魔剣についてとベルベルさんです
ノックの音にブラックが返事をすると、入室してきたのはピノだった。
「おはようございますギルマス」
「うむ。おはようピノ君。久しぶりの王都は楽しめたかね」
「ええ、とっても。同期の友人にも久々に会えましたしね。あ、これ頼まれてた胃薬です」
そう言ってピノは、王都の有名な薬剤店「マッキョ」の紙袋を手渡した。
「おお、ありがとう。助かる。最近少し痛むようになってきてな」
「あとでカルア君が来ますから、すぐ飲めるように1包用意しておきますね」
その言葉にブラックの動きはピタリと止まった。
その顔は哀しい程に引き攣っている。ある予感によって。
「ちょっと待ってくれるかなピノ君。『カルア君の持ってくる用件に胃薬が必要になる』、まさか君はそう言うのかね?」
「内容を聞いたわけではないので何とも。ただ、『誰かに見せる前にギルマスに相談するように』とモリスさんに言われたそうです」
「くっ・・・確定だな」
「ええ、『くっ確』かと・・・残念ですが。それで、お茶とお水どちらで飲まれますか?」
「はぁぁ、水で頼むよ」
「承知しました。くれぐれもお気を強く持ってくださいね」
ピノが退出してしばらくすると、受付の方から元気な声が聞こえてきた。
「おはようございまーす。あ、ピノさんおはようございます。そうだ、聞いてくださいよ。今朝ご近所の奥様方が『昨夜のあの匂いは一体何だ』って物凄い勢いで・・・」
もう間もなくカルアはここに来るだろう。
深いため息を一つ吐き、ブラックはそっと覚悟を決めた。
「おはようございますギルマス」
「ああ、おはようカルア君。昨日は王都に行ったそうだな。君は確か王都は初めてだったか? どうだったかね」
「はい。学校も見れましたし、王宮も初めてみました。あ、王宮は外からだけでしたけどね。あとギルド本部でモリスさんのお手伝いを少ししてから帰ってきたんです」
「ほう、モリス氏の手伝いか。どんな内容だったか訊いても?」
「大丈夫だと思います。遠見の音声を遮断する魔道具の研究だったので。あ、もう完成してて今日発表するそうですよ」
「そうか、いよいよか。これでようやくカルア君も危険な状態から抜け出せそうだな。もっとも、今朝まで他に何事もなかったら、の話だが?」
あれ? もしかしてギルマス昨夜の剣のこと言ってる?
あそうか、ピノさんが事前に少し話しておいてくれたのか。
うん、だったらもうこのまま話し始めちゃっても大丈夫だよね。
「その事なんですけどギルマス・・・」
「うむ、君が何かしでかしたらしいという話は聞いている。大丈夫、私の覚悟はもう出来ているから、詳しく話を聞かせてくれるかね」
「はい。・・・実は昨夜、この剣を錬成で作ったんですけど」
昨日の魔剣をテーブルに出すと、ギルマスは軽く目を見開いた。
「これは・・・」
剣を手に取り、色々な角度から眺めてから、ギルマスは僕に尋ねた。
「カルア君、聞かせて欲しいのだが、君はこの剣を『何』だと認識している?」
『何』かって訊かれたら、それはもちろん・・・
「『魔剣』・・・です。『魔剣』を作ってみようと思って作りました」
「やはりそうか・・・あーピノ君、すまないが、さっきのアレを用意してくれるかね」
「はい、ただいま」
ピノさんはすぐ脇のワゴンから薬?とコップに入った水をギルマスに手渡した。
「どうぞ」
「うむ、すまんな。どうやらピノ君の言ったとおり、これが必要になったようだ」
そう言って、その薬らしきものをサラサラと口に入れ、そのまま水で流し込む。
「ふう、それでは話の続きだ。それで、その魔剣は完成しているのかね?」
「はい。一応考えたとおりの付与は出来ました」
「そうか、ちなみにその付与の内容とは?」
「付与したのは時空間魔法で、刃の部分に空間の切断、腹には空間の断面による界壁を付けました」
