嫉妬で追放された無能冒険者、伝説になる (短編版 連載版はいつから開始かは未定)
僕はDランク冒険者、アルト。幼馴染でSランク冒険者のレミーエとダンジョンを攻略してきた冒険者だ。Sランクの称号を持つ条件である、『女賢者』『騎士』の祝福を持つ彼女と、『器用』の祝福を持つ僕。いつもいつも、僕では足手纏いだと思い、僕を追放するように進言してきた。ちなみに僕自体、本当は追放なんかしてほしいとは思ってない。レミーエとは幼馴染で、恋人なんだから。
小さい時からずっと一緒で、僕は彼女を好きになっていた。彼女も僕を好きでいてくれたし、僕たちは幸せな日々を過ごしていた。ギルドの中でも僕たちはお似合いだと言われていたし、僕ら二人のパーティーのファンもいた。
この平穏は、いつ砕けてもおかしくはないとは思っていたが、まさか、こんなことで失われるなんて、思いもしなかった。
僕たち二人のパーティーは人を探していた。二人だけだと攻略が進まないという事態に直面したのだ。
僕の役割は『荷物持ち』『敵対心管理』『必要物品の確保』『罠解除』だ。詳しく言うとまだまだあるんだけど、主に雑用と言われている業務を自分から率先して行っていた。レミーエはそれに反対していて、自分もやると言い出したが、こればっかりは自分の仕事で手を抜くわけにはいかなかったし、彼女に休憩してほしいと思っていて、絶対に譲らなかった。まあ、たまにどちらかが体調を崩したり、問題が起きた時は交替していたんだけどね。
僕が探していたのは『アタッカー』だ。レミーエは攻撃を主に担当していた。が、いくらSランクとはいえ、一人だと火力に欠ける。つまり、あと一人は火力増強のために必要だったのだ。レミーエはすごく申し訳なさそうにしていたが、仕方のないことだ。というより、僕らはすでに本来4人以上のパーティー推奨の高難度ダンジョンに進んでいたのだから。誰かがどれだけの役割を掛け持ちできても、どれだけ高い攻撃力を持っていても、いつか限界は来る。冒険者である僕らは、死なないことが何よりも重要だ。情報整理も、共有も冒険者の義務だからだ。
この世界ではステータスが正義という風潮がある。しかし、僕にはステータスがない。いや、正確にはあるんだけど、周りと比べるとどうしても低いのだ。()内は平均値を表すとこれくらい。
名前 アルト
LV 81/999(350/999)
体力 2301(5019)
攻撃 121(6012)
魔力 881(5512)
防御 912(5341)
速度 1112(7481)
スキル
器用(手先が器用になる。料理などに上位補正)
罠解除(罠の解除が楽になる)
感覚超強化(感覚を研ぎ澄まし、ステータスに応じて大抵のことは何とかできるようになる)
体力はまだ低い方の人と並べるけど、ほかのステータスはボロ負けだ。スキルも『器用』と『罠解除』しかない。感覚超強化も、実際僕は使えていないようなものだから……。
レミーエはすでにレベル480で、ステータスはすべてが11000を超えている。足を引っ張っているのは間違いなく僕だった。僕が火力を出せないから……。
罪悪感が募り、重い足を引き摺るようにしながらも、冒険者ギルドでパーティー増員の手続きをする予定だった。
悔やんでいる僕に、一人の男が声をかけてきた。
「どうした?さっきから困ってるようだったけど」
「えっ、僕ですか?」
他に誰がいる、と言われてこの空間に僕と彼の二人しかいないことに気付いた。
「で、何があったんだ?」
「実は、パーティーの火力が足りないと感じていて、…仲間を集めようとしていたんです。」
「人数は?」
「2人です」
「なんでそんなに少ないんだ?ダンジョンは遊びじゃない。それに、そのシルバーメダル、Dランク冒険者じゃねぇか。おい、名前は」
「僕は【風神の調べ】所属のアルトっていうんだけど……。」
その言葉を聞いて、男は驚いた声を上げる。
「はぁ!?あの2人でランクBダンジョンを攻略したパーティーだぁ!?おいおい、冗談キツイぜ、お前みたいのが、あの有名パーティー?(笑)ハハハハハハ!こんなに笑ったのは久しぶりだ!」
「(無言でパーティー登録票を見せる)」
その途端、顔が一瞬で冷め、顔を青くする男。
「顔色変わりすぎでしょ」
「なんでDランク冒険者のお前がSランク冒険者のレミーエ様とパーティー組んでるんだよ!」
「わからない。先にあっちが出世しただけ。僕はステータスは貧弱だし、かと言ってダンジョンでの罠の解除だのなんだのは一手に引き受けてるからね。」
