収納魔法じゃなかったみたいです
僕たちがギルドの部屋に戻ると、ちょうどモリスさんも戻ってきたところだった。
「やあ、やっぱり同じくらいだったね。ブラック君、魔物部屋はどうだった? といってもカルア君のスティールがどうだった? って事になるだろうとは予想しているけど」
「・・・」
「・・・」
「おや、ブラック君もオートカも何だか疲れてるようだね。あれから何か疲れるようなことでもあったの・・・って、まさか・・・いやまさかね。さすがにそれは無いよね」
「カルア殿が・・・」
「ちょっと待ってオートカ! 深呼吸するからちょっと待って!!」
「はあああぁぁぁふうううぅぅぅ・・・よし、ドンと来い」
「カルア殿が収納魔法を使いました」
「がふっ! ・・・いや大丈夫、大丈夫・・・一応、覚悟した範囲内だよ。半信半疑ではあったけど」
「カルア君、収納できるようになったっていうのは本当かな? ちょっと見せてもらってもいいかい?」
「はい」
僕は収納の魔力の板を出す。
「ん? これ何?」
「収納の入り口ですけど」
「ちょっと待って、これ僕の知ってる収納と違うなあ。カルア君、これってどんなイメージで発動させたの?」
「えっと、モリスさんが言ってた通り、魔法の鞄のイメージです。見えない魔法の鞄を手の上に置いた感じ? 鞄の中にたくさん入るイメージが難しかったです」
「まあそうだよね。別の空間って言われてもイメージしにくいよね。それで君はどうやって解決したの?」
「鞄の中を広げるイメージがどうやってもできなかったから、鞄の口が入口で、そこから別の収納場所につながってるって考えたらどうだろうって思いました。それで収納場所だったら仕切られてたり棚があったりするんだろうなって。ちょうどうちの地下室がそんな感じの倉庫だったので、そんな感じの場所に繋がるイメージです」
あれ? モリスさんの様子が?
ちょっと待って、このパターンって前にも・・・
でもモリスさんの言ったとおりにやったわけだし、今回は変な事ないよね。
「どうしよう。これどうみても収納に見えないよ。でも話を聞く限りだとそんなおかしな事もないし、ホントどうしようか・・・」
何やら悩んでいるモリスさん。
そして。
「あ! そうだよ。スキルを見たらいいんじゃないか。ああなんだ。そうだよ、それで解決だ。というわけでカルア君、君のスキルってどうなった? ボックスは無事追加されたかな?」
ん? あれ?
「自分のスキルって自分で見る事ができるんですか?」
「え? ちょっと待って。君は自分のスキルってどうやって把握してるの?」
「前にギルドで調べてもらいましたけど」
「もしかして自分のスキルの見方を知らない?」
「見る事ができるって今初めて聞きました」
「ええっと、ブラック君?」
「ほとんどの冒険者は、自分にどんなスキルがあるかをギルドで一度調べたら、その後は気にする事がない。普通はその後変動することが無いからな」
「ああなるほど。それが冒険者の常識って事か。うん、これは僕のほうが悪かったね。確かに魔法からスキルが派生するなんて普通は知らないよね」
「じゃあ自分のスキルの見方だけど。カルア君、君は以前に『スキルの声』を聞いたことがあるよね」
「スキルの声?」
「そうだよ。君が以前に聞いた『スキルが進化しました』って声。スキルが進化したって話自体を他に聞いたことがないから絶対とは言い切れないけど、まあ間違いないと思うよ。ちなみに『スキルの声』は僕も聞いたことがあるんだけど、僕が聞いたのは『スキルが派生しました』って声さ。収納魔法からボックススキルが派生した時に聞こえたんだ。この『スキルの声』はね、研究者なんかの間ではよく知られてる話なんだよ」
へえぇ、あれ何の声だったんだろうって思ってたけど、そういう事だったんだ。
「あれってね、スキルそのものが自分に伝えてくれている声って言われているんだよ。だから『スキルの声』。まあ他に考えようがないんだけど。なぜかって言うとね、スキルっていうのは、それに意識を集中すると、その状態を自分自身に答えてくれるんだ。カルア君、君が以前聞いたスキルの声を思い浮かべながら、スキルの状態について集中して考えてみてごらん」
目を閉じて言われた通りに集中! スキルスキルスキル・・・
あ! 見えた!
「どうだい? 君のスキル、何がある?」
「ええっと、コアスティールとゲートのふたつです。あれ? ボックスがない?」
ドサッ
何かが落ちたような音?
反射的に目を開けると、そこには床に崩れ落ちたモリスさんが。
え?
