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ロベリーさんは甘い苺の香でした

「ということでカルア君、こっちの魔石にもう一度付与してくれるかい? さっきと同じもので構わないよ。ほら、僕さっき君の付与を見逃しちゃったからさ、どんな感じか見てみたいんだよ」


「あはい、分かりました。じゃあやり方もさっきと同じでいいですよね」

「うん、それで頼むよ」


『いや、イヤ、嫌よ! 私がやるところも見せたくないけど、他の誰かがアレをやるところも見たくない! ゼッタイ嫌ぁ!!』


「あの、モリスさん・・・ロベリーさん、すっごく嫌がっているように見えますけど・・・いや、何を言ってるのかは聞こえないんですけどね。でも見るからにっていうか・・・」


「あっはっは、気にしなくっていいよカルア君。ロベリー君はほら、ちょっと恥ずかしがってるってだけだから。本気で止めたいんだったらこっちに来て無理やり止めるって。来ないんだから大丈夫大丈夫」


「あのモリスさん? さっき僕が作った結界の魔道具、今何気なく作動させましたよね」

「この結界、まさか音も遮断するなんてねえ。いや待てよ、空間自体が断絶されてるんだから、考えてみれば当然か。このあたりはどうするのがいいのかな? 音については遮断すべきか通すべきか。ううーん、危険が近づいていることに気づかないのは困るけど、音を攻撃に使う魔物もいるからねえ。悩ましいところだよ」


「いや、そうじゃなくって・・・」

「んふふ、大丈夫だよカルア君。むしろ彼女には付与する姿を見せてあげて欲しい。君さっき、彼女の付与を目立たないようにやってたでしょ? いくら僕がこっちに集中していたからって、アレをそのままやってたら絶対気づいたはずさ。それを気づかないレベルまで目立たなくしたんだ。君が改良した彼女の付与術、あれはきっとロベリー君を救ってくれると思うんだ」


てっきり悪ふざけの嫌がらせかなんて思ったけど、ロベリーさんのことを思いやってのことだったんだ・・・ホントにそうなんだよね? いつもの悪ふざけじゃないよね?

・・・よし、モリスさんを信じる!

「やります!!」


僕は魔石の一つを手に取り、さっきと同じように額の前に持ってきた。

その瞬間、周囲の音、そしてロベリーさんの悲鳴みたいな声が耳に届いた。

モリスさん、結界を解除したみたいだ。


よし、じゃあさっきと同じできるだけ小さな声でっと。

「魔石くん、君は防御の天才だ。外からは防ぐし、中からはゲートで壁をすり抜ける。君って凄いんだ。大丈夫、やれるやれる! 君なら絶対出来る!」

よし光った。付与成功!


「え!?」


その場に呆然と立ち竦むロベリーさん。

大声で叫び続けて真っ赤になっていた顔は、やがてもとの白さを取り戻し、そしてしばらくしたらまた赤くなって・・・その瞳が輝いて・・・


「カッコイイ・・・」


ん?


「ちょっとカルアくん! 何? 君なんなの? もの凄くカッコイイじゃない!!」


はい?


「ねえ、ちょっと、ロベリー?」

ピノさんも何だか困ったような顔。


「ふ、ふふ、ふふふふ・・・あはははははっ!」


わ、ちょっと!!

ものすごい勢いで突っ込んできたロベリーさんが!!

え? 何で僕今抱きしめられてるの!?

ロベリーさん!?

あの、ちょっとロベリーさん!?


「君サイコーよカルアくん! ああ、どうしよう! こんな素晴らしい出会いが待っていたなんて!!」


ヒッ!

冷気が・・・物凄い冷気が・・・

発生源はもちろん・・・


ピノさん、ものすっごい顔で睨んでるよお!!

ちょっとロベリーさん!! お願い、正気に戻って!!

あれ絶対殺気だから!!

殺気が物理現象引き起こしてるから!!

死んじゃう! 僕達ふたりとも死んじゃうから!!