「ンなわけあるか!ダンジョンの攻略に必要な奴がどれだけ重要かわかってんのか!」
「…うるさい。言われなくともわかってる。」
叫び声を上げる男に若干煩わしさを感じながらも、反論する僕。
すると、何を思ったのか、男は急に弱々しい態度をとって僕に頭を下げた。
「申し訳ねぇ。本当は【風神の調べ】を率いている男が屈強な男ってのを想像してたから、ついカッとなっちまった」
「それに関しては申し訳ない。僕だってなりたくてもなれていないだけだから。」
「その、すげぇ厚かましい願いになるんだが、俺をパーティーに加えてくれるか?火力が必要なんだろう?俺はファルコン、『重戦士』だ。レベルは345。ステータスはオール7000だ。」
「僕は…さっき言った通り、アルトだ。よろしく。……あ、えっと、レミーエに許可とか取らないとパーティーに入れないので、まずは彼女に会ってから決めよう。」
「そうだな…。」
この時はまだ、ファルコンがとてもいい人に見えていたんだ。裏表の無い、少しだけ暴走癖のある優しい男だと思っていた。
「アルト、お前、最近何やった?」
「書類作業に値段交渉、店の人への配慮にパーティールームとして使っていた宿の一室を借りるための交渉、解体にパーティーの体調管理と把握、罠解除に料理…。これくらいだけど?」
「だったら、なんで戦闘に参加しない!」
「僕が戦闘に参加したらすぐに死ぬからだよ。それと、ここはAランクダンジョンの最下層に近いんだ。大きな音を立てるとすぐ魔物に囲まれるよ?」
「うっさい!いつもいつも、なんでお前は俺の邪魔をするんだ!」
「邪魔?」
そもそも僕がパーティーのリーダーなんだけど。
「ふん!これがなにか、お前ならわかるよな?」
「何って…!?ファルコン、なんで………?」
ファルコンの手元には、僕が大切にしていたレミーエとのダンジョン攻略記録、日記、そして、リーダーの手形があった。名前も『ファルコン』になっている。
そういえば、最近のファルコンはおかしかった。パーティーに入れるのは女性にしているし、レミーエに対して口説くような言葉を言っていた。いつしか、僕のパーティーは女性4人に男性は僕とファルコンだけになっている。
「レミーエは、俺の女だ。お前、邪魔なんだよね?」
「…!」
その瞬間、僕は悟った。
僕が追放されるんだ、最下層に落として、殺そうとしているんだ…と。
瞬く間に僕を持ち上げたファルコンは、僕をダンジョンに投げ落とした。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「残念、全部俺の者なんだよ、お前なんかじゃ、俺の女に合うわけぇだろ。」
最後に聞いたファルコンの言葉は、こんな言葉だった。
落下中、僕は荷物からスライムマットを出した。
スライムというゲル状の魔物からとれる液体を加工したらできるマットで、『完全衝撃吸収』というスキルが付いている。すぐに僕の下に引き、衝撃に備える。体をできるだけ平面に、ぶつかる時の衝撃が良く広がるように…。
地の底に落ちた僕は周りについている青白い炎の明かりを見て、目を覚ました。スライムマットのおかげか、僕は死なずに済んだ。まあ、落下したときは恐怖のあまり気絶しちゃったんだけど。
水の流れる音がする。いや、飲み水は荷物の中に入っている。まだ怪しい場所に行く意味がない。
「マズい…。」
目の前には血のように赤いうろこを持つ、巨大なドラゴンがいる。ワイヴァーン種に近いが、前足があるためそれは違うだろう。ドレイク種の可能性が高いが、それとも特徴がわずかに違う。少なくとも、どちらでも僕には勝ち目がない。
『どうした?』
「!?」
突然、大地を揺るがすような大きな声が聞こえ、思わず耳をふさぐ。
『どうしたと言っている』
「えっと、あなたが話しているんですか?」
『如何にも』
「びっくりしましたよ。というより、僕を食べないんですね。」
『我は肉を好まん、何なら野菜が欲しい』
「確かに野菜は美味しいですよね…。って、じゃなくて!ここはどこなんですか?」
『先ほど、お前が落ちてきたのは数百階分だったから分らんか。ここが-482層であり、真の最下層、我の住処だ。』
「えぇ…。」
『そして、この階にたどり着いたものは1つだけスキルを手に入れる権限が与えられる。』
「…本当ですか!?」
そうなれば、長年の僕の弱小ステータスの解消になる…!
