ギルドマスターの話を聞きました
「よく来てくれた、カルア君」
ギルドに到着すると、早速ギルドマスターの待つ個室に案内された。
というか、家から個室までピノさんに連行?された。
まあ、嬉し楽しい連行だったけど。
ピノさんは今日は個室に残らず受付カウンターに戻る。ちょっと残念。
まあ朝は混む時間だからね。
「で、だ。まずは昨日君が預けてくれた魔石についてだが」
そう前置きして、ギルドマスターの話が始まった。
「君は『ギルド間通信』と『ギルド間共有』を知っているかな?」
「いえ、初めて聞きました」
「では説明しよう。まず『ギルド間通信』だが、簡単に言えば他のギルドに物品や情報を送る仕組みのことだ。転送の魔道具により、サイズや重さの制限はあるが物品を送ることができる。そして通信の魔道具によりこちらの映像や声、文字などといった情報を他のギルドに送ることができる。この二つの機能を合わせて『ギルド間通信』と呼ぶ」
「ダンジョンコアの監視映像とかダンジョン入り口の転移装置みたいなものですか?」
「ふむ、理解が早いな。おおむねその認識で間違いない」
なるほど。
「次に『ギルド間共有』だが、これは先ほど話した『ギルド間通信』を使い、すべてのギルドで情報と金品を共有する仕組みだ。まず情報については、すべてのギルドに情報蓄積の魔道具が設置されている。この情報をレプリケーション、あー同期とか複製とかいう意味なんだが、することにより各ギルドの情報を同一にすることができる。これにより、例えばどこのギルドでも同じギルドカードで身分を証明出来る」
「あれ? それって同じ情報をあちこちで持たなくても、どこか一か所の情報をみんなで見ればいいんじゃないですか?」
「ほほう、そこに気付くか。これは本当に驚いた。まあそれに対する回答だが・・・情報を一か所に集約するのは確かに効率的なんだが、その場所に何かが起きたらどうなると思う?」
「あ、どこも情報が使えなくなります」
「そうだ。最悪ギルドが持つ全ての情報が失われる可能性もある。そのため、一度にすべてのギルドが罹災でもしない限り情報が失われないよう、効率は悪くてもレプリケーションによる仕組みをとっているのだ」
うわあ、ギルドの持つ仕組みってすごい。
「ちなみに、ギルドカードで金を預けたり引き出したり出来ることは知っているな。自分の預けた金はどのギルドからでも引き出せるようになっている。この仕組みが、金品の共有にあたる」
これってもしかして国よりもすごいんじゃないか? いやよく知らないけど。
「で、ここからがやっと本題なんだが、まずこれらの機能を使って、君の魔石に該当する情報を探してみた」
「はい」
「しかし、そこには該当する情報はなかった。それで次に、サンプルとして魔石をいくつか王都のギルドに転送した。王都の専門家がその魔石の研究と調査を開始したところだ」
「なんだかすごい話になってきましたね」
「新発見だからな。まあそうなるだろう。それでひとつ訊いておきたいのだが、君はこの魔石をどうするつもりでいる?」
「そうですね、持っていても仕方がないので、すべて売るつもりです」
「なるほど。であれば、まず一旦通常の価格で魔石を買い取り、正式な査定額が出た後に差額を支払うという方法がとれる。メリットは今すぐ生活費を用意できること、逆にデメリットとしては、君自身があの魔石に何か別の用途を見つけた場合、買い戻すことができないことだろう」
「まあこれはあくまで選択肢についてだ。別にどちらを選んでくれても構わないし、今すぐ回答が欲しい訳でもない。金に困った時にでも考えてくれればいいだろう」
ギルマス超親切! 話し方は超ぶっきらぼうなのに。
「魔石についてはここまでだ。何か質問はあるかね?」
「いえ、良く分かりました」
「では次に転送トラップの話だが・・・その前に少し休むとするか。飲み物を用意させよう」
そう言ってギルマスは手元のベルを振る。
チリンチリン・・・
涼しげな音が鳴ると、しばらくしてパルムさんがやってきた。
「お呼びですか、ギルドマスター?」
「おや、てっきりピノ君が来るものかと思っていたが」
「いやー、来たがってたみたいですけど、ちょうど応対中だったので私が」
「これは機嫌が悪くなるパターンだな。あとでフォローしておこう」
「ぜひお願いします。凄い目でこちらを見てたので」