「ゲート? ゲートって言った? ・・・嘘だよね、ゲートって・・・そうだよ。きっと聞き間違いさ。ねえカルア君、もう一度君のスキルを教えてくれるかい」
「コアスティールとゲートでした。ボックスは無かったんですけど・・・」
「やっぱりゲート・・・。ははは、ゲートだって。どうしよう」
「あのモリスさん?」
「・・・分かったよ。こうなったらもう仕方がない。どのみち逃げ場なんてないんだ。受け入れよう。受け入れるしかないじゃないか。うん、そのうえで前を向いて進むんだ。いつもの僕のように・・・。うんうんゲートね。OK理解した。よし、再起動だ!」
立ち上がったモリスさん、何やら再起動したらしい。
自分でそう言ってたし。
「ならば次だ。コアスティール? うん、進化したんだから名前が変わるのはある意味当然。魔石は魔物の核だからコアって事だろうね。『ダンジョンコアはダンジョン自体の魔石』だなんて学説が気にはなるけど、まあさすがにダンジョンコアはスティールなんかできっこないさ。今は気にしなくて大丈夫・・・。よし、カルア君のスティールは今日からコアスティール。呼び名が変わるだけで何の問題もなし! それよりも、今考えなければならないのは・・・やっぱりゲートだろうなあ」
モリスさんは溜息を吐きながら大きく首を左右に振り、そして僕に話しかける。
「さてカルア君、今回君に派生したスキルがゲートだというのならば、君のその魔法は『収納』ではないだろうね。おそらくだけど、『転移』だ」
「え? だって僕『遠見』とかしてませんよ? 確かに小石や魔石は消えたけど、手を入れたらちゃんと取り出せたし」
「まあ聞いてくれ。君のその板状の魔力、それこそがゲートスキルなんだ。ゲートっていうのはね、いわゆる伝説のスキルなんだよ。かつて存在したといわれる古代の王国の伝説に出てくるスキルなんだ」
おお、伝説のスキル! カッコいい!
「その伝説っていうのはね、こんな話なんだ・・・。昔、その国は突如隣国から攻め込まれたんだ。突然の侵略だったからね、当然にようにその国は追い詰めらることとなった。で、その苦境を打ち破ったのがその国の王子だったんだ。彼の持つゲートスキルによってね」
おお、王子様のスキル!
「ゲートスキルは行ったことがある場所を繋ぐスキルなんだけど、幸いにも王子は外交で隣国に訪れたことがあったんだ。彼は起死回生の一手として、隣国の王宮にゲートを繋いだ。そして精鋭部隊がそのゲートを通って直接王宮内に攻め入ったんだ。あとはもう分かるよね? どんなに強大な国だって、直接王宮内に攻め込まれたらどうにもならない。そんな訳で、王子とゲートスキルのおかげでその国は勝利し、隣国の侵略をはねのけたんだ。これがゲートスキルにまつわる伝説さ。そしてそのゲートスキルだけど、それ以来使える者がいたっていう記録はない。まあつまりどういう事かと言うと」
王子様が国を守るために使った伝説のカッコいいスキルって事だよねっ!
「君が狙われる理由がまた増えちゃった! って事だよ!!」
え?
「いやだって、どう考えても戦争の道具にされるでしょう? しかも伝説の最終兵器ってやつだよね。自国にとっては最強の武器だし、そんなの他国からしたら最悪の悪夢だよ。当然どちらからも狙われるに決まってるじゃないか。ねえどうしようカルア君、君もう歩く国家機密状態だよ。もういっそ諦めちゃう?」
「ええっと・・・」
「はは、だよねえ。まあ諦めるっていうのは冗談だから安心してくれよ。でもさすがにこう次から次へとねえ・・・。穴をふさごうと頑張ってたら、その横にもっと大きな穴が開いちゃった、ここしばらく僕はそんな事の繰り返しさ。ちょっとは愚痴だって言いたくなるってものだよねえ」
「うう、すみません」
「ああごめんね。君を責めてる訳じゃないんだ。僕としたことがちょっと弱気になったってだけさ。だから気にしないで。君が謝るようなことじゃあ無いんだ」
そうは言っても、やっぱり原因は僕だしなあ・・・
「さあそんなことよりゲートの説明に戻るよ。さっき言った通り、ゲートっていうのはふたつの場所を繋ぐんだよ。転移との違いだけど、ゲートはその名の通り門なんだ。つまり設置さえしてしまえば、あとは誰でも何人でも通る事ができる。おそらくだけど、魔力は繋ぐときに大きく使って、維持にはさほど使わないんじゃないかな。しかもスキルだから魔法として使うよりも魔力消費が少ないだろうね。さっき使ったとき、たいして魔力が減った感じはしなかったんじゃない?」
ああ、そういえば。
「その顔は心当たりあるみたいだね。まあそんなわけだから、君が収納したと思っているものって、たぶん君の家の地下室にあるんじゃないかな。どうだい、せっかくだから今からゲートを使って取りに行ってみないかい?」
脳裏に浮かぶのは地下室に転がっている金属バット。そして大量の魔石・・・
うん、すぐに取りに行ったほうがいい!
