ついに僕の学校生活が始まります
「みなさぁーーん、おはよーーぉございまーーーす」
「「「「「おはようございまーす」」」」」
「はぁーい、今日も、いいお返事ですね-ー。今日はぁー、みなさんにぃー、新しいお友達を紹介しまぁーー-す。最後までいい子で、聞いてくださいね-」
「「「「「はーーーい」」」」」
なに?何が始まったの!?
「はーい、それではみなさぁーん。こちらがぁー、今日からみなさんの新しいお友達になるぅー、・・・・・・カルアくんでーす。いいですかぁー、仲良くしてあげてくださいねぇー-。恥ずかしがったりしちゃあ駄目ですよぉー-。ええっとー、それじゃあまず、カルアくんに自己紹介してもらいましょうねーー。はぁい、それではカルアくん、元気よくどうぞ-ー」
なんか想像してたのと違う! やりにくい!
学校って・・・学校って、こんな感じなの!?
そんな戸惑ってる僕に向けられる他のみんなの目が・・・これは同情?
ああそうか。ここにいるのは1年間この先生と過ごしてきた歴戦の勇士たち。
つまりこう言いたいんだね。おかしいのはこの先生だ、僕じゃないと。
ありがとう理解した。そして今日から僕も君たちの仲間だ、戦友たち!
「ヒトツメから来たカルアです。初めての学校でいきなりの洗礼に戸惑いましたが、皆さんのおかげで何とか踏みとどまることが出来ました。これまでの皆さんの苦労、そしてそれを乗り越えてきた皆さんの精神力に心から敬意を表します。そして尊敬します。これからよろしくお願いします」
おお、全員総立ちで拍手!? スタンディングオベーションってやつ!?
それに涙を浮かべた人たちも所々に。やっぱりみんなこれまで大変な思いを!
「あ、あれーー? よくわからない自己紹介だったけどぉー、せんせいもびっくりするくらいの大歓迎? ええっとー、そんなにみんなどこに感動したのかなぁ? せんせいだけがよくわかっていないのかなぁ? それはちょっとだけ悲しいよぉーー。・・・でもー、カルアくんが受け入れられたのはすっごく良いことだよねぇーー。うん、だからーみんないい子ってことだよねー-。よーし、みんなー、ちゃんとなかよく出来て、えらいぞぉーーーー」
ああ、ここで返事をするんだね。OKだ。
「「「「「はーーーい」」」」」
「カルアくんはぁー、ヒトツメの街で冒険者をやってたんだけどぉ-、少し前にすごい魔法の才能があることがわかってぇー、編入試験に合格して、こうして皆さんと同じ教室で学ぶことになったんですよぉー-。みなさん、いろいろ教えてあげてくださいねぇー-。じゃあカルアくんの座るところはぁーー・・・」
「先生、あたしの隣が空いてます」
「ああ、アーシュちゃんの隣ね。そうねぇー、じゃあカルアくん、あそこのぉーアーシュちゃんの隣に座ってねぇー-」
「よろしくね、えっとカルア、だったわね。あたしはアーシュよ。よろしく」
「よろしくお願いします。アーシュさん」
「アーシュでいいわよ、同じクラスなんだから。その代わり、あたしもあんたの事カルアって呼ぶからね」
「うん、わかったよアーシュ」
これが同学年の距離感ってやつ? なんか新鮮。
それにしてもこの人、雰囲気がどことなく誰かに似てるような。誰にだろう?
「さっきの挨拶、なかなか良かったわよ。ちゃんとわかってる奴で安心したわ。他のみんなもあんたの言葉に感動してたみたいだしね」
「やっぱりみんな苦労してきたんだね」
「そうよ。我ながらよく1年間頑張って来れたと思ってるわ。入学してから魔力が増えたのは、精神力が鍛えられたせいじゃないかって思えるくらいよ。まったく、何だって幼年学校の先生がいきなりこっちの学校で担任になるのよ!!」
ああ、あの喋り方ってそういうこと・・・
「まあ今更そんな事はどうでもいいわ。それで、あんたがこの前おばあちゃんの弟子になったカルア、なのよね?」
ああ、やっとわかった。
アーシュって、雰囲気や話し方がどことなくベルベルさんと似てたんだ・・・
でもさ、ベルベルさん?
