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そらのそこのくにせかいのおわり(改変版)5.5 < chapter.11 >

 漆黒の巨人が現れた直後から、大雷はタケミカヅチへの呼びかけを続けていた。あの巨人は禍津神マガツカミとなったタケミカヅチの姿なのか、それともただの穢れの集合体なのか。まずはそれを確かめようと、必死に念話を送り続けると──。

(大雷! 大雷、聞こえるか!?)

「っ! タケミカヅチ様! ああ、よくぞご無事で……!」

(いや、無事とは言い難い。咄嗟に変身してみたものの、やはり操縦者のいない状態では全力が出せない設定のようだ)

「と、申されますと、まさか……」

(ああ。そこで大暴れしている巨大ロボットが俺だ)

「……フゥ……」

(ん? 大雷? あ、おい! しっかりしてくれ! どうした!?)

「どうしたもこうしたも……なぜ……なぜ巨大ロボットに!? そのままの御姿で戦われてもよろしかったのでは!?」

(あー……いや、その……なんというか、勢いで……?)

「勢いだけで巨大ロボットに変身しないでくださいませ!」

(す、すまん……。だが、単純にリーチの差もあることだし、こちらも巨大化せねば対抗できないのは確かだ。そこは分かってくれるな?)

「ええ……それはそうでしょうけれど……」

(そこで、だ。もしも俺が元の姿のままで巨大化したら、どうなると思う?)

「分かりません。何か問題が?」

(大有りだ。真下にいる人間から褌が丸見えになる。着物の構造上、こればかりはどうにも……)

「あ、はい。そうですね……?」

 羽織袴や着流しではなく、大鎧などの戦装束で顕現すれば良いのでは?

 そう思った大雷だったが、タケミカヅチは無自覚な天然ボケ属性である。迂闊なツッコミは更なるボケ発言を誘発しかねない。大雷は何も聞かなかったことにして、適当に受け流した。

「それはともかく、タケミカヅチ様? お身体のほうは」

(問題ない。黒牡丹は完全に分離した。どんな理由かは分からんが、大波が押し寄せた直後に弾き出されてしまってな。まったく、あれは一体何を考えていたのか……)

「理由ならば分かります。わたくしの勝手な推測ですけれど」

(ほう? 何だ?)

「あれはタケミカヅチ様の御心を読み、それに応えるように動いておりました。ですから、タケミカヅチ様の普段のご様子を思い浮かべれば、自ずと答えは出て参ります」

(さて、困った。自分を俯瞰できるほど、俺は器用ではないからな。教えてもらえるか?)

「はい。わたくしごときが鹿島の大神の御心を想像で語るなど、恐れ多いことではありますが……すべての『穢れ』をご自分が背負えば、今この場で、この国を襲う大災厄を収束させることができるとお考えになったのではありませんか? もしもご自分が禍津神マガツカミとなられても、フツヌシ様がいれば大丈夫だ……と。黒牡丹はタケミカヅチ様に成り代わり、その御心を実現させてしまったのでは?」

(……ああ。そうかもしれん。身体の自由が利かないままなら、俺は確実にそうしていた。大雷の言うとおりだ。俺は自分一人で、この国の全ての災厄を抱え込もうとしていた。あれは……あの黒牡丹は、どこまでも俺の心に応えようとしたのだな……)

「タケミカヅチ様? いくら鹿島の大神といえど、おひとりでというのは、少々欲張りすぎです。この国には貴方様以外にも、数えきれないほど多くの神がいるのです。わたくしたちにも、いくらか分けてくださいませ」

(……ああ。そうだな。確かにそうだ。まったく、つくづく馬鹿げたことを考えるものだ。なあ、大雷。こんな状況で言うのも申し訳ないのだが……)

「はい、何でございましょう、タケミカヅチ様」

(この先一生、俺の隣にいてほしい。やはり俺は、其方がいないとどうにもならん。好きだ。俺と結婚してくれ)

「は……はい! その……喜んで!」

 と、大雷が答えた時だった。

 空が輝き、大和神族の神々にとっては聞き覚えのありすぎる声が響いた。

「話は聞かせてもらいましたよ! 大和神族最高神・アマテラスの名において、鹿島の大神タケミカヅチと大雷の婚姻を認めます! という訳で、報告も承認も済んだということにしましょう! 最高神判断で七面倒臭い婚礼の儀はすっ飛ばします! 皆の者ォォォーッ! 出合え出合えェェェーィッ!! 宴会じゃあああああぁぁぁーいっ!!」

「アッ、アマテラス様!? 宴会と言われましても!?」

(この禍津神マガツカミをどうにかしない事には……っ!)

