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結界の魔道具を試作してみました

「さて、カルア君には結界魔道具の統合を少々手伝ってもらいたいんだけど、その前に女性陣への連絡をしておかなくっちゃね。手紙を送るからちょっと待っててね」


そう言って机に向かい、便箋に文字を書き綴るモリスさん。

手紙を送る? 女性陣っていってたから、ピノさんとその友達のロベリーさん宛てかな?

そうか、ピノさんたちは僕がここにいるって知らないもんね。


「よし書けたっと。じゃあこいつはロベリー君の前に『転送』」


モリスさんの手の上にあった手紙は音もなく消えた。

モリスさんによって転送されたみたいだ。


「これで大丈夫。ロベリー君は女子会の後でピノ君をここに連れて来るから。というわけだから、カルア君は心置きなく僕の手伝いが出来るってことだね。良かったねカルア君。うん、もちろん僕も嬉しいよ。それじゃあお互い嬉しいって事で、早速始めようか」





ギルド本部近くのカフェ。

ピノの追撃に打ちひしがれるロベリーの眼前に、突然便箋が現れた。


「あれ? ロベリー、それなに?」

「ああ、モリス室長ね。時々あるのよ、こうやって連絡してくることが」


そう言ってロベリーは手慣れた様子で便箋を手にしてそこに書かれた内容を目にし、軽く顔をしかめた。

「えっと、ロベリー? もしかしてあまり良くない連絡?」

「ああ、ごめんなさいピノ。そういう訳じゃないんだけどね。はい」


そう言いながら、その便箋ををピノに手渡すロベリー。

「え? 私が見ていいの?」

戸惑いながらもピノは便箋を受け取り、その内容に目を通した。


◇◇◇◇◇◇

ロベリー君、モリスだよ。

どう? 女子会は盛り上がっているかい?

邪魔しちゃ悪いとは思うんだけどさ、ちょっと伝えたい事があるからこうして手紙を送るよ。

いやごめんよ。本当に邪魔するつもりは全然無いんだ。

それに急いで何かして欲しいとかじゃあないから、そこは安心してね。

それでさ、さっきほら、君が出かけるときに一つお願いしたいことがあるって言ったじゃない?

あれ、その時は何をお願いしたかったか結局思い出せなかったけど、君が出かけた後に無事思い出すことが出来たんだ。

いやー胸のつかえが取れてホッとしたよ。

まあでもそんなに大した内容じゃなかったから君も忘れてくれていいよ。僕ももう忘れたから。

そんなわけだから終わったら気にせず戻ってきてね。



あ、そうそう、カルア君だけど、今僕と一緒に研究室にいるから。

◇◇◇◇◇◇



ピノはその便箋をそっとロベリーに返した。

「ロベリー・・・、後で研究室まで連れてってくれる?」





「なるほど、そんな使い方も出来るんですね」

「そうさ。結局魔法なんて手段に過ぎないからね。どうやって便利に使うかは人それぞれ工夫次第さ。魔法に付ける名前だって、単なるイメージのトリガーだよ。だから今のだって挙動は『転送』だけど、『郵便』とか『伝書』なんて呼ぶ人もいるんだ」


ふむふむ、イメージさえできればOKと。

僕も何かやってみようかな。


「む? 今僕の想定外センサーに反応があったよ? カルア君、君今『僕も何かやってみようかな』なんて考えたね? くれぐれも人前に晒す前に僕達に相談してくれよ? いいかい、くれぐれもだよ、くれぐれも」


また釘を刺されちゃったよ。

っていうか「想定外センサー」って・・・

モリスさん、それ魔法として開発したんじゃないよね!?


