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そらのそこのくにせかいのおわり(改変版)5.5 < chapter.14 >

 それから数か月間、新型コロナウイルスの感染者数は右肩上がりに増え続けていた。しかし諸外国と比較して死者数・重症者数が少ないことと感染の広がり方が緩やかであることについて、明確な理由は不明であった。国内外の有識者たちが幾度となく論戦を繰り広げ、ありとあらゆる仮説を列挙した。が、ついぞ答えは出てこない。ファクターXなどと呼ばれた『感染爆発しない理由』について、今もなお各国衛生機関による研究が続けられている。

 年が明けて二〇二一年の二月、米国ファイザー社のワクチンが厚労省の承認を受け、医療従事者や高齢者を優先する形での接種がスタートした。その後モデルナ社のワクチンも承認を受け、日本政府は国民全員が二回の接種を終えられるだけのワクチン確保に成功。各地で大小さまざまな問題を生じさせつつも接種はおおむね順調に進み、二〇二一年十一月現在、日本国民の七十五パーセント以上が接種を終えている。先進国の中で最もスタートが遅れたにもかかわらず、あっという間にトップに躍り出てしまうのだから、日本の底力は侮れない。

 そして当然、その日本国民を守護する神々の力も──。

「おいバ鹿島! また出やがったぜ、反ワクチン集会のお知らせがよ!」

 そう言いながらスマホ片手に現れたのは天邪鬼。今日も『器』の人間、長谷川愛徒の身体に収まっている。

「はぁ~……まったく、懲りん奴らだ。次はどこだ?」

 面倒臭そうに振り向いたのは、涼やかな面差しが印象的な、色白で細身の少年である。年の頃は十五か、十六か。左目の下にはオリオン座の三つ子星のような黒子ほくろがあり、日本人らしからぬはっきりとした目鼻立ち、くっきりとした二重と長い睫毛の印象と相まって、アートメイクじみた小洒落た雰囲気を醸し出している。

 少年が手にしているのはこの秋の限定メニュー、『ハニーナッツバンズのテリヤキトロピカル月見うどんバーガー』だが、食の進み具合は芳しくない。

 天邪鬼はSNSで話題の要素盛りすぎバーガーに一瞬だけ顔をしかめ、それから向かいの席を見て尋ねる。

「バ香取は? もう帰ったのか?」

「いいや。新作ドーナッツも食べた~い♪ とか言いながら、財布を持ってあっちに」

 指し示されたフードコートの一角を見て、天邪鬼は肩をすくめる。

「あらまぁホント、育ち盛りのお坊ちゃんですこと。なんだあのピラミッド。テイクアウトの量だろ」

「よくトレイに載せたものだよな」

「俺と同程度には体幹強ぇみてぇだな。お、見ろよ。店員超ビビってんぜ」

「そりゃあ、『お持ち帰りですか~?』に『いいえ』と答えられたらな。それより、さっきの話だ。反ワクチンの連中、どこに集まるって?」

「聞いて驚け、冬コミ会場だ」

「冬コミ? 会場前か?」

「いいや。どうにかして入口突破して、会場内でゲリラデモをやりたいんだと」

「中で……か。最悪だな……」

「入場時の持ち物検査で、拡声器とか横断幕とか押さえられりゃいいんだけどな。俺のほうでもコミケスタッフ何人か口説いて、依り代にゲットした。でもぶっちゃけ、当日になってみねえと何が起こるか分かんねえし……って、立ち話もナンだな? 俺の『器』も昼飯まだなんだ。これもらうぜ。いっただっきま~す」

「あ、それフッくんの芋……」

「イモ言うな。現代人らしくポテトと呼べ」

「Potato」

「ブッ……! いきなりネイティブ! どこの芸人だオイ! クッ……プフッ……ッ!」

「What’s happening? 」

「ちょっ! 真顔っ! 真顔でそういうボケはやめろ! ギャハハハハハッ!」

「こらこら、ネイティブ発音を笑うのはよろしくない風潮だぞ。国外にルーツを持つ混血児も増えているのだからな。それに近年では、日本オタクの外国人SAMURAIも増えているんだ。真に武の道を究めるつもりがあるのなら、俺は何語でも神託を授けるさ」

