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筋肉さえあれば仮面の下の素顔なんてどうでもいい

作者: むぎとろ

 20XX年、東京は大地震に見舞われた。そこは一瞬にして地獄と化し、私は瓦礫に飲まれて死んだ……筈だった。

 しかし、気がつくとそこは見知らぬ庭園のような場所だった。直ぐ側には中世のヨーロッパの様な建物が見える。

 しかし、私も建物の様式には詳しくないが、少なくともテレビや写真で見たヨーロッパの建物とは違ったデザインの様に思える。

 一体、ここは何処の国なんだ?

 あっ!もしかしてここ天国⁉ いやそうとしか思えない、だって周りは花園だし、きっとそうだ!やったー!私は天国に行けたんだー!



 ……全然良くないよ?


 ほんとどうしたらいいの?


 お母さん、お父さん、お姉ちゃん


 みんな無事かな……



 私は途方に暮れ、呆然と花園を見つめたまま、幾許の時が過ぎただろうか。


「貴様、何者だ?」


 突然、気配もなく背後から忍び寄ってきた何者かに首筋に刃物を当てられ、竦み上がるような鋭い声を投げかけられた。

 私は両手を上げて恐る恐る振り返る。すると、そこには、恐ろしく…………珍妙な仮面を被った男が立っていた。



 ヤバい、ここ、天国で無い……



 その男の仮面はイタリアのお祭りで被る女性モノの仮面に似ているが、ベースの色はピンクで表面には可愛らしい花の文様が所狭しと描かれ、更にはリボンやらレースやらがあしらわれている。

 それはまるでド派手なフリフリランジェリーのようでもあった。変態仮面もクリビツなデザインだ。

 しかも、その男の身体は相当鍛えられていて、服の上からでも逞しい筋肉が透けて見える程だ。やっぱり変態にしか見えない。

 服装だって綺羅びやかなモノではなく、騎士や軍人のような衣装だ。上下の違和感が半端ない。


「怪しい奴め!どうやってここへ入ってきた!」

「怪しいとか!変態仮面に言われたくないし!」


 自分の置かれている状況を忘れ、うっかりツッコミを入れてしまった。今すぐ斬り殺されたらどうしよう……と、背中に嫌な汗が流れる。

 イヤ〜ッ!犯される⁉ 殺される⁉ すり潰されるぅ〜⁉


「変態……だと?」

「変態でしょう?」

「いや、可愛いだろう?」


 え?いま「可愛い」って言いました?

 私の空耳でしょうか?

 いやいや、仮面だけを単体で見たら確かに可愛いと言えなくはない。お花とリボンでフリフリだしね。

 しかし、しかしだ!それを身に着けているのはどこからどう見ても筋肉の塊だ。

 何このミスマッチ?彼の主張は勿論、両者合わせて「可愛い」と言いたいんだよね?


「え?この国ではそれが可愛いファッションなんですか?」

「そ、そうだ」


 これが可愛いならこの国の人の美的感覚を疑う。しかし、海外からすれば日本の可愛い(キモカワイイ等)の基準もおかしいと言われてるらしいし、私が言えた義理では無いかも知れない。

 そうか!この人はキモカワイイを目指しているのか!ナルホドナットク……できるかっ!!

 やっぱりただの変態だよ⁉


 しかし、何故、明らかに日本で無いこの世界で明らかに日本人でない変態と言葉が通じるの?これってまるで、異世界とくて………ん?

 ま、ままま、まさか……これは噂に聞く異世界転移とか異世界召喚とか言うやつでは?

 もしかして私もチート能力に目覚めちゃったりとか!


「ステータスオープン!」


 私は思わず叫んでしまった。


 ……………………… 。


 当たり前だが何も起こらない。

 ラノベに毒された己が急に恥ずかしくなった。何処の厨二病患者だよ。穴を掘って入りたい。

 変態も私の事を訝しげに見ている。変態に変人扱いされてしまった。大変遺憾である。これじゃあ「変」の大安売りだ。


 しかし、この変態は何故可愛いを求めるのか?普通の男性ははカッコいいを目指すものではないのか?