「ねぇカルアくん! 何、さっきの付与!? あれピノに教わった私の付与術よね!? すっごいじゃない! あれだったら絶対変じゃない! ううん、むしろカッコイイ!! 私の付与術、カッコイイ!!」


よかった。とりあえず抱きつくのはやめてくれた・・・

僕の両肩を掴んで・・・顔がとても近いけど。目を合わせられないくらい近いけど。

ん? 冷気・・・ちょっとだけ和らいだ?


「カルアくん、今のもう一度! もう一度やって見せて!! ほら早く!!」

「あ、はい」


もう一つ魔石を手にとって、付与。


「ふむふむ、小声でってのは試したことあったけど、その時は上手くいかなかったのよね。手で持って額に近づけてってあたりがポイントなのかしら? ちょっと私も・・・」


そう言ってロベリーさんは魔石を同じように額に近づけ、小声で囁く。

「魔石さん、あなたって本当はとっても明るいひとなの。今までそれに気づかなかっただけ。明るいあなたってとっても魅力的よ。ほら、あなた今、わたしの魔力を受けてこんなに輝いているじゃない。ねえ気づいてる? 今のあなた、すっごく輝いてる。どう? 本当の自分を出せた今の気持ち? とっても晴れやかじゃない? だってほら、そんなに輝いてるんだもの」


魔石は一瞬光って・・・更に輝き始めた。

うん、きっと光属性が付与されたって事なんだろうね。

そしてロベリーさんの洗の・・・説得が聞こえたのはきっと僕だけ。

ちょっと離れていたらもう聞こえない。だから。


「やった! できた!! うん、これだったら全然恥ずかしくない! むしろちょっと神秘的な感じに見えるかも! カルアくんありがとう!」


やってよかった。ロベリーさんすっごく嬉しそう!


「ピノぉー!! これよ! さっきの付与の姿、あの物語の『聖女の祈り』そのままだったわ。そうよ、この付与で私は『付与の聖女』になるのよ!!」


冷気はいつの間にかおさまっている。

そしてロベリーさんは今度はピノさんに・・・


「ありがとうピノ! あなたがカルアくんを連れて来てくれたおかげよ! ピノ大好き!! ・・・ううう、ひっく・・・これで・・・これでまた、付与できるよぉ・・・ふえええぇぇん・・・」

やっぱり今度もものすごい勢いで抱きつき、そう言って涙を流し続けた。


よかった、いつものピノさんだ。

だから僕は・・・

ロベリーさんに抱きつかれた時に甘い苺のいい香りに包まれた、なんて絶対に口に出しちゃいけないんだ。



ピノさんは微笑みながらそっとロベリーさんの背中をさすりつづける。

そして僕にも優しく微笑みかけて・・・

「カルアくん」

「はいピノさん」


「さっきカフェで飲んでた苺ジャムの紅茶の香りですからね」

「ヒェッ!?」


ああ、ピノさんからは逃げられない・・・




「さて、そろそろいいかな、ロベリー君」


10分くらい経ったかな・・・ロベリーさんも落ち着いたみたいだ。

「ええ室長。すみません、ちょっと感極まってしまって・・・」

「うんうん、構わないよ。いやぁ、よかった。これで君も吹っ切れたんじゃあないかな、ロベリー君。という事だから今後は付与をやってくれるって事でいいんだよね。さっきの話からして、もちろんそうだろうとは思ってるけどまあ念の為ね。という事で、ちょっとこのカルア君の付与を解析してみてくれるかい?」

「ふふふ、まったく、そういうとこやっぱり室長ですよ。わかりました。ちょっと視てみますね」


え? 解析って・・・もしかして付与した内容って見ること出来るの?


