やらかしちゃったってことですか
「スティールスキル、拝見いたしました」
「そう・・・、ご覧になりましたか」
「ええ。ブラック殿が秘密保持契約を提案した理由が良く分かりました。あれが世間に知られるのはまずい。今回の調査、たまたま上級冒険者の同行を得られませんでしたが、それも今となっては逆に幸運だったと思えます」
ギルマスとオートカさん。
もの凄く深刻そうに話してるけど、スティールスキルに何か問題があったのかな。
「下手な相手に知られてしまった場合、カルア殿は一生飼い殺される可能性すらあるでしょう」
「ええ、私も同意見です。強欲な人間にとっては喉から手が出るほど欲しいスキルでしょう。直接的な命の危険は無いかもしれないが、自由は確実に奪われる」
「王族、貴族、冒険者、商人・・・特にこの辺りは危険でしょうね」
問題どころじゃない! ヤバい話だった・・・
「まずはカルア君を守る体制を整えつつ、魔石のスティールスキルを習得可能なスキルとするためのロードマップを作成する。ユニークでなくなれば、危険度は大きく下がる事になるでしょう」
「私も協力します。そしてその一助となる情報をこれからお伝えしたい」
「ではウサダン、準備を」
オートカさんの指示で、ウサダンさんがテーブルに魔力の計測器を設置した。
勿論みんな表示画面の前に移動。
「今表示しているのは、魔物部屋に転送されてから計測した魔力の推移です」
「ほう」
ギルマスは興味深そうに画面をのぞき込む。当然他のみんなも。
「この波形の小さな山は、魔物部屋が魔物を生み出す際の魔力です。この連続した波、ここから部屋中に魔物があふれ出しました。さて、時間を少しだけ先に進めてと・・・はい、見ていただきたいのはここからです」
「これは・・・波形の乱れ? いやノイズなのか?」
「最初は我々もそう思いました。しかしこれを拡大してみると驚くべきことが判明したのです。見てください」
そう言いながらオートカさんはその部分を拡大表示した。
「この波形をスペクトル表示したものがこの右ウインドウです。この特徴的な分布、これは時空間魔法のそれです。したがって、この部分で一瞬発生しているこの魔力、これは時空間魔法ということになります」
「やはり・・・」
「既にブラック殿もお気づきのようですね。そう、このノイズに見える部分、これはカルア殿のスティールスキルによる魔力の波形です」
え? スティールスキルって魔力を使ってるってこと!?
「『スキルとは魔法の一種である』この学説は、魔力を計測できるようになってからほぼ確定的となりました。なぜなら、スキルを発動するとそこに魔力が計測されるのですから」
そうか、確かに丸見えなんだから反対意見が出るわけないよね。
「そして、ここで計測されたのが時空間魔法だったのは当然と言えるでしょう。なぜなら、スティールスキルの本質とは物体の転移なのですからね。しかし、真に注目すべきはそこではない。注目しなければならないのは、この波の大きさと継続時間なのです」
ここでオートカさんは軽く呼吸を整えた。
そしてみんなはオートカさんの次の言葉を待つ。
「一度の魔法によって消費する魔力量は、この波の大きさと時間の掛け算で算出できます。そしてスティールスキルの魔力使用時間ですが、これがとてつもなく短い。我々の知る魔法とはまったく比較にならないほどです。概算ではありますが、このグラフより算出したところ、スティールを100回使用した場合の魔力消費量は、火属性の最小魔法である灯火1回よりも少ない」
え? そんなに少ないの?
灯火にどれだけ魔力が必要なのかは知らないんだけど、最小ってことは超初心者でも使える魔法ってことだよね・・・
うーん、言われてみれば、スティールで魔力を消費したって感じたことは、確かに今まで一度も無かったと思う。
「カルア殿の魔力の自然回復速度によっては、回復量が消費量を上回る可能性もあります」
それって実質魔力消費ゼロってこと!?
