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第5話 ぎこちない旅立ち

 メイダーさんに別れを告げたあと、私はみんなとひっそり通用口から宮殿を出た。


 青空と道沿いの木。なにげない景色に胸が一杯になった。ずっと宮殿の中にいたから外の景色を見ることができて嬉しかった。私は後ろを振り返って七日間お世話になった宮殿を見上げる。

 外から見ても大きくて立派な宮殿。すごくヨーロッパっぽい。


「あっ! あのっ! サラ様!」


 声をかけてきたのは執事のミリーちゃんだった。神官のアイリスさん、魔法使いのレーネちゃん、剣士のジェイクさん、みんなの視線がミリーちゃんへと集まった。私は王女っぽさを醸し出しつつ聞いた。


「なにかしら?」

「今日の宿を取ってあります! で、ですので今からご案内いたしますっ!」


 ミリーちゃんは意気込んだ様子で言った。


「そうね……」


 事前に宿を取っておいてくれたんだね。そろそろ夕方になるころだし、今日はみんなで旅の計画を立てて、明日に向けて休むくらいの方がいいよね。みんなの意見も聞いておこう。


「ありがとう、ミリー。みんなもそれでいい?」

「もちろん賛成です」

「あたしも賛成」

「わたしも~!」


 ジェイクさんが即答して、それにレーネちゃんとアイリスさんが続いた。気のせいかな、アイリスさんがすごくノリが軽かったような……。


「決まりね」

 

 すんなり決まってほっとしていると、


「ミリーちゃん、ありがと~!」


 よしよしとアイリスさんがミリーちゃんの頭をなで始めた。

 高校生が小学生の従姉妹を可愛いがるみたいな感じかな。第一印象と違ってアイリスさんはフレンドリーでノリの軽いひとなのかも。この雰囲気だったらみんなすぐに打ち解けられそう。

 困った顔でミリーちゃんはアイリスさんの手を掴む。


「わ、私は子供ではありません! サラ様、参りましょうっ!」

「そうね」

 

 ミリーちゃんを先頭に、緩やかな上りの坂道を歩いて行く。しばらくすると立派な壁に囲まれたお城が見えてきた。


「わあ……」


 宮殿より大きいかも……! 宮殿とかお城とか、こんなに近くで見られて嬉しい。ヨーロッパ観光をしてるみたい。

 ちょっとだけウキウキしながら城壁に囲まれた城を見上げながら歩く。お城の門の前でミリーちゃんがくるりと振り返った。


「あのっ! 今日の宿はあの辺りにあるのですぐに着くと思います!」


 ミリーちゃんは言いながら足下の方に向けて指をさした。門の前の道から石段が下へと伸びていて、その先に街並みが扇状に広がっていた。


「すごい……」


 見下ろす街並みが絶景。

 遠くの方を指さしながら、ミリーちゃんが説明を始めた。


「それとですね! 南の山のずっと向こうに『リアーナ王国』がありまして、東へずっと行くと『ハイツ王国』があります! 近い国はそれくらいで、それからえっと……」


 ミリーちゃんは文字がびっしり詰まった紙をさっと出してちらっと見る。

 この説明も事前に準備して来たんだろうな。えらいな。 


「どちらの王都も遠いので馬車で行っても、途中で交易の都『リューセル』と他の宿場町を中継することになると思います! はいっ!」

「たくさん調べて来てえらいよ~!」


 やり遂げた感を出すミリーちゃんの頭をアイリスさんがなでる。


「や、やめてください!」


 あ、ちょっとミリーちゃん嫌そう。止めた方がいいのかな。そう思ったとき、


「楽しそうなのはいいんだけど、宿でゆっくり話さない? あたし、お腹ぺこぺこだから早く宿に行ってご飯食べたいのよ。宿で食事もとれるんでしょう?」


 レーネちゃんがため息まじりにミリーちゃんに聞いた。


「は、はい! できます!」

「わたしもお腹ぺこぺこ! サラちゃん、宿に着いたらすぐご飯食べよ~!」

「そうしましょう」


 私もお腹がぺこぺこ。サラ王女の体ってすぐお腹減るんだよね。


「やったあ、早く行こ行こ~!」


 言いながらアイリスさんは、がばっと私と腕を組む。


「えっ、ええ!」


 びっくりした。知り合ったばっかりで腕を組まれるなんて思わなかったな。

 私とぴったり並んで石段を下りて行こうとするアイリスさんを、


「そこに止まっていただこうか、神官殿」


 ジェイクさんが呼びとめた。


「うん?」


 アイリスさんはジェイクさんの方を向いて首を傾げた。


「少々、サラ様への敬意が足りていないのではないか?」

「わたしは、親しい友人のように接するようにって言われてるの、だからこれでいいの~」

「それは私も言われてはいるが、腕を組むなどさすがに目に余る。サラ様は次期国王陛下だということを忘れてはいないか」

「ぜ~んぜん忘れてない~」

「ではサラ様の腕を今すぐに離してもらおうか!」


 ジェイクさんの言葉に熱がこもってくる。


「ええ~なんで~」


 アイリスさんは口を尖らせてジェイクさんに不満をこぼしてから私に聞いてきた。


「サラちゃん、腕組むのダメだった? ちょっとくらいはいいよね?」

  

 えっ、意見聞かれると思ってなかった!

 私は別にいいと思うけど次期国王陛下としてどうなんだと言われたら、どうなんだろう……。

 返事に困っていると、ジェイクさんが大真面目な顔で私に聞いてきた。


「神官殿が腕を組んでいいことになりますと、私もサラ様と腕を組んでいいことになりますが、よろしいですか?」


 どういう質問!? 


「よろしくないです」


 咄嗟に答えてしまった。ジェイクさんに腕を組まれながら街を歩く光景が頭に浮かんで、ぶんぶんと首を横に振った。そんなのラブラブカップルだから、ダメだと思う。

 ジェイクさんは私の返事になぜか満足げで、自信ありげにアイリスさんに言った。


「神官殿、今のサラ様のお言葉を聞いただろう。サラ様は腕を組まれたくないとのことだ。今回は大目に見るが、以後このようなことがないように!」

「むう……おかしい気がするけど、面倒臭いから以後気をつけますう……」


 アイリスさんは腑に落ちない様子だけど、とりあえずは二人の口喧嘩が収まってよかった。ほっとしていると、レーネちゃんがちょっとイライラした様子で、


「さっきも言ったけど、早く宿に行きましょうよ。あたしお腹ぺこぺこなんだけど」


 宿の話が出てからけっこう長い間、立ち話してたからね。お腹減るとイライラするよね。


「私もお腹が空いたわ。夕食を頂いてから落ち着いて話しましょう。ミリー、道を案内してくれるかしら?」

「はい!」


 ミリーちゃんの案内の下、私たちは宿へと向かった。


タイトルを少し変えました。

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