「さて、今からやるのはさっき採って来た魔石への付与だ。付与内容はさっき説明したとおり、『結界』と『遠見』による映像と音声の遮断だね。『結界』っていうのはほら、オートカの『障壁』、あれの時空間魔法版って感じ。魔法の名前としては『界壁』って呼び方をよく使うんだけど、まあどっちでもいいよ。それでカルア君、この間君がくれたゲートの魔道具、あの付与ってもちろん君がやったんだよね?」


「ええ、そうです。ピノさんに教えてもらって」


「ふむ、やっぱりそうか。じゃあピノ君の付与はロベリー君から教わったものなんだろうねえ」

「え、そうなんですか? じゃあロベリーさんってもしかして付与術師?」

「まあ彼女の希望で、今は僕の秘書をやってもらってるけどね。それで君の付与だけど、やっぱり魔石を『説得』したのかな?」


ああ、間違いなくアレのことだ。

でもあれ、「説得」っていうよりむしろ「洗脳」・・・


「はい、やっぱりあれってそう見えますよね。僕付与って初めて見ましたけど、あんなふうにやるものだなんて知らなかったから、最初見た時はびっくりしましたよ」

「ははは・・・、まああれはロベリー君独自の付与だからねえ。普通の付与術師のやり方とはちょっと違うかな」


え? そうなの?

なんだろう、それってちょっと心配っていうか・・・やり方間違ってたり?


僕の表情に気づいたのか、モリスさんは、

「ああ、ごめんごめん。別にやり方が間違ってるとかじゃないよ。むしろ逆。あれって一般の付与と比べてもの凄く優れているんだ。付与した魔法効率は2割ほど高いし、付与にかかる時間も半分以下。だから僕もやってみたくって試したんだけどさ、何度やっても真似出来なかったんだよね。他のみんなもやっぱりおんなじで、誰も再現できなかったんだ」


「そうなんですか。じゃあ僕はすごい付与術を教わったってことなんですね。変な付与術とかじゃなくってよかったぁ」

「まあやってる姿はすっごく変なんだけどね」


あ、やっぱりそうかぁ。


「そうするとやっぱり、普通の付与って話しかけたりとかは・・・」

「しないね。付与をやるときは完全に無言になるよ。そうだなあ、まず魔法を発動しようとするだろ? それを寸前で発動しないように無理やり抑えるでしょ、でその状態で対象にゆっくり魔力を注ぎ込む。焼き付けるようなイメージかな。だからちょっと失敗すると魔法が発動しちゃったり霧散しちゃったりするから、長時間ものすごく集中し続けなきゃならないんだ」


うわあ、とんでもなく大変そう。


「だからみんなロベリー君の付与を初めて見た時、愕然としたんだ。高速、安全、高効率。これはとてつもない新技術だってね。なんだけどさ、ロベリー君は逆に普通の付与を見てから自分の付与が嫌いになっちゃったみたいでさ、みんなで説得したんだけど、滅多にやってくれなくなっちゃったんだよ」


うん、見られたくない気持ちは僕もわかる。僕もそうだし、ピノさんだってちょっと恥ずかしそうだったし。


「えっと、それじゃああの付与を出来る人って他にいないんですか? ロベリーさんに付与を教えた人とか」

「ああ、あの付与はね、ロベリー君が独自に生み出したものなんだ。何でも、付与の勉強をしたくって付与術師にお願いしに行ったら、『付与術は他人に見せるものではない』って言って断られたんだって」


あれ? なんかそれ聞いたことあるような・・・

なんだったっけ・・・あ、思い出した。ピノさんが付与を教えてくれた時に言ってたんだ。

「付与術師って付与するところは絶対誰にも見せないらしい」って。

あれってその付与術師に言われた、ただの断り文句だったってこと!?


「それでロベリー君はいろいろと試行錯誤して彼女自身の付与術を生み出したんだ。それで彼女は僕達の所に来るまで普通の付与を見たことなかったんだよ。だからこそ普通の付与術を見た時に衝撃を受けたんだろうねえ」


ロベリーさんが不憫すぎる・・・


「でもね、付与を全く知らなかった子があの素晴らしい付与を独自開発したんだ。過程はどうあれ、やっぱり彼女は『付与の天才』なんだよ。そしてピノ君もカルア君も付与を全く知らないところから・・・ん? あれ? ちょっと待ってね。今何かが引っかかって閃きそうな・・・共通点・・・知らない・・・知ってる僕達・・・・あ!! もしかしてそういう事か!?」


あれ? どうしたんだろう・・・

途中から独り言みたいになった?


