テーギガとの戦いを報告します
海合宿は中止にしたほうが、なんて話もちょっとあったみたいだけど、結局は初めの予定どおりに最終日までやって終了になった。
帰りの馬車では特に何事もなく、そのまま学校に到着して解散。
いつもの「家に帰るまでがぁ、合宿ですからねえーーー」って言葉で見送られてそのまま家に帰った。
そしてその翌日つまり今日、ベルベルさんからの通信で目が覚めた。
「カルアかい、今からうちに来な。他の連中も呼んであるからね」
何となく呼ばれそうな気はしてたんだけど、まさかのモーニングコール。
はは、今日は朝食抜きかな・・・
って事で、とりあえず身支度だけ整えてベルベルさんのお店に転移!
「こんにちはー、ってあれ? 誰もいない?」
いつもどおり直接ベルベルさんのお店の奥に転移したんだけど、誰もいないし窓も閉まってて暗い。どうして?
とそこに馴染みの魔力反応。これはモリスさんの転移の前兆だね。
「校長、みんな連れて来たよー・・・ってあれ? カルア君だけ?」
モリスさんも誰もいない様子に不思議そう。
そしてモリスさんと一緒に転移してきた王都組のみんなも、辺りをキョロキョロと見回してる。
「あれえ? 校長確かに『うちに来い』って言ってた筈だけど・・・ん? 『うち』? ってもしかして校長の自宅の事!?」
「ああ!」
そうかも!
「ったく何て紛らわしい・・・じゃあ行こうか。カルア君も僕の転移に乗っかって。はい『転移』っと」
僕たちはベルベルさんの屋敷の前に到着すると、そのまま門衛さんに軽く挨拶して敷地へと入っていった。
そして建物に向かって歩いてる最中、
「皆様ようこそいらっしゃいました」
その建物から執事さんがすごい速さでゆっくり歩いて来て、僕達を出迎えてくれた。
ん? すごい速さでゆっくり?
見たままを言ったんだけど、自分でも意味が分からないや。
「こちらへどうぞ」
執事さんに案内されたのは、以前パーティをやったあの大きな部屋。
「朝食がまだの方もいらっしゃるようですので、軽食をご用意いたしました。ご自由にお召し上がりください」
部屋の中にはテーブルが並び、そこにはサンドイッチやおにぎり、それに立ったままでも食べれそうないろんな料理が並んでいる。
よかった、朝食抜きは免れたみたい。
「あっ・・・オートカ先輩あれ美味しそう。一緒に食べましょ」
「ええ、そうですねミレアさん」
「あー、そう言えばラーバル君、ほら、この間のあの結界だけどさ」
「ああ」
あれ?
どうしたの、みんな急に離れて行って・・・すごく不自然に・・・
とそこに――
「カルア君」
誰の声かって? そんなの聞こえた瞬間にすぐ分かったよ。
間違えようの無いその声は、
「ピノさん」
振り替えると、そこにはやっぱりピノさんがいた。
「おはようカルア君。合宿お疲れさま。昨日はよく眠れた?」
・・・天使のような微笑みを浮かべて。
一瞬その笑顔に目を奪われて・・・
「お、おはようございますピノさん。ええ、夕べはもう――」
「ああああっ! 何よ、もう始まってるじゃない!」
はは・・・
間違えようの無いこの声は・・・
「よく来たわねカルア! さあ、何食べよっか! あ、あれ美味しそう! ほら行くわよ!」
「ちょっアーシュ!? 今ピノさんと――」
「ほら早く!」
「ちょおーーーーー・・・」
腕を掴んだアーシュに引きずられながら目に入ったのは、お菓子を落としちゃった子供みたいな顔をしてロベリーさんに頭を撫でられてるピノさんの姿だった・・・
軽く朝御飯をつまんで、そしてみんなと話をして。
うん、もちろんピノさんともね。
そうしている間に、いつの間にかチームのみんなとパーティのみんなが全員集まってたみたい。
「どうやら全員集まったみたいだね」
そこに現れたのはベルベルさん・・・と、二本足で立って歩く虎?
「ああ、こいつかい? こいつはケットラ。セントラルダンジョンにいたケットシーなんだけど、どうも懐かれちまったみたいでね。この間妙な連中に襲われてっから、ずっとボディガードみたいに張り付いてくれてんだよ」
へえ、ケットシーがボディガードかあ。
それって何だかカッコイイ!
「ガウ(よろしく)」
でも・・・時々チラッとピノさんを見てるような・・・気のせいかな?
