に白く、そして青くなっていく。
「でも不思議よね、なぜ現象だけ発現させる火魔法が『加熱』出来るのかしら? あ、ごめんなさいお祖母様。ちょっと暑いわよね」
周囲の温度も上昇してきたため、アーシュは火球の周辺にさっと光魔法の障壁を展開した。
火球は障壁の中でただ青く静かに揺らめく。
「火魔法はこんな感じよ。じゃあ『冷却』」
魔法により火とその周囲の温度を下げ、障壁を解除。
「次は水魔法なんだけど、ちょっと地味なの。こんな感じよ」
その声と共に空中に現れた水は何処かに飛んで行く事もなく、その場に留まり円を描くようにくるくると流れ続ける。
「これって土魔法の『移動』とよく似てるのよね。カルアにそれを聞いてからはすっごく簡単だったわ」
「今のところはこんな感じ。次は風魔法に挑戦よ。錬成とか転移とかも早く出来るようにならなくっちゃ!」
「アーシュ、あんたそれ・・・学校の授業で教わったのかい?」
愕然とした表情のマリアベルが、アーシュにそう呟く。
「うん、基本は全部授業で。それをカルアと工夫したりとか」
「・・・」
そのアーシュの一言が、時間を掛けてようやく脳まで到達したマリアベル。
「かかかカルアーーーーっ!! あいつやりやがった!! あたしの可愛いアーシュをこんな非常識にしちまって!! ああっ! アーシュが、あーしゅがあぁぁ・・・」
その祖母の悲鳴に自分の言動を振り返ったアーシュは、
「ちょっお祖母様しっかり! あたしは変わってない、変わってないから! あたしカルアってない! カルアってなんかいないんだからねっ!!!」
必死に弁明を繰り返す。
そんな阿鼻叫喚のふたりをオロオロと、だがどことなく微笑ましげに見やる使用人達。
アーシュ様のあまりの魔法の上達の早さにきっと驚かれたのだろう、そんな当たらずとも遠からずの平和な推測をしながら。
でも、「カルアっている」とか「いない」とかってどういう意味だろう・・・
そして離れから戻ったアーシュから受け取ったクリームを試したララベル。
「なっ何よこのクリーム! これは・・・これは世界が変わる! いえ、戦争が起きるわっ! 何としても、何としても今のうちに確保しなくちゃ!! お母様っ、お母様ーーーーーっ!!!!」
離れにダッシュ!!
ヒトツメの街。
「ピノさん、いただきます!」
「はい召し上がれ、カルア君」
大量の鍋や食器を作り、大量の金属バット肉やブル肉などを採取し、大量の料理を作り、それぞれの固定ボックスに次々と詰め込んだカルアとピノ。
これで当分食料を用意する必要はないだろう。
ひと仕事終えた彼らは、幸せそうにふたりきりの食卓を囲むのだった。