 しかも、中性的なもやしっ子ならまだ理解できるが、彼の体格は明らかに鍛えられた格闘家のようなそれだ。


「何故、可愛いを求めるのですか?」

「モテたいからだ」


 何そのめっちゃ正直な理由。思春期のDKか⁉間違った方向に高校生デビューしちゃった結果なわけ⁉


「その仮面のおかけでモテてるんですか?女子が集まってきてウハウハなんですか?」

「いや、まだモテてない……だがこれからだ!」

「それを付けないほうがモテると言う可能性は?」

「ふっ、俺の素顔は悪魔のように恐ろしいのだ」

「悪魔?まずは素顔を見てみないとなんとも……ちょっと見せてくださいよ」

「断る!お前も俺の悪鬼の如き素顔に恐れ慄き、その命を縮める事になるだろう」

「またまたぁ、そんな大袈裟な」


 私は手をパタパタとさせながらクスクスと笑う。

 すると変態は鼻息荒くしながら溜息を吐いた。表情は見えないが憮然としているように思えた。


「あっ!あれは⁉」


 唐突に私は天を指さしながら空を見上げた。すると変態も釣られて空を見上げた。


「隙きありっ!」


 変態の顎の下から指を差し込み、仮面をスパンッと剥ぎ取った。

 変態は慌てて掌で自分の顔を隠すが、咄嗟の事に対応仕切れず、一瞬素顔が丸見えだったし、今も掌で覆いきれずに盛大にチラリズムしている。


「……見たな」


 確かに、言うだけあってかなりの強面だった。まるで「俺は何人も殺してきた」みたいな顔だ。軍人さんみたいだから実際にそうなのかもだけど、そう言うキャラに見えると言う話だ。

 でもそれ程不細工な訳でもないし、コレはコレでご立派な筋肉とも相まって強そうでイイと思うけど?

 この世界の基準では非リア男子になってしまうのか。可哀想に……


 そんな風にぼんやりと考えていると、変態から開放された可哀想な男からドス黒いオーラが漂い始めた。


「俺の素顔を見た者は、俺に今ここで殺されるか……」


 先程までとは違い、最初に私に剣先を向けてきた時と同じ、低く冷たく鋭い声色で恐ろしい事を口にする。

 今度こそ本気で私を殺すつもりかも知れない。再び冷や汗が流れる。


「……お、おおお、俺とけ、けけけ結婚するかだ!」


 ……と、思いきや、思わずズッコケそうになった。

 めっちゃ噛んでますが?前半の凄みが台無しだ。しかも、死ぬか結婚するかって両極端過ぎる。


「じゃあ、結婚します」

「何っ⁉ け、け、け、結婚だぞ、良いのか⁉」


 どれだけ結婚の二文字に噛むんだ?余程拗らせているのか?拗らせた結果が変態仮面なのか?


「え?だって死ぬよりマシだし」

「そ、そうだな……ゴホンッ、ならば貴様を我が伴侶としてやろう、有り難く思うがいい」

「不束者ですがよろしくお願いします」

「……ああ」

「婚約者になったなら、その雄っぱい触ってもいいですよね?」

「は?俺は男だぞ、女のような乳など…」


 私は動揺している男の隙をついて乳首をつねり上げた。

 服の上からではあったが、思った位置に乳首があった為、いい感じに乳首を掴むことが出来た。


「ひぃあぁっ⁉」


 なんか変な声出た。

 面白い。


「ま、待て!話し合おう」


 男は両手を交差し、厳つい体の逞しい雄っぱいに添えられた慎ましい乳首を隠すように手を当てている。

 乙女か?


「愛に言葉は必要ありません、そして私には筋肉しか必要ありません、愛もいりません」

「愛はいらないのか!」

「あればあったでそれに越したことはありませんが」

「お、おう……」


 男はぎこちなく頷いた。

 ふと、大事な事を聞き忘れていた事を思い出した。


「で?貴方のお名前は?私の名前はチクビツネリーナです。乳首をつねりし女と言う意味です。嘘ですけど」

「噓なのか?」

「嘘ですよ、わかるでしょ?」

「分からないから聞いているのだ」


 彼は洒落の通じないお硬い男のようだ。あんな変態な仮面を付けているクセにガッカリだ。モテないのはそのユーモアの無さが問題なのでは?


「真名は杉田愛です。愛が過ぎて尊いって意味です」

「スギタアイ……ほう、珍しい名前だな、異国の者か?」

「いえ、異世界の者です。これ、ホント、わたし、ウソつかない」

「異世界?」

「こことは異なる次元の世界です」

「難しい事は分からんが、我が国の者ではないと言うことだな」

「こんな怪しい女を嫁にして大丈夫ですか?」


 今更だが、どう見ても怪しいしかない女を、素顔を見てしまったと言うだけで嫁にしてご家族にどやされないだろうか?

 お姑さんに「こんな得体の知れない女、息子ちゃんの嫁に相応しくないざます!」とか言われてトメVSヨメバトルが勃発しないだろうか?


「乳首さえつねらなければ悪者とは思えんし、大丈夫だろう」

「乳首さえつねらなければ?」

「乳首さえつねらなければ」

「乳首をつねれないなら離婚します!」

「まて!偶にはつねってもいい!」

「仕方ない、それで手を打ちましょう」


 私がヤレヤレという態度でそう言うと、変態仮面改旦那様(予定)は豪快に笑い出した。

 あ、これ、おもしれー女認定されました?

