第12話 少女との再会
雨上がりの目抜き通りをミリーちゃんと歩く。目に映る建物は水色の屋根とクリーム色の壁のものがほとんどで街は優しい雰囲気。雑貨や小物、食べ物、目移りするくらいお店がいっぱい。
どのお店に寄ろうかな。きょろきょろしているとお土産屋さんに目が留まった。
あのお土産、ここにも売ってる。さっき広場のお土産屋さんと小物屋さんでも見かけたな。
「ねえミリー、あの可愛らしいお土産、いろんなお店で売っているわね、人気なのかしら?」
気になってたから聞いてみた。まるっこい動物の形をした小さい木の板に、革っぽい紐がついたお土産。
「はい、そうです! 最近、旅人の間でとても人気のものなんですよ! ご当地ドラゴンストラップって言います!」
「ご当地ドラゴンストラップ?」
まるっこい動物、ドラゴンなんだ。よく見ると小さい羽がついてる。
「はい! ご当地ドラゴンストラップは鞄につけるアクセサリーで、全部で、うーんと、十五種類くらいあります! 町ごとに買える種類が決まっていて全種類集めるにはブリート島の全ての国をまわる必要があります! 馬車運行ギルドが作っているものでリンドではいろんなお店で買えますよ!」
「へえ、そうなのね」
ご当地キテ○ちゃんストラップみたいなものかな。なんとなくわかった。
「寄っていきますか?」
「ええ」
店頭に目立つようにぶら下げられているご当地ドラゴンストラップを手に取って見てみると、裏側におしゃれな字で『Ⅰ』、『ブテラノゴン』、『加護の都 リンド』、と彫ってあった。
よくできてる。それに表側のつぶらな瞳のドラゴンが……。
「可愛い……」
「はい! 可愛いですよね! 私も一つ持ってます!」
いいな。私も欲しいけどお金の無駄遣いだよね……。
うん。ダメダメ。大事な旅のお金をこんなストラップに使うなんてダメに決まってる……。そうダメに……。
「は~い、四百ポントいただきました~。お買い上げありがとうございました~」
「ありがとうございます!」
わ~い、買っちゃった! 鞄につけてと。
よし。ついた。
「このストラップやっぱり可愛いですね~!」
「ね~! 可愛い――」
はっ!?
「ゴホゴホッ!」
「大丈夫ですか!?」
「ええ! 少しむせただけよ。さあ行きましょうか」
素の自分がもろに出てた……。ぺしぺしと自分の顔を叩く。私は王女、私は王女……。
気を取り直してミリーちゃんと雑貨屋さんやクレープ屋さんに立ち寄りながら街を歩いた。だんだん道沿いの建物が少なくなり背の高い木が並び始めると、ミリーちゃんが声を弾ませた。
「もう着きますよ!」
「そうなのね」
私もわくわくしてくる。少し歩くと、右手に背の高い鉄柵が見えてきた。ずらっと続く鉄柵の向こうには広大な庭園と大神殿があった。
「いつ見ても大神殿は荘厳ですね!」
「すごいわ……!」
感想を言いながら私とミリーちゃんは鉄柵に沿って進む。
私たちの他に人が全然いないな。すごく静か。なんだか有名観光スポットを貸し切ったみたいで嬉しい――
はっとして、開けっぱなしの門を通ってずんずん歩いていくミリーちゃんを呼びとめた。
「ま、待ってミリー! 私たちの他に人が見当たらないわ、入ってもいいのかしら?」
日本の有名観光スポットって人だかりでぎゅうぎゅうだから、こんなに人がいないのはおかしい気がする。
「あっ、はい! この時間は名物神官おじいさんがお見えにならないのでこんなふうにいつも空いています!」
ミリーちゃんは不安がる私にわかりやすく説明をしてくれた。おかしいと思ったけどいつもこんなふうなんだ。安心。
「……そうだったの。ありがとう。行きましょうか」
「はい!」
門をくぐって庭園を歩く。
宮殿の中庭より広いな。ほとんど芝生と低木だけだけどこれだけ広いとなんだか圧倒される……。
庭園を見渡しながら歩いているうちに大神殿が近づいてきた。
大がつくだけあってやっぱり大神殿は大きい。目抜き通りの建物と同じで屋根は水色で壁はクリーム色。ぱっと見は大きな教会。
急にミリーちゃんが足をとめた。
「どうかした?」
「ちょっと様子がおかしいんです。大神殿の扉はいつも開いているはずなんですけど……」
見ると確かに扉が閉まっている。
「そうなの? それなら――」
「私ちょっと見てきます!」
いったん戻りましょうか、と言おうとしたけどミリーちゃんは走って行ってしまった。
どうしよう。足が早いからもう扉に耳当ててる……。
私も大神殿の扉の前まで駆け足で行った。間近で見る大神殿は、屋根の色がくすんでいたり壁にツタが張っていたりで、かなり古びている。
なにか出てきそう……。
ミリーちゃんは首を傾げながら私に、
「まったく中から音がしません。留守でしょうか? でも門が開いていましたから留守ではないですよね。うーん。おかしいですね……」
「じゃあ――」
「あ、鍵は開いてますね! すみませーん、失礼しまーす!」
帰りましょうか、と言おうとしたけどまた間に合わなかった。ミリーちゃんは、ギギギィと扉を開けて中に入っていった。
ミリーちゃん、案外ガンガン行く方なんだね……。
私も恐るおそる大神殿に入る。中で警戒するように回りをきょろきょろ見ていたミリーちゃんが、くるっと振り返って、
「サラさん、やはりどなたもいらっしゃらないようです――」
そのとき、ドン、と左手の通路の方から物音がした。
「今なにか物音がしませんでしたか!? 私、様子を見てきます! サラさんはこちらでお待ちになっていて――」
「私も行くわ!」
早めに言った。ここで一人になりたくない!
「なにか起こっているかもしれませんので、先に私が見てきます! サラさんはこちらでお持ちください!」
「……わかったわ」
渋々受け入れるしかなかった。ミリーちゃんは躊躇することなく通路に入っていった。
一人になっちゃった……。
不安になって回りをきょろきょろ見ていると、不意にギギィ、バタン、と扉が閉まった。心臓にわるい。
本当になにか出てきそう……。祭壇の後ろからゾンビ、並んだ長椅子の間からゾンビ、天井からゾンビ、みたいな感じで出てきたらどうしよう……。
しばらくきょろきょろ回りを見ていたけど結局ゾンビは出てこなかった。
「やっぱりゾンビなんていないか……」
私は近くの長椅子の端っこに座ってステンドグラスを見上げた。
水色、黄色、白色、爽やかな色合いと不思議な模様。すごくきれい。それと天井がめちゃくちゃ高い。なんでこんなに天井が高いんだろう……。
「ミリーちゃん遅いな……」
様子を見に行こうと立ち上がろうとしたき、
「サラさん! お久しぶりですっ!」
「ひゃっ! ゾンビっ!?」
声がした方に顔を向けると、隣の長椅子に白いワンピースを着た白い髪の女の子がちょこんと座っていた。
よかった、ゾンビじゃなかった。あれこの女の子どこかで――
女の子と目が合った瞬間、すっかり私の頭から抜け落ちてしまっていた王女になる前の日の出来事が走馬燈みたいに流れだした――