『ま、お主なら、その必要はないだろうけどな。』
「えっ?」
『我がお主の記憶を覗かせてもらった。追放されて結局今は一人だということを知って、我もさすがに同情した。そこで、世界し…ごほん、取りあえず老害の能力だよりに調べてみたんだ』
「…。」
『するとどうだ、お主はあのパーティーメンバーに大層好かれていてな。自分が弱いとわかっているが、それでも諦めないお主に、少しでも力を貸せるように毎日努力を欠かさなかったんだ。』
「えっ…。」
『無論、今でもお主の帰還を待っていて、美容や魔術訓練にずっと力を注いでいる。』
あの無尽蔵にあった努力の背景に、僕があったってこと?
確かに思えば、僕に対して優しくしてくれていた面はある。この世界では「忌み子」とされる黒髪黒目で回復職、魔導学院主席卒業、リンゼ。青色でボーイッシュな雰囲気を持っているがたまに甘えてくる格闘家、マイン。少し恥ずかしがり屋なところがあるし、たまに口調が悪くなることもあるけど、パーティーメンバーのことを考えて行動してくれる魔術師、メルフィ。
いつも僕を助けてくれた。ファルコンに対しては時々塩対応だった気もするけど…。
…ファルコンはどうなったんだ?
『気になるか。そして、ファルコンとかいう奴はレミーエという女にボコボコにされていた。レミーエは非常にお前を好いていて、恋人関係だったが、お主と会えなくなる可能性を考えて部屋に引き籠ってしまった。』
「ちなみに、僕が追放されたということはなぜ発覚したのですか?」
それが分からないと釈然としない。誰かがあの場にいたなら助けてほしかった。
『ファルコンがパーティーリーダーになった宣言をして、お主が追放されたということもその場で公表してレミーエに殴られたんだ。まあ、自業自得だ。』
「うわ…。なんかファルコンならやらかしそう…。いや、やらかしてました。」
『ま、お主のステータスは我がちょっとばかし細工した。お前はレベルについては前と変わらんが、ここにたどり着いた報酬のスキルを外した代わりにレベル900相当の力を授けた。それは本来、お主の経験値となっていた分だが、故郷の孤児院で配られた、お主の腕輪が、経験値を奪っていたそうだ。レミーエがずっと早く強くなっていた理由は、お主の経験値が常時奪われていたことが原因なんだ。』
「…!」
僕が弱かった理由って、そんな単純な…でも、僕は別にそれでもよかったかな?いつも僕はレミーエとダンジョンへ行く前に軽い偵察を行っていて、最低限の情報を入手していた。まあ、目的はレベル上げなんだけど、同じレベルだった時、レミーエと同じ数魔物を倒したのにレベルが一向に上がらなかったからおかしいとは思っていたんだけど…。この腕輪の所為で、僕がこんなことになったってこと?