「へえ? スペイン語やドイツ語でも?」

「俺の信者がいるのなら。しかしながら、ドイツ語はフッくんのほうがうまい。香取流のドイツ支部はフッくんのお気に入りだからな。彼らは神も認める『本物のサムライ』だ」

「え、マジで?」

「ああ。実力も心意気も申し分ない。今は行き来が難しくなっているが、コロナ禍が落ち着いたら、また交流試合をやってもらいたいものだな。他の国の支部にも、なかなか見どころのある剣士が揃っているぞ」

「ほぉ~? サムライ業界、いつの間にかそんなワールドワイドなことになってたのか~。で、コミケどうすんだ? また封殺部隊編成して突っ込むか? 俺と犬神なら、奴らが何を騒いでも、誰の心にも響かないように細工してやれるぜ?」

「いや、会場内でとなると、駅前デモのように接近はできないだろう。特にコミケはまずい。騒ぎになる」

「ま、そうなんだよな。何だか知らねえけど、オタク属性の連中って俺らのこと見えるヤツ多いし。コミケスタッフに『依り代になってくれ~!』って頼んだ時もさ、妙に物分かりいいんだわ。雑な説明でも飲み込み早ぇし、『コミケ存続のために!』ってヤル気満々だし」

「さすがはオタクだ。あらゆる世界観を網羅しているだけのことはある」

「でも、なんであいつら、二言目には『魔法少女に変身できるんですか?』って言うんだろうな?」

「そこは俺も不思議に感じている。魔法少女物は微妙なエンディングも多いのに……」

「オタクゴコロが分からねえ」

「俺もだ」

 鹿島の大神と天邪鬼という超有名どころ二名の首を傾げさせるのだから、オタクが語る『魔法少女の概念』はどこまでも深く難解であることは間違いない。

 そうこうしているうちに、堆く積み上げられたドーナッツピラミッドを恭しく掲げ持ち、フツヌシがやってきた。今日のフツヌシは氏子の少年、なんでもヌンチャク芸人・まさひろ君の体を借りている。まさひろ君はそれなりに人気のあるユーチューバーだが、テレビや新聞に取り上げられるほどには世に浸透していない。中高生の多いショッピングモールでも彼にスマホを向けたのはほんの十数人だし、勇気を出して話しかけてきたのは男子高校生のグループが一組だけ。それ以降は特に何もなく、静かなものである。

 まさひろ君の体を使うフツヌシは、自分の席にドカッと居座る天邪鬼に、ムッとした顔で言う。

「ちょっと~! そこ僕の席~!」

「いなかった人のことなんて知りません~! 予約席なら札でも立てといてくださ~い!」

「タケぽんもさ~っ! 座る前に止めてよね! 鹿島の対面は香取って暗黙のルールじゃん!」

「と、言われてもなぁ。天邪鬼が俺の言うことを聞くと思うか?」

「思わないけど、でもさぁ~! んも~! しょうがないなぁ、じゃあこっちに……ってちょっと! ポテト空ァッ!」

「あ? そんだけドーナッツあればポテトいらねえだろ?」

「甘いドーナッツとしょっぱいポテトを交互に食べるのが最高なの!」

「うっわ……氏子の健康考えてやれよ。それ糖尿病まっしぐら……」

「ちゃんと考えてるよ? この人間の許容量以上は食べてない。これ、全然大丈夫な量だから」

「マジで? それで? その量で?」

「うん。まさひろ君はね、ヌンチャク芸じゃなくて、フードファイターでも余裕で行けるポテンシャルの持ち主なの。本人はそのつもりがないみたいだけどね」

「ほほ~う、な~るほどぉ~? で? もしかしてその粉砂糖のヤツって、新作のぉ~……?」

「何見てんの? あげないからね? ドーナッツ欲しかったら自分で買ってきなさい!」

「んだよっ! バ香取のドケチ! ケツの穴の小っせぇ野郎だぜ!」

「ご飯食べるところでケツとか穴とか言うんじゃありません! めっ! ほら~、タケぽんも笑ってないで、なんか言ってやってよ!」

「え、俺も? あー……そうだな……乞うな、集るな、強請るな、ごねるな、恥を知れ! それでも大和神族か!」

「ハイ知りませーん! んなこと俺が知るかよバーカ! 何度も言ってっけど、俺は大和神族の一員になった覚えはねえの! 今はたまたま共闘するっきゃねえ状況だから一緒に動いてるだけ! な、ウリエル?」