「ああそうか、カルア君はまだ付与の解析を知らないんだね。付与術師っていうのはね、付与された属性なんかを『解析』することもできるんだよ。そしてその付与を『転写』することもね。だから付与術師は自分に適性がない属性でも、サンプルさえあれば『転写』によって付与することが出来るんだ。このサンプルに使用するのがつまり、リファレンスなんだよ」


「そうなんですか・・・。あれ、でもモリスさんだったら解析できるんじゃ?」

「うん、もちろん僕も解析はできるよ。なんだけどさ、ほら、さっきも言ったとおり、君やロベリー君の付与って既存の付与とはまったく別の技術じゃない。この前君にもらったアレを解析しようとやってみたんだけどさ、どうやっても出来なかったんだよね」



と、そんな話をしているモリスさんに、ロベリーさんが声をかけた。


「あれ? 室長、何だかよくわかない魔法が・・・え? これ魔法? 何かちょっと違和感があるんですけど・・・、この部分は室長の『空間ずらし』ですよね。それを壁にして・・・その両面に貼り付けてあるこれ、魔法っていうより、何か別の・・・うそ! もしかしてこれスキル!?」


「そうなんだロベリー君。そこに付与されているのは間違いなくスキルさ。まあその話はまた後でね。でも安心したよ。やっぱり君だったら解析できるんだね。じゃあ次、これをそのままこっちの魔石に転写してくれるかい?」


ロベリーさんは魔石を受け取ると、両手にそれぞれを持って額の前に近づけ、囁くように・・・

「魔石さん、驚かないで聞いてね。こちら、あなたの双子のお兄さんなの。知らなかったと思うけど、あなたって実は双子でね、このお兄さんとは小さい頃に生き別れになってしまっていたの。ええ、混乱するのは仕方ないわ。でもほら、よく見て。お兄さんってあなたとそっくり・・・ううん、瓜ふたつじゃない。ほら、お兄さんの属性とか魔法とか・・・あなたと全く同じよ。大丈夫、怖がらないで。素直になって・・・ありのままを受け入れて。ね?」


やっぱりロベリーさんの付与って・・・

いや、もういいや・・・僕も受け入れよう・・・ありのままを。



「転写できました」

「おおー、転写も無事成功したか。これでロベリー君やカルア君の付与をベースにした魔道具の開発にも光明が見えたってものだよ。あとは使い手を増やしていってくれれば、量産化も可能だね。うん、ロベリー君、ついに『ロベリー流付与術』が世界に知れ渡る日がやってきたよ。そして君は先程君自身が言ってたように『付与の聖女』として・・・」

「あの室長!」

「ん? 何だい?」


「やっぱり『付与の聖女』はやめて下さい・・・」


顔を真っ赤にして俯くロベリーさん。

うん、僕も思ったんだ。それってなんだか例の病気みたいだなって・・・




いろいろあったけど、ピノさんが合流したからお手伝いはここで終了。

僕たちはモリスさんたちと別れ、ギルド本部を後にした。

「ふふっ、じゃあここからまたデートの続き。一緒にお店とか見て回りましょうか」

「はいっ」




「ここは服屋さんね。あら? この服ってカルア君が着てるのとちょっと似てるかも」

「あ、ホントだ」

「他にも似てるデザインのが結構あるみたい。もう何年も前に用意した服なのに、最近の服のデザインと似てるなんて、ちょっと不思議ね。『流行は繰り返す』ってことかしら」

「あはは、そうかもしれませんね」


「どう? カルア君は何か欲しいものあった?」

「うーん、どうしても冒険の服とか装備を最初に考えちゃいますね」

「ふふ、やっぱりそうよね。冒険者だものね。じゃあ後で武器とか防具とかも見てみましょうか」

「やった!」




「あ、ここアクセサリー屋さんだ。へえー、この宝石にも何か付与とかできるのかな?」

「ふふ、さっきまで付与をやってたから、どうしてもそっちを考えちゃうよね」

「あはは、ホントですね。あ、これ可愛いかも」

「本当、素敵・・・」


「あの、ピノさん。もしよかったら、今日の記念にプレゼントしていいですか?」

「まあありがとうカルア君。でもちょっとお値段がねぇ・・・そうだ、私カルアくんが錬成してくれたアクセサリーがいいな。材料とか用意すれば出来るんじゃない?」


「えと・・・ああ、できそう! あ、でも宝石とかはどうしよう・・・」

「カルア君の魔石は? あれって宝石に負けないくらい綺麗よね」

「そっか。あれだったら・・・、うん、じゃあ金属だけどこかで買って・・・。あの、デザインの参考にしたいから、もう少しこの店を見ていっていいですか? ピノさんが好きなデザインのとか教えてくださいね」