「なるほど。それでその付与によってどのような効果が?」
「切れ味が良くなって、折れにくくなっていると思います」
「そうか・・・恐ろしいことに、効果だけ聞けばさほど問題なさそうに感じるな。そしてそれを実現している付与を聞くと、本当の意味で恐ろしく感じるな・・・。その剣、試し切りなどはしてみたかね?」
「はい。薪割りが前よりも簡単になりました」
あれ、ギルマス、顎に手を当てて考え込んでる。
「その答えからは理解し難いというか理解し辛いというか・・・これはやはり実際に見てみない訳にはいかんか・・・。カルア君、その魔剣は私でも使用できるのかね?」
「いえ、僕の魔力にだけ反応するようにしちゃったので、僕しか・・・」
「そうか、わかった。では試し斬りは君にお願いしよう。訓練室に移動するぞ」
「あはい、わかりました」
「という事でピノ君、これから訓練室に移動する。人払いを頼む」
「はい、すぐに」
普段は必ず何人かいる訓練室だけど、着いたら誰もいなかった。人払い早っ。
訓練室の壁際には鎧を着た案山子が並んでいて、僕たちはそこに移動。
まあ剣の訓練に使う為の案山子だから、多分そうだろうなとは思ってたけど。
「試し斬りの的はこれでいいだろう。じゃあやってみてくれ」
相手が人型だから、右上から袈裟斬りに。
昨日の薪と同様に、剣は案山子に当たってそのまま何の抵抗感もなく振り抜けた。
そして鎧は斜めに切断されて、そのまま地面に落下。うん、カッコイイ。
「どうです? 結構切れ味いいと思いませんか? これだったら魔剣ですって言ってもギリギリ笑われたりしないかなあって思ってるんですけど、ギルマスはどう思います? もしそうだったら嬉しいなあ」
あれ? 返事がない。
やっぱり魔剣って言うにはちょっと物足りなかったのかな。
まあ初めて作ったんだしね。もっと魔剣らしい工夫が必要ってことだよ、きっと。うーん、魔剣らしさかぁ・・・うん、魔剣って言ったら、やっぱり魔法っぽい感じがカッコいいよねっ!
「ピノ君、モリス氏を呼んでくれ。大至急だ。訓練室に直接転移してくるよう伝えてくれ。まったく、これを私ひとりに押し付けるとか、有り得んだろう! カルア君、すまんがモリス氏が来るまで少し待っていてくれ。何かがあった事はモリス氏は既に把握しているから、おそらくすぐに来るはずだ」
ぱたぱたとかけていくピノさんの後ろ姿を見送り、しばらくそこで待つ事となった。
ギルマス、ちょっと大げさじゃない?
物語に出てくる魔剣みたいに炎とか雷とかが出るわけでもない、ちょっと切れ味がいいだけの地味な剣だよ? 一応付与とかしたから魔剣って呼んでもいいかなあ、くらいだと思うんだけど。
「やあ、多分呼ばれるだろうとは思ってたよ。さてカルア君、想定外センサーがあれだけ激しく反応したんだ。見たくないような見たくないような・・・、うーん、実に怖いねえ。さて僕を呼んだのはブラック君だからね。何があったのかはブラック君から聞くべきだろう。さっそく僕に教えてくれるかい?」
「魔剣、だ」
「え?」
「昨夜カルア君が魔剣を作った。そして今日それを持ってきた」
「魔剣って、ちょっと想定外過ぎやしないかい? ・・・んー、じゃあ取り敢えず次はカルア君だね。えっと、君はまたどうして突然剣を作ろうなんて思ったんだい?」
「えーっと、昨日王都で武器工房のマイケルさんに会ったんです。そこでミッチェルさん、あ、マイケルさんとミッチェルさんが兄弟って話になって、ミッチェルさんに錬成を習ったって話をしたら、マイケルさんがインゴッドをくれて、自分で作ってみたらどうだって話になったんです」
「ふーん、なるほど。それで家に帰った君はそのインゴッドから剣を作ってみたと。じゃあ付与とかは?」
