俺は忘れていた。
「内容薄いしテンプレばっか、そんなご都合主義あるわけねーだろ」
ばさり。放り投げたライトノベルが中途半端に開いた状態で着地した。
今読んでいたのはとあるwebサイトで人気の小説を大手出版社が書籍化したものでコミカライズ化やアニメ化も進行しているらしい。
読んでみての感想はさっき述べた通りだった。俺にはどうにもご都合主義展開が合わないようで読む意欲が削がれる。それでもなんとかして読み終えた瞬間に俺の手から小説は消えていた。
我慢した反動で無意識でぶん投げたらしい。
投げたはいいもののそのままにしておくのも本意では無いので回収したのち本棚――ではなくその横の開け口の大きいバッグへと入れた。厚手の布のバッグには売却用とシールが貼ってある。つまりはそういう事だ。
有名SNSで『ゴミ☆ミ』と投稿してその日は寝た。
次の日、昨日読んだ駄作を近くの古本屋へと持って行った。査定待ちしている間に昨日投稿したコメントに対して返信がきていた。
長文かつ喧嘩越しの文章で面倒なのでまとめると。
『どう見ても最高で完璧だろ!読みもしないでアンチコメントしてんじゃねーよ』
との事なので査定が終わるまでの暇つぶしに長文で作品のダメ出しと出版社は見る目を養え、とコメントした。それと同時に査定が終了して呼び出された。SNSアプリを閉じる直前、砂嵐の様な何かが映ったと思えば不可解な言語の長文が送られてきた。それは俺が生まれた十七年間で一度も見たの事ない言語で構成されていた。
読めないので飛ばして下にスクロール。文章は続く。文字数制限はとうに過ぎていておかしいな、と思った頃に文章の最後が見えた。
その瞬間、ぐにゃりと視界が歪んだ。呼吸がし辛く浅くなる。酸欠で上手く考える事も出来ずに視界がホワイトアウトする事となった。
悪意が身を蝕むのを意識を失った俺はぼんやりだが認識していた。
「―――――、―――――」
「……―――」
「――――!?―――」
賑やかな、というよりは騒々しいとも思える活気の溢れた西洋風の街。そう広くも無い通りに露店が立ち並び精肉や干し肉、果実や野菜が売られている。
「――――――――」
「――――」
「……やっぱりか」
先程からここが何処なのかを知りたくて盗み聞きをずっとしているのだがやはり全く知らない言語だ。知らない言語といえば気を失う前に見た文字を思い出す。
のたうち回るミミズやくくりかけの紐のような。どことなくアラビア語に似ている様にも見えるがそれにしては円を描いたような文字が多く別物だと判断する。といってもアラビア語は教科書でチラッと見た程度でもしかしたらこんな文字もあったのかもしれない。
だがそれは違うと頭のどこかで答えが出る。
全く知らない言語。
今気づいたが妙に背の低い腹の出たおっさんが複数人金属の塊を持って歩いていた。
病気でも無いのに気を失うという不自然さ。
ああ、今も魔法使い然としたローブと杖を持ったおばさんが巻物(和風では無い)を持って空を飛んでいた。
そう、ここは異世界だ。
…………いやいや、頭でも打ったんだろうか。
瞬きしても景色は変わらない。身を照らす太陽が現実だと教えてくれる。己にかかる重力が夢では無いと告げる。そして一際目立つ服を着ている俺が悪目立ちしてあちこちから視線をもらっているのも現実であると否定する。
金髪や銀髪、オレンジや赤色の髪色がある中で真っ黒というのはやはり大いに目立った。
そんな視線に晒された俺はたじろぎ、居心地が悪くなり人気の無い方へと足を進める。
ここで俺は一つ忘れていた。ここが異世界で、人気の無い場所に異邦人が行けばどうなるのか。小説ではありふれた善意のかけらも持たぬ者どもが何処を根城にしているのかを。
また性懲りも無く書き始めたよ。泣
だってアイデアが無駄に閃くもん。なのにそれを文章にしようとするとしっくりこない。難産が続く、死産んん!
今度は完結まで頑張るよー