内輪な話が聞こえてくるんだけど、聞いてていいんだろうか・・・
「それでだ、すまないがお茶と軽くつまめるものを持ってきてくれないか」
「分かりました。すぐ用意しますので少しお待ちくださいね」
「頼む」
ギルマス超気配りの人! 話し方は超ぶっきらぼうなのに。
「さて、お茶が来るまで雑談でもどうだ。訊いてみたい事があれば何でも訊いてみてくれ。雑談だから何でも構わないぞ。ギルドと私自身の機密事項は話せないがな」
うーーん、場つなぎに言ってくれたんだろうけど、折角だから・・・
「僕、強くなりたいんです。でも魔法も力も駄目で、訓練しても上達しなくって・・・ダンジョンに行ったのも自分を見直したいからで・・・」
「ふむ、カルア君、君は今何歳だ? ギルドに登録したのは?」
「この間13歳になりました。登録は10歳になってすぐです」
「ギルドに登録して3年といったところか。それなりに経験を積み上げ、自分というものが見えてくる年数だな」
「はい、勉強や訓練もしたし、いろいろ経験も積めたと思ってます」
「君については、昨日君が帰った後ギルドのメンバーから話を聞いている。みんな口をそろえて『才能はない。だが凄い努力家だ』と言っていたよ」
うん、分かってたけど嬉しいような悲しいような・・・
「だがしかしだ、君を含めみんな勘違いをしている」
「勘違い、ですか?」
「そう、勘違いだ。確かに生まれ持った才能というものはある。しかし、君ぐらいの年齢で急に化けるというか急成長する者もいる。才無しと思われていた者が豊かな才能を持つ者を超える事などざらにある」
「・・・」
「信じられないといった顔だな。だがこれは事実だ。私は今までギルド職員、そしてギルドマスターとして数多くの冒険者を見てきた。だからこそ分かったことがある。才能についてだ。いいかねカルア君、才能と呼ばれるものには、実は2種類あるんだ」
思わず身を乗り出す僕。
「まずは君の言った通り、生まれ持った才能。これは間違いなくある。そしてもうひとつが、ある出来事や機会を境に急激に伸びる才能。こう言うと信じられないかもしれないがね。だが、例えば君は『壁を越えた』という言葉を聞いたことはないかね」
・・・ある。そう、あの物語で!
『坊主、どうやら壁を超える事が出来たようだな。そうさ、難しく考える事なんかないんだ。前だけ向いてとにかく走り続けりゃあいい。気がついた時にゃあ、出来なかった自分なんかはるか後ろに置いてきちまってるもんさ』
まさかあの主人公と同じ言葉をギルマスから聞くなんて!
「君くらいの年齢の子は急に伸びる。過去の自分が持っていた才能など気にする必要はない。少なくとも私はそう思う」
心が震える・・・
「あ、ありがとうございます。なんだか頑張れそうな気がします」
「そう思ってくれたのなら私もうれしい。こう見えて君には期待しているんだよ」
「まあ、君はそれだけじゃない可能性があるがな。それはまあ、その次の話だ」
「?」
「お待たせしました」
ちょうどそこにお茶を持って来た・・・ピノさん?
「おや、パルム君と交代したのかな」
「パルムさんにご用の冒険者さんがみえたので」
「なるほどなるほど。それなら私のフォローは必要なさそうだ」
「なんです、ギルドマスター?」
「いやこちらの話だ。気にしないでくれ」
などと話しながらお茶のカップを並べるピノさん。3人分並べ終えて僕の隣に座る。あれ?
「私も担当としてお聞きしたほうがいいと判断しましたが、ご一緒してもよろしいですか?」
「ふっ、そういう事なら構わないだろう。だが受付業務は大丈夫か?」
「ちょうど人の流れも途切れたようですし、何かあっても他の職員がフォローできそうでしたので」
ピノさんの言葉にうなずくギルマス。
そして3人で静かにお茶を飲みお茶菓子を食べる。
ホッと落ち着いたころ、カップに残ったお茶を飲み干して口をリセットしたギルマスが、先ほどの続きを話し始めた。
「次は転送トラップの話だったな。これについては専門家を調査に派遣させる話がついた。君の証言をもとに、考えられる条件のパターンをリスト化してトラップを再現させ、発生条件を特定する」
「大丈夫なんですか?」
「調査には上級冒険者が同行することになっている。安全を考慮してかなり強い冒険者に依頼する予定らしい」
おお、上級冒険者! 有名な人だったらサインとかもらいたい!