 それに、笑った顔はそれほど怖くも無いじゃないか、笑顔って大事。


「俺はグレゴリオ・レシュラーム・カイ・オーガ・ギ・ラティーナ・アシ・レンヌ・ヴァン・ギラスだ、よろしく頼む」


 え?何その長い名前?ピカソか?いや、ピカソよりマシだけど。


「無理、覚えられない、カタカナ怖い…」

「俺の名が恐ろしいのか?」

「はい……なので、チクビツネリーノって名前に改名しましょう、乳首をつねられし男と言う意味です」

「何故だ⁉ 普通にファーストネームで呼べばいいだろう⁉」

「えっと、もう一度お願いします」

「グレゴリオだ」

「あれ?改名しました?」

「していない、省略しただけだ」

「じゃあ、ゴリオって呼ぶね」

「更に縮めるのか⁉」


 ゴリオは見た目通り王国軍の幹部だった。決して魔王軍の幹部ではない。

 現在32歳。それなりの家柄のお坊ちゃんで、俗に言う貴族と言うやつだ。

 そして私はゴリオの庇護のもと順調に新生活を開始した。本当にゴリオ様々だ。

 だから感謝の気持ちを込めて「ゴリオ様」って呼んだらなんか嫌がられた。解せぬ。


 後に判明した事だが、あの日、この世界に飛ばされたのは私だけでは無かったらしい。今の所30人程の日本人が発見されている。

 大地震により次元の歪みが生じ、この世界に飛ばされたのだろうとは専門家の見解だ。

 そして私達の知識はこの世界に革命的な変化をもたらすものとして、転移者は発見次第保護される事になった。

 異端者を迫害したりしないなんて、この国は随分と寛容だ。

 とはいえ医療も科学技術もその方面の専門家が数名発見されたので、私は戦力外、つまりは只の一般市民と同じだ。

 ……と思っていたら、何時の間にか金融対策チームに組み込まれていた。解せぬ。

 実は私、職業は銀行員でして、受付窓口の担当でした。因みに、ここに飛ばされて来た時に着ていた服も某銀行の制服だった。

 この国の金融システムが色々非効率らしくて、私は社会人2年目の下っ端ですからとお断りしたものの、一般人よりは知識も経験もあるはずだと逃しては貰えなかった。

 嫁ぎ先も決まったんだから寿退社させておくれよ。


 しかし、震災に巻き込まれた全ての人がここへ飛ばされたわけではない。私は非常に運が良かったと言えるだろう。

 しかも、こちらに飛ばされて適切な保護を受けずに不遇の扱いを受けている者が何処かに居るかもしれない。

 この世界には魔術も存在する。転移者の中には研究馬鹿の魔術師を捕まえて帰る方法を模索している人もいた。

 しかし、万一この世界と地球との空間が繋がる事があれば、新たな争いの火種になるかも知れない、ならば故郷は諦めてこの世界で生きて行くべきだと主張する人もいる。

 無理に時空を歪めることでお互いの世界に災害をもたらすのではと懸念する人もいる。

 どんな事をしても絶対に日本に帰りたいという思いをぶつける人も居る。


 私は?私はどうなのだろう?

 家族や友人の安否は心配だ、でも、家に帰ってもそこには何もなかったら?家族や友達が皆死んでしまっていたら?

 私は、独りぼっちになってしまうかも知れない……

 考えれば考える程、不安は募っていく。


 時折、震災での恐怖がフラッシュバックとなって襲かかり、パニックを起こす事もある。


「お母さん!お母さん!」


 その日は目の前で瓦礫に飲まれていく母親の姿を夢で見た。夢と現実がごっちゃになり、ゴリオに揺り起こされて目が覚めてもまだ錯乱していた。


「大丈夫だ、落ち着け」


 ゴリオは子供をあやすように優しく私を抱きしめ、背中を擦ったり叩いたりしてくれた。

 こんなに優しい人なのに、見た目だけで怖がられてしまうなんて、みんな見る目が無いな〜


 ゴリオは強面すぎる顔のコンプレックスから開放されたのか、仮面を被る事は無くなった。

 後になって周囲に確認したところによると、やはりあの仮面はこの世界の美意識にも反する物だったらしい、それを聞いて安心した。


「アイ!この筋肉を見てくれ!いい感じに仕上がっただろう?」 

「今日の筋肉も最高ね!」


 今日も今日とて、ゴリオは私に筋肉を見せてくれる。最近はどうもそれが癖になってしまっているようだ。

 新たな性癖を開花させてしまったようで、ほんの僅かながら罪悪感を感じる。ミジンコほどの罪悪感に過ぎないけど。


 筋肉さえあれば、仮面の下の素顔なんてどうでもいい。

 でも、この強面がへらりと笑った時の顔が意外と可愛らしいと思ってしまう私もいる。

もしかしたらタイトルから想像されてた話と違うんじゃないかと怯えつつ、ポイッと置いて帰ります。

ヒロインが脳天気なのは不安をごまかすためだったりするんですが、その辺が上手く表現しきれなかった感があります(ಠωಠ;)∴

※ゴリオの名前は一部の方には簡単に覚えられる名前です。

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