「最初にこの前折れた剣の修復をやったんですけど、普通に融解して凝固するだけの手順だったので、新しく作るんだから何か違う工夫ができないかなあって」
「うんうん、それは技術者としては非常にすばらしい思考だね。カルア君、前から思ってたけど、君、技術者に向いてると思うよ。冒険者とも両立出来るから、ちょっと考えてみてよ。まあそれはそれとしてだ、普通にやったら剣に付与は出来ないと思うんだけど、どうやったのか教えてくれるかい?」
「えっと、魔石を混合したんです。魔石だけで作る事も考えたんですけど、強度とか分からなかったから混ぜたほうがいいかなって。それで少しずつ魔石の量を増やしていったんですけど、きちんと混合できる魔石の量が金属の2割くらいまでだったので、その分量にしました。それで付与は、刃先に空間ずらしで切れ味を上げて、ブレードの腹にはその断面を付けて強度を上げました。あとは僕の魔力以外は受け付けないようにしたんです。そのほうが魔剣っぽいかなって思って」
「なるほど、よく分かったよ。それで試し切りした結果が『それ』ってことかな」
モリスさんの視線の先はさっきの案山子。
「はい。そうです」
「あーブラック君、僕も試し斬りを見てみたいんだけど、いいかい?」
「ああ、もちろん。この恐ろしさは見てもらった方が伝わりやすいだろう」
そしてもう一つ案山子が用意され、先ほどと同じように袈裟斬りに。
案山子はスパって斬れて、モリスさんとブラックさんの顔はスンってなった。
あれ?
「ブラック君、これ、封印すべきだと僕は思うんだけど、君はどう思う?」
「同感です。汎用の武器としての性能が高すぎる。魔力を注ぐだけで空間を切断できる剣とか、高性能すぎて物語のネタにすら使えないでしょう」
「だよねえ・・・はあ、この剣、カルア君の無邪気さが悪い方向に発揮された、まさに『魔剣』だよ。困ったものだねえ、ははは・・・」
「という事でカルア君、君の作ったこの剣、これはもう間違いなく『魔剣』だよ」
「ホントですか!? やっ」
「ただし!!」
「たぁ・・・、え?」
「絶対に、ぜぇーったいに! 人前で使わないこと。いいかい?」
「ええっと・・・」
なんで?
「うん、やっぱり分かっていないようだね。いいかい、世の中には確かに『魔剣』は存在する。それこそ物語のように大昔の伝説の刀鍛冶が打ったとか、神から下賜されたとか、ダンジョンの奥深くから発見されたとか、そういった逸話付きでね。そしてそれらの殆どは国が保管している。なぜだか分かるかい?」
「えと、貴重な宝物だからですか?」
「ちょっと違うな。宝物じゃなくって武器だからさ。それもとても強力なね。考えてみてごらんよ。ひと振りで一軍を相手に出来るほどの強力な剣だよ? 国が放置すると思うかい? ましてそれが他国のものとなる事を許すと思うかい?」
「そ、それってつまり・・・」
「そうさ。国としては当然他国への牽制材料、そして戦争の道具として見るだろうね。ましてその魔剣を作ることが出来る者がいるなんて知られたらどうなると思う?」
「・・・」
「もう分かったね? 僕たちがやっと塞いだ穴の横に、また君が大穴を開けちゃったってことが」
「はい・・・」
うわぁ・・・どうしよう・・・
「とはいえ、この技術はそう遠くないうちに必ず誰かが見つけ出すだろうさ。属性や魔法が付与できて錬成も可能な万能素材が見つかったわけだからね。あっという間に『魔剣』は伝説じゃあなく単なる『剣への属性付与』になるはずさ。『空間ずらし』は別だけどね。ただまあ、あの魔法は僕や君以外にはそうそう使えないだろうけど」
ってことはこの剣、しばらく隠しておけば大丈夫ってこと?
「というわけで、その剣はボックスに永久保管ね。あ、でも魔剣としては強力な部類に入るだろうから、カッコいい名前だけでも付けてあげたら?」
おお! 剣に名前、カッコいい!