「まあそれはともかくだ、カルア、あんたとうとう例の『ドロドロ』を倒したそうじゃないか。よかったね」
「はい! ありがとうございますベルベルさん」
ベルベルさんは嬉しそうに頷いて、
「それでだ、モリスの奴もあの場では詳しい話を聞けなかったようだからね、こうしてあんたから話を聞くのをずっと待ってたって訳さ」
やっぱりね。
絶対そうだろうと思ったよ。
で、説明だけど、どこから話したものやら・・・
そうだ、シルとの修行のあたりから話す事にしようかな。
あ、でもそれだったら、
「ちょっとシルを呼んできていいですか? 多分一緒にいてもらった方がいいと思うから」
するとすかさずモリスさんが、
「ああ、それだったら僕が行ってくるよ。ちょっと待ってて」
そう言って転移していって・・・
1分くらいでシルの操化身と一緒に戻ってきた。
「こんに・・・ちは」
あれ、眼鏡つけてる。
そういえば操化身用の眼鏡も欲しいって言ってたっけ。
そっか、作ってもらえたんだね。
そして説明、まずは修行の話から。
シルが修行場を作ってくれた事。
一体のスライムとずっと一緒にいるコースを選んだ事。
校長先生からの課題だった魔力の感知が出来るようになった事。
その時にスライムからのスティールが出来るようになって、スキルも進化した事。
「でもそれだけじゃなかったんです。多分それだけだったら、あの敵は倒せなかったと思う」
ここでシルの方をチラッと見ると、
「そう・・・その時はまだ・・・倒せないスライムがいた」
そして僕は説明を続ける。
進化したスティールの、更にその先について。
属性スライムからはスティール出来たけど、白い特殊なスライムに弾かれた事。
そのスライムは身体強化をしていた事。
海でピノさんに身体強化によってスティールが弾かれるって教えてもらった事。
僕も身体強化をする事で、身体強化した魔物からスティールできた事。
そして・・・スティールがもう一段階進化した事。
「それで『これなら勝てる』って思って、修行を終えて海岸に戻ったら・・・」
あ・・・あの時の事を思い出したら・・・涙が・・・
「カルア君・・・」
「ふぐっ・・・すみま・・・ん・・・ちょっ、と・・・待って・・・」
「ああ、ゆっくりでいいさ。落ち着いてからでいいからね」
はい・・・
ゆっくり・・・落ち着いて・・・前を向いて・・・
・・・あのモリスさん、オートカさんの後ろから変顔させるの、やめてください。
ミレアさんが凄い目で睨んでますよ・・・
おかげで一気に落ち着いたけど、呼吸が整わない・・・
ぷふっ・・・
「はぁぁ、ふぅぅ・・・・・・よし・・・それで、海岸に帰ったらみんな倒れてて、そしてピノさんは真っ赤な血をもの凄くたくさん・・・」
あれは本当に・・・あ、いけないまた涙・・・
こんな時は思い出せ、オートカさんの・・・変顔っ!
・・・よし、引っ込んだ。
「それで、急いでピノさんに『復元』を掛けたんだけど、傷が無くなったのにピノさんが動かなくって・・・そうしたらあいつが『ピノさんを殺した、次はお前だ』みたいな事を言って、それでカっとなって」
許せなくって・・・
「身体強化で結界でスティールでやっつけました」
「雑! あんた最後の説明だけいきなり雑!!」
「カルア君! そこ! そこ一番いいトコだから! 私の事で怒ったカルア君の超クライマックスシーンだから!! 『ピノさんのことかーーーっ』とか叫ぶ場面だから!」
「ちょっとカルア君、これ学校の課題だったら間違いなく再提出になりますよ?」
「えええ・・・」
そんな事言われても、あの時は本当に頭に血が上ってて、よく覚えてないんだよなあ・・・
何とか思い出そうと首を捻ってると校長先生が、
「分かりました。それじゃあカルア君、私がサポートしますから時空間魔法であの時の様子を映し出しましょう」
「ええっ!? そんな事が出来るの?」
「ええ。技術的には『過去視』と『遠見』の複合で可能なはずです。ただ遠く離れた場所での数日前の出来事ですから、相当な量の魔力が必要となるんですけどね。今回は私がカルア君の魔力を操作して『過去視』を構築しますから、カルア君はその魔法の流れを感じ取りながら魔力を流し続けてください」
そして校長先生は僕の背中に手を当て、
「では循環を開始してください」
魔力循環、ちょっとだけ多めな感じでぐるぐる・・・
背中から校長先生の魔力が流れ込んできて、それが僕の魔力と交じり合って、僕の中で魔法が構築されていく。
いつもは最初にイメージがあって、そのイメージで魔力を操作すると魔法になるんだけど、今回はその逆。
魔力が勝手に流れてきて、それが魔法になったと思ったら、その魔法は僕に『過去視』のイメージを伝えてくる。
これが『過去視』のイメージ・・・
そっか、こういうイメージでこんな感じで魔力を操作すると『過去視』が発動するのか。
でもこれって物凄く繊細で複雑で・・・僕一人じゃとても出来そうにないや。
そんな難しい魔法を他人の魔力を操作して発動出来るなんて・・・
これまでも分かってたつもりでいたけど、やっぱり校長先生ってすごい!
