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第2話 突然の来訪

 おしゃれな白い木のテーブルの上に、焼き菓子がたくさん盛られたお皿とあつあつの紅茶が入ったカップが並んだ。


「では午後のお紅茶をお楽しみください」

「ありがとう、メイダー」


 私は庶民的な家庭で育ったことを忘れ去るように、上品に微笑んで言った。メイダーさんはくるりと踵を返してカートをごろごろ引いて離れていった。

 

 よしよし。今、かなり王女っぽく言えたんじゃないかな。ここ二三日、「サラ様の様子がおかしいようです!」てメイダーさんに言われてないし、だいぶ王女っぽく振舞えるようになってきたのかも。

 二日目の朝に目の前でメイダーさんが心労で倒れたときは本当に驚いたっけ。そういうこともあってサラ王女になりきれるように頑張ってきたから、メイダーさんが元気そうだとほっとする。

 振り返ると、頑張ってきたっていうか、ただ「ごめんさない、記憶にないの」で乗り切ってきただけのような気もするけど……。私がサラ王女になる前にサラ王女が頭をぶつけてなかったら言えないセリフだから、言えてラッキーだったと思う。


 広い中庭でひとり紅茶を啜りながら、豪華な旗を慌ただしく立てているメイドさんたちを眺める。 

 

「もう少し右、やっぱり左かしら!」

「どっちよ、左でいいのね!」


 近々なにかあるのかな……。いつもは中庭に一緒に来るのはメイダーさんともう二人くらいだけど、今日は他に十人くらい来てるし。朝からメイダーさんもメイドさんたちもどこかピリピリしてるみたいだし。

 

「旗が一本足りないわ!」 

「私、探して来ますね!」

「一緒に行くわ!」


 中庭からばたばた出て行くメイドさんたち。

 

 静かな午後の紅茶の時間が……。


 この時間を使って、今日こそあの日のことを思い出そうと思ってたのにな。なんで思い出せないんだろう、サラ王女になる前の日のこと。夜にうっすら女の子の声が聞こえたことだけは思い出せるんだけど……。あの日のことを思い出せたら、あの女の子がなんて言ってたのかとか、なんでこうなったのかとか全部わかると思うんだけどな。


「はあ」


 こうなって七日目か。私、元に戻れるのかな……。


「最後の一本があったわ~!」


 旗を持ってメイドさんたちが早歩きで戻ってきた。

 すごく忙しそうだから手伝いに行きたいけど行ったらたぶん迷惑だよね……。

 私は焼き菓子を一つ口に運んで紅茶を啜る。

 うん。今日もメイダーさんが淹れてくれた紅茶がおいしい。


「お紅茶のおかわりはいかがでしょうか?」


 メイダーさんがティーポッドを手にやって来た。私はすっと表情を引き締めて優雅さを意識して言った。


「いただくわ」

「では失礼します」


 メイダーさんはティーポッドを傾ける。こぽこぽとカップに注がれる紅茶に優しい陽の光が当たってきらめく。

 

「ご用があればいつでもお呼びください」


 そう言ってメイダーさんは元いた場所に戻っていった。

 メイドさんたちの方を見ると、旗を全部きれいに立て終わっていた。メイドさんたちはほっとした様子で中庭から引き上げていく。

 扉が開いて、さあっと風が抜けていく。テニスコート四つ分くらいありそうな中庭には芝生が張られていて、花壇の花と一緒にそよそよと風に揺られている。


「いい風だわ」


 もう少しこの生活が続いてもいいかな。そんなふうに思った矢先のことだった。


 あまり見かけないメイドさんが一人、緊張した面もちで中庭に入ってきた。


「どうしましたか?」


 メイダーさんは厳しい表情で言った。


「はい、陛下があと一時間ほどで宮殿にお見えになるとのことで、お伝えに上がりました!」

「……そうですか、わかりました。これから忙しくなります、至急あなたの持ち場に戻ってください」

「は、はい! 失礼いたしました!」


 メイドさんは頭を下げ、そそくさと中庭を出ていった。メイダーさんは私に告げた。


「サラ様、おくつろぎのところ申し訳ありませんが、早急にお召し替えに参りましょう。国王陛下との謁見が控えております」

「謁見?」


 目をぱちぱちしながら聞き返した。謁見って国王陛下に会って話すことだよね。状況を理解できた瞬間、心臓がバクバク鳴り始めた。

 ど、どうしよう!? 今から国王陛下と会って話すことになったってことだよね!? 肖像画で顔と名前くらいは知ってるけど全然どんなひとなのか知らない……! やっとメイダーさんと自然に話せるようになってきたところなのにボロを出さずに国王陛下と話せる気がしない! 貴様は誰だ!? みたいな展開になったらどうしよう!?


「そうでございます。毎年この時期になるとサラ様にお会いにいらっしゃいますでしょう。突然いらっしゃるのは今回が初めてのことですが。お忘れでしょうか?」


 メイダーさんはそうつらつらと述べてから心配そうに私をじっと見つめてくる。

 や、やばい。なんとかごまかさないと。えっと、えっと……。


「……も、もうそんな時期だったかしら」

「はい、チュリップがあのように満開でございます」

「チュリップ……」


 指し示された花壇にはチューリップが色とりどりに咲いていた。

 この世界ではチューリップをチュリップって呼ぶんだ……。口に出して言っちゃったけど、なんかちょっと恥ずかしい。て、違う違う、今そんなことはどうでもよくて! これ以上話すとボロが出るからいったん話を終わらせて、それからえっと、国王陛下と会う用のドレスに着替えに行くんだっけ。


「……そうね、陽気に頭がぼうっとしていたわ、参りましょう」

「かしこまりました」


 そう言って歩き出すメイダーさんを見て、ほっとする。中庭を出て行くメイダーさんに私はついていく。どんなドレスに着替えるのかちょっとだけ楽しみにしながら。



3日は昼過ぎに投稿します!

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