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第17話 帰ってきたお供たち

「ああっ!」


 レーネちゃんは床に落ちた本やアクセサリーを素早く拾って鞄にしまった。と思ったら鞄から出して埃を払ったり傷がついてないか確認したりした。レーネちゃんはブレスレットを大事そうに握りしめて、あたふたしながら、

  

「べ、別にこれを朝イチで買うために出掛けたわけじゃにゃいのよ! 本当にゃの!」


 むしろそれを朝イチで買うために出掛けたようにしか見えない……!


「わ、わかったわ」


 どうしても欲しいものがあったんだね。レーネちゃんが帰ってきたら話そうと思ってたことがあったけど、なんだったかな。びっくりして飛んじゃった……。

 思い出そうとしているとレーネちゃんのお腹がぐるる~と鳴った。つられて私のお腹もぐるる~と鳴った。


「その、とりあえず下の食堂で昼食をとりましょうか」

「はい! 私もお腹が空きました!」


 そう言うミリーちゃんのお腹もぐるる~と鳴った。 


 私は無言で焼き魚の身をほぐしつつ、ちらっと目線を上げる。レーネちゃんはしゅんとしててなんだか小さい。ミリーちゃんは黙々とじゃがいもと鶏肉を口に運んでいる。

 空気が重い……。重いけど、あの話はしておかないとダメだよね。私はひと口、水を喉に通してから話しかけた。


「レーネ、大事な話があるの」

「にゃっ、にゃにかしら?」

「えっ、ええ……そうね」


 やましいことがあると「な」が「にゃ」になっちゃうのかな。気を取り直して。

 

「私用で出掛けたいときは前日までに私に相談しておいてほしいの。朝起きていないとびっくりしてしまうし、困ってしまうから」

「ええ、もちろんそうするわ……」

「お願いするわね」

 

 よかった。話しておきたかったこと話せた。ジェイクさんとアイリスさんにも同じこと話さないといけないな。もうちょっと上司っぽく話せるように練習しておこう。

 水を飲もうとして、レーネちゃんがそわそわしながらまだ私を見ていることに気づいた。


「どうしたの?」

「サラ、大事にゃ話ってそれだけにゃの……?」

「……ええ、それだけよ」


 なんかにゃーにゃー言ってるレーネちゃん可愛い。でも気にしてるかもしれないから本人には言えない。

 レーネちゃんは意を決したみたいに話を切り出した。


「あのねっ、本当は……、あたしが朝イチで出掛けたのは……、新作の本と魔法道具を並んで買うためだったのよ!」


 やっぱり……。 


「……そうだったのね」

「旅に出たら新作を追いかけるのはやめようと思っていたの。でもジェイクとアイリスの書き置きを見たら、今なら行けると思ってしまって。頭ではやめようやめようって思っても体が勝手に動いてしまっていたわ……」


 消えてしまいそうな声でレーネちゃんは話してくれた。

 レーネちゃん、真智子ちゃんと同じタイプなんだ……。真智子ちゃんも推しのグッズを即買わないと落ち着かないって悩んでたな。グッズを買うのやめようとして、サイトを見ながら歯を食いしばってたっけ。


「話してくれてありがとう。おこづかいで足りるのなら新作を追いかけるのを無理にやめなくていいと思うわ。でも前日までには相談しておいてほしいの」

「約束するわ」

 

 はっきりした声で答えてくれた。いつものレーネちゃんに戻ったみたいでよかった。

 おいしくご飯を食べながら、大神殿に行ったり鍛冶屋に行ったりしたことを話した。

 ご飯のあとは三人で二日分の洗濯物を洗いに出掛けた。宿に戻ってきて洗濯物をしまっていると、軽快に階段を上ってくる足音が聞こえてきた。そして、バーンと部屋の扉が開いた。


「ただいま~! みんな今日はほんとうにごめんね~~!」


 アイリスさんは部屋に入ると同時に手を合わせて言った。突然の謝罪にポカンとしていると、アイリスさんは畳みかけの洗濯物を見つけて、


「あ~! もうみんな洗濯に行っちゃったの!?」

「……ごめんなさい、アイリスがこんなに早く帰ってくるとは思わなくて」

「そっかそっか~、書き置きに夕方に帰るっぽく書いたもんね~」


 残念そうに私に言った。それからすぐに、レーネちゃんの方に向いて手を合わせた。


「お願いレーネちゃん、洗濯について来て!」

「嫌よ。行ったばかりだもの」

「わたし洗濯物、乾かせないもん」

「あなたは魔法を使えた気がするわ」

「ちょっとは使えるけど、あ~んなに難しい魔法を使えるのは天才魔法使いのレーネちゃんくらいだよ!」

「……そ、そんにゃっ、し、仕方にゃいわね」


 おだてられてもそうなるんだ……! レーネちゃんおだてられて怪しい壷とか石とか買わされそうだけど大丈夫かな。

 アイリスさんはすっとレーネちゃんと腕を組んで、


「なんかにゃーにゃー言ってて可愛いっ」

 

 普通に本人に言った!?


「にゃーにゃーなんて言っていないわ! もうっ、離れて早く準備して!」


 全然自覚ないんだ!


「はあ~い」


 そんな感じでアイリスさんはレーネちゃんをつれてバタバタ出ていった。台風が通り過ぎたあとみたいに静かになった。 

 

「……あ」


 アイリスさんにあの話してない……。私用で出掛けたいときは前日までに相談しておいてくださいって。ジェイクさんが帰ってきたときに二人一緒に話せばいっか。




 日が落ちてもジェイクさんは帰ってこなくて、夕食は四人で先に済ませた。部屋でまったり過ごしていると、部屋の扉がコンコンと鳴った。

 扉を開けると、



「ササササ、サラ様! 本日は誠に! 申し訳ございませんでした!」


 ジェイクさんが廊下で頭を床につけていた――


 て、土下座!? この世界のひとも土下座するんだ!?