いや待てよ、そういえばフィラストダンジョンで進化したばかりの時は、ほとんど空っぽの魔力でスティールし続けたんだった。
スキルは魔力を消費しないんだとばかり思ってたけど・・・、そうか、そういう事だったのか。
「以上が、今回判明したカルア殿のスティールスキルの特性です。ダンジョンの調査中にたまたま判明した内容ですので、あまり詳しくは調べられていません。できることなら、ダンジョンの調査の後にでもじっくり調べてみたいものです」
「それについはお願いすることになるかもしれないな。『スキルの進化』という現象についても。どちらも魔石のスティールを習得できる技術にまで落とし込むためには必要な調査だろう」
「そういうことなら是非我々にお声がけください。関係ありそうな情報を集めておきましょう」
「承知した。よろしくお願いします」
「僕からもお願いします。僕にできることがあれば言ってください」
「カルア君、ひとつ君にしかできないことがある。これは非常に大事なことだ」
「はい。僕、何でもやります!」
ギルマスは一呼吸置き、真剣な表情で言った。
「強くなれ! 自分自身を守るために」
強く・・・強くかぁ。
冒険者になってから、ずっと強くなろうともがいてきた。
教わったり、調べたり、訓練したり。
でもギルマスが言ってるのはそれとは違う。
僕はきっと、今すぐ強くならなければならないんだ。
『おいおい、手っ取り早く強くなりたいだと? 随分と難しいことを訊いてくれるじゃないか。だがまあ、虫のいい話だなんてふうには思わねえよ。お前さんが頑張ってきたのは俺も見てきたからな。まあそうだなあ、今までやって来た事が行き詰まったってんなら、今までやって来なかったことをやってみるってのはどうだ? 横道に入ったら宝箱があった、なんて事も世の中にはあるんだぜ?』
主人公・・・
だったら!
「可能性としては時空間魔法と土魔法でしょうか」
「そうだな。おそらくそれらを軸とするのが一番の近道だろうと思う」
やっぱりギルマスも同じ考えみたいだ。
「おや、カルア殿は土魔法も使えるのですか?」
「ええ。適性があったので錬成を教わりました」
「なるほどなるほど。であれば、もしかしたら風も使えるようになるかもしれませんね。あと一部の水魔法も」
「え? 本当ですか?」
なんと!
「ほほう、興味深いお話です。ぜひ根拠を教えていただきたい」
「ええ、もちろんです。これも最近の学説ですが、魔法を大きく二つに分類する動きが出てきているんです。その二種類とは、『その場にある物質に干渉する』ものと『無から物質やエネルギーを生み出す』ものです」
「ほう、そのような切り口を」
「はい。まず『その場にある物質への干渉』としては、土と風がそこに分類されます。あとその場にある水を利用する魔法もこの分類です。そしてこの干渉の最上位にあたるのが時空間魔法と考えられています。時間と空間への干渉の下位に物質への干渉がある、と言い換えたほうが分かりやすいかもしれません」
「なるほど、筋が通っているように見受けられます」
「一方で、その対極にあるのが、火、水、光です。一体何が燃えているんでしょう? 転移もせずにどこから水が出てきたのでしょう? 光にしても、何が光ってるんでしょう? 意味が分かりません。これが『無から生み出す』分類の魔法です。ちなみに障壁もここに含まれます」
「つまり、物質に干渉する魔法であれば、時空間に強い適性を持つカルア君に使える可能性があると」
「そのとおりです。しかも錬成が使えるとなると・・・」
「なるほど。確かに錬成は物質への干渉の極致と言えるかもしれん」
ちょっと話についていけてない自覚あり。
要するに錬成をするときみたいに風と水を動かしてみればいいって事?
なら錬成のイメージって土以外にも応用できるって事なのかな?
今のところ本格的に使った錬成って、グラスを作ったくらいだけど。
でもあのグラス、結構上手にできた気がする。部屋の明かりが反射してキラキラと・・・ん? キラキラ?
何かが頭の隅に引っかかった気がした。なんだろう?
引っ掛かりを思い返して・・・・・・あ、そうだあれだ。キラキラ!
どうしよう、気になる! やってみたい!
でも今はみんな僕の安全について真面目に考えてくれてる。
今はダメ!!