アーシュって確かにベルベルさんの言ったとおり綺麗な人だけど、ベルベルさんの顔とは・・・似てないよね?
ホームルームが終わって先生が教室を出ていくと・・・あれ? そういえばあの先生、自分の名前を名乗らずに行っちゃった・・・僕の周りにはたくさんの人だかりが。
「カルア、よろしくな」
「さっきの自己紹介、よかったぜ」
「うん、感動した!」
「ヒトツメから来たんだって?」
「冒険者なのよね? ダンジョンとか行くの?」
「ヒトツメに彼女がいたりとか?」
「学校は初めてって言ってたよな? じゃあずっと冒険者を?」
「王都でも冒険者をやるのか?」
「魔法はどんなのを?」
「編入試験ってどんなことをやるの?」
「え、えっと・・・」
う、うわー、誰が何を言ってるのか全然・・・こんな時は、「俯瞰」・・・って上から見たって状況が変わるわけないじゃないか・・・
「はいはい、みんな落ち着きなさい。カルアが困ってるじゃない。カルアへの質問は後で時間を用意するから、その時にね」
「ちょっとアーシュ、なんでカルア君の事をあなたが仕切ってるのよ」
「だって、カルアは私のお婆様の弟子だもの」
「「「「「ベルマリア女史の!?」」」」」
「ほら、わかったら席に戻る。そろそろ先生が来るわよ」
初めての授業は歴史。
この先生の喋り方は普通。だよね、やっぱりおかしいのはあの先生だけだよね。ああ、あの先生の名前、あとで誰かに聞いとかなきゃ。
歴史の授業の内容は・・・うん、ベルベルさんから教わった内容の復習だね。
次の授業は数学。
モリスさんから聞いたんだけど、魔道具開発とかでも数学はいろんな所でよく使うんだって。例えば空間座標の指定や相対位置の求め方、あと範囲内の体積とかも。
そんな感じで午前中の授業は終了。
「カルアもお昼は食堂だよね?」
「あ、うん、そうだけど」
「よし! 座席確保班、カルアの席も追加よ。食券確保班、予定通り全員日替りB。こちらもカルア分追加よ。両班とも出撃! 他の連中に負けるんじゃないわよ!」
「「「「おう!!」」」」
「ええっと、今のは?」
「ふふん、あれはね、かつてバーサクフェアリーピノ様が編み出した『昼食フォーメーション』よ。個人戦であるはずの食堂の座席争奪戦に組織力を導入し、以後ひとりも昼食難民を出す事が無かったという伝説の戦術。ピノ先輩の卒業とともに失われていたその戦術を、私がおばあちゃんから聞き出して復活させたのよ」
・・・えっと。
まず「バーサクフェアリーピノ様」って、間違いなくピノさんの事だよね。
見学の時のあの校長先生の様子からしても。
ピノさん、学校に何の爪痕を残してるんですか・・・
「さあ、そろそろ私達も行きましょうか。もう座席も昼食も用意できているはずよ」
食堂に到着すると、アーシュさんの言ったとおり、人数分の座席と昼食が。
「みんな! 他のみんなの迷惑になるから、さっさと食べて撤収するわよ」
「「「「「いただきます!」」」」」
組織力、恐るべし・・・
昼食を終えて教室に戻ると、どうやら僕への質問タイムが始まったみたい。
「はいはーい、じゃあカルアに質問がある人はここに一列に並んで。質問はひとりひとつ。複数の質問がある人は、ひとつ質問したら列の後ろに並びなおすこと。あと質問の前にはみんな必ず自分の名前を言いなさいよ。じゃないと後でカルアに『○○の質問をした人』なんて呼び方されるからね」
そんな呼び方はしないけど・・・いや、名前を知らなきゃそうなっちゃうか。
「俺はネッガー、得意なのは身体強化だ。カルア、お前の得意な魔法は何だ?」
一番手は筋肉の人。体でか。
「時空間魔法が得意かな。あとは錬成とか」
「そうか。これからよろしくな!」
いかにも物理特化な感じの人だけど・・・魔力を使った身体強化だからこのクラスなのかな?
「ワルツ。氷が得意。全部凍らせる。空気も。どんな魔物を倒した?」
「ええっと、ラビットとかバットとかウルフとか色々と」
「今度詳しく教えて」
小柄な女の子。物静かな感じ・・・はしないな。口数のわりに圧が強い?
