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第14話 私の体は今

 思い出せなかったこと――サラ王女になる前の日のこと、全部思い出せた。思い出せてもわからないことだらけだけど――


 祭壇を前に整然と並ぶ長椅子。私はがばっと立ち上がって、隣の長椅子に座る女の子に確認した。


「土手で会いましたか!?」

「そうですそうですっ! 全部思い出すことができたんですねっ! 先日は心の中にお邪魔させていただきましたっ!」


 心の中にお邪魔……。言い方が気になるけど、それは置いておいて。


「えっと、先日っていうのは、一昨日の夜のことですよね?」

「はいっ! 一昨日の夜お話ししたように時間がたっぷり取れたので説明に上がりましたっ!」


 音沙汰がなかったから夢だったんじゃないかと思ってたけど、


「ぜーんぶ夢じゃないですよっ! これまでに起こったことも、これから起こることもっ!」

「ぜんぶ……」


 この子と話したこと、全部夢じゃなかったんだ。私がサラ王女になる前の日の夜、「ヨーロッパ風異世界での旅行をお楽しみくださいっ!」て言ってたよね――――わかった!


「あなたが私をサラ王女にしたんですね!?」 

「おしいですっ! 私じゃなくて私の上司ですっ! 上司も頼まれてしたことなんですけどもっ! 私には権限がいっさいありませんっ! ただの使いっぱしりですっ!」


 こんな小さな子に上司がいるんだ。違う違う、今はそれどころじゃない。


「元に戻してもらえるように、あなたの上司に頼んでほしいです!」

「誠に残念ですがっ、ゴタゴタしておりましてっ! 予定どおりであればそろそろ元に戻す手はずでしたが、いろいろありましてっ! しばらく元に戻るのはムリだと思いますっ!」

「え!? しばらくって、どれくらいですか!?」

「しばらくはしばらくとしかっ」

「一週間後とか一ヶ月後とか、ざっくりでいいので……」

「えーとっ……うーんとっ……、一年くらいですかねっ?」


 いちねん!?


「すみませんっ、私ではどうすることもできないんですよねっ! ここはバアーンと気持ちを切り替えてっ、サラ王女になりきって旅を楽しみませんかっ?」

「楽しみませんかっ? て言われても……」

「ヨーロッパ風異世界旅行ですよっ! 沙羅さんの夢が叶うじゃないですかっ!」

「いや私が旅行したいのはヨーロッパ風異世界じゃなくてヨーロッパです!」

「ええっ!? ヨーロッパよりヨーロッパ風異世界の方が断然エキサイティングですよっ!」

「エキサイティングはあんまりいらないです!」

「そうは言っても沙羅さんっ、今日すっごく観光を楽しんでいましたよねっ?」

「うっ……」


 ウッキウキでミリーちゃんと街を歩いてるの見られてた――あ!


「み、見てたのなら出てきてくださいよ! そ、そうだ、なんで今まで出てきてくれなかったんですか!?」

「うっ……、それはゴタゴタしてたり仕事が忙しかったりでっ! でも完全に放置はしていませんっ! 何回か、ちらっと見にきましたからっ!」

「……見てたのなら出てきてくださいよ」


 私がそう言うと女の子は考え込んでから、 


「まあっ……なんと言いますかっ、ぽんぽん出てくるわけにもいかないんですよねっ! もし今、回りに人がいたら沙羅さんはなにもないところに向かってしゃべり続けるやべーひとになってしまいますしっ! 沙羅さんとの接触は最低限にと上司にきつく言われていますしっ!」 

「……」


 確かにそれはやべーひとかも。いろいろ事情があるんだな……。


「そーなんですよっ! そろそろ本題に入りたいと思いますっ!」


 女の子はシュンッと飛び上がったかと思うと、祭壇の上にシュンッと着地した。


 しゅ、瞬間移動!? 


「そんなところですっ! お話ししたいことは山ほどありますがっ、時間に限りがありますのでっ! 取り急ぎ重要なことを二つお話ししたいと思いますっ!」 

「重要なこと?」

「はいっ! サラ王女として長期間の旅行をする上でとっても重要なことですっ! しっかり聞いてくださいねっ!」

「……はい!」


 しばらく元に戻れないみたいだし、たぶん旅行はしなきゃいけないし、しっかり聞いておこう。

 女の子はニコっと笑って、人さし指をピンと立てた。


「ではまず一つ目っ! 唐突ですがっ、沙羅さんはサラ王女の昔の記憶を見られたらいいなっ、と思ったことはありませんかっ?」 

「えっ、見られるんですか!?」

「はいっ! 条件付きですが見られるようになりますっ! いきますよっ!」


 そう言うと、女の子は指をくるくる動かした。すると、辺りがきらきら輝いて――

  

 なにこれ!?