「そうすると、風の適性を調べる、水の適性は再調査、このふたつを最初にやるべきか」
「水の再調査、ですか?」
「カルア君がコップの水を使った適性調査をやったそうだ。その際にコップの水が少なくなったと聞いている」
「少なく・・・」
オートカさんは顎に手を当てて考え込む。
そして間もなく、
「それはもしかしたら、風より前に時空間が影響したのかもしれませんね」
「ほう?」
「あくまで推測ですが。コップの時間を進めた、あるいは戻した、水差しの中に水を移動した、などであれば、それは時空間魔法の挙動です」
「なるほど。理屈としてはあり得るか・・・。すると、火魔法の適性でろうそくの火が消えたというのも・・・」
「ああ、同じかもしれませんね」
すごい! 謎だった現象がここにきて判明しちゃったよ。
「あくまで推測」みたいだけど。
「それで話を戻すと、適性がある魔法を使って身を守る術を身につける。魔力を増やすトレーニングを継続する。時空間魔法の専門家から指導を受ける。あとはこのあたりだろうか?」
「そうですね。妥当かと思います」
「できればカルア君には学校で同世代の子供たちと一緒に学んで欲しいと思っていたのだが、スキルを衆目に晒す訳にいかない以上、難しいか」
「スキルの話題はどうしても避けられませんからね。いっそ別のスキルに偽装でもできればいいんですけど」
「偽装か・・・、少し考えてみるか」
学校・・・
行ったことないけど、どんな所なんだろう。
同世代って周りにいないから、集まって一緒に、っていうのも想像できないし。
周りで一番年齢が近いのはピノさんかな。僕よりも少しだけ年上だった気がする。
ところで、さっきからずっと気になってたことがある。
話の腰を折らないようにずっと言わないできたけど、今ならいいかな?
「あの、ギルマス?」
「ん、どうしたカルア君。何か希望があるのなら遠慮なく言ってくれ」
「すみません、そういうのじゃなくってですね、あの言おうかどうしようかずっと迷ってたんですけど、ギルマス、少し前からいつもの口調に戻ってますよ?」
「あ・・・」
「・・・」
「・・・」
「全く気付かなかった・・・」
「ははは、私だったら全然かまいませんよ。むしろ普段通りに接してください。そのほうが私もありがたいので」
「すまない、そう言ってもらうと助かる。やっぱり丁寧な口調は慣れんな。」
「なんだか話の腰を折ってすみません」
「いや、おかげで話しやすくなった。さて、今日話すべきことはほぼ話し終えたのではないか?」
「ええ。我々はこれから今日の結果のまとめに取り掛かります」
「承知した。じゃあ本日は以上だ」
どうやら終わったみたいだ。
だったら!
「あのピノさん、すみません。ちょっとさっきの鞄を貸してもらえますか」
「はいどうぞ。どうしました?」
「ええ、ちょっと魔石を」
そう言って僕は魔石をひと掴みテーブルに取り出す。
これくらいで足りるかな?
「ありがとうございます」
ピノさんに鞄を返して・・・
「融解」
魔石の山に手をかざし、魔力を注ぐと・・・
やっぱり! ガラスみたいになった!!
ということで、次は形を整える。
イメージするのは簡単。昨日ふたつ作ったばっかりだから。
そして、
「凝固」
やった!! できた!!
目の前にはキラキラと輝くグラスが。
思った通り、ガラスで作るよりもずっと綺麗だ。
出来立てのグラスを手に取って、尖った部分が無いかチェック。
大丈夫、うまくできてる。
「カルア君、君は今何をした? いや、分かっている。私自身の眼で見たはずだ。つまり、君は今、魔石を錬成したということで間違いないな?」
「?、ええ、そうですけど?」
それが何か?
「オートカ殿、もしかしたら、この件についても私の知識は古いのかもしれん。今、我々の眼の前で魔石が錬成されたのだが?」
「ブラック殿、大丈夫、私も混乱しています。現在の常識としては『魔石を原料に錬成することはできない』が正しい。いや、正確には、さっきまでは正しかった、でしょうか」
「カルア君、君は何故今これを?」
「さっき話を聞いていたときにふと思ったんです。このキラキラした魔石でグラスを作ったら、ガラス製よりもずっと綺麗なんじゃないかって」
「魔石の錬成は今まで誰も成功していないっていうことを・・・知っているはずはないか」
「え? そうなんですか? 普通にできましたよ?」
「そう、だから問題なのだよ」
「ブラック殿、秘密が増えてしまいました」
「うむ、そしてカルア君、君の危険も増してしまった」
「グラスを作っただけなのに・・・」
「カルア君、これからは何か思いついてもすぐには実践しないでくれ。まず相談してもらえると助かる」
ギルマスの疲れたような顔。
僕やらかしちゃったってことなのかな。そんなに大変な事はしてないと思うけど。
・・・ってあれ? 横から冷気? いや殺気?
恐る恐るそちらに目をやると、ピノさんが・・・、すごく怒ってる!?
「カルア君・・・この魔石、明日みんなで数えることになってるって。カルア君も聞いてましたよね。どうするんですか! 数合わなくなっちゃったじゃないですか!」
ああっ!!
「すみませんピノさん! うっかり忘れてました!!」
どうしよう、やらかしちゃった!!
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ポイントが少ないと、作品の存在にすら中々気付いてもらえないんです。