「ん? ウリエル?」

「うわぁ!? いつのまに!?」

 タケミカヅチとフツヌシが振り向くと、そこには真っ白なワンピースに淡い藤色のカーディガンを羽織り、オーロラ色のサコッシュバッグを提げた少女がいた。レースのソックスも大きなリボンのついたエナメル靴も着用者を選ぶ上級者向けアイテムだが、この少女は何の嫌味も違和感もなく、自然と着こなしている。

 しかし残念なことに、いま、この少女の『身体制御権』を握っているのは大天使ウリエルであった。見た目は「超絶美少女小学生の誓來せいらちゃん」でも、その眼光と殺気はこの上なく鋭く苛烈。それでいて一切の気配を感じさせず、無言で武神の背後を取るほどの隠匿能力まで持ち合わせている。

 ウリエルはスイッと歩み寄り、フツヌシの肩にもたれかかるように触れると、猛禽の視線で卓上を射抜く。

「……新作ドーナッツが売り切れていたのは、貴殿らの仕業か……?」

「ヒィッ!?」

 建国の武神すらもおののかせる重低音ボイス。だが、周囲の客は無反応。なぜならこれは、フツヌシとタケミカヅチ限定で送られた念話だからだ。

 タケミカヅチは危険を察知し、すかさず食べかけの不人気商品、『ハニーナッツバンズのテリヤキトロピカル月見うどんバーガー』を指し示す。

「俺はこれを食べている。それはフツヌシ一人の分だ」

「そうか……香取の大神、フツヌシよ。神的存在でありながら、小遣いを握りしめてドーナッツショップを訪れた幼子の期待を打ち砕くとは何事か……」

「あ、いや、その……これ、限定商品とかだったの? ほかのヤツみたいに、無くなったらすぐに作って補充するんじゃ……?」

「『マロンクリームエンゼル』は一店舗一日百個限定……その百個のうち、貴殿は九個も……!」

「お一人様何個までとか、書いてなかったし……?」

「午後二時以降は購入数の制限が取り払われる。しかしだからと言って、後ろに並ぶ者たちの目の前で、残りすべてを取り尽くすなど……!」

「ごめん! いやホントごめんって。本気で知らなかったんだってば!」

「見苦しく取り繕うその態度、もはや問答無用。大天使ウリエルの名において、神界裁判を執り行う! 天にまします我らが父よ! 御裁きを!」

「ウッソでしょ!?」

 ズン! と空気が重くなり、次の瞬間、フツヌシは『器』の人間から引き剝がされた。そして精神体のみが創造主の神域、大和神族においては『高天原の御殿』と呼称される場所へと召し上げられ──。

〈ひとりじめはいけませんよ〉

「アッ、ハイ。スミマセン……」

〈反省していますね?〉

「心の底から」

〈では、誓來ちゃんにも分けてあげなさい〉

「はい……」

〈ウリエルと、仲良くできますね?〉

「……たぶん……まあ、頑張れば?」

〈正直な子ですね、君は〉

 地上の世界のどこにもない、途方もなく壮大で静謐な大聖堂の中、創造主の、笑いをこらえた震え声が響く。

 威厳に満ちていながらも、どこまでも優しく、耳に心地よい『父』の声。

 思いもよらぬ保育園児レベルの喧嘩に、必死に笑いを噛み殺しているらしい。

〈ウリエルにも、後でよく言って聞かせましょう。ドーナッツ一つで神界裁判を開くな、とね。あの子は、どうにも正義感が暴走しがちですからね〉

 この言葉に、聖堂の柱の陰からクスクスと笑いがこぼれる。神界裁判の開廷が宣言されると、世界中の神族から十二名の陪審員が選出される。急な招集に何事かと参じてみれば、まさかドーナッツの買い占め、それも限定品と知らずに購入してしまった事によるトラブルとは。これを笑わずにいられるだろうか。