「行きます。一緒に来てもらっていいですか?」
「もちろんさ。いいかい、さっき君は手の上に水平にゲートを設置してたけど、今度は扉のイメージで設置するんだ。要領は同じさ。行先も同じだから簡単だと思うよ」
・・・僕は目を閉じてイメージする。
この場所とうちの地下室を繋ぐ。
繋ぎ方は収納だと思ってたさっきまでと同じ。
手の上じゃなくって扉として設置・・・
キュンって感じで体から出た魔力が目の前に集まる。
そしてそこに現れた、扉くらいの大きさの魔力の板。
うん、できた。これがきっと本来のゲートなんだろう。
じゃあ、って頭を入れてみると・・・真っ暗で何も見えないや。
まあそれはそうか、きっとここって地下室だろうからね。
「繋がったと思います。真っ暗で何も見えなかったけど」
「了解だよ。僕が光魔法で照らすから明かりは大丈夫。じゃあ入ろうか」
まず僕が入って、すぐ後からモリスさん。
そしてモリスさんの光魔法が・・・
「光球」
・・・辺りを照らし出した。
そこはやっぱりうちの地下室だった。
そして、床一杯に散らばる大量の魔石と、部屋の一角に鎮座する金属バットが・・・
とりあえず、もとからあった荷物に影響はなさそうだ。よかったよかった。
「へえ。ここがカルア君ちの地下室かあ。広さもなかなか、立派な倉庫じゃないか。さてと、じゃあ床の魔石と金属バットは僕のボックスに入れて運ぶよ。こぼれずに棚に収まっている分の魔石はそのままでいいかな。カルア君、それでいいかい?」
「はい、お願いします」
「オッケー。はいじゃあ収納っと」
その瞬間、床に散らばった魔石と金属バットが目の前から消え失せる。
ああ、これは確かにさっきまでの僕の収納もどきとは全く違う魔法だ。
「よし、じゃあ向こうに戻ろうか。いつまでもゲートを繋げたままだと、君も落ち着かないだろう? それとも家に忘れ物とかあるならついでに持っていくかい?」
「持っていきたいものは特にないので大丈夫です。皆さんを待たせちゃ悪いから、ギルドに戻りましょう」
ギルドに戻った僕は、ゲートを消した。
うん、なんとなくゲートの操作は理解できたと思う。
「さてブラック君、回収してきたよ。金属バットは解体室でいいんだよね。魔石はどこに出せばいい?」
「これまでの魔石は執務室にまとめて保管してある。そちらに頼む」
「了解。じゃあちょっと置いてきちゃうから、カルア君はここで待っててね」
はあ、伝説のカッコいいスキルだ! って思ったんだけどなあ・・・
結局、収納魔法とボックススキルもまだできてないってことだし。
あんなに堂々と「できるようになりました!」なんて言っちゃったのに、実は勘違いでした、なんて・・・ちょっとカッコ悪いよね。まあそれは今更だけどさ。
なんて考えているうちにふたりとも戻ってきた。
「さて、もうみんな承知しているとおり、またまたカルア君に大問題が発生したよ。なんと今度は伝説のゲートスキルだ。さて、どうしたものかねえ」
「これについては誰でも使えるようにする、というわけにはいかないでしょうね」
「そうだな。もしそんなことになったら、間違いなく国中が、いや世界中が大混乱になるだろう」
「だよねえ・・・。だったらもう答えは一つだよね。隠し通す! これしかないねえ。スキルの隠蔽についてはスティールと同じか。ボックスを習得して周囲にはそれがカルア君の持つ唯一のスキルだと認知させる。でもカルア君の事だから、きっとうっかり使っちゃうこともあるよねえ。その時は・・・まあ転移と言い張るしかないか」
「転移を知っている人相手には難しいでしょうねえ・・・」
「そうなんだよ。転移を使う人は特に違和感を感じるだろうね。だからさ、僕は決めたよ。僕もゲートスキルを習得する。転移は得意だからそれほど難しくはないと思うんだ。幸いカルア君からゲートに使ったイメージを聞けたし、それをもとにやってみるさ。そしてそのゲートスキルを、見た目がちょっと変わっているだけのただの転移だと公表するんだ。そうすればカルア君も僕から教わった風変わりな転移ってことで言い張る事ができるようになると思うよ」
「しかし、それでもゲートスキルと結びつける者が出るかもしれんな」
「まあその時は僕もカルア君と一蓮托生だね。まあふたりとも転移が使えるわけだから、地の果てまでだって逃げられるさ。でもまあ、それは今から心配してもしかたがないよ」
「ゲートに関しては以上だね。あとはコアスティールか。はあぁ・・・、今はただ、対象が魔物の魔石に限定されていることを祈ろうか。ついでに、これ以上進化しない事も、ね」
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ポイントが少ないと、作品の存在にすら中々気付いてもらえないんです。