「僕達は既存の付与技術を知っていて使ってもいる。だけど彼女の付与技術とは全く方向性が違う。その知識と経験に引っ張られて彼女の付与の発動を失敗する。一方で付与を全く知らない状態であれば・・・」


「そうだよ、そこに使える者と使えない者の差異、そして共通点があるんだ。うん、これは実に興味深い考察だ。ぜひ後でロベリー君も交えて話してみたいね・・・って、ゴメンゴメン、ちょっと自分の世界に入っちゃったよ。よし、じゃああまり時間もない事だし、そろそろ話を戻そうか」


えっと、・・・どこまで戻るんだろう。


「それで、結界への統合なんだけどさ・・・」


あ、最初まで戻った。


「僕は僕で今までの方式で統合してみるからさ、君も自分の解釈でやってみてくれる? イメージは・・・そうだなあ、オートカの障壁で遠見も遮断する感じかな。失敗しても全然構わないよ。その失敗だってちゃんと研究材料になるんだからね」


そう言って、さっきの魔石をいくつか僕の前に置いた。

うーん、失敗してもいいってことだから、試しにやってみようかな。


ええっと、オートカさんの障壁っていうと・・・外からの攻撃は防いで、中からはやりたい放題。外の様子は普通に見えてるし、魔物もこっちを見てたから中の様子も外から見える。

じゃあどうやって防ぐ? 空気? 風? 他の見えない何か?

・・・どうなんだろう? 今まで見た時空間魔法でそれに近いような何かあったっけ・・・


あ、あれどうだろう? モリスさんの「空間ずらし」。切れるってことは繋がってないってこと。繋がらなければ攻撃は通らないんじゃない?

あれ? でも完全に遮断しちゃったら中から外へも攻撃できなくなるし・・・、それって把握と組み合わせたらできるかな?

ちょっとここまでで魔法として発動できるかやってみようっと。


イメージして・・・展開する場所は僕の右側だけ・・・「界壁」


おお、似た感じの見た目。

外から中へは・・・うん、なんだか不思議な感触で弾かれるね。

中から外へは・・・あ、駄目だ。同じように弾かれる。

うーん、まあそういきなり成功するわけはないか。

ちょっといろいろ試してみよう・・・




・・・難しい。なかなかうまく出来ないや。

中から外、中から外、界壁を通り抜ける・・・

通り抜ける・・・通り抜ける? どこを? 壁を・・・壁を通り抜ける・・・と言えば・・・出入り口・・・出入り口と言えば・・・扉? 門? ・・・ゲート!?


一方通行のゲート!!

よし、このイメージで!!


「界壁」

外から中はちゃんと弾いてるね。

中から外は・・・おお! 通れる!!


よしよし、じゃあ壁の役割はこれでいいとして、次は遠見の遮断か・・・

今この状態だとどうなるのかな?

中から外は・・・狭く遠い把握で・・・うん、普通に把握できた。

逆方向は・・・あれ? 遮断してる? 壁から先が見えないや。音は・・・うん、音も聞こえない。

これって・・・もう出来てるってこと!?




どうなんだろう?