…でもまぁ、別にどうでもいいかな?
『不思議だ。お主には復讐する権利があるはずなのに、何故それほどまでに復讐心に駆られんのだ?』
「えっと、多分、それでも強くなると信じてくれたあの人たち、優しくしてくれた先輩たちに恩返ししたかったから…でしょうね。僕ってバカなんですよ。復讐については落とされている内に考えていたんですけど、それもその内残念な結果を招くだけだと思ったんです。自分がどんな目に遭っても、やっぱり復讐はしない方がいいかなぁ、…そんな考えがやっぱり捨てきれなくて。ハハハ…。」
ドラゴンはふん!と鼻息を出し、僕の腕輪だけを砕いた。いや、これは…。
「魔法?」
『ほう、今のが見えるようになったのか。』
「なんとなく…ですけど。」
腕に一瞬、赤い膜が覆っていたような気がした。火属性魔法【フレアバースト】の応用で、周りの空気だけを爆発させたのか……。って、なんでこんなことを僕はわかるんだ?
『まあ、それがお主と【鑑定】の相性なんだろうな』
これが今の僕の力?いや、自惚れるわけにはいかない。
これはあくまで借りものだ。ドラゴンが、僕にくれた力だ。
「ありがとうございます。これで、僕は何とか生きて帰れそうです」
『そうか、まあ、そのまま上がっていくのも面倒だろうから、これに乗れ』
岩の上に、青白く光る魔法陣が見える。図鑑で見た転移魔法陣に似ているけど、ちょっと違うな。
「転移魔法陣、ですか?」
『正解だ。スキルの恩恵と、膨大な知識量からなる才能…か。その判断力も、あの時代にあれば…、まあいい。次来るときはないだろうが、たまには我のことを思い出してくれ』
「分かりました…ですが……。ご厚意に甘えるわけにはいきません。」
『…何故だ?』
「僕は確かにあなたから力を貰いました。しかし、このまま僕が上に戻る時、転移魔法陣の力で戻るのは僕の信念とは真逆にあると思うのです。」
『我の厚意を蔑ろにするのか…?』
「そうなるかもしれませんね。ですが、僕はまだ、やっていないこともあるんです。ここに来たのは偶然、僕の力ではありません。ですから、僕が、僕自身の力で乗り切りたいんです。」
そういうと、ドラゴンは少し眉を顰めるような表情をしたが、すぐさま笑い声をあげた。
『クハハハハ!お主はやはりそういう決断をするか!実に愉快で痛快だ。』
「本当にごめんなさい」
『なぁに、心配ご無用だ!我も久々の話し相手につい興奮してしまった。詫びよう。しかし、お主らが最下層と言っていた場所から数倍は離れている場所にあるのだが、どうするんだ?』
「一人で攻略します。……逆向きに。」
『クハハハハ!逆向きと来たか!まあいい、なら、最下層に着いたということでお主の名を上の街にだけでも知らせておくか』
「あー、それは勘弁してください。ちょっと後で恥ずかしい思いをしそうなので」
『そうか、ならやめておく。では、そこの階段を昇ればー481階層に当たる。それだけ長いダンジョンを、お主に攻略できるかな?』
「それはやらなければわかりませんから。」
『そうだな、まあ、お主なら余裕だろうが、もし辛ければ戻ってくるといい。いつでも出してやるからな』
「ありがとうございます。では……。」
『またいつか、会うことを願っているぞ』
それから僕は、長い間ダンジョンの中で遭難した。何度も罠に引っ掛かりそうになったり、魔物に食べられそうになったりしたし、ステータスの使い方がわからなくてうっかり罠解除の針を曲げちゃったりしたけど(曲げなおして無理やり直した)、何とか入口まで戻ることができた。食料が足りなくなったから魔物を倒して、毒耐性を上げて無理やり食べた。魔物には強い毒素がある。当然、無いものもいるがその手の魔物はドラゴンであったり強力な魔物であることもあり、食べることは敵わず、結局毒のある魔物を焼いて食べて食いつないでいった。
