第18話 計画変更と初めての夢交換
『ガリノー共和国』を『リアーナ王国』に変更しています。
「わたしね、気になることがあって今日は酒場に行って情報を集めてたんだ。それで、う~んと、なにから話せばいいかな……」
そう言ってアイリスさんは考え込む。
旅の計画を変えなきゃいけないって言ってたし、あんまりいい情報じゃなさそうだけど、なんだろう。
アイリスさんは思いついたように言った。
「そうだ、ミリーちゃん! 地図を出してくれるかな?」
「はい! すぐに出します!」
ミリーちゃんは、さっとテーブルに地図を広げる。
「……」
五人で地図を囲んだものの変な沈黙が続く。レーネちゃんが催促するようにアイリスさんに、
「早く話してほしいんだけど」
「お願い、レーネちゃん。わたしこういうの苦手だから代わりに話して……」
アイリスさんは眉尻を下げて頼んだ。
「……仕方ないわね。洗濯に行ったときにした話でいいのよね?」
「うん、それ!」
「じゃあ、あたしが話すわよ」
「ありがとう!」
そんなふうにアイリスさんに断りを入れて、レーネちゃんは話しだした。
「旅の計画を立てたばかりだけど、この数日の間に状況が変わって、計画を変更する必要があるわ。アイリスが集めてくれた情報によると、あたしたちが乗る予定だったリアーナ王国行きの船が、何者かによって破壊されたそうなの。船の修理に一週間は掛かるらしいから、計画に沿って船の出る港町――オウネスに向かっても二、三日待たされることになるわ。ひょっとしたら、すぐに出港できる船があるかもしれないけど、行ってみないとわからないわね」
船が壊されちゃったんだ、物騒だな……。
地図を指でさしながら、レーネちゃんはこう続けた。
「ルートを変えれば、待たされることなくリアーナ王国の王都に向かうことができるわ。交易の都――リューセルから、オウネスに向かわずに山あいの道を馬車で行くルートね。ただし、大陸から渡ってきたモンスターが出没するらしいから、船で行くルートよりも危険ね」
できればモンスターには遭遇したくないな……。
「可能性は低いけど、サラを狙う何者かがいて、あたしたちを足止するために船を破壊したと考えれば、船で行くルートも十分危険ね」
そう言うレーネちゃんに、アイリスさんは明るい感じで言った。
「考えすぎだよ~。わたしたちが港町に着くのは五日後だよ? サラちゃんを狙って船を壊すのは遠回りすぎだと思う~」
聞き流しかけたけど、私を狙う何者かがいるの!? 王女だから? 可能性は低いんだよね、大丈夫だよね!?
きょろきょろする私をちらっと見てから、レーネちゃんは話を続ける。
「そうだったらいいんだけど。ともかく、旅にかかる日数かルートか、どちらかを変更しなければいけないわ。どちらがいいかみんなの意見を聞かせて」
言いおわると、レーネちゃんは私たちの方を見た。
ジェイクさんが一番に口を開く。
「日数の方を変更するべきだと思う。私は今日、数名の竜狩りたちと協力して、ドリーゴンという大きな翼と槍のような嘴をもつドラゴンを討伐したのだが、その山あいの道にもドリーゴンが出没すると聞いた。十数匹で群を作り、山での戦いを得意とするドラゴンだ。仮に、サラ様を狙う者たちがいるとして、その者たちはおそらく、どちらのルートを行こうが襲ってくるだろう。人とドリーゴンと、一度に戦うのは骨が折れる。旅のお金が足るのであれば、船で行くルートが最適だろう」
なんかもう、どっちのルートを選んでも私を狙う何者かに襲われそうだね……。王女って狙われるものなのかな。
「わたしも船ルートがいい~! 船乗りた~い!」
「私も船ルートがいいと思います!」
アイリスさんとミリーちゃんが順番に意見を言った。
どっちか選ぶなら、船ルートだよね。馬車ルートは船ルートより宿泊代とか食費とか節約できるけど、人とドラゴンが一度に襲ってくるかもしれないし……。うん、ムリムリ、ぜったい船ルート!