「ありがとうカルア君。ふふ、すっごく楽しみ」




「ピノさん! 武器と防具のお店がありますよ!」

「ふふ。カルア君、武器と防具は実はおすすめの店があるの。そこって職人が製造直売やってる店だから、品質もお値段もとってもいい感じなのよ」

「おおっ! じゃあそこに行きましょう!」

「そうね。でもそこのお店もいろいろ種類がありそうだから、ちょっと見ていきましょうか」

「はいっ」



「どう? 良いのあった?」

「ええ。でもどれもお値段が・・・」

「そうね。やっぱり高いよね。・・・じゃあおすすめのお店、行きましょうか」




大通りからちょっと奥に入ると人通りはすっごく少なくなった。

でもベルベルさんのお店の周りみたいに怪しい雰囲気はないなあ。


「この辺りは職人さんたちが集まっているエリアなのよ」

「ああそれで・・・言われてみれば、職人って感じの建物が並んでる気がします」

「でしょう?」



「ここがおすすめのお店。『武器工房マイケル』よ」

そう言ってピノさんが扉を開けた瞬間、金属と金属がぶつかる大きな音が!

急いで中に入って扉を閉める。

「今作業中みたいね。終わるまで店の中を見せてもらいましょうか」


凄いや。

どの武器も作りはシンプルだけど見るからに「逸品」って感じ。

きっと凄い職人さんなんだろうなあ。


店中に並ぶ武器を見て、いや見惚れていると、いつのまにか金属を叩く音が止んでいた。

そして奥から出てきたのが、

「ミッチェルさん!?」


「なんじゃ、おぬし、弟を知っとるのか?」

「え? 弟?」

「ふふふ、こちらのマイケルさんは、あのミッチェルさんのお兄さんなのよ」

「えええぇぇぇ!?」


「そんなに驚くことはないじゃろう? 逆にこれだけ似とって赤の他人ってほうが驚きじゃと思うんじゃが・・・」

「そう言われてみれば確かに・・・」


「それで、ミッチェルを知っとるってことは、おぬしヒトツメから来たんか?」

「ええ。ヒトツメの街で冒険者をやってるカルアです。ミッチェルさんには錬成を教わったり色々お世話になってるんです」


「そうかそうか。じゃあおぬしもある程度は錬成が出来るっちゅうことだな。ここに置いてある武器は、鍛冶で作ったもんと錬成で作ったもんが半々くらいじゃ。まあ気に入ったもんがあったら買ってってくれたらいいし、何じゃったら自分で作るってのもいいもんじゃぞ」

「そうなんですね。・・・あの、鍛冶で作るのと錬成で作るのって、何か違いがあるんですか?」


「うん? 違いは・・・無いな。ミッチェルも言っとっただろう? 温度と魔力、どちらを使うかってだけじゃ。最も、それぞれ適した技術があるから、どちらのやり方にしろ職人の腕次第じゃがな」


「なるほど・・・」


「はっはっは。カルアと言ったか、おぬし作ってみたいと顔に書いてあるぞ。鍛冶は鍛冶場が必要じゃが錬成じゃったら家でも出来る。どうじゃ? やってみるんならインゴッドを分けてやるぞ」

「やってみたいです! 分けてもらっていいですか?」

「構わんよ。弟の弟子となりゃあ金なんぞ取るわけにはいかん。それになんたってピノの嬢ちゃんの紹介じゃしな。ほら、こいつをやるから持って帰るがええ」

「ありがとうございます!!」

「うむ、じゃあ気を付けて帰れよ。わしは作業に戻るでな」



「次は防具屋さんですね。カルア君、おすすめの防具屋さんはここですよ」

「へぇ、マイケルさんのお店の隣なんですね」

「ええ。『防具工房ミヒャエル』よ」


ああ、なんかもうオチが見えた気がする。

店にいたのは・・・、うん、予想通りミッチェルさんと同じ顔のドワーフ。

「なんじゃ、おぬしミッチェルを知っとるんか? ミッチェルはわしの兄貴で・・・」


ですよねー・・・



ミヒャエルさんはアクセサリーに使う金属を分けてくれました。

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