「野郎共オオオォォォーッ! 祭りじゃ祭りじゃーっ! 余興じゃあああぁぁぁーいっ! 結婚祝いにドカンと一発ぶちかまさんかあああぁぁぁーいっ!」

 雄々しく吠える破天荒な女神様の声に応えるように、日本各地から次々に駆けつける神々。昨年末から続く新型コロナウイルスの流行のせいで、祭りはおろか、地域住民とのちょっとした集まりも中止せざるを得なかったのだ。雅やかな京文化圏の神々はともかく、それ以外の地域は『みんなで一緒に大騒ぎ』『楽しく愉快に大宴会』『元気があればそれでヨシ!』という気質の神ばかりだ。彼らは人間たちと同じか、それ以上の鬱憤を溜めていた。

 大っぴらに集まって大暴れする大義名分ができた今、彼らが遠慮する理由は何一つ存在しない。

「食らえぇぇぇーいっ! 八重垣スラッシャー!」

「戦時特装! アメノハバキリ!」

「見せてくれよう、草薙剣の切れ味を!」

「魔祓いピーチグレネード!」

黄金大鳳飛翔刃ゴールデン・ゴッドウィング・エッジ!」

まさかり百裂斬!!」

「ウサピョン☆キーック!!」

「オオオォォォーンバシラアアアァァァーッ!」

「よし倒れたぞ! 今だ! 飯を食わせろ!」

「食ーえっ! 食ーえっ! 食っちまえーっ!」

「俺の酒が飲めねえってのか! ああ!? おおっ!?」

「押し込め! 喉の奥まで棒で突っ込め! まだ入るぞ!」

 伝説の神剣による斬撃・刺突の嵐。

 黄泉の邪神すらも退けた桃型榴弾爆撃。

 大鳳の黄金の羽根を使った投げナイフ様攻撃。

 スプラッタホラー映画以上のマサカリ滅多切り。

 因幡のウサ耳美少女戦士たちによる跳び蹴りの雨霰。

 樹齢千年級の丸太を抱えたダイダラボッチの高速タックル。

 全国各地の強飯系奇祭神たちによる体内へのダイレクトアタック。

 その他、唐獅子の火炎弾、霊亀の水泡弾、狛犬の圧縮空気弾、稲荷の石礫弾が次々に極まり、形勢は再び優勢となった。

 このまま全員で力押しすれば──誰もがそう思ったときだった。


 巨人の全身から、真っ黒な瘴気が噴き出した。


 神にも巨人にも実体は無い。足元では、何も知らない人間たちがごく普通に生活している。一部の霊的能力を持つ人間は異変を感知しているが、それ以外の者は何も感じることなく、さも当然のように神と巨人の身体を素通りする。

 本来であれば、人間は『穢れ』に触れただけで心身の変調をきたし、立っていることすら難しい。そうならない理由は、身体健全の神徳を与えるタケミカヅチがこの場にいるからに他ならない。

 正と負、二つの力が拮抗していたからこそ無事でいた人間たちに、タケミカヅチの力でも打ち消しきれないほどの、大量の瘴気が浴びせられたのだ。直ちに対処せねば、心を病んだ人間たちが傷害事件を起こしたり、自傷行為に及んだりするだろう。

 タケミカヅチは攻撃をやめ、まずは人間たちの安全を確保しようとした。けれども、他の神々がそれを制す。

「あなたは戦いに専念なさい」

「アマテラス! だが、この瘴気は……!」

「兄上! 大雷に叱られたばかりでしょう? なんでもかんでも、一人で背負おうとするものではありませんよ! 武神と随身、炎と雷と風の霊獣は攻撃を継続! それ以外の者は人間たちの加護と穢れの浄化に当たりなさい!」

「……かたじけない!」

 巨人が体を起こし、タケミカヅチへと──巨大ロボット『防人巨兵サキモリきょへいチェスター弌式ワン』へと飛びかかった。

 勢いを止めきれず、そのまま押し倒されるチェスター弌式ワン。が、マウントポジションを取られたのもほんの一瞬だ。動物的な攻撃動作しか見せない巨人と違い、こちらは日本神道最強の軍神、タケミカヅチである。力業で攻め立ててくる相手にはいくらでも返し技がある。

 押された勢いを殺すことなく、相手の腕と首を掴んで全力で引く。と同時に両足で相手の身体を跳ね上げ、宙高く放る。

 すかさず射込まれる神々の破魔矢。ただの一矢では巨人の皮膚を突き破れずとも、武芸に秀でたスサノオが、ヤマトタケルが、神功皇后が、寸分の狂いも無く同一箇所への継矢を射込む。後から突き刺さった矢に一本目の矢が押し込まれ、鏃は巨人の体内へと陥入。すると破魔矢は砕け散り、光の粒となって暴れ狂った。

「────ッ!?」

 声よりも金属音に近い耳障りな悲鳴を上げながら、巨人は不自然な体勢で地面に叩きつけられる。

 これ以上ないほどに上手くまった連携攻撃。だが厄介なことに、巨人は悲鳴と同時に、大量の瘴気を噴出させていた。

「まだ吐くか! アマテラス!」

「対処可能です! 攻撃を!」

「ああ! そうさせてもらおう!」

 そう威勢よく答えたものの、この姿は元の特撮番組の設定に大きく影響を受けている。タケミカヅチ本来の姿よりも装甲が硬いという利点はあるものの、搭乗者無しでは通常攻撃以外のすべての技が発動しない。現状で可能な攻撃は体術と単純な斬撃のみ。これではいつまで経っても決定打を打ち込めそうになかった。

「クソ! 誰か……誰か、人目も気にせず原色の全身タイツでロボットに乗り込んで必殺技名を叫んでくれる猛者はいないのかっ!」

 攻撃を続けながらそう言うタケミカヅチに対し、この場に集ったすべての神が同じことを思った。


 そんなの、アイツしかいないじゃないか──と。

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