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転送トラップの謎が判明しました

「ピノ君、魔石の数は概算で構わない。過去分から先ほどカルア君が使った位の分量を補填してくれればいい」

「わかりました。ではそのように」


「ごめんなさいピノさん」

「もういいですよカルア君。でもさっきギルマスも言ってましたけど、何か変わったことをするときは先に一声かけてくださいね」

「わかりました」


ギルマスのフォローがクリティカル。

ピノさんの怒りが収まった。

よかったぁ。


「さて、最後に思いもよらないことがあったが、今度こそ終了だ。調査団の皆さんは引き続きこの部屋で調査を進めて欲しい。ピノ君はこれから私が書く手紙をミッチェル工房のミッチェル氏に届けてくれ。今日はそのまま直帰で構わない」

「わかりました」


「カルア君、このグラスはしばらくこちらで預かって構わないかな? 調べてみたい事がある」

「大丈夫です。思いつきで作っただけなので」

「うむ、助かる。では君も今日はもう帰ってもらって構わない。疲れているだろうから、ゆっくり休んでくれ。また明日の朝に来てくれるかな?」

「はい。分かりました」




そして家に帰った僕は・・・、今まさにご近所の奥様方に囲まれているところだ。なぜ!?


「今日はいつものお嬢ちゃんと一緒じゃないのかい?」

「ピノさんですか? そうですね。そういえば今日は来てくれるのかな? 話してなかったや」

「そうかい。まあそれはいいさ。今訊きたいのはそれじゃなくって別のこと」


なんだろう? 話が終わるまで逃がさないって雰囲気がビンビン伝わってくる。

この間森でウルフに囲まれた時と同じ気配。僕に逃げ道は・・・無い。


「お嬢ちゃんに聞いたんだけどさ、あんた、あの()と『姉弟』になったんだって?」

「え? ピノさんから聞いたんですか? そうなんです。この間僕が『姉さんってこんな感じなのかな』って言ったら、ピノさんがお姉さんになってくれるって言ってくれたんです。それで僕、『ピノ姉さん』って・・・」


僕の嬉しそうな声に、奥様方は微妙な表情。あれ? 何かいけなかった?


「まあ、あんたがそれでいいってんならいいんだけどさ、でもこれだけは覚えときなよ。もしあの()に・・・、」


いつもと全然違う、もの凄く真剣な表情。

僕も自然と背筋が伸びる。


「いいかい、もしあの()に恋人なんかができたとき、あんたとの『姉弟』はそこで終わる。たぶんもう仕事以外で会うことは無くなるはずさ。そうなった時、あんたが自分自身を許す事が出来るか? そのことを常に想像するんだよ。もしそれを許せないって感じる日が来たら、その時は絶対に迷うんじゃないよ。あの()だっていつまでも待ってはくれないんだからね」


いくらニブい僕でも、皆さんが何を心配してくれているかは分かる。

今はまだ良く分からないけど、いつかピノさんと恋人同士になりたいって思う日が来たら、その時は・・・


「カルアくーん、ピノお姉さんが来ましたよー。あら、皆さんこんにちは」

「いやあピノちゃん。いつもカルアの面倒を見てくれてありがとうよ。今日も夕飯を作りに来てくれたのかい」

「ええ、そうです。最近はもう習慣になっちゃって。ちゃんとしたものを食べるか気になっちゃうし」


「なんだい、もうすっかり嫁みたいじゃないか。いっそここで暮らしたらどうだい」

「やだもう、何ってるんですかぁ」

「はっはっは、これ以上邪魔しちゃ悪いね。さて、うちらも亭主どもに飯を食わせに帰ろうかね」


そういって奥様方はそれぞれの家に帰っていく。

はあ、まったく頭が上がらないや。


「カルア君、何かあったんですか?」

「いえ、様子を見に来てくれただけです。いつもいつも僕のことを気にかけてくれて、みんなとってもいい人たちなんです」

「そうなんですね。それってカルア君もですけど、カルア君のご両親もちゃんとご近所の人たちといい関係を築いてきたから、というのもあるんでしょうね」


「はい!」


大好きだった父さんと母さんのことを、こうして良く言ってもらえるのは、すごく嬉しい。

だから思わず飛び出した僕のいい返事。ピノさんもとってもいい笑顔を返してくれた。


「さあさあ! ご飯の支度をしますよ」



今日もとても美味しかった。

そして秘伝のスパイスもたっぷりかけてくれてあった。

今日も魔力トレーニングを頑張ろう!