「あ、頭を上げてちょうだい!」

「はっ!」


 そう返事してジェイクさんは疲れた顔を私に向けた。

 そっか、そうだよね。丸一日かけてモンスターを討伐しに行ってたんだから疲れてるよね。こんな疲れた顔のジェイクさん見たことないし、大変だったんだろうな。

 

「モンスターの討伐お疲れさま。大変だったでしょう、少し休んだ方がいいと思うわ。話はそのあとで聞かせてちょうだい」

「お気遣い痛み入ります。ですが、取り急ぎ本日の件についてお話をさせていただけませんか」

「……わかったわ。部屋の中で話しましょう」

「はっ!」


 ジェイクさんは機敏な動きで部屋に入ってきて、膝と手を床につく。


「サラ様、まず、断りもなく私用で外出してしまい、誠に申し訳ございません! また、帰りが日没より遅くなってしまい、重ねてお詫び申し上げます!」


 そう言ってジェイクさんは頭を下げた。 


「反省しているのは十分わかったわ、だから立ってちょうだい」

「はっ!」


 勢いよく立ち上がるジェイクさん。

 あの話をするタイミングかもしれない。私はひと呼吸してから、

 

「ジェイク、それからアイリス。これから大事なことを話すから聞いてくれるかしら」

「はっ!」

「うん」


 頷くジェイクさんとアイリスさんに、私は話した。


「レーネにはもう話したことだけれど、私用で外出するときは、前日までに相談しておいてほしいの。朝起きて誰かいないと、旅の日程を変更することになって困ってしまうから」


 うん。練習したとおり言えた。


「はっ! 今後、必ず前日までにご相談いたします!」


 ジェイクさんは言いおわった途端、焦った様子でアイリスさんとレーネちゃんに聞いた。


「どど、どういうことだ!? ア、アイリスさんとレ、レーネさんも外出していたのか!?」 

 

 あ、そっか! ジェイクさん一番最初に外出したから、二人が外出したこと知らないんだ……。

 アイリスさんとレーネちゃんは無言ですっと目を逸らした。それで今日なにが起こったのかジェイクさんは理解したみたいだった。

 ジェイクさんはもう一度、焦った様子でアイリスさんとレーネちゃんに聞いた。


「サ、サラ様の護衛は!?」

「一番最初に外出したジェイクに言われたくない~」

「ぐっ……」


 アイリスさん、ジェイクさんに厳しい……。


「はっ!?」


 なにかに気づいたみたいにジェイクさんは声を上げた。すごい速さで私の方を見て聞いてきた。


「サラ様はご無事だったのですか!?」

「え、ええ、このとおり無事よ。今日はずっとミリーが側にいてくれたからなにも問題なかったわ」

「ご無事でなによりです。幾度となく取り乱してしまい申し訳ございません……」

「気にしていないわ。心配してくれてありがとう」

「身に余るお言葉、恐縮至極に存じます」

 

 私にそう返事して、ジェイクさんはほっと息をつく。 


「そうだジェイク、なんでこんなに帰ってくるの遅くなったの~? わたしたちもう夕食たべちゃったよ~」


 アイリスさんに聞かれて、ジェイクさんは申し訳なさそうに口を開く。


「それは……帰りが遅くなったのは、予想よりモンスターの数が多く、討伐に時間がかかってしまったのと――」


 モンスター一匹だと思ってた。いっぱいいたんだ……。


「それと討伐の報告をするため竜狩りギルドに寄った際、男に絡まれて対処するのに時間がかかってしまったからだ」


 こんなに体格がよくて強そうなジェイクさんに絡みにいくひといるんだ。


「ふ~ん、そうなんだ~怪我してたら回復してあげてもいいよ~」


 なんだかんだいってもアイリスさん、ジェイクさんのこと心配してるんだね。


「怪我はしたが、かすり傷だ。食事をとって少し休めば治るだろう。気持ちだけありがたく受け取っておく」


 ジェイクさんはアイリスさんにそう言ってから、おもむろに小さい皮の袋を取り出した。それを私の方に差し出して、


「サラ様、これは私が竜狩りギルドよりいただいたモンスター討伐の報奨金でございます。お受け取りください」


 お金!? 急に!?


「う、受け取れないわ」


 ジェイクさんはお金が入った袋をさらにずいっと前に差し出してきた。


「どうか。サラ様の護衛中に、私的に使用するためのお金を稼ぐなど許されることではありません。是が非でもお受け取りいただきたいのです」

「……」


 もらってもいいのかな。前に、竜狩りで稼いだお金は旅のお金の足しになる、みたいな話もしたし。二日も足止めされてるからけっこうお金ギリギリになってるかもしれないし……。でも本当にもらってもいいのかな。迷っていると、アイリスさんにぽんぽんと肩を叩かれた。


「サラちゃん、そのお金もらっておこう! 旅の計画を変えなきゃいけないかもしれないし」


「……どういうこと?」


 来週(3月13日)は、夜に投稿します。22時ごろの予定です。


 本編について一部変更があります。


【変更点】

・国の名称(第3話・第5話・第8話)

・方角(第5話・第11話)

・旅にかかる日数とお金(第8話)

・登場人物の名字の追加(第4話)


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