第8話 ジェイクはお留守番
旅の計画についての話し合いは心配になるくらい早く終わった。みんなの意見はほとんど同じで意見がぶつかることもなく、一番の友好国でサラ王女のお母さんの出身国でもある、リアーナ共和国へ馬車と船を使って行くことが決まった。もう一つ、王女という身分を隠して旅をすることも決まった。
話し合いのあとアイリスさんの提案で、四人で公共浴場へ行くことになった。ジェイクさんは、「私はいつも朝に済ませますので残って荷物の番をしております」と言ってお留守番になってくれた。
建物から漏れる明かりが照らす道をアイリスさんは弾むように歩いている。後ろを振り返って、
「今から行く公共浴場のお湯は体力回復と魔力回復の効能があるんだよ~!」
「宮殿のお湯と同じ効能ですね!」
「そうね」
私はミリーちゃんに当たり前といったふうに相づちを打ったけど初耳だった。宮殿のお湯にそんな効能があったんだ。
「街のはずれには絶景の秘湯があってね! 旅の計画的には行けないけどみんなで入りに行きたかったな~!」
「あなたって本当にお風呂が好きなのね」
「うん、暇があったら入りに行きた~い」
上機嫌なアイリスさんとレーネちゃんの会話。
この世界のひとたちも毎日お風呂入る習慣があるのかな。やっぱり毎日お風呂に入ってさっぱりしたい。
宿から五分くらい歩いて公共浴場に着いた。入り口は男湯と女湯にちゃんと分かれていてちょっとだけほっとした。
入るとすぐ、強そうな女のひとが声をかけてくれた。女湯の受付のひとだった。
「お客さん。入浴代は一人五百ポントですよ」
「あ、はい。四人だと、二千ポントですね……」
四人分で二千ポントか。確か『リアーナ王国』まで七日で着いて、旅費は、宿代、馬車代、船代、食事代、コミコミでだいたい四十五万ポントいかないくらいだっけ。余りが五万ポントくらいあるから。うん、なんとか毎日お風呂に入れそう。
お金を出そうと鞄から袋を取り出そうとしていると、
「サラちゃん、みんなの分の入浴代も出してくれるの? いいの?」
「サラ、あたしたち自分で払えるわよ?」
アイリスさんとレーネちゃんが、大丈夫? みたいな感じで聞いてきた。
もしかして入浴代は旅費で出さなくてよかったの? そうか、みんなはおこづかいがあるんだ。いやいやでも。この流れでやっぱり出しては王女として格好がつかない気がする。
「心配してくれてありがとう。でも今日は私が払っておくわね」
「わあ、ありがと~!」
「サラがそう言うならそれでいいけど」
「ありがとうございます!」
アイリスさん、レーネちゃん、ミリーちゃんが順番にお礼を言ってくれた。入浴代、銀貨二枚を私が払いおわると、
「行こ行こ~!」
アイリスさんは一番に脱衣所に入っていった。
「いいお湯でしたね!」
「さっぱりしたわね」
そう言いながら脱衣所を出て、手拭いを首にかけたままミリーちゃんと飲み物売場を物色。
水とエールとグレーポフルーツジュースの三択。たぶんグレーポフルーツジュースはグレープフルーツジュースだと思うけど、とりあえず避けて、エールにしよう。
「エールにするわ」
「私はお水にします!」
エールも水も一杯百ポントで銅貨一枚。お酒とお水が同じ値段って日本じゃ考えられないな。そんなことを思いながら、私は飲み物の代金を売場を切り盛りするひとに渡した。長椅子に横並びに座り、アイリスさんとレーネちゃんを待つことにした。
「お水ありがとうございます! でも申し訳ないです……入浴代も払ってもらっていますし」
ミリーちゃんにおずおずとお礼を言われた。
さっきのアイリスさんとレーネちゃんと同じ感じ。この飲み物代も旅費で払わなくてよかった感じなのかな。私なんとなくわかってきたかも。
そういえば、今日の夕食代と宿代ってミリーちゃんが払ってくれてたな。夕食代と宿代は絶対旅費だから返しておかないと。
「このくらい気にしなくていいわ。それより、ミリーに払ってもらった今日の夕食と宿のお金を返したいの」
いくらかしら、と聞こうとしたら、
「いえっ! あれは自主的にやったことなのでお金はいただけません! お気持ちをありがたくいただきます!」
ミリーちゃんは続けて念を押すように、
「家から持ち出して来たお金もありますし、困ったらおじいちゃんがお金を持って来てくれるので心配ありません!」
おじいちゃんがお金を持って旅を……。ダメダメ、危ないと思う。そういう事態には極力ならないようにしないといけないな。でも今回はミリーちゃんの気持ちを受け取って。
「わかったわ。お言葉に甘えさせていただきます。ありがとう」
「はいっ!」
ミリーちゃんは笑顔で言った。
少ししてレーネちゃんがお風呂から上がってきた。レーネちゃんに魔法で髪を乾かしてもらいながら、のんびりアイリスさんを三人で待った。