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第19話 旅立ちの朝

「また泊まりに来なよ」

「はい、ありがとうございました!」


 顔なじみになった受付のひとに笑顔でお礼を言い、私たちはまとめた荷物を背負って三泊した宿を出た。 

 


「ジェイク~、わたしたちが乗る馬車ってどんな感じ~?」


 そう聞くアイリスさんに、前を歩くジェイクさんは振り返って答える。


「一般的な幌馬車だ。予定どおりな。荷台の半分は荷物が積んであるが、残りの半分は自由に使っていいそうだ」

「やっぱり幌馬車で荷物と一緒か~。座席のあるおしゃれな馬車に乗りたかったな~」


 残念そうに言うアイリスさん。

 

 おしゃれな馬車、私も乗ってみたいな。プリンセスとプリンスが乗るような馬車。


「アイリスさん、この旅では、本来サラさんが乗られるような馬車には乗ることはできない。そのような馬車に乗れば、襲撃されやすくなるだろう。王族や貴族が乗っていると言っているようなものだからな」


 ジェイクさんに釘を刺される。

 だよね……。


「わかってるよ、もう~」


 アイリスさんは不満げに頬を膨らませる。レーネちゃんが口を開く。


「旅が終わったら、サラにそういう馬車に乗せてもらえばいいんじゃない? ね、サラ?」

「え、ええ」


 とりあえず首を縦に振る。

 王女だったらそれくらいできるよね。それに私も乗りたい。


「サラちゃん、約束だよ~!」

「わかったわ」

「ありがと~!」


 そう言ってレーネちゃんに抱きつこうとするアイリスさんを、レーネちゃんは片手で阻止した。


「どうして今の話の流れであたしに抱きつきに来るのよ!」

「サラちゃんに抱きつくとジェイクがうるさいから!」

「理由がおかしいわ……。それと、あなた人との距離感がおかしいわよ」

「え~、そうかな~?」


 そんなやり取りを聞きつつ、ジェイクさんを先頭に朝早くから活気づく街を歩く。しばらくして着いた広場には、映画に出てきそうな幌馬車がたくさん並んでいた。


「サラさん、お乗りになる幌馬車はあちらです」


 ジェイクさんは幌馬車を手で示した。そして、その幌馬車に近づいていって、車輪の前でしゃがんでいる焦茶色のキャスケットとベストを身につけた小柄で小綺麗なおじさんに声を掛けた。


「御者殿、待たせたな」

「あ、へえ! ジェイクの旦那!」


 すばやく立ち上がったおじさんに、ジェイクさんは聞く。


「車輪を見ていたようだが、なにか問題があるのか」

「いえいえ! 車輪に引っ掛かった布切れを取っていただけで、問題はごぜえません!」


 おじさんのしゃべり方ちょっと気になる……。おじさんみたいなしゃべり方するおじさん、なにかのドラマでいたような。


 ジェイクさんはおじさんの顔をじっと見てから言った。


「……そうか。三日間よろしく頼む」

「へえ! こちらこそよろしくおねげえします!」


 返事をしたあと、おじさんは私たちをちらっと見て、


「いやあ、旦那も隅に置けませんね。四人も女の子をお連れになって!」

 

 ニヤリと笑い、ジェイクさんに視線を投げた。


「御者殿、なにか勘違いしているようだが、連れているのではなく、私はサラさ――」

「ゴホンッ!」


 レーネちゃんは遮るようにせき込み、頭を小さく横に振った。それにジェイクさんは一瞬目を見開き、考え込む。視線が集まる中、ジェイクさんは口を開いた。


「……御者殿、なにか勘違いしているようだが、私たちは兄妹だ」


 兄妹!? みんな顔全然ちがうし、髪の色も目の色もバラバラだよ!? 


「どおりで皆様、見目麗しいわけです!」


 兄妹で通った!