「まあその剣、本当に必要な時には使うべきだと思うけど、君の場合は『空間ずらし』が使えるんだから要らないんじゃない? あ、でも『界壁』で強化するってのはいい案だと思うよ。次はそれ作ってみたら?」
「そう・・・ですね。はい! そうします」
「あ、だったらカルア君、ぜひ包丁をお願いします。切ったものが貼りつかなくって便利そう!」
「あははは、『魔剣』ならぬ『魔包丁』ね。実に平和的でいいじゃない! じゃあこれで一件落着だね。よかったよかった。うん、そうだよカルア君。どうせ作るんだったらさ、その『魔包丁』みたいに生活に便利な魔道具がいいんじゃないかな。それだったらきっと国や貴族連中に目をつけられることはないでしょ。まあ商人連中は目の色を変えて近寄ってくると思うけどね。そこはまあ、『がんばれ』ってことで」
「はは、は・・・分かりました。がんばります」
それはそれで問題な気がするけど・・・
あ、そういえばあの事聞いてなかったっけ。
「あ、そういえばモリスさん、昨日聞きそびれた事があったんですけど」
「うん? 何だい?」
「実は昨日、マリアベル・ベルマリアさんってひとに会ったんですけど」
「「なんだって!?」」
え? ギルマスも?
「ちょっとカルアくん、一体どういった経緯で『校長』と会うことになったんだい?」
「いやその、ピノさんの知り合いだったので普通に紹介されたんですけど・・・」
「ピノ君?」
「あ、別にそんなたいした事じゃないんですよ? 学生時代に私の行き付けだった魔道具屋さんってだけで」
「そうか・・・うーむ、なんというか・・・そういう事もあるのか・・・」
「えっとカルア君、それで校長・・・あー、マリアベルさんは何か言ってたかい?」
「モリスさんやオートカさんが学校に行ってた頃の校長先生だったそうですね。『あの悪ガキども』とか言ってましたよ?」
「ははは、まあ若かりし頃のいい思い出ってことさ・・・はあ、やっぱり覚えられてたか・・・。それでカルア君、君については何か?」
「はい、魔法を見てやるから王都に来るように、って言ってました。あっそうだ、ギルマスが頼んでくれてたのってあの人だったんですね。ありがとうございます」
「うむ、それは構わない。まだ返事をもらえていなかったしな。しかし人の縁とは不思議なものだな・・・。まさかこのように繋がっているとは」
「あの、それでギルマス、カルア君の編入試験の勉強についてもベルベ・・・マリアベルさんにお願いしたらって思うんです。昨日カルア君も学校に行くって決めたようなので」
「おお、それは願ってもない! それにカルア君、とうとう決めたか。そうかそうか、この事はきっと君の将来に大きく役立つことだろう。頑張ってくれたまえ!」
「はい、ありがとうございますギルマス。僕がんばります!」
「それでですね、えーっとモリスさん?」
「なんだい、ピノ君?」
「マリアベルさんには、カルア君のこと『モリスさんの弟子』って伝えてありますから」
「なんだって!? ・・・はあぁ、だったら僕も顔を出さないわけにはいかないかぁ・・・、っよし、こうなったらオートカも巻き込んでやる! カルア君、僕たちもこの後スケジュール調整するから。次にマリアベル校長の所に行くときは、僕たちも一緒に行くからね」
「ああ、それだったら私も同行しよう。あの御仁には私からも礼を言わなければ。ピノ君はどうする? 一緒に行くか?」
「ええ、ぜひ。ふふふ、ベルベルさん急に大人数で押しかけてびっくりするんじゃないかな?」
「ん? ベルベルさん、とは?」
「ああいえ、こちらの話ですからお気になさらず」
こうして、結局みんなでベルベルさんのとこに行くことになったんだけど・・・
あのお店って、こんなたくさんの人数が入れたかな?
ポイントが増えないのが最近の悩みです。(チラッ)
誰か評価してくれないかなあ・・・(チラチラッ)
評価よろしくお願いします。(結局ド直球)