「もしかしたら調査に来た専門家にカルア君からの説明を求められるかもしれん。その際は説明を頼む」
「分かりました。心の準備をしておきます」
「うむ、冒険者らしい良い回答だ。よし、では転送トラップについては以上だ」
「最後に君のスキルについてだ」
「はい」
「進化したスティールについてはあとで見せてもらおう。まずは前提となる話からだ」
「前提となる話、ですか」
「カルア君、そもそもスキルとは何だと思う?」
いきなりの質問に戸惑う。スキルとは何か? うーむ・・・
「難しいだろう? 実は専門家の間でもはっきりとした答えは出ていない。今のところはすべて仮説レベルだ」
「どのような説があるんですか?」
「最も有力だと言われているのは、魔法の一種であるという説だ」
「魔法ですか」
「そう。なので今はその前提で話を進める。スティールを魔法として考えた場合、では属性は何になるだろう?」
スティール・・・アイテムを手元に引き寄せるスキル。離れた場所にあるものを自分の手元に移動させるのなら空間魔法か。そして徐々にではなく一瞬で手元に来る。ならば時間魔法も関係する? とすると・・・
「時空間魔法・・・ですか」
「そのとおりだ。そして君は他にも時空間魔法が使えるな?」
「回復魔法・・・」
「そう。昨晩他の冒険者から聞いたのだが、君は彼らが回復魔法を使っているのを見て覚えたと言っているそうだな。それに間違いないかね?」
「ええ、そのとおりです」
「誰かにやり方を聞いたり説明を受けたことは?」
「ありません」
「そうか・・・」
黙って考え込むギルマス。
なんだろう? 回復魔法ってそんな難しいものじゃないと思うんだけど・・・
「何か問題が?」
「ああいや、そうじゃないんだ。んー、そうだな、カルア君、君は回復魔法についてどう思う?」
「使える人は多いし、魔法の中では簡単な部類じゃないかと」
「うーん、やはりか・・・。実はな、回復魔法というのは『非常に難しい』魔法なんだ」
「え?・・・」
「使える者が多いのは、真剣に習った者が多いから。命に直結する魔法だからな。ギルドでも真っ先に覚えるよう推奨しているんだ」
「・・・僕その話ギルドから言われたことありませんが」
「それは、君がその前に回復魔法を使えるようになっていたからだ。ギルド職員は君が回復魔法を使えると知って、親御さんあたりから習ったものだと思っていたらしい。でないと説明がつかないからな」
「それってつまり・・・」
「ああ。見ただけで覚えるなど通常はあり得ん、ということだ。まして回復魔法が簡単などという話もまた、あり得ん」
「・・・」
うーん、少し混乱してきた。
今まで常識と思っていたことが実は間違っていたなんて想像もできないよ。
「以上から考えるにだ。カルア君、実は君は時空間魔法に対して途轍もない適性を持っているのではないかと推測している」
「適性を・・・」
「もちろんまだ推測の域を出ない。それこそ仮説だ。だが、それほど高い適性を持つ君だからこそ、命の危険に晒されることで時空間属性のスティールスキルが進化することとなった、そう考えると辻褄が合うのだよ」
どうしよう、もの凄くドキドキしてきた。
じゃあ、じゃあ他の時空間魔法ももしかしたら!?
「あの、時空間魔法って他にどんなものがあるんですか?」
「ふふふ、当然そう考えると思い、調べておいた。まず有名なところだと『ボックス』だろう。魔法の鞄と同じ魔法だと思ってくれればいい。次に『遠見』。これは離れた場所の様子を見る事が出来る魔法だ。そして『転移』。遠見で見た場所に移動できる。ダンジョンの転送装置みたいなものだ。」
なんだろう、ヤバい魔法のオンパレードな気がする・・・
「あとこれは物語レベルの話だが、過去や未来を見る事が出来る魔法もあるとか。信憑性はさほど高くないと思っているがな」
「そうですね」
「ただし、ひとつ確実に分かっていることがある。それは、どの魔法も結構な魔力を必要とするってことだ」
そんな事だろうと思ったよ! じゃあ無理じゃん!
「その顔は魔力が少ないから結局無理だと思ってるな。別にそんなことはないぞ。魔力は増やせるからな」
「え? 魔力って増えるんですか?」
「そうか、そのあたりも知らんか。ならばまず、魔法に関する正しい知識を身につける事をお勧めする。何なら私から紹介状を書くが、どうする?」
「そこまでしてもらっていいんですか?」
「先ほども言っただろう。私は君に期待してるのだよ」
突然僕の前に開けた夢のような未来。
本当に夢だったらどうしよう・・・
「人生にかかわる大事な話だからな。急なことだし考える時間も必要だろう。だから今はまず、必要なことから先に済ませようじゃないか」
「必要な事、と言いますと?」
「ふっ、決まっているだろう、君の特別なスティールを見せてもらうのだよ」