そして『過去視』が発動し、僕達の目の前には通信具の映像みたいに『過去視』の映像が映し出された。
大画面フルカラー、音声付きで。
室内では、カルアの魔力とラーバルの魔法により空間に映像が紡がれ、そこにいる全員がその映像に見入っていた。
『ハハハハハハハ!! 次はお前だ!』
呆然とするカルアを見て高笑いを浮かべるテーギガ。
生まれて初めての『喜び』の感情に、非常にハイになっているようだ。
『偽エルフカルア! 貴様を排除する!』
高揚した様子でカルアを指さし、そう叫んだ。
感情を手に入れたテーギガの話し方は、いつしか機械的なものから非常に感情豊かなそれへと変化していた。
だがそんなテーギガの言葉に、カルアは何の反応も見せない。
その事に若干苛立ちに似た様子を見せつつ、テーギガは言葉を続けようとする。
テーギガは知らないのだ。
『口は災いの元』という至言を。
『そこの個体名ピノセンセーのように貴様も殺してやる』
そしてその言葉に、初めてカルアが反応を見せた。
「ピノさんを・・・殺した?」
初めて得られた反応に気をよくしたテーギガは、どんどん墓穴を掘り進んでゆく。
その言葉の先に何が起きるのかを考えもせずに。そして・・・
ついに破滅への最後のトリガーをとなる言葉が放たれた。
『その通りだ。そして次はお前だ』
そしてカルアが爆発した。
「お前が・・・お前が・・・お前がピノさんを・・・ピノさんをおおおおお!!!」
その叫びとともにカルアの全身から魔力が迸るっ!!
「身体強化全開!!」
その途轍もない魔力を目の当たりにし、初めてテーギガは自分の犯した過ちに気付いた。だがもう遅い。
『なっ、何だその魔力は!?』
「よくも・・・よくもピノさんを!!」
怒りに我を忘れたカルアの身体強化により、体内に収まりきらなくなった魔力が渦となり、周囲の全てを飲み込んだ。
まるで自分以外の一切の魔力を許さないかのように。
その爆心地にいるテーギガは魔力の渦に翻弄され、自身の身体の構築そして操作すらも覚束なくなる。
『何だこの魔力の嵐は!? 体組織にまで干渉を受けているだと!? くっ、これでは身体が保てない・・・一旦退避を』
慌てて魔力の渦から逃げ出そうとするも時既に遅し、今のカルアは甘くない。
「結界」
『なっ』
「逃がす訳ないだろ?」
カルアがその膨大な魔力による力任せの結界を発動し、その死の檻に閉じ込められる事となった。
だがしかし、その結界はテーギガを魔力の渦から守る壁としても機能し、それはテーギガに反撃の機会を与える――
『くっ、こんな結界など・・・何!? 浸食できない!?』
――かに見えた。
力任せの結界、それはつまりカルアの濃密な魔力の塊。
干渉し浸食しようとするテーギガの魔力など入り込む余地がない。
そしていよいよテーギガの最後の時が近づく。
「把握」
『何だこの感覚・・・体の一片まで全て掴まれたかのような』
「ああ、『把握』したから。感じ取る『把握』じゃなくって、掴み取る『把握』。お前の体組織、そして魔力の全ては今僕に掴まれている。お前の命は今僕の手の中だよ」
魔力感知の会得、そして怒りからの爆発により、カルアの魔法は通常では考えられない程の進歩を見せていた。
時空間魔法の『把握』とは、そこにある空間の状況の『把握』。
だがカルアは状況だけでなく相手そのものを――その身体も魔力も――『把握』してしまった。
これはもう『把握』ではない。カルアは「掴み取る『把握』」などと言っていたが、そのような生易しいものである筈がない。その能力、それはまさに『支配』と呼ぶに相応しい。
自らの運命を悟ったテーギガは『後悔』し、その生における最後の感情を手に入れた。
『これが『絶望』・・・』
そして・・・
「これで終わりだ。『スティール』」
圧倒的なクライマックス感!
