布を手に入れた
食事中の方はご注意を。
「へぶしょい」
パンツ一枚で明け方の冷風に当たったせいで体が冷えた。急いで廃墟に戻る。それでも体温は上がらない。体を動かせば幾分か体温は上がるがそうすると今度は食料という別の問題が急上昇する事になるだろう。今は寝起きで身体が目覚めきっていないお陰か、空腹は感じられない。
最後の食事は元の世界での朝食のトーストのみ。いい加減空腹で動けなくなってもおかしくは無い。
そうなっては詰む。食料はどう頑張ってもお金が無いので買えない。路地裏連中と同じように残飯を漁るか表の連中から盗んでくるか心優しい誰かが恵んでくれるのを待つか。
無いな。
犯罪を犯すのはできる限り避けたい。この身は潔白である方が都合の良い事もある。後ろめたい事を積み重ねるのは嫌だ。そこまで切迫してもいないし躊躇なく行動できる程振り切ってもいない。
でも食料は調達しなければならない。
……なら折衷案と行こう。しかしその前に外へ出歩くにはパンツ一枚というのは危険だ。疑い様のない変質者。変態と呼ばれるのは俺には耐えられない。それにここは異世界、無手であるのがバレるとカモだ。そんな状態で金なり食料なりを持っていれば奪われるのは必至。
せめて体を覆える布が有れば。
そう思い廃墟を調べるがそんな物が廃墟にある訳もなく、布を獲得せんと外へ出た。
廃墟の周辺は誰も居らずまるで何かを恐れているかのように綺麗に浮浪者が居なかった。
何度目かの通路でようやく人を見つけた。廃墟から離れると人気も増え、こうしてボロ布を身に纏った浮浪者を見る事が出来た。
俺が考えたのは他の浮浪者から服も食料も盗めば良いのでは?という作戦。
しかし俺よりも先輩なだけあって近づけばすぐにこちらに鋭く目を向けてこちらを警戒するように軽く腰を上げた。すぐに逃げるか返り討ちにする為だ。
早朝なので未だに眠っている奴はいるだろう。無防備に寝ている奴からでないと俺は何も奪えないだろう。そしてやはり思った通り起きている奴には簡単に気取られ警戒された。
弱腰で逃げると逆に襲われるかもしれないので残念、とばかりにため息をつくと堂々と来た道を戻った。
偽装が上手くいったのか襲われなかった。
今度こそ、と意気込み足音にも注意したが次の奴にも見つかり、今度は逆に襲われかけた。奪う目的では無く体目当てで。
運動系の部活に入っていたとはいえインドア派な俺は比較的肌が白い。そして贅肉は少なく適度に絞れていたのでソッチ系なら充分に食指が動くのだろう。逃げている間冷や汗が止まらなかった。温存しなければならない体力を躊躇いもなく使って全力で走った。危うくトラウマになるところだった。
貞操の危険が迫った先程の逃走から程なくして次のターゲットを見つけた。勿論上質でもない粗末な布を二つ上半身と下半身に分けて使っている浮浪者。
どうやら酒を運良く飲めたらしく幸せそうに酒瓶を抱えて眠っている。
そろりと気づかれずに接近できた。どうやら酒が強かったのか未だに顔は赤く、深い眠りについている。
来た道と別の方の通路を確認して、自分以外がこいつを見ていないかを確認すると早速取り掛かる。
(こいつもくせぇ)
上半身を隠していた布を取ったところであらぬ方向を向いて深呼吸した。半端な酒の匂いとこいつら特有の据えた臭いも混ざって吐き気が誘発される。
切羽詰まって無ければ吐いていた。
最難関の下半身の布。どうやらこの布で尻も拭いているようで糞尿が布に染み付いている。臭いは言わずもがな最悪。ばっちいので触りたく無いが贅沢は言ってられない。
やっとの思いで下半身のも取った。あとは抱えている酒瓶もできれば奪いたかったのだがこれだけは離さないとばかりに掴んでいたので諦めた。酒瓶を割って鋭い破片でナイフの代わりにできたので後ろ髪をを引かれる思いだったが廃墟へと歩を進めた。
ウルハ
E 綿100%パンツ
E 汚い布×2
E 罪悪感の沸いてない心