「僕はノルトだよ、よろしく。得意なのは土魔法。カルア君って僕たちと同い年だよね? いつから冒険者やってたの?」
「冒険者は10歳から。今13歳でもう少ししたら14歳になるから、同い年って事になると思うよ」
「そうなんだ。話しやすそうな人で安心したよ。よろしくね」
ノルトか。話し方とかちょっと安心するタイプ。仲良くできそうだ。
「ちょっとノルト! 今のって質問ふたつじゃないの!? 気を付けなさい」
「あれ、そうだった? ごめん気をつけるよ」
アーシュさんのチェックが厳しい。
あれ? 何か書いてるけど、もしかして質問を全部メモしてるとか? いやまさかね。
「私はアイよ。あなたヒトツメギルドの冒険者だったらピノ様の事は当然知ってるわよね。普段どんな事を話してるのかしら?」
「え?」
「ちょっと! あなた冒険者クラスじゃない。なぜここにいるのよ」
「別にいちゃいけないわけじゃないでしょ? ピノ様のいるヒトツメから冒険者が来た。ならば私が来るのに十分な理由になるでしょう?」
「はぁ・・・まったくもう! カルア、こいつは冒険者クラスのアイよ。ピノ先輩の熱烈なファンでね、ピノ先輩はもう卒業してて直接会った事も無いっていうのに、未だに現会長としてファンクラブを存続させてる困った奴なのよ」
「何よアーシュ、あなただって今でも会員じゃない」
「ばばばば、馬鹿言ってんじゃないわよ。あたしはだってそんな・・・」
「まったく、隠す事なんてないのに」
「だだだだって、ピノ先輩って・・・」
「何が『ピノ先輩』よ、ちょっと前まで『ピノ様』って呼んでたじゃない」
「っもう! あたしの話はいいでしょ! それで結局何? アイ、あんたカルアに何か質問をしに来たって事なの?」
「質問というか・・・実は少し前の事なんだけど、王都でピノ様の目撃情報があったのよ」
「なっ!?」
「それでファンクラブの草たちに調べさせたんだけど、目撃情報は大きく2種類に集約されたの。ひとつはロベリー先輩とカフェでお茶、そしてもうひとつが・・・男の子とふたりでデート」
「でっ、デート!?」
いや、その前に「ファンクラブの草」って何? ファンクラブに諜報部隊とかがあるの!?
「それでピノ様がその相手の男の子のことを『カルア君』と呼んでいたと」
「なっ!」
「「「「「なんだとーーーーーっ!!!!」」」」」
まさかの、全方向全員から!?
「さて、吐いてもらいましょうかカルア容疑者。・・・『あなたとピノ様の関係』は?」
容疑者って・・・ちょっとみんな・・・目が・・・目が血走って!
くっ、このプレッシャー、覚えがある・・・これは、これは魔物部屋だ!!
ならばゆく道はひとつ、今は全力回避あるのみっ!!
今の僕とピノさんの関係、それは・・・
「ええっと、姉弟(みたいな関係)、です」
「はぁ? 姉弟?」
嘘はついてない。
だって、まだそこから進展してないし。
「あの日は王都とこの学校の見学に付き添ってくれてたんです」
ピノさんは「デート」って言ってたけど。
僕も途中からそのつもりだったけど。
「そのあとピノさんはロベリーさんとカフェに行って、僕は知り合いと一緒にいたんです。帰りはもちろん一緒だったけど」
モリスさんの事は内緒。
「なあーんだ、そうだったの。とりあえず安心したわ。でもあなた、なんでお姉さんのことを『ピノさん』なんて呼んでるの?」
「えーっと、昔からの習慣というか・・・『ピノさん』って呼んだり『ピノ姉さん』って呼んだりしてるんだけど」
逃げ切ったか? ・・・よし、なんとか回避成功だ。
ピノさん・・・、この学校での僕は、あなたの弟になりました。
僕の身の安全のために。
あとでベルベルさんと校長先生に口裏合わせをお願いしなきゃ。
僕の身の安全のために!
そんな大波乱の昼休みもなんとか終わり、午後の授業へ。
まずは魔法の座学から。
理論とかはオートカさんから教えてもらった内容を薄めたような感じだったけど、魔法を使うための実践的な内容については初めて聞くものが多かった。
「カルア君に中途半端な知識は危ない」とか言って、みんな教えてくれなかったし。
そして今日最後の授業は・・・ついに来たよ、魔法の実技!