暫く呼吸すら忘れていた一同はここでようやく我に返り、そして会場は溜息につつまれた。
そんな中、
「カルア君、何てカッコいい・・・特にこのいつもと違うちょっとブラックな雰囲気がまた・・・」
一切ブレる事のないピノ。
そして映像は原形を留めていないテーギガからカルアへとパンし、
「ピノさん・・・」
そこからカメラは若干あおり気味に、敵を葬った後の悲し気なカルアの表情を映し出した。
それが誰の手によるカメラワークなのかは全くの謎である。
「はは・・・カルア君ってば、これもう完璧に主人公だねえ」
「ええ。もうこれは一つの作品と言っていい。ところでカルア殿、これ録画機能はありますか?」
「何とええ話じゃ! まさかわしが帰った後にこんなドラマがあったとはのお」
「これは素晴らしいネタをいただきました。早速執筆を・・・」
仲間たちの反応を受け恥ずかしさに身をよじるカルアだったが、『過去視』の映像はまだ続く。
次のシーンは倒れるピノの周りにカルアのパーティメンバーが集まるところ。
「うそ・・・そんな・・・」
アーシュは口を手で覆って立ち尽くし、
「うそ! こんなの嘘よ! だってこんな綺麗で傷も無くって・・・」
まるで何かに怒っているかのような声を上げる。
その声に、
「動かないんだ。傷を負う前に時間を戻したのに・・・動かないんだよ」
今にも泣き出しそうな表情でカルアが呟いた。
「そんな・・・そんな訳ない! こんな終わり方なんて許さない! それにピノさんだって・・・ピノさん! 今すぐ起きないと、カルアの事奪っちゃうわよ!?」
理不尽とも思える叫びをあげるアーシュにカルアは戸惑う。
「え? アーシュ、急に何を・・・」
だがアーシュは止まらない。
「ほらワルツ! あんたも言ってやりなさいよ!」
そしてアーシュの意図を悟ったワルツもアーシュに便乗した。
「うん。ピノ先生、今すぐ止めないと、カル師、わたしの旦那様」
それからふたりはピノに語り続ける。
「ほら、目を開けないと、カルアにキスしちゃうわよ」
「なら、わたしは、ぎゅーってする」
すると、その声が届いたのだろうか。
ほんの僅かではあるがピノが反応を見せる。
そして――
「さあワルツ、ふたりで左右からカルアをサンドイッチ――」
「だめぇーーーーーーーっ!!」
ピノは帰ってきた。
おかえり。
「ピノ・・・あんた・・・」
本来なら感動に包まれるべき蘇生のシーン。
だがこれは・・・
観客の反応に映像を見ている方のピノはひどく気まずそうだ。
そして映像の中のピノは――
「あれ? 私、何で? えっと・・・あっ! みんな無事!? テーギガは!?」
「あいつは僕が倒しました」
「ええっ、もしかして進化したスティールで?」
「はいっ!」
「そんなぁ・・・一番いいシーンを見逃したぁ・・・」
やはり最後までブレないのであった。
映像は終了。
最後まで見終わった一同に共通した思い、それは――
――なんて綺麗な『蛇足』!
だがそれもピノが無事だったから言える事。
「まあなんだ・・・何はともあれ、無事生き返れたってのはホントに良かったよ」
「そうだねえ。何はともあれハッピーエンド・・・っていうかオチ?」
「ホント、何はともあれピノ様が帰ってきてくれてよかったわよ。でもまあもしこの映像を編集して世に出すのなら、弟弟子君の勝利でスタッフロールかしらね」
「それは私も同意・・・いえいえ、皆さんここはやはり無事に生き返った事を素直に喜ぶべきでしょう。まあ・・・」
「「「「「何はともあれ、ね」」」」」
「もうっ、みんなして何よー」
そんな「笑い話で終われる幸せ」を噛みしめる一同であった。
最後ちょっと微妙な雰囲気になっちゃったけど、でも僕も落ち着いてあの時の事を見返す事が出来て良かった、かな。
でもそっか、あの時の僕ってあんな感じだったのかぁ・・・
――これで終わりだ。『スティール』
ああ、どうせならもっとこう、いい感じのポーズで・・・
いや、むしろこんな感じに・・・
「うんうん、やっぱり決めポーズは大事だよねカルア君」
「カル師、カバチョッチョ病」
「ま、まあそんな年頃だし」
「カルア君、私はすごくいいと思うよっ!」
うわああああああ、見られてたぁ!!
【評価と応援のお願い】
あとちょっとだけスクロールして☆をポチっとお願いします。