 あちこちから漏れ聞こえる笑い声に、フツヌシは居心地悪く身をよじる。

「そのぉ~……お願いします、主様ぬしさま。早く、判決をぉ~……」

〈判決は……そうですね。懲罰を与えるには、あまりに軽すぎる罪です。無関係な他神族の神々の前で恥を掻かされただけで、もう十分、罰に相当する辱めを受けたと言えるでしょう。ですから、君の罪は不問とします〉

「ご温情、有難く存じます」

〈ですが、まあ、せっかく皆が集まったのです。このまま、次のお役目の説明をしてしまいましょう。この場には、主要神族の武神が揃っていますからね〉

 お役目という言葉を聞いて、神々はフッと笑いを引っ込めた。

 誰もが分かっている。ワクチン接種が順調に進み、感染状況が下火になったのは日本をはじめとする数か国のみ。世界全体を見れば、今なお新型コロナウイルスは猛威を振るっている。

 このパンデミックは神と宗教指導者が正しい道を示し、誰もが正しい科学知識を身につけさえすれば、十二分に乗り越えられる試練である。だが、世の多くの人々は信仰を捨てている。表面上は教会や神社、寺院や教団に属する者として振舞っていても、本当の意味で『信仰心』を寄せる者はごく少数。宗教指導者と呼ばれる立場の者たちも、その多くは神の声を聞かないし、聞こうとする努力すらしない。大多数の神族において、神々が全力を出せるほどの精神エネルギーは集まっていない。

 だが、しかし。全世界的にそのような状況下にあってなお、日本という国においてはその限りでなく──。

「主様。お役目の前に、質問をよろしいでしょうか」

〈ええ、なんでしょう?〉

「以前から、薄々気になってはいたんですが……大和神族、チート多すぎません?」

〈おや、気が付いていましたか〉

「そりゃあ気付きますよ。他の神族とも合体可能だったり、英霊レンタルできたり、氏子のスキルをコピーできたり。信仰心の判定基準もわりと緩い感じですし……」

〈そうですね。ですが、だからといって大和神族だけが突出した強さを誇るわけでもない。そうではありませんか?〉

「はい。使い方次第では強い……みたいな、微妙な能力ばかりだと思います」

〈あえてそう設定したのですよ。君たちには無限の可能性を与えました。そして君たちが守護すべき、地上世界の万物にも。他の神族の者たちも、よく聞きなさい。私は人間だけを特別なものとして創造した覚えはありません。私はどの生き物にも、どんな器物にも、どんな現象にも、平等に『進化の可能性』を与えました。その中で、最も早く可能性を掴んだ生き物が『人間』でした。各地の神族にそれぞれ異なる形質の集団を預けて違いを見ましたが、どの集団もほぼ同時期に道具と言葉を使い始め、現生人類へと進化しました。ですので、今は人間を『もっとも進化した種』と認め、彼ら自身に地上の自治を任せています。けれども、他の生物も進化の可能性を失ったわけではありません。今、人類が脅かされている新型コロナウイルスもまた、人類と等しく私の手によって生まれた世界の一部です。あれも広義には、君たちの兄弟姉妹なのですよ。そのことだけは、どうか忘れずにいてください〉

 神々は無言で頭を垂れた。

 神とは、地上世界の管理システムである。その中でも、ここに参じた神は人類を守護する『人型の神』しかいない。世界をくまなく見渡せば、人型種の神とは意思疎通の図れぬ器物の神、自然現象の神、ウイルスやバクテリアを守護する神なども存在する。どの神も己に与えられた役割を忠実にこなしているだけで、人類にとって不都合だから悪神、好都合だから善神というわけでは無いのだ。


 感染力の高い殺人ウイルスですら、世界という名の巨大な円環の一部でしかない。

 その前提を忘れて『正義』の拳を振りかざせば、神も人も理を外れ、闇堕ちと化す。


 先ほど漏れ聞こえた笑い声で、フツヌシは気付いてはいた。ここに招集された神は、方々に名を轟かせた『暴れん坊の英雄神』ばかり。その正義感、民を愛する心ゆえに暴走し、創造主から叱られることも多いと伝え聞く。と、そこまで考えたところで、フツヌシは天邪鬼とウリエルの芝居に乗せられたのだと思い至る。

(あ~っ! もうっ! 主様もグルだったんですか~っ!?)