さあ、今こそ幻の全属性魔法師カルアへの第一歩だ!!
「そう言えばアーシュ、アーシュが使える属性って何?」
「ああ、あたしは全属性使えるわよ?」
って、全属性魔法師は幻じゃなくってすぐ隣にいた!?
「っていうかカルアわかってる? あたしとあんたはライバル同士だからね」
「ライバル?」
「そう! あの『マリアベル・ベルマリア』の孫娘と弟子なのよ? まさに宿命のライバルと呼ぶに相応しい、理想的な立ち位置じゃない! いいカルア? あなたの全力を持ってかかってきなさい。私の全力を持って返り討ちにしてやるわ」
おおー! 宿命のライバルっ! なんて・・・なんて熱い言葉なんだ!
「わかったよアーシュ。僕は僕の全力を持って、君に挑ませてもらうよ」
「よく言ったわカルア。それでこそあたしの宿命のライバルね。ならば勝負は今この瞬間、この授業から始まるのよっ!!」
「はい、じゃあそこのふたりの話も無事まとまったようなので、これから授業を開始しまーす」
「「あ・・・」」
うわぁ、こ、これは恥ずかしい・・・
隣でアーシュも・・・真っ赤になって俯いて・・・
「しょ、勝負開始だからね」
そんな涙目で・・・・・・
「はい、それでは適性ごとに分かれて、それぞれ適性にあった練習を行います。複数の適性を持つ人は、自分の伸ばしたい適性のところに移動して下さい。それから、適性のない魔法の練習をするのもいいですよ。魔力効率はよくないですが、練習次第で多少使えるようになる場合もありますからね」
え? そうなの?
適性がなくても諦めなくていいんだ・・・
「それではいいですか。皆さんの前に並んでいるのが、各属性の担当指導員です。左から順に『火』『水』『風』『光』『土』『氷』『時空間』ですので、希望する場所に移動して下さい。身体強化などの魔力操作系の人は私のところです」
「カルア、あなた何にするの?」
ここはもちろん「土」一択でしょう。「時空間」は学校でどんな練習をするのか興味はあるけどもう使えるし。「水」の一部や「風」は使えるかもって言われてるけど、まずは適性がある事がはっきりしている「土」からだよね。錬成以外まだ使えないし。
「僕は『土』だよ。適性はあるはずだけど、まだ使い方知らないしね」
「そうなんだ。じゃああたしも『土』にしようっと。やっぱり勝負なんだから、お互い見える所にいないとね」
アーシュとふたりで土の担当指導員さんの前に移動すると、
「やあ、君たちも来たんだ」
「ノルトか。そういえば土魔法が得意って言ってたね。もしかしてもう使えるの?」
「まあね。うちって昔から農園をやってるんだけどさ、その手伝いで土魔法を使って畑を耕したりとかしてたから」
「へえ、土魔法ってそんな使い方もできるんだ。そう言えば『ゴブま』にも万能魔法って書いてあったっけ」
「へー。カルアってミレアさんの本、読んだことあったんだ」
「前にギルドでね。あの本が初めて読んだ魔法の本だったんだよ。アーシュもミレアさんを知ってるんだね」
「当たり前でしょ、ミレアさんはお婆ちゃんの弟子だもの。それにレミア先生の妹だし」
「ん? レミア先生? ・・・って誰?」
「ああ、そう言えばあの人、さっきは自分の事にまったく触れてなかったわね。レミア先生はうちの担任よ、ホームルームの時のあの人。信じられないだろうけど、あの人ってミレアさんのお姉さんなのよ」
うそ!?
だって見た目も雰囲気も、それに顔だって・・・あれ? 顔は・・・髪型をああしてこうしたら・・・わ、ミレアさんそっくり! いきなりインパクトが強烈すぎて、まったく気付かなかった。だいたいあの喋り方が・・・って、そういえば、初めて会った時の「うざミレアさん」の喋り方とちょっと似てるかも。
「まあ、そんな顔になるのも理解できるわよ。あたしもそうだったから。でもショックは引き摺らないようにしなさいよ。私との勝負はもう始まってるんだからね!」
こうして僕の学校初日は・・・ってまだ終わってないから!
この学校、いろいろあり過ぎ。
一体どうなってるの・・・