 

「演出ですっ! お気に召しましたかっ!」


 びっくりするから先にひとこと言ってほしいし、あと私の心の声に普通に返事するのやめてほしい。


「なるほど参考にしますっ! お話を戻しますと、今のでなんとっ! パンパカパーーンっ! 『夢交換』ができるようになりましたっ!」


「ゆめこうかん?」


「はいっ! 一日一回、夜寝る前に、沙羅さんが一番知りたいことを三回、頭に思い浮かべてくださいっ! そうすると夢を見るように、知りたいことに関するサラ王女の記憶を見ることができますっ!」

「え~! すごく便利そう!」

「そうでしょうっ! サラ王女の昔の記憶がなくてお困りになったことたくさんありましたよねっ!」

「たくさんありましたよ! 今ぱっと出てこないですけど……」


 女の子は両手を広げた。


「そんなあなたに『夢交換』っ! とっても便利ですよっ!」


 それから指をピンと立てて、


「ここで一つ、ご同意いただきたいのですがっ!」

「同意って?」

「はいっ! 沙羅さんの昔の記憶をサラ王女にお見せすることに、同意していただきたいのですっ! ちなみにサラ王女の同意はすでにいただいておりますっ!」


「へ? ちょちょ、ちょっと待ってください!」


 どういうこと? 今、私の昔の記憶をサラ王女に見せるとか、サラ王女の同意をもらってるとか言ってたよね、それってもしかして――


「そのとおーりですっ! 沙羅さんの体には、サラ王女の心が入っていますっ!」

「ええーー!」


 怖いから考えないようにしてたけど、やっぱりそうなってたんだ……!


「サラ王女の方がどうなっているか聞きたいですよねっ!」

「ぜ、ぜひ!」

「では簡潔にお話ししますっ! 初日に記憶喪失で大きな病院に入院して三日ほどで退院して、今は自宅で療養していますっ! 連休明けに出社するようですっ!」

「き、記憶喪失で入院!? しゅ、出社!?」

「サラ王女は完全に記憶を失ったことにしたようですっ! 案外うまくやっているようなので会社に行っても大丈夫だと思いますよっ!」 


 立川さんの件、大丈夫かな。この子が大丈夫って言ってるから大丈夫……だよね。今更だけど私も完全に記憶を失ったことにすればよかったな。そうしたら「サラ様の様子がおかしいです!」て言われて困ったりしなかったんじゃ……。


 思い返して後悔していると女の子が催促してきた。


「サラさんっ! 『夢交換』の件、ご同意いただけますかっ?」

「ええっと……、私の昔の記憶をサラ王女に見せていいかどうかですよね?」

「そうですそうですっ!」

 

 うーん。見られたくないこと、たくさんあるから嫌だな……。でもそれはサラ王女だって同じだろうし、お互い様なのかな。それに『夢交換』ができた方が絶対便利だろうし。うん。

 

「同意します、見せていいです」

「ご決断ありがとうございますっ! お二人ともすごいですねっ! 私はぜったい嫌ですよっ!」


 女の子は不安になることを言ってから、ニコっと笑って指を二本ピンと立てた。 


「では二つ目に入りますっ! サラ王女として旅をする中で、剣を振るうときがいずれ来ると思いますがっ、そのときは超集中して――」

「ちょちょ、ちょっと待ってください!」

「なんでしょうっ?」

「私、剣なんて振るえませんよ!?」

「沙羅さんっ! 振るう振るわないっ、などと選択できる状況ではありませんっ! あなたは剣を振るうんですっ!」

「り、理不尽!」


 女の子は急にそわそわし始めた。早口になって、


「あっ! ちょっともう本当に時間がなくなってきましたっ! 今からお話しすることをしっかり心に留めておいてくださいっ! 剣を振るうときが来たらとにかく集中してくださいっ、そうすれば大抵のことはなんとかできると思いますっ! 人が相手だと素手でも半分くらいの力に押さえていないと相手の命が危ないかもしれませんっ! 『夢交換』でサラ王女の剣の練習を目に焼き付けてから実際に剣の練習しておいてくださいねっ! それではヨーロッパ風異世旅行を存分にお楽しみくださいっ!」

「待って、まだ聞きたいことが――」


 言いおわる前に女の子はシュンっといなくなってしまった。



「なんでサラ王女と私を入れ替えたんですか――……?」


 返事はなく私の声はこだましながら天井に消えていった。



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