 念話で創造主に問いかけてみれば、あちらも念話で笑って返す。

(すみません、君とウリエルには損な役回りを演じさせてしまいました。ですが、ウリエルの『正義感の暴走』を笑ったばかりです。彼らもこの瞬間、神界裁判が口実に過ぎないと気付いたことでしょう。これで少しは、日頃の行いを改めてくれれば良いのですが……)

(はぁ~……まあ、こいつらをいっぺんに集めてお説教したくなる気持ちも分かりますけどぉ~……)

 もしかして、僕もその『暴れん坊』に含められちゃってます? と、頬の片側を膨らませて不服の意を示す。

 創造主は他の神には分からないように、見えない手を伸ばしてフツヌシの頭をそっと撫でた。

(あとで飴玉を上げましょう)

(チビッコ扱いはやめてくださいよ!)

 そう怒って見せるものの、目は笑っている。

 今、世界各地で小規模な暴動が相次いでいる。本来はそれをいさめる立場の神ですら、長引くコロナ禍に苦しむ民を見かね、思わず手を貸してしまうような有様だ。コロナウイルスの存在そのものを否定したり、ワクチンを、マスクを、治療薬を、医師を、政府を悪と定義づけて、身勝手な正義を声高に叫ぶ人々は後を絶たない。

 創造主は顔をこわばらせて指示を待つ『暴れん坊』たちに、ひときわ優しい声音で告げる。


〈君たちに、新たな役目を与えます。修行に励みなさい〉


「……修行?」

 首を傾げる神々に、創造主は静かな声で説明する。

〈先ほども言いましたが、私はすべての創造物に、進化と変革の可能性を与えています。昨年八月、日本で起こった事件は記憶に新しいことでしょう。タケミカヅチと大雷は人が生み出した邪気や邪念、またその根底にある愛や正義感をも取り込み、『贖いの救世主』と同種の存在を誕生させました。あれは大和神族のみに与えられた特殊能力ではありません。どの神族のどの神にも、新世代の神を生み出す可能性があります。また同様に、たゆまぬ努力により、自らが新たな能力を得ることも可能です。今、地上世界は──人間たちの社会は、大きな変革を求められています。それを守護する君たちが、これまで通りの、旧世界の神のままで良いと思いますか?〉

 神々は押し黙る。

 その場限りの安っぽい正義感で暴動を煽るだけでは、事態は何も好転しない。誰しも気付いてはいたが、その現実から目を背けていた。けれどももう、現実逃避は許されない。これ以上事態が悪化すれば、社会基盤そのものが維持できなくなる。


 文化・文明の終焉は信仰の途絶。

 すなわち、神にとっての死である。


 限りなく重苦しい空気の中、フツヌシはニヤリと笑い、好戦的な気質を隠しもせずに発言した。

「可能性を模索するための修行なら、どんな無茶苦茶なチャレンジも許されるってことですよね?」

〈内容如何によりますが、例えば?〉

「この場の全員を期間限定で性転換させるとか、小学生並みの腕力しか使えないように制限かけるとか」

〈ほほう、それは良い考えですね。弱者の気持ちが分かれば、より一層思慮深くなるかもしれませんね〉

 『暴れん坊』たちから悲鳴にも似た抗議の声が上がるが、創造主はあえて無視した。

〈では、あるべき場所へとお戻りなさい。誰にどのような試練が与えられているかは、戻ってからのお楽しみですよ〉

 抗議の声はなおも上がり続けていたが、創造主は気にも留めずに神域を閉じた。



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