ラスボスはお味噌汁、ではなく彼女かもしれない
こう言う料理、アニメとかでたまに見ますよね(笑)
俺は今、この後の人生を大きく左右するであろう分岐点に立たされている。
事の発端は3日前。
彼女がデートの最後に『今度、家に来ない?こないだ言った、特製お味噌汁を食べてみて欲しくて』と言ったので、俺は、即OKした。
当たり前だ、可愛い彼女の手料理である。
食べたくないわけがない。
だが今、その時の軽率な自分をぶん殴ってやりたい気分になっていた。
軽く閉じていた目を開き、可愛らしいガラス製の天板が乗ったローテーブルの上に置かれた物……いや“物体”に視線を向ける。
ソコには、愛しの彼女が本命の味噌汁を作る間、小腹を満たすために、と作ってくれた“玉子焼き”が置かれていた。
“玉子焼き”である。
誰が何と言おうが“玉子焼き”なのだ。
だって、彼女が「少し時間がかかるから、お腹空かないように、先に玉子焼き作ってあげるね♪」と言っていたのだから。
そう、たとえそれが、まるで炭化してしまったかのように黒ずんでいてたり。
そのくせ半生のようなプルプル感が残っていたり。
出来立てとは言え、薄く立つ湯気がうっすらと紫色に見えていても、“玉子焼き”である。
――あれ?
――玉子焼きってなんだっけ?
少なくとも、俺のイメージの中にあった玉子焼きは、こんな禍々しい紫のオーラを放つ黒いバ○ルスラ○ムでは無かったように記憶しているのだが。
もうお気づきだろう。
要は、この手料理を食べるか否か、と言う分岐に立っているのである。
どちらを選んでも、デメリットばかりが思いつくわけだが。
いや、どうやらタイムアップだったらしい。
満面の笑みを浮かべたマイハニーが、トレイに乗せたお椀を持って向かって来た。
「あれ?玉子焼き食べなかったの?」
「あ……あぁ、せっかくの特製味噌汁を、一番に食べたくてさ」
咄嗟に言ったが、どうやらセーフだったらしく、彼女の口元がニマニマしている。
「も~、じゃあ、はい!召し上がれ!」
そう言って出された味噌汁は、普通に見えるが……油断はできない。
だが、目の前には彼女の期待の眼差し。
俺は意を決して味噌汁に口をつけた。
「……美味しい。」
「よかった!私の好みで作ったから、ドキドキしちゃった」
そう言って、自分も味噌汁を1口啜った後、おもむろに玉子焼きへと箸を伸ばし――
「あれ?ちょっと味濃かったかな?」
なん……だと?
それ、食えるのか?
味噌汁は普通だったが……とりあえず、一緒に料理の勉強は、した方が良いかもしれない。
――自分のためにも……な。