「ごちそうさまでしたピノさん。今日もとても美味しかったです」

「よろこんでもらえて私もうれしいですよ。カルア君って、とっても美味しそうに食べてくれるから見ていてうれしくなるんです」


「だって美味しいから・・・、でもピノさん、こうしていつも家まで来てくれて、買い物もしてくれて、ごはんも作ってくれて・・・やっぱり僕、半分じゃなくって」

「カルア君!!」


ピノさんが僕の言葉を(さえぎ)る。

「その話はもう済んでるでしょう。私はご飯を作るのが楽しい、そのご飯をカルア君が食べる姿を見るのがうれしい。だから私もとっても得してるんですよ。むしろ私のほうがお金払ったほうがいいかなって思うくらいに」


ピノさん・・・


「だからね、材料代を半分ずつ。それだけ。ね?」

「はい・・・」


「さあ! それじゃあ今日の片付けは一緒にやりましょうか」

「はいっ!」




ピノさんを家に送る。

二人で肩を並べて夜道を歩く。

これもまた、ここしばらくのルーティン。

楽しい時間。


「そういえばカルア君、ギルマスから学校に行く話があったでしょう」

「はい。どうなるかまだ分からないですけど」

「たぶんその学校って、私が通ってたのと同じ学校ですよ」

「え、そうなんですか?」


「ええ。だからもしカルア君が通うことになったら、カルア君は私の後輩ですね」

「じゃあピノさんは僕の姉さんで先輩ですね」

「ええ。そうね」


笑顔でそう答えるピノさん。

あれ? ちょっと雰囲気が変わった?


「その学校ってどんなところなんですか」

「そうね、私が行ってたのは冒険者クラスだけど、他にも魔法とか商業や政治なんかのクラスがあるの。商業は商人、政治は貴族の人たちが多いわね。カルア君は魔法クラスになるんじゃないかな」


「冒険者クラスも興味あります。どんなことを学んだんですか?」

「冒険者クラスの授業は座学と実技の両方をやるのよ。座学では冒険者になるための色々なこと、例えば魔物については地域ごとの分布や特性、倒し方、取れる素材の種類と剥ぎ取り方なんかね。この辺りにはいない魔物についてもたくさん勉強したわ」


うわぁ、楽しそう。


「あとは武器の扱い方や魔法についてね。これらは座学もあるけど実技がメイン。訓練用の剣や槍で模擬戦をやったり、的に向かって攻撃魔法を打ったりしたわね」


「じゃあもしかして、ピノさんも剣とか魔法で戦えるんですか?」

「そうね。ギルマスほどじゃないけど、まあまあ強いんじゃないかしら」


さらっと比較対象にギルマス・・・

それってかなり強いからなんじゃ・・・

そういえば、この間のすごい速さでご飯作ってた時の身のこなし・・・


「まあそうは言っても、就職してからもうずっとやってないから、今は全然じゃないかしら。それに、初めから受付嬢になるために行ってたんだしね。カルア君知ってる? ギルド職員を目指す人も冒険者クラスに入るのよ」


「そうなんですか?」

「ええ。だって立場が違っても覚えなければならないことは一緒だしね。だから職員クラスなんてないのよ」

「なるほど」




そんな話をしているうちにピノさんの家に到着。

今日もまた、窓からピノさんの家族の視線を感じる。


「ピノさん、やっぱり僕、ご挨拶したほうが・・・」

「また今度ね。そのうち機会を設けるから、その時にね」

「そうですか?」


・・・いいのかな?


