第3話 仮の第一王位継承権
「メイダー、この服、国王陛下にお目にかかるのに相応しい物かしら……?」
たまらず私は聞いた。きらびやかなドレスが並ぶ部屋で着せられた服は、なぜかファンタジー映画に出てくる旅人が着ていそうな服だった。さっきまで着ていた紺色のドレスの方がよっぽどそれっぽい。
「サラ様、このお召し物は国王陛下がご用意になられた物にございます。今日はこのお召し物で参るようにと申しつけられております」
国王陛下の指示ならこの服でいいんだ。でもなんでこの服なんだろう。そんな疑問で頭がいっぱいになる前に、
「……そうだったの、失礼したわ」
忘れず王女っぽく答えておく。
「とんでもないことにごさいます。それでは防具をおつけいたしますので、今しばらくお待ちください」
ぼ、防具……?
「あ、あの、メイダー……」
「……」
メイダーさんは数人のメイドさんたちと協力して、黙々と私の体に防具をつけていく。肘当てとか膝当てとか、もろもろつけおわると、メイダーさんは、
「サラ様はどのようなお召し物でもお似合いになりますね」
そう感心しながら台に置いてある剣を手に取った。
け、剣!?
「ああ、そうでした、私としたことが、こちらを渡すのはもう少しあとでしたね」
思い出したようにメイダーさんは言って、剣を台に戻した。
よかった、戻してくれた。剣なんて渡されてもどうしたらいいのかわからないよ。でも、あとで渡されるのか。あとで。なんで?
「メイダー、今日は――」
「それは立場上、私からはなにも申せません」
まだ今日は、しか言ってないのに……。
「用意ができましたので謁見の間へ向かいましょう」
続けてメイダーさんはそう私に言った。
これ以上は聞けなさそう。メイダーさんと数日の間ずっと一緒にいたからなんとなくわかる。これは回避できないやつ。もう成り行きに身を任せるしかない。
覚悟を決めて、
「そうね」
「ご案内いたします、サラ様」
メイダーさんに連れられて私は謁見の間の扉の前に立った。
立ちすくみそうになるくらい意匠の凝った扉を開けて、がちがちに緊張しながら部屋に入った。部屋はやたら広くて緊張がさらに増した。
やたら長い絨毯の行く先に国王陛下がやたら背もたれの高い椅子に座って、こちらを見下ろしている。両脇には背の高い兵士っぽいひとたちがいる。
「私はここでお待ちしております、あちらへ」
「ありがとう」
メイダーさんに指し示された場所へと歩いていく。
「待っておったぞ、サラ!」
「は、はい!」
国王陛下は第一声とともに豪快に白い歯を見せてくる。
お、思ってたより迫力がある……! ちゃ、ちゃんと挨拶しないと! 国王陛下に変に思われたらヘイマンさんを呼ばれるどころじゃない、ここまで来たらもう精一杯やるしかない!
片膝をついて考えておいた挨拶を披露する。
「国王陛下、大変ご多忙の中、お越し頂き、心から感謝申し上げます!」
目一杯、大きな声を出した。頭を上げると、国王陛下の驚いた顔が見えた。
「はっは! どうしたのだ、サラ! いやに他人行儀ではないか!? ほら立ちなさい、そしていつものようにパパと呼びなさい! パパと! さあパパと!」
距離感ちがった!? パパでいいの!? ダメダメ、落ち着いて! とりあえずさっきよりフレンドリーに!
「……パパ上、今日はどうしていらっしゃったの?」
パパ上って! 変に交ざちゃった!
やってしまったと思いながら国王陛下の顔を見ると、また驚いた顔をしていた。
「サラにパパ上と呼んでもらえるとはな! うう、パパと呼びなさいと言っても、お父上、お父上としか呼ばなかったサラが……! なんと素晴らしい日であろうか……!」
結果おーらい! 目頭を押さえながら熱く語る国王陛下を見て、なんだか懐かしくなった。ちょっとだけ面倒臭さがウチのお父さんと似てるのかも。とりあえず貴様は誰だ!? みたいな展開にならなそうでよかった。
兵士さんになにか言われて、国王陛下は一つ咳払いをして話を戻した。
「今日来たのは他でもない、先日めでたく成人を迎えたサラに、一つサプライズを贈るためにやって来たのだ!」
「サプライズ、ですか?」
この謁見自体がすでにかなりサプライズだけど、まだサプライズがあるの?
「さようだ」
国王陛下はゆっくり立ち上がった。それから、
「サラよ! おまえは第一王位継承権を有しておるな!」
声高らかに言った。
「……」
「……」
あ、私か!
「はい!」
危なかった。一瞬返事するの忘れてた。
たぶんそうだよね。サラ王女は第一王太子だから第一王位継承権持ってるよね。それがサプライズとなにか関係があるのかな。
私が首を傾げていると、
「そうかそうか! はっはっは! はっは!」
国王陛下はひとしきり笑ったあと、
「よく聞くのだ! 実のところ、今サラが有しておる第一王位継承権は仮のものである!」
仮のものだった。え、仮!?
「かりっ、仮とはどういうことでしょう?」
「よくぞ聞いた!」
声が裏返ってしまった私を、国王陛下は間髪入れずに褒めてくれた。それから今日一番の大声で私に聞いてきた。
「やはりおまえも、真の第一王位継承権を手にしたいのだな!?」
「はいっ!」
「うむ! 頼もしいかぎりである!」
勢いではいって言っちゃった……。
「サラよ! 真の王位継承権が欲しくば、一年以内にリングリッド王国と同盟を結ぶ七つの国の王の元に赴き、印を七つこの紙に揃えて参るのだ!」
言いおわると同時に、懐から出した立派な紙をバン、と広げた。紙には「ここに印を押せ」と言わんばかりの空欄が七つあった。
「……!」
これスタンプラリーだ! 小さいころ好きだったな……。
「そうかそうか、サラもこの紙の魅力に声も出ないか! 我がときもそうであった。この紙を目にしたとき、すべての印を直ちに集め、押したい、そう強く思ったものだ」
国王陛下は遠い目でうんうんと頷く。
そうだよね、みんなスタンプラリー好きだよね。あれ、ちょっと待って! 私ここを出て旅をすることになってない!?
「愛する我が娘が無事、七つの国を巡る旅を成せるよう、優秀なお供をすでに呼んでおる! 入れ!」
待って待って、話をどんどん進めないで!
あわあわしているうちに、扉が開き、私と同じ年くらいの四人が部屋に入ってきた。やたら長い絨毯の横に等間隔に並ぶと、さっと片膝をついた。
どうしよう、今にも旅に出そうなひとたちが来ちゃった――あっ! 今更だけど旅人みたいな服を着させられた理由がわかった! 私、みんなとこのあと一緒に旅に出るんだ……!