 おじさんは納得した様子でうんうん頷いている。レーネちゃんとミリーちゃんと私が顔を見合って首を傾げていると、


「わたしが長女のアイリス、この子が次女のサラ、この子が三女のレーネ、この子が四女のミリーで~す!」

 

 アイリスさんがノリノリで自己紹介を済ませた。

 こうなると、しばらく兄妹の振りをしないといけないな。忘れないようにしないと。私は次女で王女……私は次女で王女……。

 

「皆様、素晴らしいお名前で。私はディーノと申しまして、馬車運行ギルドに所属する御者でごぜえます。リューセルまでの三日間、どうぞよろしくおねげえします」


 おじさん――ディーノさんは帽子を取ってぺこりと頭を下げた。頭を上げると、すぐに話を切りだした。

 

「その、馬車に乗られる前に、代金の七万ポントをいただきてえのですがよろしいですか?」


 え、七万ポントもするの?

 レーネちゃんがディーノさんに言う。


「かなり安いわね。内訳を聞かせてもらえるかしら」


 高いと思ったけど安いんだ……。


「へえ、リンドからリューセルまで三区間ごぜえますが、一区間が――」


 ディーノさんは代金の内訳についてすらすらと話してくれた。

 なるほど、本当なら十万ポントくらいかかるところ、ジェイクさんが馬車の護衛をすることで、七万ポントになってるんだね。旅のお金を節約できて助かる。代金をディーノさんに払ったらジェイクさんにお礼を言わないと。


「代金の七万ポントです」

「へえ、お受け取りします」


 私はディーノさんに金貨七枚を手渡して、それからジェイクさんにお礼を言った。


「ジェイク、馬車の護衛をしてくれるのね。ありがとう」

「はっ!」


 このジェイクさんと私のガチガチの主従関係なんとかならないかな。いやちょっと待って、今のやり取り兄妹にしてはすごく不自然だったかも! はっとしてディーノさんを見たけど、まだ金貨を数えているところだった。見られてなくてよかった。

 金貨を数えおわるとディーノさんは顔を上げて尋ねてきた。


「確かに七万ポントいただきました。ところで、ジェイクの旦那から魔法使い様がいらっしゃるとお聞きしましたが、どなたでごぜえますか?」

「あたしがそうだけど」


 レーネちゃんが前に出る。


「その、ドラゴンよけの魔法を、馬車にかけていただきてえのですが……」

「ドラゴンよけの魔法ね。わかったわ、街の外に出るまでにかけておくわ」 

「いやあ助かります」


 快諾してくれたレーネちゃんに、ディーノさんはぺこりと頭を下げた。

 ドラゴンよけの魔法があるってことは、やっぱりドラゴンは普通に出るんだ……。レーネちゃんがドラゴンよけの魔法使えてよかった。ドラゴンよけの魔法か……蚊取り線香みたいな感じかな? うーん、空飛んでるドラゴンが落ちてきたら逆に危ないような……。


「サラ、ぼうってしているけど大丈夫?」

「ええ、大丈夫よ!」


 レーネちゃんに心配そうに聞かれて慌てて答える。

 真面目に考え事してたのに、ぼうっとしてるように見えてたんだ。ちょっとショック……。 


「それでは、足元に気をつけて馬車にお乗りください」

「はあ~い!」


 アイリスさんは手をピンと挙げながらディーノさんに返事をして、ぴょんぴょんと足場を蹴って馬車の荷台に乗り込んだ。


「もっと静かに乗りなさいよ」


 レーネちゃんも乗り込む。私もと思ったとき、遠くから声が聞こえてきた。


「おーい! ジェイクのおっさーーん!」


 手を振りながら男の子がこっちに走ってくる。

 あ、ウィル君! ジェイクさんを見送りに来てくれたんだ! あれ? いつの間に二人、仲良くなったんだろう?


「またお前か。見ればわかるだろうが今日は構ってやる時間はないぞ」


 駆けつけたウィル君に、ジェイクさんは言った。


「今日は一つお願いをしに来ただけなんだ!」

「お願いとは?」


 ジェイクさんが肩をすくめてウィル君に聞き返すと、


「旅から帰ってきたら、また剣の練習に付き合ってください!」

「そんなことをわざわざ言いに来たのか。無事帰ってこられたら付き合ってやってもいい」

「やったーー! よっし!」


 ジェイクさんの返事を聞いて、ウィル君はぴょんと跳ねてガッツポーズ。それから、ミリーちゃんと私に気づいて、


「あっ!? あんたたち! ジェイクのおっさんの旅の仲間だったのか!? ていうかおっさんの仲間、おっさん以外、女ばっかりだな!?」

「そうだが、なにか問題があるのか?」

「……別に問題はないけど、あ!」 

 