「じゃあカルア君、送ってくれてありがとうございました」

ピノ姉さんモードは終わったらしい。いつもの話し方に戻った。


「こちらこそご馳走様でした。じゃあおやすみなさい」

「おやすみなさいカルア君。疲れが残ってるでしょうからトレーニングは程々にね」


釘を刺されちゃった。

まあ明日もあるし、今日はちょっとだけにしよう。




そして家に着いた僕は・・・

やっぱり今日も寝落ちするまでやっちゃった。



「ギルマス、皆さん、おはようございます」


今日は予定通り朝からギルドの個室に集合。

僕の挨拶に、みんなも挨拶を返してくれた。

そして、さあ昨日の続きだ。

とそこへ・・・


「ミッチェル氏をお連れしました」

「呼ばれて参上したが・・・今はわしホワイトじゃよ? アットホームじゃよ? あれから3人とも仲良くやってるんじゃよ? だから何の問題もないんじゃよ?」


ああ、昨日の手紙って、ミッチェルさんに来て欲しいっていう手紙だったんだ。

それにしても、来て早々ミッチェルさん・・・ああ、そういえばこってり絞られたって言ってたっけ。


「ミッチェルさん、今日はその話ではない。専門家としてのあなたの意見を聞きたくて来てもらったのだ」


ギルマスの言葉に目つきが急に変わるミッチェルさん。

ああ、この間見たプロの顔だ。


「ほほう、というと錬成じゃな?」

「その通りだ。まずはこれを見て欲しい」


そう言ってギルマスが取り出したのは、昨日僕が作った魔石グラス。

ミッチェルさんはそれを手に取り、


「む!?」


更に顔つきが変わる。


「何じゃこれは!? ガラスではない。かといって他に思い当たるものもない! ブラックさん、こりゃあ一体何で出来とるんじゃ!?」


「これがそのグラスの原料だ」

ギルマスはそう言って、透明な魔石をひと掴みテーブルにザラッと置いた。


「こりゃあ・・・なんじゃ?」

「信じられないと思うが、これは魔石なのだ」

「何を馬鹿な。こんな透明な魔石がある訳ないじゃろう。それに魔石で錬成など出来る訳がない」


ミッチェルさんまでもそう言うんだから、本当に魔石の錬成って出来ないはず、だったんだなあ。


「これは間違いなく魔石だ。最近発見された特殊な手法で取り出すと、透明になるのだ」

「何じゃと」

「そしてミッチェルさん、あなたにこの魔石で錬成を試してみてもらいたい」

「・・・なるほどな。呼ばれた訳が分かったわい」


そう言ったミッチェルさん。

あの顔は完全にやる気だ。


「それで、このテーブルでこのまま錬成を始めていいのか?」

「うむ、始めてくれ」

「じゃあ行くぞ。『融解』」


テーブルの上でドロドロになる魔石。


「ほほう、これは・・・ガラスよりも相当魔力の通りがええな。これが魔石か・・・前に普通の魔石でやった時は全然魔力が通らんかったんじゃがな」


やったことあったんだ。さすがプロ。


「ちょっと試してみるぞ」

そう言ってミッチェルさんが魔力を通すと、魔石は次々とその形を変える。


ウルフ、ラビット、ブル、からのミッチェル工房、ギルドの建物、そしてギルマスの姿に。


「凝固」


最後は小さなナイフの形で出来上がり。

「どうせこの後は魔力を通したり付与を試したりするんじゃろう? じゃったら、この形が一番やり易いじゃろうよ」


「うむ、気遣い感謝する。それで、錬成した感じはどうだった?」

「恐ろしく魔力が通りやすい。じゃからガラスや鉄などよりよっぽど錬成が楽じゃな。使う魔力も少なかったし、こんな簡単な錬成は初めてじゃ」


「なるほど。カルア君がこのグラスを錬成できたのも、特別な理由があった訳ではないということだな。よかった」

「ほほう、これを作ったのはカルアじゃったか。うまく出来とるじゃあないか。カルアよ、いつからうちの工房で働くんじゃ?」


「いや、当分冒険者を引退するつもりはありませんよ?」

「惜しいのう。これ程の才能を埋もらせとくなど・・・おぬし、今日から『カルデシ』に改名せんか?」


「しません! っていうかやっぱり名前で決めてたんですか!?」

「いやそういう訳じゃなかったんじゃがな・・・素敵な偶然につい・・・」


いや素敵な偶然って・・・


「うむ、協力感謝する。今日来てもらった用件は以上だ。急に呼び出してすまなかった」

「なに構わんて。弟子たちが戻ってくるよう説得もしてくれたって事じゃしな。これくらいお安い御用じゃて」


そういってミッチェルさんはサラッと部屋を出ていった。(おとこ)ミッチェル!


「懸念は一つ解消されたな」

「ええ。錬成できたのは透明な魔石の特性、ということでしたね」

「うむ、となれば残るは魔石スティールの一般化のみか。それさえできれば魔石の入手経路からカルア君を外す事が出来る。情報の公開はそれを待ってからでいいだろう」


「そうですね。それで、先ほどミッチェル氏も言っていた魔力を通す実験などはどうしますか?」

「それはまた後でいいだろう。ダンジョンの調査がまだ残っているからな。そちらの調査が片付いてからでいいんじゃないか?」

「そうですね。まずは本来の目的を片付けましょう」


オートカさんは居住まいを正す。


「昨夜我々で導き出した、転送トラップの挙動の仮説をお伝えします」

「ぜひ聞かせてくれ」

「まず、発動は魔法罠によるものです。発動条件は、部屋の中に時空間魔法に対して一定以上の適性を持つ者がいること。それを感知すると、部屋の光が赤く変色します」


なるほど。ってことは今回は僕がいたことでその条件を満たしたと。


「そしてトラップの挙動ですが、トラップ自体は転移を行いません」

「ほほう、というと?」

「そこが今回のポイントです。転移が行われたのは、設置された転送装置により転移が発動したタイミングです。つまり、トラップは発動する転移に干渉し、その転移先の指定を上書きしたのです。魔物部屋に」


「すると、これまでトラップが発動しなかったのは、発動条件を満たすほどの時空間魔法適性を持つ者がいなかった、ということか」

「それともう一点、転送装置を設置する以前は扉で出入りしていましたから・・・」

「条件を満たしたとしても転移することが無かった、と」

「その通りです」




仮説ってことだけど、きっとこれで確定なんだろうなあ。

そして僕はフィラストダンジョンに行くと毎回必ず魔物部屋にご招待されると。

そんな特別サービス頼んでないよ!!

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