「あたしも船ルートがいいと思うわ。サラはどう?」
レーネちゃんも船ルート。私も意見を言おう。
「私も船ルートがいいわ」
「じゃあ、五人とも同じ意見だから船ルートで決定ね」
「ええ、そうね」
レーネちゃんにそう返すと、おもむろにジェイクさんが一歩前に出てきた。
「ではサラ様、こちらをお受け取りください」
船ルートだときっとお金が足りなくなるから、
「お言葉に甘えて、ありがたくいただきます」
差し出されたお金の入った袋を、私は両手で受け取った。
「みなさん、そろそろ部屋の明かりを消しますよー!」
ミリーちゃんは明かりの前に立って私たちに声をかけた。
「は~い」
「わかったわ」
アイリスさんと私は返事をして、ベッドに入る。
「いいわよ」
ベッドの上で本のページをめくりながら返事をするレーネちゃんに、ミリーちゃんは、
「レーネさんも寝ますよ!」
「あたしは、もう少し起きているわ」
「今日はダメです! 明日は絶対に旅に出たいんです! 新しい本なんか読んでたら夜更かししてしまって体調を崩しますよ!」
「ミリー、あたし体力には自信があるのよ」
「……」
じーっとミリーちゃんに見つめられて、レーネちゃんは肩をすくめて折れた。
「ごめんなさい。そうね、今日は明日に備えてあたしも寝るわ」
「はい! じゃあ消しますよ、おやすみなさい」
レーネちゃんが本をしまうのを待って、ミリーちゃんは明かりを消した。
「おやすみ~」
「おやすみ」
アイリスさんとレーネちゃんの声。私も、おやすみなさいと言って目を瞑る。
この雰囲気なら明日こそ旅に出られそう。ミリーちゃん、今日はいろいろありがとう。
このまま寝たいけど、私は『夢交換』のことを考えないと。
えっと、知りたいことを三回頭に浮かべると、知りたいことについてのサラ王女の記憶を、夢を見るみたいに見られるんだよね。
なににしようかな。あの女の子は、サラ王女の剣の練習を見ておくようにって言ってたっけ。初回だから、言われたとおり剣の練習を見てみようかな。剣のこと全然知らないし、初めての練習から見た方がいいよね。うん、そうしよう。
『サラ王女の初めての剣の練習』
これを三回、しっかり頭に思い浮かべた。すると、すうと意識が遠くなって――
「――私は、ルシル・ターダーと申します。本日よりサラ様の剣の練習のお相手を仰せつかりました。よろしくお願いいたします」
兵士のおじさん――ルシルさんは膝をつき、目の高さを同じにして微笑んだ。
「サラ様もお名前を」
声がした方へ振り返る。近くにメイドさんが二人。
そのメイドさんたちに、うん、と頷いて、
「私はサラ・サトースです。よろしくお願いいたします」
幼い声で言って、ぺこりと頭を下げる。
「ではサラ様、早速、剣の持ち方をお教えいたします。こちらの木の剣をお持ちになっていただけますか?」
木の剣を渡そうとするルシルさんに、首を傾げて聞く。
「おじさん、剣って、あぶないものじゃないの?」
「そうです、危ないものでございます」
「私、持ちたくないわ」
ぷいと顔を逸らすと、メイドさんたちが慌てて説得してくる。
「サラ様、剣はサラ様を守ってくれるものでございます!」
「そうです、どうかお持ちください!」
「でも……」
ぷくっと頬を膨らませて顔をしかめる。
「サラ様、もしものお話をお聞きいただけますか?」
そう言うルシルさんに、うん、と頷く。
「もしも、目の前に大きくて強いモンスターが現れたら、サラ様はいかがいたしますか?」
「走ってにげる!」
「それは賢い判断ですね。では、そちらの方たちが、モンスターの目の前でうずくまっていたら?」
ルシルさんは言いながら、二人のメイドさんたちの方を手で示す。
「うーん……そうなったら……、私がモンスターをたおす!」
少し考えて、ルシルさんに答えた。
「そうであれば、サラ様はモンスターを倒せるくらい強くならなければいけませんね」
「……どうしたら強くなれるの?」
「剣の練習をなされば強くなれます」
「でも、剣は……あぶないから嫌なの」
ルシルさんは歩調を合わせるように、ゆっくりと話す。
「確かに剣は危ないものです。ですが、きちんと練習をすれば、サラ様を、そして、サラ様の大切な方たちを守ってくれるものになります」
「……本当?」
「ええ、お約束します」
「……私、剣の練習してみる」
優しくルシルさんは微笑みながら、
「では、こちらをお持ちになっていただけますか?」
「うん」
ルシルさんから受け取った木の剣を、小さな手でぎゅっと握りしめた――
「――えっ、終わりーー!?」
叫びながら、がばっと起きた。
剣の練習は!? いい話だったけど、五歳くらいのサラ王女が剣をとる姿にうるっとしたけど、剣の練習してなかったよ!?
「ん、なに? どうしたの、サラ?」
隣のベッドで寝ているレーネちゃんが、眠そうな顔で聞いてくる。
起こしちゃった……。
「騒がしくしてごめんなさい。ただ夢を見ていただけなの」
「そうなの? なにもなくてよかったわ」
レーネちゃんが言ったあと、バタン、と窓が開く音がした。朝日で部屋が一気に明るくなって、
「みなさん! 朝ですよー! ジェイクさんが馬車を取ってくれたそうです! 支度をして旅に出ましょう! アイリスさんも、早く起きてください!」
「は~い、起きる~」
ミリーちゃんに起こされて、もそもそとアイリスさんも動きだす。
私はベッドから下りて、窓の外を眺めながら、ぐーっと体を伸ばした。
うん! 今日は晴れてるし、みんないるし、絶好の旅びより!
「あっ、アイリスさん、二度寝はダメですよ!」
朝から元気いっぱいのミリーちゃんに急かされながら、私たちは旅に出る支度を始めた。
ここまで読んでいただいて、ありがとうございます!
急なお知らせですみませんが、毎週投稿が間に合わなくなってきたので、しばらく投稿をお休みします。書き溜めたり、プロットを調整したり、勉強したり休憩したりして、夏ごろに再開する予定です。
また読んでいただけると嬉しいです。