前の貧相な体つきもダンジョンでの生活に応じて適応していき、少しずつ筋肉が付いて行った。いわゆる細マッチョという身体つきになった。
「やっと、戻れた…!」
数か月ぶりに見る青空、街の美しさ、人々の生活、営み…。
そのすべてが新鮮で、僕は泣きそうになった。
千切れた右腕とボロボロの布切れのようになった服装を気にしつつ、僕は長いダンジョン生活から解放されたことを実感した。
景色は暗転、近づいてきた誰かと、その人の甘い匂いを感じながら、僕は眠った。
僕が目を覚ますと、そこはどこかのベッドの上だった。白い天井に白い壁。金色の髪に青い目、整った顔に白い鎧……。
「ん?……うわぁ!?」
右を向いた時、レミーエがいた。鎧着たまま僕の横に来て寝てた。さすがに驚くよ…。というか、これよくあるパターンなんだよな、悪戯のつもりなんだろうけど、さすがに心臓に悪いから、たまにやめてほしいとは思う。
「んん、はぁ~~、おはよう、アルト…。」
「おはよう、レミーエ…むぎゅ!?」
目を離した隙に彼女は僕を抱きしめていた。いや、ちょっと待って、鎧がめっちゃ顔に当たってて痛い痛い!胸元に顔が付いている状況だから、普通なら羨ましいシーンだけど、鎧ついてたら話は別だから!というか、ステータスって、レベル900程度まで上がってたはずだけど、なんで痛いのこれ!あ、これは攻撃判定じゃないから防御力の設定は効かないのか……。息をするように殺すような人にとって防御力とは一体…?
「心配したんだよアルトぉぉぉ!アルトぉ!目を覚まさないんじゃないかって、心配したんだよ!?」
「わかった!わかったからちょっと離れて!ベッドが軋んでるから!ちょっとミシミシ音なってるから!」
「むぅ、しょうがない…。というか、今私が重いって言わなかった!?」
「重いのは鎧だから!というか、二人同時に寝たら一人用のこのベッドなら音鳴ったりしても何ら不思議じゃないと思うんだけど!?」
「そういうことならしょうがない…。」
ちなみに、鎧は彼女専用に作られたもので、様々な付与効果がされている。重いが、それを私服同然に扱う彼女の筋力も、なかなかなモノだろう。
椅子に座りなおしたレミーエは、すぐに鎧を脱ぎ、私服で僕に抱き着いてきた。
「うりゃりゃりゃりゃ!」
「…危ないね、もっと、こう…、怪我人を労わるとかできない?」
「これでも十分労わってますぅ~!」
「…なるほど(何言っても聞かない奴だな、これは)」
「…なんか失礼なことを感じ取った気が…。」
「気のせい気のせい。微塵も思ってない。」
「ならなんて思ったの?」
「…恥ずい。」
「……。」
レミーエが僕から離れて、少しだけ言いにくそうに目線をこちらに向けてから本題に移った。
「まず、ファルコンについてなんだけど」
「うん」
「奴隷になった。」
「あ~、奴隷…。妥当か。」
パーティーメンバー殺害未遂、強盗、強姦、公然猥褻に誘拐…。死刑にならなくてよかったな。ま、奴隷としてゆっくりと贖罪しようとすればいいさ。復讐心なんかあの時に置いてきた。別に問題はない。
「それとパーティーのことなんだけどね…。」
「…(ごくん)」
長い間言葉を止める彼女とその場の雰囲気にどこか寒気を感じ、思わず唾をのむ。
「女性パーティーメンバー全員が、アルトのお嫁さんになります!」
「そうなるんだ…?……………………はぁ!?」
いや待って、どうしてそうなった?僕には明らかに不釣り合いな美少女だよ?それも4人、レミーエはすでに恋人だからいいよ?ほかのメンバーがお嫁さんって…!僕はそんな好色じゃないんだよ!?というか、一夫多妻自体が貴族たちの政略結婚の時、個人の自由が適応されないということが問題視されてできた制度で、平民には適応されなかったはずなんだけど…。