 ウィル君はジェイクさんに慌てた様子で聞く。


「こ、この中におっさんの彼女がいるのか!?」

「いる訳ないだろうが!」


 ジェイクさんも慌てた様子で強めに否定する。


「そ、そうだよな。おっさん変わってるもんな」


 ほっとしたような顔でウィル君は独り言みたいに言った。


「ジェイクの旦那、そろそろ馬車を出してもよろしいですか?」

「ああ」


 ディーノさんに返事をしてから、ジェイクさんはミリーちゃんと私に言った。


「さあ、お二人も馬車にお乗りください。私は御者台にて馬車を護衛いたしますので」


 促されてミリーちゃんと私も馬車に乗る。ジェイクさんはウィル君に、


「またな」

「俺、門まで見送るから!」

「好きにしろ」


 そう言ってジェイクさんは御者台に乗った。ディーノさんの掛け声と共に馬車はそろそろと動きだした。ウィル君は馬車の少し後ろを、頭を掻いたり、腕を組んだりしながらついて来る。


 なにか言いたそう……。

 

 門に近づいたところでウィル君は立ち止まった。真剣な表情で大きく頷く。ミリーちゃんを指さして大声で言った。


「おい、そこのバカぢから!」

「わ、私のことですか!?」

「おう!」

 

 聞き返すミリーちゃんに、ウィル君は大きく頷く。


「ミリーちゃんもあの子と知り合いなの~?」


 きょとんとした顔でアイリスさんが聞いた。


「はい! えっと、昨日神殿から帰るときに出会った子です!」

「あ~、剣の子か~!」 


 思い出したように頷いたあと、アイリスさんはウィル君に言った。


「そこの君、邪魔しちゃってごめんね~! 続けて続けて~!」

「あっ、はい!」


 ウィル君はもう一度、ミリーちゃんを指さして大声で言う。


「おい、バカぢから!」

「私はバカぢからではありません、ミリーって言います!」 


 ミリーちゃんも大声で言い返す。


「じゃあミリー! 俺は今より、もっともっと、もーーっと強くなるから、帰ってきたら俺とまた闘ってくれ!」

「……わかりました! 本当に強くなっていたら、お相手します!」


 ミリーちゃんの返事にウィル君は、よし見てろよ! とガッツポーズを取った。そして、


「ミリー、俺ずっと待ってるからーー! 絶対元気で帰ってこいよーー!」 

「はい!」

 

 笑顔で両手を振るウィル君が遠くなっていく。


 いいな。ちょっと爽やかなカップルぽかった……。

 

 そう思ったのは私だけじゃなかったみたいで、


「ミリーちゃんに可愛らしい彼氏できちゃった……」

「そうね、彼氏だったわね」


 しょんぼり呟くアイリスさんにレーネちゃんがしみじみ相づちを打つ。


「え!? お二人とも飛躍しすぎですよ!? そんな感じじゃなかったですよね、サラさん!」

「ごめんなさい、私も彼氏に見えたわ」

「ええっ! サラさんまで!?」


 わいわいしながら私たちはついにリンドを旅立った。




 三十分後――

 

 さっきから寒気がするような、しないような。


 馬車は順調に、草原に延びる一本道をゴトゴト走っている。

 

 今日は暖かいし、寒気がするってことは風邪引いちゃったのかなあ……。ちょっと休んで風邪が悪化しないようにしよう。


 そう思って読んでいた本を鞄にしまうと、荷台の後ろに座って景色を眺めていたミリーちゃんが振り返った。


「サラさん、寒気を感じますか?」

「え? ええ、感じるわ」


 なんでミリーちゃん、寒気がするのわかったんだろう? 

 首を傾げて答える私に、ミリーちゃんは意気込んだ様子で言った。


お知らせがあります。前回の投稿で、夏ごろに投稿を再開すると書きましたが、諸事情でしばらく再開できなくなりました。すみません。再開できたら、最終話まで投稿して完結させようと考えています。ときどき短編を投稿したり活動報告を書いたりして状況を報告できればと思います。執筆頑張ります。

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