一度魔石に付与してモリスさんに見てもらおうか・・・

うん、それがいい。そうしよう。


付与は・・・やっぱりあの姿を見られるのは嫌だなあ。

気づかれないようにこっそりと・・・

魔石を両手で持って、顔の近く・・・額のあたりがいいかな? ・・・に持ってきて・・・できるだけ小さな声で「魔石くん、君は防御の天才だ。外からは防ぐし、中からはゲートで壁をすり抜ける。君って凄いんだ。大丈夫、やれるやれる! 君なら絶対出来る!」


お、光った。付与できたようだ。


「モリスさん、ちょっとこれ見てもらっていいですか?」

「うん? なにか分からないことでもあった?」

「あ、いえ。ちょっと試作品を」

「え? もう試作できたの? 随分と早いねえ。じゃあちょっと試してみようか」


モリスさんは僕から魔石を受け取り、そこに魔力を注いで起動した。

「ああ、ちゃんと壁になってるじゃないか・・・あれ? 通り抜けるんだけど?」

モリスさんが壁を触ろうとすると、その手は壁をすり抜けて界壁の外へ。

「オートカさんの障壁だから、中から外は出られるんです」

「もうそれ付けたの!?」


いやだって、オートカさんの障壁ってそれしか知らないし。


「じゃあカルアくん、外から叩いてみてくれる?」

僕が界壁を叩くと、不思議な感触で弾かれる。

「ふむ、どうやらちゃんと機能してるようだね。凄いじゃないか、もう界壁の形に出来るなんて。しかも中からは通すところまで再現するとは驚きだよ。じゃあこれをベースに次は遠見の遮断だね」


「いや、あの・・・」

「ん? ああ、ここからどうやればいいかって相談かな。そうだよね、遠見の遮断の魔道具なんて見たことないよねえ」

「えっと・・・そうじゃなくって・・・もうそれも・・・」


あれ? モリスさんがいつものあの顔に・・・


「えっとカルア君、もしかして・・・」

「はい・・・試してもらっていいですか?」


「うん・・・じゃあやってみようか・・・」


僕とモリスさんが交互に中と外で・・・

無事、遠見も遮断できました。



「は・・はは・・・なんだろう、こうもアッサリと・・・ちなみにカルアくん、この結界の挙動について教えてくれるかい?」

「あ、はい。まず基本となったのはモリスさんの『空間ずらし』の断面、あれを壁としました。それで、外からはその壁が防ぎ、中からは壁の内側に薄く貼った一方通行のゲートが壁の外側に繋いでいる感じです。外側のゲートに攻撃を受け続けてどうなるかはちょっと分からないんですけど」


「なるほど・・・強度については要調査か。それで遠見の遮断は?」

「どうも、一方通行のゲートが防いでいるみたいです」


「・・・ゲートが・・・そうか、一方通行の時空間魔法を展開して・・・この方式なら遠見に限らずその他の時空間魔法も・・・ああ、むしろ個別に機能を用意するよりも・・・うん! カルア君、これは素晴らしい! ゲートに置き換わる時空間魔法さえ用意すれば、とてもシンプルな構成で実現できるかも! よし、既存の形のリファレンス化と並行して研究してみよう!!」



うん、これって僕がモリスさんの役に立てたってことだよね!

・・・やったぁ!!




「ちょっと室長!! いきなりカルアくんを連れ込むとか、一体どういうことですかっ!!」


わ、びっくりした。

いきなり扉が開いて、ロベリーさん・・・とその後ろからピノさんが。


「いやあロベリー君、こうしてここに来たってことは、無事手紙は読んでくれたって事だね。うん、よかったよかった。まあ手紙に書いた通りさっきの件はもう思い出さなくって」

「そんな事はどぉーーーーーっでもいいです! 一番大事なのは最後の一行だけでしょう!? まったくほんとに所長はいつもいつも・・・って聞いてます所長!?」


「あー、ロベリー君、ほら、カルア君もびっくりしてるみたいだからさ・・・その話はまた今度ってことで、ね?」

「はあああぁぁぁーーーっ・・・、分かりました。絶対逃しませんからね」

「ははは・・・、うん、そうしてくれると助かるよ」


「それで所長、何故カルア君がここにいるのか聞かせてもらえますか?」

「ああ、彼には新しい結界の魔道具制作を手伝ってもらってたんだよ。僕もちゃんとは見てなかったんだけどさ、カルア君が君の付与術を使って、ね」




「はあああぁぁぁーーーあ!?」

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