空とケーキとパイロット
空とケーキとパイロット
空には夏の風物詩ともいえる入道雲が、見上げるものに覆い被さらんばかりにその雄姿を見せつけていた。
「ゆかり~」
そう呼ばれた少女はまぶしい白地の半袖のセーラー服に身を包んでいた。
「ん~~」
少女は気の無い声で声の主にちらりと視線を向けた。
「あんた、またあれ眺めてたの?」
そういった少女も、ゆかりと呼ばれた少女と同じ制服をきているところをみると学校の友達なのだろう。
「あれって・・・。わたしは夏の雲の芸術を愛でていたんだよぉ」
「なにが愛でてだって?今日の雲は何にみえたのさ?」
からかうように尋ねる。
「うーん。ショートケーキ♪」
「キャハハ。やっぱり単なる食い意地じゃんか!」
あとから来た少女は、ゆかりのポニーテール掴むと楽しそうにひっぱった。
「ちょっと痛いでしょ。たまたま今日はケーキだったのよ」
ゆかりは、少し口を尖らせて早口で言い返す。
「なーんて、昨日はシフォンケーキじゃなかったけ?」
「昨日の事なんか忘れちゃったよぉ」
「どうでもいいけどさぁ。たまには男でも眺めにいこうよ」
ゆかりは、髪の毛をひっぱっていた手を、パシンッとはたくと、
「眺めてどうするのよ。おいしくないじゃん。。。。あはっ」
そうケラケラと笑った。
「私なんか、ほらテニス部の江藤先輩。眺められたいなぁ~ゆかり、あんた誰か好きな人いないの?」
ゆかりは、空に向かって手を振ると、
「空!」
と、叫んだ。
「はいはい。あんたに聞いた私が馬鹿だったよ。もう行こうよ。ゆかり」
「え~」
「置いてくよ。今日、ネイルいこうっていったのゆかりじゃん」
「あーあー」
ゆかりはそういうと、川沿いのガードレールに預けていた体をようやく起こした。
「いこ!」
2人は市街地に向かってカバンを振り回しながら歩いていった。
ゆかり達が、川の土手の上の道のはじっこ(別の言葉をあとで探す)まできたとき、少し先のガードレールをまたいだ土手の縁に2人の男の子が座っているのが視界にはいった。
ゆかり達が少年達に近づくと、ぎざぎざ頭で肩から白いスポーツバックを斜めにひっかているほうの少年の声が聞こえてきた。
「なんか楽しいことないかなーテストも近いしよ。なんか乗らねえよな。」
「そうか?俺は空を見ているだけで十分どきどきするぜ?」
ぎざぎざ頭の少年は、となりで一心に空を見上げているスポーツ刈りの少年を見つめ、大げさにお手上げすると、
「はじまったよ。康平お得意の『パイロットになる!』か?せめて戦闘機乗りとかいうなら夢もあるんだけどな。国内線のジャンボ機のサブパイロットっていう、すっげー具体的な夢がさぁ・・・、だから・・・。」
ゆかりは、土手に近づきながら男の子達の話を耳を傾けてはいたが、足はとめなかった。
変わりに、急に友人に向き直ると宣言をした。
「予定変更。ゲーセン行こう!」
そして、ゆかりは小走りでゲーセンの方に方向転換した。
目的地にに着くやいなや、ゆかりは、狐に場化されているような顔をしている少女を後目に、迷わずとある大型筐体にコインを投入した。
「ちょっと。あんたあんで急にこんなゲームしてんのよ。これなに?この店で、(ゲームの名あんたこんな飛行機とばすようなゲームやってたっけ?」
ゆかりは友人の問いに小首をかしげると、その答えの変わりに、
「わたし、空好きのパイロットさん候補だったら、眺めにいってもいいよ。」
振り返って返答をした。
そう言いながら素早くゲーム画面に目を戻したゆかりの笑顔は、ゲームセンターの入口の大きな自動ドアから差しこんでいる夏の夕暮れに染まっているせいか、頬が少し上気してみえた。