「制度的にはどうなの?」
「私の権限でアルトをSランクにしたんだ。Sランクの権利として、貴族同等の権力を扱えるってのがあるし。」
「そうなんだ…。えっと、そもそも、レミーエはそれでいいの?」
「うん!みんなでアルトを支えられればいいって頑張ってるんだから!」
「そうなんだ…。」
「ってことで、みんな入ってきていいよ!」
「えっ?」
「「「アルト(ぉぉぉ)君!」」」
リンゼ、マイン、メルフィが部屋に入って一斉に僕に抱き着く。ちょっと待って、まだ筋肉痛。
「痛い痛い痛いッ!」
腕喰い千切られたときくらい痛かったよ…。そういえば、僕の右腕を喰い千切ったベヒーモス、あの後ボコしてテイムしたんだけど、元気にしてるかな~。
痛いという声を聞きもしないで3人は僕に抱き着いている。ちょっと待って、胸が当たってるんですけど…。
僕は赤面する。これでもかというくらい。顔から火が出るみたいな表現って本当に存在するんだね…。火を噴きだしそうなくらい恥ずかしいんだけど。
「あ!アルト君顔真っ赤だ!」
リンゼが言うとそれに続いてマイン、メルフィがからかってくる。
「本当だ!顔真っ赤!」
「フフフ、あったか~い。アル…。」
マイン、からかわないで…。メルフィ、ちょっとくっついているところと言っていることからちょっと変な想像しちゃうからやめて?
とっさに右腕を上げて引き剥がそうとする。
「ん?右腕が生えてる…?」
ベヒーモスに噛み千切られた右腕が再生していた。きっとリンゼが治してくれたんだろう。リンゼの頭を撫でながら、激痛に耐えつつも平和な日常が戻ったことを喜ぶ僕だった。
ファルコン視点
クソッ!俺がなんでこんな目に遭わないといけないんだ!俺があのパーティーのリーダーだ!俺が正義だ!俺があいつら全員ハーレムに入れて酒池肉林を楽しむのにふさわしいはずなんだ!
なのに今は逆ハー美人貴族の奴隷になっている。ま、主人の美人メイドとできるのはいいとは思うんだが。メイドも喜んでるし。
ただ、食事は少ないし奴は俺らに鞭を打って楽しんでやがる。
「ほぉら!早く泣きなさい奴隷ちゃん?早くしないとご褒美上げないわよ?」
「ギャァァァ!」
紫色の髪をしたドレスに身を包んだ女に鞭でボコボコにされながら、俺はこの先ずっと生きていくことになる…。何年も、何十年も…。自分を買いなおすこともできず、ただおもちゃとしてその生涯を終えるんだ…。
「どこで間違えた…。どこで間違えたんだよぉぉぉぉ!」
牢獄の中で響くその咆哮は、外界へ届くことはなく、ファルコンはその2週間後に血を吐き、21歳の生涯を終えた………。
「ん~、これも依頼だったからやっちゃったけど、私もアルト君に興味があるのよね~。レミーエちゃんに頼んだら、ハーレムに入れてくれるかしら?」
ファルコンの亡骸を澄んだ目で見ながら、いつかの日に命を救ってくれた恩人に思いをはせる少女。アルトの身に降りかかるのは災難か、幸福か。
そのころアルトは、
「ちょっと待って?そういうことはもうちょっと順序を踏んでから!って、うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」
美少女4人に喰われていた。
その後のアルトたちは、急激に強くなったアルトをリーダーにして、次々にダンジョンを攻略していった。『風神の調べ』は、世界中を吹く風のように、その名を広めていった。そしてその名は、いつか伝説にすら語り継がれようとしていた時、アルトたちは謎の失踪を遂げてしまう。
そして、100年たった今でなお、彼らの軌跡を辿ろうとする者たちがダンジョンへ足を進める。
『連載版ができれば、旅の内容がもう少し長く書かれます。』